◆◆⑬ブラウリオの涙と虎の威を借る狐◆◆
Merry Christmas!
「おう、良いじゃねえか?
やっぱり竜の顔はカッコいいな!」
辺り一面血の海だった。
そこかしこに引き千切られた手足が転がり、首の無い胴が血を吹き出し、腸をくねらせながら無造作に転がっていた。
「これだな!んん、強そうに見えるぞ?」
「ごでば?」
「あん?何言ってるかわかんねえよ?
まあ、慣れりゃちゃんと喋れんだろ?
でな?俺の手下になるならこのまま使ってやるが?断るなら永劫の暗闇に送ってやる。
好きな方を選べ。」
選ぶ余地などあるはずがなかった。
片膝を付き!頭を垂れた。
「そうかそうか!そうだろ?ああ!それが正解だ!
良いだろう、ついでだ、その肉の無い身体を格好いい身体にしてやるよ!」
新たに継がれた頭にはまだ慣れない。
が、その目に映る男は、自分の頭を踏み砕いたあの男だった。
だが、そうするしかなかった。
バルブロ様▪▪▪
表だって口には出来なくなった。
それにバルブロ様はこの男の中に居る。
「んん?ここにある『材料』じゃぁまんまドラゴンになっちまうな▪▪▪
ヨッシャ!あそこに行こう!あれなら格好良くなれるぞ!」
そう言った男は無造作に首を掴み、再び舞い上がった。
どんどん上昇していく。
眼下の島は焼け爛れ、島の中央には真っ赤なマグマをグツグツと煮立たせた火口が口を開けていた。
まるで、その島に住んでいた全ての『青竜』の血が流れ出たようだった。
◇◇◇
「お腹空いたなぁ▪▪▪」
クリスタは、フラウの制止を振り切ってガンゾウ達の元へ向かっていた。
「ママ怒ってるよねぇ▪▪▪
でもさぁ?もともと私がガンゾウ達と一緒だったんだよね?
お兄ちゃんも狡いよね▪▪▪」
独り言を言いながら飛ぶ。
間も無く中央大陸に差し掛かる。
青竜島が壊滅したことを、クリスタもブラウリオもまだ知らない。
◇◇◇
『キュルキュルキュルキュル▪▪▪』
キャタピラが金属の摩擦音を響かせながら山道を走る。
「いち、にぃ、さん▪▪▪5台程でしょうか?」
「そうですね。ガンゾウさん!あの男がやって来ました!でもあの変な乗り物は5台だけのようです!」
ああ、そんな感じだな。
前回とは舞い上がる砂埃の量がダンチだ。
「まあ、待ってろ▪▪▪ブラウリオ▪▪▪」
「はい。」
ああ、怒り狂うだろうな▪▪▪
「悪い話がある。」
「?」
「青竜島がガストーネに襲われた。」
「!」
「詳細は分からねぇが、お前の親父さんは死んだらしい。」
「!し、しかしどうして?」
ああ、これだからつるみたくねぇんだ▪▪▪
「兎に角お前は島に帰れ。クリスタの生死はわからねぇ。」
「グルォブルガッ!」
何とも言えない咆哮を絞り出し、ブラウリオは竜姿となって飛び上がった。
爆風のような羽ばたきを繰り返し、巨体を浮かべると、物理の法則を無視したように音速を超えて飛び去った。
「ガンゾウさん?本当なのですか?」
飛び去ったブラウリオを見送りながらポスカネルが聞いた。
「▪▪▪そんな嘘をつかなきゃならねぇ理由は無えよ▪▪▪」
残念だがな▪▪▪
◇◇◇
父さん▪▪▪
父さん▪▪▪▪
父さんっ!
産まれてからこの方、本気で飛んだことなど無かった。
自分が本気を出したら、何が起きるのか怖かった。
それだけ突出した能力を持っていた。
持っていた▪▪▪
持っていたはずなのに▪▪▪
分からない。
どうやってここに着いたのか分からない。
分からない。
何故自分がここに居るのか分からない。
分からない。
何故▪▪▪
何故母親の無惨な遺体を見なければならないのか分からない!
