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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第5章 牡蠣は熱々のオリーブオイルをぶっかけて食うに限る
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◆◆①ガンゾウと葉巻◆◆

第5章スタートです。


「これは美味いですね!」


「だろ?」


「ほんと、美味しい▪▪▪」


「だろう?」


「これはご主人様がこの世界に来る前の世界の物なのですかぁ?」


「そうだ。」


「それに猿族の食卓に出ていた野豚も旨かったですが、この『角豚』は何とも脂身が旨い!ガンゾウ殿の作ったソースが脂をサラッと流してくれるから幾らでも食べられますね。」


「そうですね。この甘酸っぱさが何とも言えません。何処で手に入れたのですか?」


「作ったんだよ。」


「?」


「以前暇に任せて作ったんだよ。数年寝かせねぇと言い味は出ねぇ。まだ樽にたっぷり寝かせてあるからな。」


「これは売れるわね。」


「馬鹿言うな。売らねぇよ。」


「何なのですか?これは?」


「酢だ。」


「酢?」


「バルサミコ酢。ブドウ果汁を発酵させて造るんだよ。まあ、細かいところは企業秘密だ。」


「企業秘密?」


ふん、この世界にも『酢』は有ったがな。

どちらかと言えば穀物酢の類いだ。


ヴァンが有るんだからバルサミコ酢みてぇなのが有っても良さそうだが、無ぇんだよな。

なら造るしかねえじゃねぇか。


酢豚を作るなら、『酢』は必須だがな。


俺が食いたかったのは、中華の酢豚じゃぁねぇ、バルサミコ酢をまとったイタリアン酢豚とでもいう奴だ。


砂糖の甘さじゃなくて、バルサミコ酢が持つ果糖の甘さが旨いんだ。


身体に良かろうが悪かろうが、使う肉は『バラ』。

脂身が旨いから酢豚は旨いんだ。


木の実を食って育つ角豚は、言ってみればイベリコ豚みてぇな感じだが、この世界の角豚は、それよりもふた回りもでかい。

脂身も厚い。

でかいのに柔軟な筋肉を持つ。難点は気が荒くてなかなか捕まえ辛いってぇ事ぐらいか?

まあ、俺には問題にもならんがな。


なんて考えるのに0.0000002秒。

いや、計ってないからわからんな。


◇◇◇


「▪▪▪なんだこりゃ?」


目の前には広大な『焼け野原』が広がっていた。


北東からデュラデムに入国して首都を通り、南東にある婆ぁの店に行くつもりだった。


「これは?何か作物の畑、この焼けて漂う匂いはタバコ?いえ、葉巻でしょうか?」


一瞬呆気に取られたが、フツフツと怒りが湧き出してきた。


バサッと音をたてて背中に翼が展張した。


「ご!ご主人様ぁ!どちらぇぇぇぇ▪▪▪」


ウラジミールの声を下に聞きながら、俺は婆ぁの店を目指して飛んだ。


◇◇◇


「行ってしまわれましたねぇ▪▪▪」


「でもどう言うこと?これって火事とかじゃないわよね?ゴブリンっ鼻、ゴブリンヒーリングで何か確認できないの?」


「はあ、デカ尻エルフの悪臭は火事の悪臭をも凌ぐのですねぇ▪▪▪

あぁ臭い!あぁ臭い!」


「こっのぉゴブリンっ鼻ぁ!」


「うるさい!悪臭エルフ!」


おお、高速の小突き合い、仲が良いですね。


「良くねぇよ!」


ハモりましたね。


「ハイハイその辺で止めてくださいね。」


「アンブロシウス殿?」


「はい何でしょうディートヘルムさん?」


「この様子はブリアラリアがやられたときにそっくりです。まさかあの▪▪▪」


「そうですね。でも魔物の痕跡が見当たらないのですよ。人為的に焼かれたのは間違いないようですが、これはどちらかと言えば『戦争』に近い軍事行動ではないでしょうか?」


そう、魔物が係わっているなら、少なからずその痕跡が残っている。

それは体液だったり、毒素だったり、死骸だったり。

それが見当たらない。


逆に油が燃えた臭いが残っています。


これは人間同士の諍いの結果でしょう。


でもガンゾウさん、葉巻の葉を焼かれたのは余程の怒りを誘発されたのですね。

我を忘れて飛んで行っちゃいましたからね。


「それでアンブロシウスさん?この後どうなさいますか?」


「はいポスカネルさん、ちょっと探りを入れてみます。」


「探り?」


「はい、ベルギッタさん?」


「なぁに?」


「ちょっと王都に潜入して探りを入れてみてください。」


「ええ?なんで私がぁ?」


「契約しましたよね。」


「したけどぉ▪▪▪」


「こういった仕事は、最上級サキュバスの力が要るのですよ、最上級のね。」


「そ、そお?まあ、最上級なのは間違いないからね。まあ仕方ないわね。」


言うなりベルギッタさんも翼を展張して羽ばたきました。


「まあ最上級の私に任せなさい!」


「はい、行ってらっしゃい。」


「ああ、そっちじゃないですよ!反対です!」


「わ、分かってるわよ!」


んん、そういうドジな所が金色骸骨さんの不興を買った所なのですよ?


