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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第4章 アゼッタの酒 テキーラッ!
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◆◆⑲ガンゾウと何を考えているか分からないアンブロシウス◆◆

「ったくよお、テキーラに釣られて尻を下ろしたがな、もう飽きたぞ?」


バカの一つ覚えみてぇにテキーラばっかり飲ませやがって、さすがに飽きるっつうの。

アンブロシウス達は余計なことして的に逃げられたみてぇだしな。


空間呪で葉巻を取り出し火をつけた。


パスッパスッパスッと煙を吐く。


文句を言いながらも、左手にはテキーラが有る。


「ああ、ガンゾウさん▪▪▪」


「なんだい?爺さん?」


横目でカルを一瞥する。


「その、本当、に▪▪▪バルブロは、居なく、なっ、たのかね?」


「ああ、アンブロシウスが追っ払ったってよ。」


「巨竜は?」


「白竜族のシマらしいぞ。」


「んんんん▪▪▪」


「だからよぉ、そのバルブロっつうのは騒ぐほどたいしたこたぁねえんだよ?現にアンブロシウス一人に追っ払われてるじゃねぇか?」


「じゃが▪▪▪」


ああ、めんどくせぇ▪▪▪


俺は右手と左手をそれぞれ空間に突き入れ、壁紙を剥がすように掴み引き下ろした。


ビリビリと音が出たわけではないが、その裂け口は壁紙が破れた様だった。


「おや、ガンゾウさん?」


「アンブロシウス、面倒だからこっち来て説明してやれ。」


右手の裂け目からアンブロシウス他の面々が入ってきた。


「ご主人様ぁ!お久し振りですぅ!」


「ウラジミールか、まだ生きてやがったか▪▪▪」


「またまたぁ、繋がっているのですから分かっていたくせにぃ▪▪▪アブロブルワゲッ!」


ああ、最後のはぶっ飛ばした音だ。

気持ち悪いこと言うんじゃねぇ。


「アンブロシウス殿?」


左手の裂け目からは白竜族と共に居た巨竜と言われる男だ。


「ブラウリオさん。」


それぞれが導かれるかのようにアゼッタ大陸中南部の猿族の土地に集結した。


◇◇◇


「ねえガンゾウ?」


「あ?」


「アンブロシウスって何者なの?」


とりあえず飯にしようっつう事で、でっかいテーブルについた。


テーブルの上には、新鮮なフルーツ、猿族の主食のタロ芋、川海老の素揚げ、鶏の唐揚げ、カエルの唐揚げ、鶏の煮込み、野豚の丸焼きとか並ぶ。

が、米は無ぇ▪▪▪


俺は野豚のスペアリブに食らい付いた。


なかなか美味ぇ。


「ヤベェ奴だよ。」


テーブルの反対側にブラウリオと並ぶアンブロシウスを横目に見ながら言った。


「どんな風に?」


「話すのがめんどくせぇ。」


「なによそれ?そんなに曰く付きなの?」


「まあな。俺はアイツの欠片を呑んでるからな。考えてることはすぐ分かる。だがな▪▪▪」


「?」


「まあいいさ、何れ嫌でも知ることになる。」


「もう!ディートヘルム!アンタからも言いなさいよ!」


「あの▪▪▪」


「あ?」


「いえ、私にもウラジミールさんのような『治癒』的な力が有れば、今後迷惑掛けることも無いかと思うのですが?」


「違うでしょ!」


「駄目だ。」


「駄目ですか?」


「治癒はな。」


「では何かを?」


「ああ。」


「それは?」


「後でな。」


「もう!無視しないでよ!」


◇◇◇


あちらは賑やかですね。


「それでアンブロシウス殿、バルブロというのは?」


「はい。まだ覚醒した訳では無いようです。一応、実体を得ただけで、以前の力を発揮出来るようになるには一年は掛かるのでは無いでしょうか?」


「そ、それで、も、伝承の、通り、災厄を」


「そうですね。バルブロはもとより、あのスタルシオンという金色骸骨も相当な呪力持ちですからね。空間を裂いて異界から魍魎を呼び寄せるなんて、なかなか出来ませんからね。」


