◆◆⑪フラウとブラウリオ◆◆
「結界を解きましょう!既に奴等の侵攻を受けています!父上!」
ブラウリオさんは、結界を解くことを躊躇うアレクサンテリさんに詰めよりました。
「アレクサンテリさん。私もブラウリオさんに同意します。ここはウラジミールさんの能力を全面的に活用するためにも、結界を解くべきでしょう。」
と、言ったのですが、アレクサンテリさんは躊躇っています。
んん▪▪▪
「パパ!何を躊躇っていますの?男の子でしょう?シャンとなさい!」
あれ?フラウさんがキレ気味です。
「優柔不断なのはパパの駄目なところですよ!」
まるで子供が叱られてるみたいですね。
「いや、フラウ▪▪▪皆が見てる▪▪▪」
「いつもの事です!もおいいです!結界は解きます!」
「おい!フラウ!私の許可無く▪▪▪」
「いいえ!貴方の決断を待っていたら日が暮れて年が明けます!」
あらら、まずまずの言われようですね。
「どうせ私が張った結界です。私じゃなければ解けませんからね。ブラウリオ?」
「はい母上。」
「10分で体制を整えなさい。10分後に結界を解きます。」
「畏まりました。」
そう言うとブラウリオさんは、主だった臣下を引き連れて出ていきました。
あとには一人アレクサンテリさんが残されました。
「アンブロシウス様。」
フラウさんは私を振り返り一礼して続けました。
「主人が失礼申し上げました。」
「いえいえ、国の命運に関わることです。簡単には▪▪▪」
「いいえ、この人は見た目勇ましいのですが、元来平和主義、いえ、事無かれ主義の嫌いがあるのです。
平時ならば穏やかな良い国王なのでしょうが、有事にはちょっと臆病が顔を出してしまうのです。」
アレクサンテリさんは項垂れています。
「それでも人が良いせいか信望はあるのです。もう少し決断力に富めば!言うこと無いのですが▪▪▪」
ますます項垂れてしまいましたね。
「では、結界を解くと同時にガンゾウさんとコンタクトしてみます。
それにしてもフラウさん、フラウさんの結界は凄く強固ですね。
私はソコソコ力が有るはずですが、この結界は破れませんでした。」
「私は青竜族の生まれですが、先祖がえりとでも言うのでしょうか?竜姿の色は緑色なのです。」
「緑色?つまり私の名の由来の竜王アンブロシウスと同じと?」
「はい。」
「緑竜、伝承の巨大竜、煙を吐く男▪▪▪
その時が近づいていると言うことなのでしょうか?」
フラウさんは薄く微笑みました。
「さあ、そろそろ準備が出来たでしょうね。あなた!何時までしょぼくれてるのですか?
それは駄目な事ですよ!
さあ、行ってらっしゃい!
青竜王の実力を見せていらっしゃい!」
フラウさんが!アレクサンテリさんの肩にそっと手を乗せました。
すると、掌と肩の重なったところから光が漏れ出ました。
「うむ!ワシが行かねば何も始まらんな!」
そう言うとアレクサンテリさんは走りだし、開け放たれた巨大な扉を竜姿になって飛び立ちました。
「ホントに手が掛かるんだから▪▪▪」
軽く溜め息をついたフラウさんですが、その顔はにこやかに笑ってました。
ああ、この国の真の支配者はフラウさんなのですね。
「そんなことは有りませんわよ?」
あ、声が漏れていたようです。
唐突にガンゾウさんの意識が飛び込んできました。
フラウさんを振り返ると、何事もなかったように「お茶にしようかしら?」なんて言ってます。
何のモーションも有りませんでした。
これはかなり強力な呪力使いですね。
フラウさんが振り返り、ニコリと微笑みました。
また声が漏れていたようです。
◇◇◇
ああ、アンブロシウス?
生きてたのか?
はい、残念ながら私を筆頭に皆生きてます。
そうか。
ウラジミールが息切れしてたな?
