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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第4章 アゼッタの酒 テキーラッ!
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◆◆⑬アンブロシウスとウラジミールの力◆◆

自ら放った炎に焼かれて全身が焼け爛れていた。


身に付けていた衣服は溶けて皮膚にベッタリとへばり付き、ブスブスと燻り続けた。


あまりに強力な炎は海水を蒸発させ、水蒸気爆発を引き起こした。

海に落ちたベルギッタは、自らが水蒸気爆発の火種となったのだった。


「グッ▪▪▪」


喉が焼けて声が出ない。

こんな状態でも生きているのはその呪力の大きさを物語っている。


だが、治癒能力が弱いため、壊れた体組織は再生が追い付かず、更に壊れ続けた。


こ、こんなはずじゃ▪▪▪


死ねないのは、この際死ぬよりも苦しく辛く、永劫の責苦に感じられた。


不死であるのではない。

老化はする。ただ、そのスピードが千年レベルなのだ。


意識を失えばまだ楽なのだろうが、それも儘ならない。


失えない意識ではあったが、それは辛うじて無くならない程度のものだった。


自分が今、何処に居て何をしているのか分からなくなった。


狂えれば楽だろう▪▪▪


ふと、身体が浮くような浮遊感があった。


遠くで話す声が聞こえる。


言い争っているようにも、誰かを宥めているようにも聞こえる。


『▪▪▪▪▪らば、お任▪▪よう▪▪▪』


そして何かが額に触れた。


そこから温かい何かが流れ込んできた。


そして、失えない筈の意識を失った。


ベルギッタは、経験したことの無い心地好さに包まれていた。


◇◇◇


「取り合えずこんなものでしょうか?

でもアンブロシウス様ぁ、良かったのですかぁ?ガンゾウ様にはどう説明するつもりですかぁ?」


床に膝を突いたウラジミールの膝元にはベルギッタが横たわっていた。


殆ど炭化していたその身体は、ウラジミールの治癒と再生により、ガンゾウに焼かれた顔の火傷さえも綺麗に治っていた。


「わざわざこちらから説明する事もありません。

任された以上より良いと思う手段を講じます。

それにね、この娘には是非お手伝い頂きたい事が有りますから。」


「そうですかぁ?まあ、アンブロシウス様が悪い顔をされているときは、何か企んでいるのでしょうからねぇ。まあ、私も保険を掛けておきましたから。」


「保険とは?」


「内緒です。」


ウラジミールさんも悪い顔をしてますよ。


◇◇◇


ベルギッタが撒き散らした巨大蟻は、青竜達の奮戦と、アンブロシウス達の助力によって全て倒した。


だが、その死骸を放置するわけにもいかなかったのだが、アンブロシウスが何処かの火山口に空間を開き、青竜達がそこへ巨大蟻の死骸を投げ込んだ。


蟻酸によって侵蝕された土地や河、以前から様々な毒素を撒き散らされて瀕死の状態だった海や森も、ウラジミールの治癒能力で大分改善された。


「凄いものですね、ウラジミールさんの力は。」


茶畑の土に手を付き、ヒーリングに余念の無いウラジミールにブラウリオが声をかけた。


「いえいえ、これも全てご主人様のお力の為せるところでございますよ。私はただの中継装着に過ぎませんから。」


半ば照れたようにウラジミールは顔を赤らめた。


「そのウラジミールさんのご主人様というガンゾウさんとはどの様なお方なのですか?」


茶畑の土に塗れた手で、ウラジミールは額を拭った。

活力を取り戻して、本来の香りを纏わせた土は、ウラジミールの鼻腔を甘くくすぐった。


「そうですね、強くて恐くて傍若無人で、そして優しいお方です。」


「支離滅裂な気もするが?」


「お会い頂ければお分かりになりますよ。なかなか言葉では表現し辛いかたなのです。」


「ふむ▪▪▪」


まあ、そうなのだろうとブラウリオは思った。


ウラジミールをはじめ、アンブロシウスといいフロリネ、ディートヘルムなどと、個性的な▪▪▪いや、癖の強い面々が付き従っている。

しかも、聞けば途方もない呪力を持っていて、アンブロシウスがやって見せたように空間を繋いで移動することなど容易いというのに、わざわざ、「無駄に時間を使う為」だけに歩いたり、必要も無いのに「寝たり」、死なないのに「食べたり」するという。