「何処へ▪▪▪逃げた、の、か?」


「一応アゼッタには気配を感じません。と言っても、鏡や鏡のように使われている環境の有る場所限定ですが。」


「ところでアンブロシウス殿?」


「はい?」


「あのガンゾウ殿という方は▪▪▪」


「はは、凄いでしょ?ブラウリオさんなら分かりますよね?あの反則級の呪力の内蔵量と有り得ない程のお人好しさは。」


「お人好しかどうかは分かりませんが、一目で敵わないと思ったのは初めてです。」


「それ程ですか?」


白竜王ドミが、ブラウリオの言葉に汗を伝わせた。


「はい。アンブロシウス殿を見たときにも、その力の有り様に驚きました。しかし、かの英雄ガストーネが封印されているというのなら納得です。ですが▪▪▪」


「ガンゾウさんはそれを凌駕する?」


「はい▪▪▪正直なところ何かの切っ掛けでガンゾウ殿が敵に回ったらと考えると絶望的に為す術が見当たりません▪▪▪」


「しかし伝承には、煙を吐く男、仮にガンゾウさんだとして、巨竜の力も無いとバルブロは葬れないらしいですよ?」


「しかしこうなると、その巨竜が私だとしても、バルブロを葬るにはガンゾウ殿お一人で十分なのでは無いかと思えるのです。」


「つまり伝承が間違っていると?」


「▪▪▪」


「一つお聞きします。伝承の魔王、つまり皆さんが『バルブロ』だと言っている魔王ですが、伝承には『バルブロ』という固有名詞が出ているのですか?」


「!」


「私が知る限り、その名前がそうだと記されていないと思うのですが?」


「で、ですが▪▪▪」


「そうですね。バルブロにひどい目に遭わされて、それをようやく封印した。だから復活するのもバルブロだと思った?」


「アンブロシウス殿は違うと仰有るのか?」


「分かりません。因みに、私に封印されているガストーネも『タバコ』が大好きでした。それこそ煙を吐きながら寝ていたと言っても過言では無いでしょう。」


「つ、つまり煙を吐く男はアンブロシウス殿で、ブラウリオ殿と共に倒すのは▪▪▪」


「どうでしょうかね?」


そう言って微笑みました。


テーブルの上の唐揚げを一つ摘まみ、口にしました。

スパイスが効いてピリッと舌に刺さる味ですが美味しいですね。

冷えたエールが飲みたいですね。


◇◇◇


まったくよぉ、アンブロシウスの奴、俺に筒抜けなのによくもまああんな話をしやがる。


何処にケツを持っていくつもりかまでは分からんが、小細工だな。


まあ、このカエルの唐揚げに冷えたエールってぇのは賛成だな。


「ところでよぉ、ウラジミール?」


「はい!ご主人様!」


「エルゼだったのか?」


「▪▪▪はいぃぃぃ▪▪▪うっぐっ▪▪▪」


泣くなよ▪▪▪


デッケェ鼻から汁が垂れてるぞ。


「アンブロシウス?」


「はい。間違いありません。エルゼさんの呪力内蔵量は、ほぼ人間の限界に近いものでしたからね。スタルシオンさんの目の付け所は良かったようですね。バルブロさんがとりあえず目覚めましたから。」


「ふん、だがエルゼじゃあ耐えきれないかもな。」


「はい。そう思います。」


「どういうことですか?」


ダブが聞いた。


「つまりエルゼさんはバルブロさんが目覚めるための宿り木で、実際に魔王として君臨するための身体は別に必要なのかもしれないということです。」


それは衝撃的な話だった。


先程まで、バルブロの非力さに、伝承を疑うような流れになっていたからだ。


「必ずしもそうたぁ言えねぇがな。」


アンブロシウス▪▪▪話をややこしくするんじゃねぇよ。


「俺は元々呪力なんざぁ一欠片も持たねぇ人間だったからな。それが何でかこの世界に落とされてから、切られようが潰されようが、溶かされようが復活する不死身を身に付けた。あの頃の俺を見た奴がいたなら、今の俺を信じることは出来ねぇだろうな。」


「▪▪▪」


「つまりよ、アンブロシウスがごちゃごちゃ尤もらしい事言ってるがな、エルゼの身体のままで、その伝承の災いを引き起こすことだってあり得るっつうことだよ。

それからな、奴は既に本体が無くて、その時々の『器』に乗り替えている。っつうことは、何かの切っ掛けで俺やアンブロシウスを乗っ取る事も有りうるっつうこった。

まあ、俺はやられねぇがな。」


「フフッ」


笑ってんじゃねぇよ。

この腹黒が。


「ガンゾウさんのいう通りです。ちょっと筋を読み間違えましたね。」


じゃねぇだろ?


完璧に俺への不信感を植え付けやがった。


こいつ▪▪▪

まあ良い▪▪▪


◇◇◇


「盟主様、やはりその身体は逆らいますか?」


「ああ、チクチクと小うるさく突っつきやがる。だが、千年近くかかって見つけた身体だ、乗り熟してみせる。」


「では習熟の場所を中央大陸ユルシアと致したく思いますが?」


「良かろう。だが彼処には▪▪▪」


「はい、あの者が居ります。」


「まだ生きているのか?」


「なかなか死にませぬ。いえ、あの者、数百年もの間気配が有りませんでした。何処に潜んでいたのか▪▪▪」


「まあ良い、竜の目の男は死んだのであろう?」


「▪▪▪はい▪▪▪」


「ならば良い。急ぐことはない、礼をするべき奴等は腐るほど居る。その子孫、国、種族▪▪▪全てを葬ってくれよう▪▪▪」


「御心のままに▪▪▪」


スタルシオンが先導する時空のトンネルは、暗く乾いて果てしなく続いていた。


スタルシオンは『その場所』で空を掴み、ドアのように引いた。


空間が開き、小高い丘に出た。


この二人には不似合いな、爽やかな風が吹く、タバコの葉が揺れる畑に囲まれた丘だった。

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