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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第7章 牛族の国でステーキ『ヨーグルトとアンチョビのソースで』
164/164

◆◆㉙相撲と葉巻そして▪▪▪◆◆

お読みいただきありがとうございます。

ガンゾウ、第7章終了です。

計画していたよりもグルメ的な話を盛り込めませんでした。

反省▪▪▪

次章は最終章です。

しばらく書きためますので、再開後、またよろしくお願いいたします。

「ンッカアッ!うめぇっ!」


目の前には、えも言われぬ芳醇な香りと虹色に色を変えながら輝く『ミード』が有った。


「なっ!なっなっなっ!古酒とは全然違うだろ?ミードだけは新酒が美味いんだ!」


多少呂律が怪しくなったユルヤナがキラキラと光跡を帯ながらガンゾウの周りを飛んだ。


「うむ、これはうまいの。これほどとはおもわなんだ。」


「リリスちゃん?これはリリスちゃんにはまだ早い▪▪▪」


「こむすめ!なんどゆうたらわかる?わしはおまえよりもながくいきとるのじゃ!」


リリスとポスカネルが漫才のようにボケ、突っ込む。


「ホントにうめぇな!

最近よ、力仕事やら戦闘ばっかりでうめぇもん食ってなかったからな、余計に沁みるぜ。」


ヘリオスもご機嫌に盃を重ねた。


そのテーブルの端にガストーネが座っていた。

皆と距離を置くように。


「ねぇガストーネ?あんたも飲みなさいよ?ほら!」


クリスタが、ミードが満たされたグラスを二つ持ってガストーネの隣に座った。


「いや、俺は▪▪▪」


「ダメよ。飲みなさい。お兄ちゃんは気にしなくて良いわ。ママも、いえ、ママは一番先に貴方を許しているんだから。」


フラウは皆の輪のなかでにこやかに談笑していた。


「さすがに前と同じとはいかないけど▪▪▪

でもね、生きていられたから、生きていてくれたから、そして私も、お兄ちゃんも▪▪▪

貴方もね、ガストーネ。」


ガストーネは、そう言って渡されたグラスを両手で包むようにして見詰めた。


液面がユラユラと揺れて輝いている。


ガストーネはそれを口にした。


「うめぇ▪▪▪」


「ね。ほんと美味しい。

でも不思議よね。

絶対に許さない、パパの仇!殺してやりたい!なんて思っていた貴方とこうして並んで飲んでいるなんてね。」


「▪▪▪すまねぇ▪▪▪」


「もう良いわよ。事実は消えないけど、その後の貴方の行動も同じく事実なんだから。

私はそれを受け入れると決めたの。

ママも、島の皆もね。

まあ、お兄ちゃんはもう少し時間が掛かりそうだけど、分かっているから。」


そう言うとクリスタはグラスを飲み干した。


「おいおい、酔っぱらうぞ?」


「良いじゃない!酔おうよ!」


クリスタはそう言って立ち上がり、お代わりを求めに行った。


「ふっ▪▪▪」


「ガストーネ。変わりましたね。」


クリスタが去ったその椅子にアンブロシウスが座った。


ガストーネはチラリと視線を向け、小さく笑った。


「変わった▪▪▪そうだな、変わったようだな。」


居心地が悪い。


いや?多分居心地が良いのだ。


その昔、強大な呪力を得てこの世界に送られた。


その力を人々の為に使った。


しかし、善行も行きすぎればそれを快く思わないも者が出てくる。


そして、雪だるま式に増え、悪意を持って貶められ、あっという間に全人類の敵となった。


その結果、自分を貶めた者達共々風評に踊らされただけの人々をも害した。


むしろ、そう言った人々のほうが多かったのかもしれない。


何故自らの力を流されるままに使ったのか?


