◆◆閑話休題ヘリオスとパンコントマテ◆◆
第2章完結です。
現在、第3章は1万文字程度の進捗ですが、多少納得いかない部分もあるので、この後の掲載ペースが落ちるかもしれません。
気長にお待ちいただければ嬉しいです。
「ヘリオスさまぁ!」
「あ?」
リリアンの呼ぶ声でうたた寝していた椅子から転げ落ちそうになった。
「またサボってましたね!依頼の整理と格付けを早くしないと!ギルド長なんですからしっかりしてください!」
「いやぁ、この季節はついつい気持ち良くてうたた寝しちまうなぁ。で?その手に持っているのは新しい依頼か?だったら何時ものようにまとめてくれれば▪▪▪」
「ワッチナル陛下よりの親書とブリアラリアのギルドからの依頼書です。」
リリアンは、ワッチナルの名前を出すときに低頭した。
リリアンもまたブリアラリア出身だったのだ。
「それからクロヴィス君からも手紙が来てますよ。」
「クロヴィス?珍しいな。」
「ちゃんと返事書いてくださいよ?たまには親らしい態度を見せないと。」
「んん、まあ、気が向いたらな▪▪▪」
言葉を濁して弟ワッチナルの親書を開いた。
『親愛なる兄上様。お元気でしょうか?兄上の事ですから心配を申し上げる必要もないかもしれませんが▪▪▪▪』
「国王陛下は何と?」
リリアンは、俺が読み終えるのを待って聞いた。
「ああ、一人預かってほしい奴が居るそうなんだが、そいつは今、ガンゾウさん達と共に居るらしいんだ。まあ、たいしたことではない。」
「クロヴィス君は何と?」
「まだ読んでない。」
「またまたぁ、ダメですよ、ちゃんと読んで変事を書かないと!」
「わかったわかった、お?もうこんな時間か!あとは明日な!」
そう言うとヘリオスはそそくさと帰り支度を整えギルドを出た。
後ろからリリアンの声が追いかけてくる。
「もう!明日はちゃんとやってくださいよ!」
◇◇◇
何時もの通り、何時もの酒場に寄った。
晩飯とは名ばかりで、酒とツマミを頼む。
「ギルド長、いつもの奴でいいのかい?」
酒場の親父が声をかける。
「ああ、頼む。」
少ししていつもの奴が出てきた。
『パンコントマテ』
薄くスライスした固めのパンに、ニンニクを擦り付けて更にトマテを擦り付ける。
たったこれだけだ。
俺はそれに小さなトマテのスライスとアリオリを別添えで貰う。
アリオリを塗ったり、トマテを乗せたりして多少の変化をつける。
酒はマール。
ヴァンを作った後に残ったレイズンの搾りカスから作った蒸留酒だ。
この組み合わせは堪えられんな。
懐から手紙を出した。
「何年ぶりだ?」
自分の名前が書かれた宛名を指でなぞる。
思わず口許が綻ぶのがわかる。
だが封は切らなかった。
「なんだい、読まないのかい?」
「ああ、読まないほうが良いんだよ▪▪▪」
「わかんねえなぁ▪▪▪」
酒場の親父が首を捻りながら厨房に戻った。
「ああ、俺にもわからねえからな▪▪▪」
そっと懐に戻し、マールを煽った。
「親父!お代わりだ!」
何時もの酒がいつになく美味い夜だった。