ブラウリオは興味を持たずには居られなかった。


「一度会ってみたいですね。」


「はい!では一緒に行きませんか?もうこの島の治療は終わりました。あとは自然の力に委ねれば良いはずですから。」


「▪▪▪そうですね。考えてみます。」


とは言ったものの、実際にこの島を出ることは難しいだろうとブラウリオは思った。


青竜族の統治は、青竜王である父のアレクサンテリの仕事だが、先だってのようにいざとなると優柔不断が顔を出す。


実質自分が居なければ緊急事態に対処出来なくなる。


『やはり島を空ける事は出来ぬか▪▪▪』


前を歩くウラジミールの背中を見ながら、小さく溜め息を吐くブラウリオだった。


◇◇◇


「おお!ブラウリオ!やっと帰ってきたか!」


城に到着するとアレクサンテリさんが待ちわびたようにブラウリオさんの肩を抱き導きました。


「申し訳ありません。ウラジミール殿のヒーリングを見学させて頂いてました。もう島の毒物は綺麗に除去されました。」


「そうか!ウラジミール殿!ご苦労をお掛けした!この通りお礼申し上げる。ところでなブラウリオ?」


アレクサンテリさんは、ウラジミールさんに丁寧に頭を下げました。

そしてブラウリオさんに向き直りました。


「こちらはアゼッタの白竜族から使者として参られたぺスター殿だ。」


ブラウリオさんは、先程からテーブルの付いていた見知らぬ竜族に気が付いていたようです。


ブラウリオは、自身白竜族を初めて見るのだが、白銀に輝く髪が美しいと思った。


もうこの地上に、竜種が青竜と白竜だけになって久しい。

その間、それぞれに交流を持とうという話が出たことも有ったが、実現することは無く、アレクサンテリ他、青竜族の誰もが白竜族と会うのも見るのも初めてだった。


「はじめましてブラウリオ様。白竜王ドミ様の遣いでぺスターと申します。」


ぺスターと名乗った男は、年齢で言えば二十歳そこそこだろう。


しかし、他の竜族と同じく、人姿ではその実力を伺い知ることは出来ない。

竜族は、他の獣人族とは違い、人姿と竜姿が大きく変わる。


これは、他の獣人族には無い特徴だ。


例えば虎族や狼族は、ほぼ変化しない。


人姿のシルエットに、獣人の特徴が出ているのだ。


竜族は、人姿と竜姿を使い分ける。


必要が無ければ、一生人姿で過ごすものも居る程だ。


ぺスターも類に漏れず、人姿は華奢な好青年にしか見えない。


だがブラウリオは見抜いた。


このぺスターが、あるいは父アレクサンテリと互する実力の持ち主だと。


そのぺスターの額から一筋の汗が流れ落ちた。


表情は変えないが、内心ブラウリオの圧力に驚いていた。


「失礼しました。ブラウリオ様。聞きしに勝るお力の内蔵量▪▪▪思わず汗が出ました。」


ぺスターは正直に思いを伝えた。


「いえ、ぺスター殿こそなかなかのお力。父王アレクサンテリに勝るとも劣りますまい。」


「ん?そうなのか?そうなのか?」


「パパ、少しお口にボタンですよ、何でも口を挟むのはパパのダメな所ですよ?」


「フラウ!客人の前で▪▪▪」


「はいはい、下がりましょうね。」


アレクサンテリさんがフラウさんに手を引かれて部屋を出ました。

殆ど子供扱いですね。


「失礼しました。」


ブラウリオさんも頭を掻く他無かったようですね。


と、ぺスターさんが私に視線を固定しました。


うん、ブラウリオさんが言う通り、アレクサンテリさんに匹敵する力を持っているようです。


「失礼だが?」


もちろん、私に聞いているのでしょうね。

ブラウリオさんを一瞥すると、静かに頷きました。


「私はアンブロシウスと申します。」


「!」


ぺスターさんが驚かれているのは、例の伝承をご存知だからなのでしょうね。


「お察しの通り、私を作ったガストーネは、竜王アンブロシウスさんの心臓と左目を頂いた男です。」


そう言ってから鏡に変化して見せました。


そして鏡面に、その昔毎日見ていたガストーネを映しました。


左目に『竜王アンブロシウス』の目を宿したガストーネを。


「竜の目▪▪▪」


ぺスターさんが呟きました。

ブラウリオさんも、他の青竜族の方々も息を飲んで見詰めました。


ああ、フラウさんに退場させられたアレクサンテリさんは見られませんでしたが▪▪▪


「伝承によれば英雄ガストーネは竜王アンブロシウスの心臓と左目を自らに取り込み、その力を合わせて魔王バルブロを封印したとか▪▪▪その英雄ガストーネは、このようなお顔をしていたのか▪▪▪」


まあ、昔話をしに来た訳でもないでしょうから、私の自己紹介はこの辺りで良いでしょう。


人姿に戻ると、ぺスターさんが深々と頭を垂れました。


「彼の伝承の竜王アンブロシウス様の目を見ることが出きるなど、想像もしておりませんでした。驚きました。」


ほんとに驚いているようで、脱力感が漂っていますね。


「もっと別の記憶、私の記憶だけでなく、ガストーネの記憶からも映像化してお見せ出来ますが、それはまたの機会にしましょう。

今は何か大事なお話が有ったのではありませんか?」


このままだと本題を忘れてしまいそうですから、軌道修正です。


「そうでした!ブラウリオ様、アゼッタにお出で願えませんか?