はい、ちょっと呪を使いすぎたようです。
ガンゾウさんとコンタクトが切れてましたから、底を突いたようですね。
そうか。
問題有るか?
いえ、たぶん大丈夫です。
けど▪▪▪
?
あの火傷の女▪▪▪
?ああ、何とかの手下か?
はい、やっちゃって良いですよね?
何で聞く?
いえ、あと半分も焼くのかなと?
めんどくせえからおめぇに任す。
了解です。
「ガンゾウさんの許可を取りました。
存分に殺ってください!」
『うぉぉぉぉっ!』
青竜達の雄叫びと共に、何故かディートヘルムさんとフロリネさんの声も聞こえます。
そのあとから、ウラジミールさんの治癒呪の発動が聞こえました。
でわ、私も▪▪▪
巨大な蟻達の蟻酸攻撃を避けるべく、青竜達は上空からのブリザード攻撃と、付近から集めた岩や城壁の石等を投げ落として巨大蟻に立ち向かった。
その青竜達に鳥顔の魔物が襲いかかった。
個々の力で言えば、鳥顔達は青竜の相手ではない。
しかしその数に圧倒的な差があった。
一人の青竜に、15から20の鳥顔が取りつき、地に落とされた。
そして、鳥顔共々蟻酸が浴びせられた。
このままでは歩が悪いですね。
ちょっとでしゃばりましょうか?
「ああ、皆さん!一度お下がりください!」
私の声にディートヘルムさんやフロリネさんは慌てて下がりました。
「あの?下がらないと▪▪▪知りませんよ?」
興奮して蟻酸を浴びながらも勇戦する青竜達に声をかけましたが▪▪▪
んんん▪▪▪
「皆の者っ!下がれっ!一旦下がるのだっ!」
おお、ブラウリオさんの一喝で皆さん正気を取り戻しました▪▪▪?
「父上!」
はあ▪▪▪
アレクサンテリさん?フラウさんにまた怒られますよ?
最終的にブラウリオさんは、その父親を上回る大きな顎で竜姿のアレクサンテリさんの首根っこを噛み、引きずってきました。
ブラウリオさんが、チラリと私に視線をくれました。
この方、穏やかな物言いですが、その秘めた力は伝承の巨大竜であろうと思わせるのに充分な洞察力を見せてくれますね。
「でわ。」
そう言って宙に浮かびました。
鳥顔達が群がってきますが、『魔王の残滓』を高濃度で照射して消滅させました。
「私が全てを終わらせては意味が有りませんからね。『魔王の爪』▪▪▪」
両の掌を地上に向けてヒラヒラと降りました。
やってる動作からは想像も出来ない轟音と共に光の矢が物質化して巨大蟻達に降り注ぎました。
『ドスッ!ガギッ!バスッ!』光の矢は、巨大蟻を地面に串刺しにしました。
それでも後から後から湧くように蟻は進軍を止めません。
「アンブロシウス様が蟻の足を止めてくれた!皆のものっ!鳥顔は落ちた!思う存分暴れよつ!」
『ウオォォォォッ!』
青竜達の反撃が始まりました。
さて、結界が解かれた西の空に、あの火傷の女が浮かんでいました。
何やらギャァギャァ喚いているのは、鳥顔や蟻達に指示を出しているのでしょうが、まあ、頭の悪い、本能だけの小物に何を言ったとて、指示が完遂できるとは思えませんねぇ。
「そもそも貴女が一番おバカさんですよ?」
ベルギッタは急に後ろから声をかけられ、反射的に火焔呪を放った。
まあ、私でなけりゃ燃えちゃったかもしれませんね。
そもそも、私だから貴女の側に出てこれたのですよ?
「ギャァッ!」
ベルギッタの放った火焔呪は、鏡化していた私に跳ね返されて自らを焼きました。
全身を自ら放った強力な火焔呪に包まれてベルギッタは真っ逆さまに海に落ちていきました。
 