▪▪▪


寂しかったから。


そう、自分が立っている足元の不安定さに怯え、無理矢理にでも人のためにと力を使ったことが、結果として自らを『異質な嫌悪の対象』に落とす事となった。


そう、寂しさを認める勇気が無かった。


今なら分かる。


自分は臆病なのだと。


だからこうして人の輪の直ぐ外で『呼んでくれる』のを待っている。


つくづく臆病で卑怯なのだと思うと情けなくて仕方がなかった。


「そんなことはありませんよ。」


アンブロシウスが見透かしたように言った。


「な、何も▪▪▪」


「ええ、何も言っていませんでしたよ。

でもね、呪力の繋がりが切れたとはいえ、私は貴方ですから。

ガストーネ。

貴方が思っていることは私の思いでも有るのですよ。」


「▪▪▪ふん▪▪▪」


恥ずかしい。

これが恥ずかしいという感情▪▪▪


見られたくない弱さを見られた。


恥ずかしさ。


でも、それが何故か嬉しい。


「アンブロシウス。外してくれ。」


ガンゾウがミードの入った小樽を抱えてやって来た。


アンブロシウスは一礼すると皆の元へ戻っていった。


「吸うか?」


ガンゾウが葉巻を取り出してガストーネに差し出した。


ガストーネはそれを無言で受け取った。


「ふうぅぅぅっ▪▪▪」


ガストーネもガンゾウに倣い煙を燻らせた。


「なんだかなぁ▪▪▪」


「▪▪▪」


「この世界に飛ばされて来た日▪▪▪

いや、正確に覚えている訳じゃぁ無ぇしその前がどんなだったのかも覚えちゃいねぇ▪▪▪

いねぇが、少なくともこの世界に来てから相手が誰だろうと闘い、殺してきた▪▪▪おかげで魔王呼ばわりされてこの様だ▪▪▪」


ガストーネの述懐をガンゾウは黙って聞いた。

葉巻の先から緩ぅく煙が立ち上がる。


「人間に嵌められて、全世界が敵になっちまってから俺は腐った。

だが、アイツとの相撲だけは楽しかったな▪▪▪」


「▪▪▪」


「竜王アンブロシウス。

ガチで組み合ってよ、三日三晩、いや、もっとだったか?微動だにせず満身の力込めて漸く投げ飛ばした。

ありゃあ楽しかったなぁ▪▪▪」


「▪▪▪」


葉巻の香気が立ち込める。


「でもよ、俺が長居すると迷惑かけちまうからな▪▪▪

島を出たんだが▪▪▪

俺が残っていたら▪▪▪

あんなことには▪▪▪」


「今回の事もそうだと言いてぇのか?」


「▪▪▪」


「だとしたら傲りだな。傲慢だ。」


「▪▪▪」


「それともそう言って欲しかったのか?」


「▪▪▪わからねぇ▪▪▪

わからねぇが、そうかも知れねえ▪▪▪

だが残ってさえいれば▪▪▪」


ガンゾウは盛大に煙を吐き立ち上がった。


「おいっ!ブラウリオ!」


ブラウリオの名を呼び手招きした。


ブラウリオが立ち上がりゆっくりと近づく。


「ガストーネ。相撲を取れ。」


「あ?」


「ブラウリオと相撲を取るんだよ。」


ブラウリオがやって来た。

しかしガストーネを見ようとはしない。


「ブラウリオ、こいつの目玉と心臓の由来は知っているよな?」


そう言われてブラウリオは初めて気付いたかのようにガストーネを一瞥した。


「▪▪▪はい。」


「殺しあいテェなら止めねぇ。

だが、お前を除いた青竜達はもうコイツを許したようだ。

ならば後は実質的に現青竜王のお前次第だ。

そこでだ、コイツの青竜族との関り合いの根っこである相撲を取って決着をつけるんだよ。」


いつの間にか3人は皆に囲まれていた。


「良いじゃない!

お兄ちゃん、やりなよ!」


フラウは黙って見ている。


「そりゃ単純に見てみたいねぇ、良し!張るか!」


「ヘリオスさん!何を言っているんですか!