伝承の巨大竜と目される竜族が生まれたとなれば、魔王バルブロの復活も懸念されます。

煙を吐く男については未確認ですが、一度アゼッタでバルブロの復活に備えて会議を開きたいのです。

これは我等白竜族の王ドミだけではなく、アゼッタの長老会議において合意を得た依頼なのです。」


んん▪▪▪


「口を挟んで申し訳ありません。

その煙を吐く男ですが、たぶんこの方▪▪▪」


そう言って右手を鏡面にしてガンゾウさんを映しました。


もちろん葉巻をプカプカ噴かしている姿です。


それを見たブラウリオさんとぺスターさんは大きく息を飲みました。


「な!何だこれは?鏡に映る姿からだけでも途方もない力を感じるっ!」


「はい、私は長いことルピトピアの地下に魔道具として閉じ込められていて、バルブロの手下の手下達と遊んでいたのですが、ガンゾウさんがやって来て話をしたら、何かガストーネと一緒だった頃のように心が浮き立つのを感じましてね。ご一緒することにしたのです。

しかも、ガストーネを遥かに上回る呪力をお持ちで、そんな力が有りながらも、お酒と葉巻と美味しい食事だけの為に行動するっていう、なんとも支離滅裂、傲岸不遜な様が面白そうで同行してます。」


「ま、待ってくれ?彼の伝承の英雄ガストーネよりも強いともうされるのか?」


「はい。」


「それはいくらなんでも▪▪▪」


「ガストーネを知る私が言うのですから間違い有りません。」


ぺスターさんは驚きのあまり情報の整理が追い付かないみたいですね。


「伝承の巨大竜、煙を吐く男▪▪▪彼の竜王アンブロシウスの名を持つ男▪▪▪」


ぺスターさんが自分に言い聞かせる、あるいは問いかけるように呟きました。


「あの、ついでに申し上げますと、ガンゾウさんは既にアゼッタ大陸に上陸しています。」


「!!!」


この後、緊急の会議が執り行われ、形式上国王のアレクサンテリさんの了解を強引に取り付けたブラウリオさんは、ぺスターさんと連れだって私達と共に青竜の島を後にしました。


ガンゾウさんが、ちょっとバタバタしているようなので、ゴニョゴニョ理由を付けて空間移動せず、大型の船で出発しました。


「皆を乗せて飛んでも良いのだが?」


と、ブラウリオさんが言いましたが、


「そこまで逼迫していませんから。それに訳アリのお客さんも居ますしね。」


そう言って甲板下に有る居室の方向に視線を向けました。


「▪▪▪」


そこには、呪力で眠らせたベルギッタさんが居るのです。


「このまま止めを刺すほうが良い!」


そうですねぇ、ブラウリオ様の申される通りですぅ。


「本来ならばそうしたほうが『感情を満足』させられますが、ちょっと考えが有るのでここはお任せいただけませんか?」


アンブロシウス様ぁ、無理筋では?


「いやしかし!」


「曲げてお願いしたいです。」


「んんんっ▪▪▪」


ブラウリオ様の顔に深い苦悩が見てとれますねぇ。


「もちろん、この子が悪戯した島の不具合は、ウラジミールさんのヒーリングで完治させますので。」


え?私ですか?


「不満ですか?ウラジミールさん?」


「いえいえ、でもご主人様は?」


「任せる、と言っていましたから大丈夫ですよ。」


「そうですか、良いですよ。」


まあ仕方有りませんね。


「と言う事なのでブラウリオさん。」


「むぅ▪▪▪わかりました。

ならば、お任せしましょう。

父は私が説得します。」


「はい、お願い致します。ではウラジミールさん、よろしくお願い致します。」


アンブロシウス様はそう言うと床に転がっていたベルギッタさんを抱き上げて、そのまま呪力を駆使してベルギッタさんを腰の高さに浮かせて横にしました。


では▪▪▪


「ウラジミールヒーーーーィリィンッグッ!」


これはなかなかの重傷ですねぇ、まあ、ご主人様とコンタクトが取れてますから、いくらでも呪力を使えますし、ああ、序でに保険を掛けておきましょうかね。

『ウラジミールカーーーースッ(心の声)』

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