「母さん▪▪▪
ああ、母さん▪▪▪
お母さんっっっ!」
はじめて知った▪▪▪
どんなに悲しくても、それを凌駕する怒りが涙を乾かす事を▪▪▪
涙が血に変わる事を▪▪▪
震える▪▪▪
勝手に身体が震える▪▪▪
「ううっ▪▪▪ううっ▪▪▪うううううっっっ!」
全てが虚ろに見えた▪▪▪
全てが自分を嘲笑っているかのように思えた▪▪▪
▪▪▪全てが敵に見えた▪▪▪
『お兄ちゃん▪▪▪』
「!」
唯一生死が不明な妹の声が聞こえたような気がした▪▪▪
「クリスタ▪▪▪」
我を失いかけていた。
暴発しかけていた。
「クリスタ!」
ブラウリオは天高く羽ばたいた。
◇◇◇
「よう?どおした?何もしねぇで降参か?」
明らかに『武装してませんよ』的な雰囲気でカスパルはやって来た。
「いえ、我が国の女王陛下が面会を望んでおられます。御同道下さい。」
「嫌だね。」
ソッコー拒否してやった。
「▪▪▪」
「話が違うじゃねぇか?そもそもちょっかい出してきたのはお前らだ?
問答無用でぶっ潰してやっても良かったものを待ってやったんだ?
待った理由はこの山道を誰が作ったか知りたかったからだ?
それを御大層に面会に来いだと?
寝言は寝て言え。」
まったく▪▪▪
葉巻が不味くなる▪▪▪
「その山道を切り開いたのが女王陛下だと言ってもですか?」
ふん、そうかい。
「だから何だ?だったらここに連れてこい。その女王さんはお前らの女王であって俺の女王じゃぁねぇ?
俺が出向く理由にはならねえ。」
どんな世界でも勘違いする野郎は減らねぇな。
自分の所属する組織の大小に関わらず、自分の上司の命令は、その組織を離れても効果を維持すると思ってやがる▪▪▪
『虎』の看板を借りているだけの『狐』が、『獅子』に居丈高に振る舞う。
まるで自分が『最強の虎』であるかのようにな。
「では来ていただく為に何か取り引き出来ることは有りませんか?」
「無ぇよ。その女王さんは能力者なんだろ?気に入らねえならよ、何時でも喧嘩の相手になってやるよ。
俺ゃぁフェミニストじゃねえからな?
男女平等。
なら喧嘩も男女平等っつう訳だ。
嫌なら俺がここを塞ぐ。
その後は国どおし、戦争でも何でもやってくれ。」
新しい葉巻を取り出して火を着けた。
ん?そうだ▪▪▪
「まあ、そうは言ってもな?
おメェとは『異世界落ち仲間』だとも言える。
だからな、格別の恩情で代理を派遣しよう。
ウラジミール!」
「はいぃ!ご主人様!」
「俺の代わりにこいつに付いていって女王さんに会ってこい。全権委任だ。」
「は!はいぃっ!」
「っつう訳だ。おっと、全権委任っつっても俺の全権だからな?デュラデムは関知しねぇぞ?」
カスパルは目を瞑り考えた風だが、俺がこれ以上折れる事はないと踏んだのだろうな。
正解だ。
カスパルはウラジミールの全権委任を呑んだ。
「タウリ。」
「は!はいっ!」
「ウラジミールに付いていけ。護衛と鳩だ。」
「鳩?」
「わからなくて良い。ウラジミールが分かってる。
っつう事で俺らは一旦デュラデムに戻る。
何時でも瞬時に戻れるからな?」
そう言って空間をデュラデムの王城前に開いた。
「じゃあな。」
そう言ってウラジミールとタウリを残して俺達はブルーグバーグに戻った。
◇◇◇
「では参りましょうか?カスパル様。」
さて、ご主人様の暇潰しの種子を作りに参りましょうか。
「タウリさん?」
「はい?」
「迷子にならないで下さいね?」
「な!なるわけ無いじゃないですか!」
いえいえ、実績があるから言っているのですよ?




