◆◆④タウリとサロメ◆◆
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婆ぁの店に向かう道々にフロリネが語った話しは、城で聞いた話しと大きく違うことは無かった。
「その教会に行った奴等がおかしくなって、次々に連れ込まれて増えていったっつぅんだな?」
「ええ、ドリアードの話だと、それに気がついたサロメさんの知り合いがサロメさんに相談したらしいのよ。で、サロメさんの使いだって言う若い女の人が少しづつ森の奥に避難させたらしいの。暴動が起こる直前まで街中を駆け回って操られて無い人を避難させたらしいわ。」
「間違いなくスタルシオンね。あいつ、催眠術というか、殆ど精神乗っ取りみたいな事が得意で、群衆を操るのが上手いのよ。これは人間だけじゃなくて魔物も同様に操るの。
もっとも魔物は人間ほど細かい指示は聞かないけどね。
なにせ本能の塊だから。」
ベルギッタが半ば顔を歪めながら話したな。
殺されかけたのを怨んでるな。
「城で聞いたんだがな、デュラデムに伝わる伝承は、アゼッタのものとは違うらしいぞ。」
「どんな風に?」
「ああ、封印された魔物が災いを振り撒き、それを退治した煙を吐く男が、手下に裏切られ、裏切った手下は、別の煙を吐く男と巨大な竜をけしかけて煙を吐く男を殺そうとするが、返り討ちにあって、もう一人の煙を吐く男と巨大な竜は、文字通り『消滅』させられる。だとさ。」
皆がじろっとアンブロシウスを見た。
「ま、待ってください、それじゃあ私は理由はわからないですが、ガンゾウさんと戦い、殺されて、しかも『消滅』させられるのですか?」
ブラウリオが戸惑った顔をしているな。
まあそうだろうな。
「面倒くせぇからその煙を吐く男は俺以外で願いたいものだな。」
「ちょっとアンブロシウス?何か言いなさいよ?」
「ええ、フロリネさん。この際はっきり申し上げます。私にはその気はありません。何のためにそんなことをするのですか?」
「貴方を作ったガストーネを甦らせ、ガストーネが自ら貴方のなかに封印する理由となった人間、いえ、この世界に復讐するため▪▪▪」
ああ、ポスカネルの指摘は的を得ているだろうな。
「まあ良い。面倒だ。アンブロシウスとは何時でもやると伝えているからな。
やらねぇっつぅならそれで良い。
それからな、ゴタゴタするなら俺は独りで飛ぶからな。文句が有るなら相手するぞ?」
「すいませぇん!」
ハモるな▪▪▪子供か?
◇◇◇
あの婆ぁが取り乱した。
言葉を失った。
▪▪▪正体を現した。
「ロ、ロボス様▪▪▪」
しわくちゃの婆ぁにすがられたタウリは気持ち悪かっただろうな。
「ロ、ロボス様▪▪▪私です▪▪▪サロメです▪▪▪」
ヨタヨタと近付いて抱き締めようとした。
「な?何を?私はタウリ、英雄王ロボスではありません!」
尻尾を巻いてるな。
そりゃ気味が悪いな。
「ロボス様、これならお分かりになりましょうか?」
と言うと、サロメはうら若き乙女の姿となった。
まだ十六七程にしか見えない。
「何だ?婆ぁ?んなに若かったのか?」
「ロボス様▪▪▪」
ダメだこりゃ。
サロメが正気を取り戻すのに、小一時間程の時間が必要だった。
◇◇◇
「失礼致しました。タウリ様があまりにもロボス様にそっくりだったものですから▪▪▪」
そう言ったサロメだが、視線はタウリから離れない。
「つまり何かい?婆ぁ▪▪▪サロメはその昔ロボスとか言う狼王に仕えていた巫女だってことか?」
「そうです▪▪▪」
視線は変わらずタウリに釘付けだ。
しかも愛おしい者を見る恋する乙女の目だ▪▪▪面倒くせぇ▪▪▪
「で、でも、英雄王ロボスの時代は千年以上前の事です?貴女は不死の身体を持っているのですか?」
「いいえタウリ様、私は時間を操れるのです。と言っても、過去に戻ることは出来ないのですが、未来へ渡る事が出来るのです。」
もう少し分かりやすく言わねぇとコイツら理解できねぇぞ?
「はい。」
言葉に出てたか▪▪▪
「確かに私は普通の人間や獣人に比べれば長命です。何故ならエルフの血を引いているからです。」
「ハーフエルフ▪▪▪」
フロリネが呟いた。
「同じ匂いがすると思っていたんだ▪▪▪」
「何処がですかぁ?デカ尻臭とはまるで別の良い香りがしますがぁ?」
で、やり始める。
勝手にやってろ。
「ロボス様が命を落とされた時、私はロボス様から託された使命を果たすべく『時間渡り』を行いました。
これは無制限に発動出来る術ではなく、一度に約50年、しかも一度発動すると、次に発動出来るのは2年後なのです。
それを繰り返してここに至ります。
そしてこの時代がロボス様から託された使命を果たす時代なのです。」
「その使命とは何なのですか?」
「▪▪▪言えません▪▪▪いえ、まだ言うべき時では無いと申し上げます。」
「そんな▪▪▪」
ふん、興味ねぇから良いけどよ。
「でもカンゾウさん。」
「なんだ?若作りしたら『さん付け』か?」
「はい、でもカンゾウさんの目を欺いてお婆さんでいるのは大変だったのですよ?」
「ふん、まあそうだな、良く俺を騙せたな。」
「騙すなんて人聞きの悪い。カンゾウさん、これだけはお伝えしますね。」
「あ?何だ?」
「アゼッタの伝承とユルシアの伝承、共に私が広めたものです。そしてそこに登場する『煙を吐く男』は▪▪▪」
「聞かねぇ。」
そう言ってサロメの口を手で塞いだ。
「関わりたくねぇ。」
「カンゾウさん、私は巫女です。嫌でも見えるものが有ります。でも、そうですね。見えたものが必ず成されると言うわけでは無いのは確かですから▪▪▪」
「え?じゃあその占い?神託?ってただのお伽噺なの?」
「いいえ、これまで外したのは1回だけ。そこの方の中にいらっしゃる元英雄が全人類、獣人類を半減させる大災厄を引き起こす事態を見誤った事だけです。」
皆がアンブロシウスを見詰めた。
まあな、経緯は知らんが「中の奴」、決して死んだ訳じゃねぇっつうこった。
アンブロシウス。
涼しい顔しやがって。