賭けなんて▪▪▪」


「イイネイイネ!」


ユルヤナが手を叩きながら飛び回った。


「こう見えて妖精族は賭け事が好きなんだよ、良いじゃないか。」


妖精族のみならず、巨人族、怪我から回復した身内の青竜達まで手を叩いて囃し始めた。


「ほれ、皆はもうその気だぞ?」


葉巻を燻らせながらガストーネとブラウリオを見比べた。


「俺は良いぜ。」


ガストーネが立ち上がりブラウリオに一歩近付いた。


「良いでしょう。」


ブラウリオが受けた。


「よし、じゃあ明日の昼、日が真上に来たら勝負開始だ。」


「わかった。」

「わかりました。」


二人はそう言って背を向けた。


「ヨッシャァ!

じゃあよ!明日の朝から引き受けるぜ!

それまでよぉぉぉっく考えてくれよ!」


ヘリオスがタウリに手伝わせながら小道具を用意し始めた。


祭りじゃねぇんだがな。


◇◇◇


「何考えてんだ?」


ガストーネの問いに、煙で文字通り煙幕を張る。


いや、別に隠すことなど無ぇんだがな。


むしろ俺のほうに頼み事が有る。


「たぶん帰ってこれなくなる。」


「▪▪▪どういう事だ?」


「どうもこうも言った通りだ。」


「▪▪▪」


沈黙は雄弁だ。

言わずともわかっちまうことも有る。


「俺は一人で居てぇ。

▪▪▪誰も彼も先に死にやがる▪▪▪

いや、俺が死ねねぇだけなんだがな▪▪▪」


「俺だって▪▪▪」


「お前は違う。」


「?」


「どんな奴にも命と言われる核が有る。

だがコイツには形がねぇ、実体が無ぇんだ。

だから誰もそれを見たことが無ぇ、自分の核でさえ自分で見られねぇんだ。

『命の道』を見たことが有るか?

あれを見りゃあわかる。

誰も『死』からは逃げられねぇ。」


「言っていることが矛盾だらけだぞ?」


ガストーネは、ガンゾウが何を言おうとしているのか察しがついた。


「そうだな。」


「▪▪▪つまりお前がその『命の道』だと言いてぇのか?」


「▪▪▪どうやらな▪▪▪」


「何故気付いた?」


話しても意味ねぇのは確かだが、話さねぇのも意味がねぇ。

ガンゾウは、短くなった葉巻を揉み消した。


「何故かな▪▪▪

この世界に来て、何をしても何をされても俺は死なない。

怪物に喰われて胃液で溶かされても復活しちまう。

強大な『力』、『呪力』な?それは無尽蔵にある。

お前さんも含めて俺を凌駕する奴は居ない。

ただ▪▪▪」


「ただ?」


ガストーネは聞き返しながら、聞いてはいけない事を聞いているような、妙な気になった。


「カントゥーを止めなきゃならねぇ、やらなけりゃぁ何れこの世界も消えてなくなる▪▪▪」


「そうなりゃ独りで居られるじゃねぇか?」


そう言いながらもガストーネには分かっていた。


死ぬことが出来ず、無の世界で永遠に独りで漂うのは、比較しようがないほどの苦しみだろう。


『世界があって、そこに生きる人々が居て、時に争い、時に和合し、『命』を謳歌する。』


そんな世界だからこそ『独りで居られる』のだ。


「ふん、そうだな▪▪▪

カントゥーは俺と同様に死なねぇ▪▪▪

つまり、現在の命の道は奴で、俺は奴を殺して▪▪▪

いや、吸収して俺が命の道になる▪▪▪

それしか独りで居られる『場所』を持てねぇんだ▪▪▪」


それしか無いと▪▪▪思う。


別に誰かのためじゃぁない。


ないが、奴らの顔が浮かんでは消える。


「俺は良かったぜ▪▪▪」


ガストーネが握りしめた己れの拳を見ながら言った。


「俺は無敵だった。

いや、無敵だと思いたかっただけなのだがな▪▪▪」


ガンゾウは黙って聞いた。


「突っ張ってねぇとよ、この見知らぬ世界で浮かび上がれねぇと思ったんだ▪▪▪

たぶんな▪▪▪

だが、アイツが、ウラジミールが教えてくれた。弱さを認めれば楽になれるってな▪▪▪

それってお前のおかげでもあると思ったんだ▪▪▪」


「何で?」


いや、聞くべきじゃなかった。

答えは分かりきっていた。


「いや、いい▪▪▪

兎に角だ、俺がそいつを無事に飲み込めれば世界の消滅を止められるかもしれねぇ。

これは誰のためでもねぇ、暇潰しを続けるためにヤル俺の仕事だ。」


照れ隠しか?