「大丈夫なの?逃げたりしない?」


「逃げても良いのですよ。また捕まえます。と言うよりも、逃げ場所なんて無いのですから。」


「ふぅん。まあ、アンタが悪い顔してるときは何か考えがある証拠だからね。」


「おやおやフロリネさん?散々な言い様ですね?」


「間違ってる?」


「いいえ。」


そう、間違っていませんよ。

▪▪▪間違っていません▪▪▪


◇◇◇


「おい!婆ぁ!サロメ!死んだのか?」


焼け野原の真ん中に、不思議と緑を残した婆ぁの店に入るなり叫んだ。


「うるさいねぇ、誰かと思えばやっぱりカンゾウかい。」


「おう、婆ぁ!生きてたのか!葉巻!葉巻は有るか?」


「とんだご挨拶だね。無事を確認したいのは私なのか葉巻なのかねぇ?」


「そんなもの葉巻に決まってるじゃねぇか!」


「だろうねぇ。でも流石だね。よく店に入れたもんだ。」


「あ?目は開いてるからな、別にドアも壁も破っちゃいないぞ?」


「ああ、そうかい。ほら、これが欲しいのだろ?」


「おう!それだ!」


「売らないよ。」


「な!なにぃっ!」


婆ぁ?何言ってやがる?


「お前さん、そんなに慌ててやって来たのは、葉巻の畑が壊滅したのを見たからだね?」


「あ、ああ▪▪▪」


「じゃあ分かるだろう?価値が上がるものを簡単に手放すバカは居ないさね。」


「な、長い付き合いだろうが!」


「だからなんだい?まあ、頼みを聞いてくれたら譲ってやってもいいがね。」


「おう!聞くぞ!言ってくれ!」


たぶんかなり無茶な事を言われるのだろうが、そんなこたぁ関係ねぇ。


「この戦争を止めてくれ。いや、裏で糸を引く馬鹿者を懲らしめてくれ。」


「おう!任せろ!で?」


「ああ▪▪▪」


婆ぁの話は!なかなか一筋縄ではいかない話し▪▪▪

だから?

俺に任すのなら俺のやり方でやるぞ?


「ああ、構わないさ。カンゾウ、お前さんと共に居る男には気を付けな。あれはいけない。」


「あ?アンブロシウスだろ?分かってるよ。」


「アンタの腹の中のそれは、その男を見張る代わりにアンタも見張られてるのだからね。」


「んなこたぁ百も承知だ。で?簡単に言ってくれ、誰をぶっ殺しゃぁいい?」


◇◇◇


そうなのですか。


その方が。


「アンブロシウス様ぁ!見てください!王都が!王都が燃えてますぅ!」


まあ、燃えているのを見ても、ここに愛着がある訳じゃあ無いのですから、何の感慨も湧きませんね。


「ホントよねぇ、馬鹿な人間の争いなんかほっとけば良いのよ。」


「いえ、国の存亡とはそのように軽いものではありません。他国の事ながら心配です。」


まあ、ディートヘルムさんはまがりなりにも『国の重鎮』でしたからね。

他人事とは思えないのでしょう。


「私も心が痛みます▪▪▪」


ポスカネルさんも王族ですからね。


「しかし民を省みない政治であれば、反乱もやむなしと思いますが▪▪▪」


忠弥さんは革命家でしたからね。


「でもおかしいですぅ?」


「何がですかウラジミールさん?」


「はい、これだけの火が上がっているのに避難される方が一人も居ないのですぅ。」


なるほど。


「考えられるのは、鼠一匹通さずに虐殺したか、全ての国民が攻撃側に居るかですが、後者は考えにくいですね。」


「そうですね。女子供、老人までもそこに参加しているとは考えられません。」


そうですね。ポスカネルさん。


「でも、一人残らず虐殺ってのもね?どんな場合でも抜け道が有ったり、網の目からこぼれ落ちるのが出るものよ?」


「ですね。フロリネさん?」


「やめてやめて!嫌よ危ないのは?」


「得意の幻術で様子を見てきてください。」


「だから嫌だってば!ベルギッタが行ってるじゃない!」


「はい、なのでフロリネさんには別の場所を。」


「別の場所?」


「呪力で結界を張られた王都の北西、森の奥です。ここに避難している方々がいらっしゃるはずです。」


「なんで分かるのよ?」


「勘?でしょうか?」


「はあ▪▪▪」


いえ、間違いない情報ですから。


◇◇◇


「じゃあそこの森に避難させてるんだな?」


「ああ、そこのドリアードとは古い付き合いでね。頼んであるよ。」


「ドリアードが居るのか!」


「いるさね。大きな森には必ず居るものだ。」


「ブリアラリア方面には居なかったぞ?」


「何処も人手不足なんだよ。」


「なんだそりゃ?

まあいい、兎に角そこに手を出さずに王族に助太刀すりゃあ良いんだな?」


「ああ、そこにはヘリオスも居るはずさ。」


「あのハゲ頭、珍しいじゃねぇか?自分から国なんてものに係わるなんてよ?」


「まあ、事情はいろいろさ。」


「ふん、承知した。」


「これは前金だ。」


婆ぁはそう言って葉巻をごっそり出してきやがった。


「ふん、これで首輪付けたつもりか?」


「そうだよ。嫌かい?」


「構わねぇよ。」


葉巻をくれるなら構わねえさ。


一本取り出し香りを嗅いだ。


んん、やっぱりこれだな。


指先に火を灯し葉巻に付ける。


「いい香りだ▪▪▪じゃあ行ってくらぁ。」


「頼んだよ。」


店を出ると目の前は焼け野原だ。


なるほどな。結界が張られてたか。


まあ俺様だからスルー出来たが、人間風情じゃあ踏み込めねぇわな。


なんて考えるのに0.000001秒。

いや、計ってないからわからんな。

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また、合わせて評価をお願いいたします。

執筆のエナジーとなります。


お読み頂きありがとうございました。

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