◆◆⑧ポスカネルとスタルシオン◆◆
「忠弥?いい加減この景色は飽きたぞ?暑いしよ▪▪▪」
「方向は間違いない▪▪▪と思うのですが▪▪▪何せ何百年も昔の事、地形や集落の位置も変わっているはずなので▪▪▪」
「おい、ポスカネル?」
「貴様ぁ!また姫様を呼び捨てにブグラワジャッ!」
ああ、あのタフマンをぶん殴ってやった音だ。
「何でしょう?」
「お前の家来にもう少しまともな案内が出来る奴は居ねえのか?」
「申し訳ありません、ですが、この道で間違っていませんから。もう少しお任せください。」
「何で間違ってないって分かるんだ?」
「私の家系に連なるもの達は正確な方向感覚を持ち合わせています。
普通の人種には聞き取れない音を出して先々を探ることが出来ます。
今のところ、その感覚は不快では無いので、間違ってないはずです。」
蝙蝠か?
まあ、そう言うならこのまま行くか▪▪▪
「ああ、だがなポスカネル?」
「はい?」
「この人数は多すぎだろ?」
「貴様ぁ!姫様を御守りするのに少人数では格好がつかないだろうがぁっ▪▪▪ぶふゅわっ!」
んん、ぶっ飛ばした音だ。
しかしなんだな。
人間に戻してやったのに俺にぶん殴られても無事なのは、ただの人間じゃないってことか?
「そのとぉぉぉりっ!我は姫様の眷族!山犬の一族であぁぁぁるっ!」
「山犬?狼じゃねえのか?」
「め、滅相もない!狼様の御名前をむやみに口にするでないわ!この愚か者っっっぶぐぶるずぶわっ!」
ああ、ほんとめんどくセェ▪▪▪
「狼の一族は私達バンパイアの一族同様、獣人系種族の古参一族ですが、バンパイア一族が、いえ、サスカール王国が滅亡した原因、魔王バルブロとの戦いのおりにアゼッタ大陸を取りまとめて戦った狼王英雄ロボスの時代に、その一族の9割を犠牲にしてしまいました。それ以降、少数種族から脱却しきれていません▪▪▪
山犬の一族は、狼族の亜種であり、当時から狼族の庇護下にあったので、彼にしてみれば強い憧れの一族なのです。」
▪▪▪どうでも良い▪▪▪
「ところで、そのバルブロ?強いのか?」
「はい、見た目は子供なのですが、強力な魔法を使います。
物理攻撃でダメージを受けても直ぐに回復します。
腕を切り落とされても直ぐにくっつきますし、全身を焼け焦がされても直ぐ皮膚が再生します。」
「こんな風にか?」
と言って俺は俺の左腕を獅子丸で切り落とし、拾い上げ、くっつけた。
魔滅の剣じゃ俺を斬れねぇからな。
「!」
ああ、みんなドン引きしたな。
「あ、貴方は▪▪▪」
「俺は俺だ。それからな、そのバルブロっつうのには会った事はねぇがな、その子分らしい金色の髑髏面とキャンキャンうるせえ女なら何度かぶっ飛ばしたぞ?
女にはブーツを斬られて使い物にならなくされたからな、丹念に顔を焼いてやった。」
そう言って派手に煙を吐き上げた。
「それは▪▪▪スタルシオンとベルギッタでしょうか?」
「髑髏面はスタルシオンっつうのか?女はそうベルギッタっつってたな。」
興味も薄れてきたがな。
成り行きでの話だ。
「ガンゾウ殿▪▪▪サスカール王国は、そのほとんどをベルギッタ独りに滅亡させられたのですよ▪▪▪」
▪▪▪忠弥?
そりゃサスカール王国が弱すぎだったんじゃねぇのか?