そうも思った。


そう、ガストーネ同様に、アイツ等に情が湧いたと言われても否定できねぇ▪▪▪


まあ、それで良い。


それで納得出来るならそれで良い。


所詮人間▪▪▪魔物であろうとも、自分の経験値と知識を超えて判断するなど出来ないのだから。


「で?何時?」


ガストーネが何かを決意したように表情を引き締めて聞いた。


「ん、いますぐ▪▪▪だ▪▪▪」


ガンゾウは立ち上がった。


そしてガストーネに近付くと左の人差し指をガストーネのこめかみに当てた。


指はスッとガストーネの頭に差し込まれた。


「ウラジミールの呪力の道とアンブロシウスの鍵を渡す。」


そう言った。


「いや、そいつはお前に着いていきてぇらしいぞ。」


振り返るとそこにはアンブロシウスが立っていた。


「確かに私を造ったのはガストーネです。

でも、既にガストーネの呪力とは切れていますし、今更安寧を求めるなんて出来ませんよ。」


いや、面倒なだけなんだがな。


「そうでございますよご主人様。

私は召し使いでございますから何処までもお供致しますブゲロブワッ▪▪▪」


ウゼェからぶん殴った。


「僕もまだまだ鍛えてもらわないといけません!

お供しますよ!」


犬▪▪▪


「そもそもな、俺等はチームになんだからよ、周りに集めた責任ってぇ奴を自覚して欲しいもんだな?」


そりゃ屁理屈だ、ヘリオス。


「私もポスカネル様よりガンゾウさんに預けられた身、非力ながらお供致します。」


忠也▪▪▪


ポスカネルは黙って見ている。


「まあ、乗り掛かった船だしね、今更仲間外れなんて御免だわ。」


フロリネ▪▪▪


「あたしは嫌だけど、コイツと契約してるからね。

サッキュバスは契約は守るのよね。」


ベルギッタがアンブロシウスを指しながら言った。


「まあ、そう言うことだからよ、付き合うぜ。

なあ?」


ヘリオスがそう言って皆を振り返る。


「もし、伝承の魔王がそいつならば、ガンゾウさんには竜の助力が必要なはずです。

ですから私も同道します。」


ブラウリオまで訳が分からねぇ▪▪▪


「ブラウリオじゃねぇかもな、俺にも竜の目と翼、そして心臓が有る。」


「ガストーネ?なに言ってやがる?」


お前ら▪▪▪


死ぬぞ▪▪▪


「上等!」


ハモるな▪▪▪


「あ!ディートヘルムさんはどうしましょうか?」


犬、余計なこと言うな。


「いい加減認めろよ?」


何を▪▪▪

いや▪▪▪


「そうだよ、独りが良いなんてぇのは寂しい思いしたくねえって事だろ?

お前が俺に気付かせてくれたことだ。」


▪▪▪


「そうでございますよご主人様ぁ!ほんとは寂しがりやさんなのブゲロブグワッ▪▪▪」


▪▪▪ぶん殴った▪▪▪


「駄目だ駄目だ▪▪▪お前らが生き残れる可能性は1パーセントも無ぇ▪▪▪」


「やってみなきゃ分からんだろ?なあ?」


ヘリオスが皆を振り返りながら同意を求めた。


「いえ、たぶんガンゾウさんの言う通り、着いていけば私達は死ぬでしょう▪▪▪」


「ポスカネル?」

「隊長!」

「ポスカネル様ぁ!」


ポスカネルがガンゾウを見つめる。


その目から大粒の涙が溢れた。


「でも▪▪▪

でも着いていきます!