◇◇◇
「まだ分からんのか?」
「▪▪▪はい▪▪▪結界が張られており、それが他に見ないほどの強さで、探索の目を絞らせません▪▪▪」
「言い訳だな▪▪▪」
「だからさ、スタルシオン?アンタが行けば良いじゃないの?バルブロ様のおこぼれが無くとも、この中じゃアンタが一番魔力持ちなんだからさ?」
「▪▪▪」
「アタシだって、バルブロ様が復活されればこの軛を外してもらって、あの煙男なんか消し炭にしてやるわよ!」
そう言いながらベルギッタは首に嵌められた、銀色に鈍く光る軛をじゃらつかせた。
そんなベルギッタを横目に見ながらスタルシオンは立ち上がった。
「なによ?行くの?」
「仕方あるまい。鍵がなければアゼッタの扉は開かぬ▪▪▪」
「そうね、じゃ、行ってらっしゃい。アタシは青竜の島にあれをばらまいてくるわ。」
言い終わらぬうちにスタルシオンは闇に消えた。
「ほんと、愛想の欠片もないんだから▪▪▪」
ベルギッタも、眷族に持たせたカゴに乗り、生暖かい翼風を浴びながら飛び去った。
ベルギッタの後には、涌いて出たかのように無数の鳥顔の魔物が付き従った。
その手や足にはおぞましい色と柄を持つ玉が握られていた。
◇◇◇
「あちぃあちぃあちぃあちぃあちぃ▪▪▪」
まあ、頭を鏡化して太陽熱を反射してるから、忠弥達ほど暑さを感じていないのだがな。
そんななかでもポスカネルは涼しい顔をしているな。
「ポスカネル?暑くねえのか?」
「貴様ぁ!またまたまたまたまたまた姫様にゅぶずぶろぐわっ!」
懲りねえな▪▪▪
「暑さ以前にバンパイアっつうのは太陽の光を浴びると溶けるんじゃねぇのか?」
「ガンゾウ様がいらした世界ではそうなのですか?確かに陽に焼けやすいかもしれませんが、個人差レベルだと思いますよ?」
ふん、そうかい。
「ところで、ポスカネル▪▪▪」
「なんでしょうか?」
「気付いているか?」
「あれですね?」
「ああ、あれだ。」
「この感覚▪▪▪恐らくスタルシオン▪▪▪」
「スタルシオン?!」
忠弥の声で皆に緊張が走った。
「確かに強ええな。」
「でもガンゾウ様程ではありませんね。」
ぶっふぅわぁぁっ!と派手に煙を吐いた。
「だな。」
それは、真正面から空間の歪みを造りながら飛んできた。
◇◇◇
ほう?あれはサスカールの王女か?
一緒にいるのは ▪▪▪
あいつか▪▪▪
あまり無駄な時間を遣いたくないが▪▪▪
気付かれているな。
スタルシオンは、不可視の空間を高速で移動しながらも、自分が認識されていることに気付いていた。
仕方あるまい▪▪▪
スタルシオンは、方向を変え、ガンゾウ達の目の前に降り立った。
◇◇◇
「久しいな▪▪▪サスカールの王女よ▪▪▪」
「本当に▪▪▪二度と見たくない顔ですが、見ないことにはお礼も出来ませんものね。」
にこやかに微笑んでいた顔に強ばりが走り、サラサラと金色に棚引いていた髪が憤怒のオーラを纏い舞い漂う。
「そっちの傷の男▪▪▪こちらの者が少々世話になったな▪▪▪」
「いやいや、礼には及ばねぇよ。ご希望ならあと半分も焼いてやるよ?」
いけ好かねぇ野郎だ▪▪▪
だが、あの火傷女よりははるかに強えぇな。
俺がいなきゃヤバかっただろうが▪▪▪
んん、何かで呪力を押さえられているな▪▪▪
封印か?
ああ、なる程な▪▪▪
あれが外れたら少しは楽しめそうだがな。
まあ、解いてやる義理も無えしな。
なんて考えるのに0.00000002秒、いや、計ってないから分からんな。
「故あって先を急いでいる。海の底から這い出してきたのだ、次に会うまで日の光を楽しめば良い。傷の男。」
「カンゾウだ。」
「▪▪▪カントゥーネ▪▪▪」
「何?」
「何でもない。お前とは殺り合わなければならぬようだが、今ではない。」
「そんなツレねぇ事言うなよ?せっかくだ。遊んでいけよ?」
「すまぬな。また会おう▪▪▪」
スタルシオンはそう言って滲み消えた。
「ガンゾウ殿?捕まえられぬのですか?」
「ああ、ウラジミールの首根っこヒッ掴むのとは訳が違う。
まあ、そのうち嫌でも会うだろう。
今俺は「米」が食いてぇんだ!」
「そうですね。嫌でも再会するでしょう。それまでは▪▪▪」
チラリと横目に見たポスカネルは、サラサラの金髪に戻っていた。
俺は新しい葉巻を取り出して火を着けた。
甘い香りが漂った。