ガンゾウ組ですから!」


「チッ▪▪▪」


「でもほんとうにしぬわよ。」


リリスが俺の前に立って言った。


「そもそもにんげんがたたかえるかんきょう、いえ、いきていられるかんきょうですらないのだから。

こきゅうなんてできないし、あつさとかさむさなんてことばをつかえるようなじょうきょうじゃないの。

いっしゅんでじょうはつするわ。」


皆の唾を飲む音が響く。


「そ、それではご主人様であっても▪▪▪」


「そうかもしれないわね。

でも、あなたがたをまもりながらたたかうことにくらべればよほどらくなはずよ。」


「まあそういうわけだ。諦めろ。」


俺は新しい葉巻を出して火を着けた。


「ガンゾウさん。無駄ですよ。私達は貴方が居てこその私達ですから。

少なくともその『カントゥー』を探すまではお役に立てるはずです。」


「▪▪▪どうしてもか?」


「どうしても!」


ブッファァッと大きく煙を吐いた。


「バカ共が▪▪▪」


「はいっ!」


だからつるみたく無ぇんだ▪▪▪


◇◇◇


翌日正午。


「たぁだいっまぁぁよりぃぃぃっ!

古の竜王アンブロシウスの目と心臓を受け継いだぁっ!古の魔王っ!ガストーネとぉぉぉぉっ!」


ヘリオス▪▪▪

それ長げぇのか?


「当代のぉぉぉっ!事実上のぉぉぉ!青竜王っ!

ブラウリオのぉ!

世紀のぉぉぉっ!ガチンコのォォォォッ!

相撲をををををっ!

執り行いますゥゥゥゥぅッ!」


『ウオォォォォッ!』


大歓声が上がる。


▪▪▪


いつの間にこんな観客席作りやがったんだ?


「ヘッヘッヘ、凄いでしょ?

こういうことになるとヘリオスさんって物凄く張り切りますね。

僕、見直しちゃいました。」


犬、尻尾振ってんじゃねぇ。


まあ、盛況のようだな。


一晩でこれだけの人数が集めるとはな。


「どうだい!ガンゾウさん!大儲けだぜ!」


「直ぐに死ぬんだ。無駄じゃねぇか。」


「バカなこと言うなよ。無駄ほどおもしれぇ物は無ぇじゃねぇか?」


ふん▪▪▪

ま、そうだな。


観客席で囲まれた中央に土俵が作られた。

土俵といっても、フラットな砂場だ。


その中央にブラウリオとガストーネが進み出た。


「さぁて?古の竜王アンブロシウス程の力を見せてくれるのか?」


「そんなことは知らない。全力で組伏せる!」


「やってみろよ▪▪▪手加減しねぇからな!」


「無論の事!」


ブラウリオの頭髪が逆立つ。


人姿とはいえ、その力は巨大竜のそれを凝縮して発される膨大なものだ。


ガストーネも無論の事、嘗て竜王アンブロシウスを投げ飛ばしたパワーを持っている。


「では始めるぞ?良いか?

ヨシッ!組めっ!」


ヘリオスの合図で二人はガッチリと組み合った。


だが、組み合った途端、身動きできなくなった。


『こっ▪▪▪これが▪▪▪魔王っ!』


ブラウリオの額から早くも汗が流れ出た。


「へへへっ▪▪▪若造?なかなかヤるじゃねぇか?」


ガストーネが余裕を見せようとしたが、声が上擦った。


「くっ!」


「ぐっ!」


右四つに組み合い、満身の力を込めるがあ互いにビクともしなかった。


「さあさあさあさあっ!」


ヘリオスがハッパをかけるが、二人は微動だにしない。


お互いに肉体に内在するパワーだけで組み合った。


小細工などしない。

呪力など使わない。


使えばその瞬間自分で自分の負けを宣言することになると二人とも知っていた。


「むおおおおおっ!」


「ぐぬぬぬぬぬっ!」


力が拮抗する。


まるで火花のように汗が飛び散る。


お互いに引かない。


ただただ押す。


引いたら▪▪▪引いたら自分に負ける!


「ぬおおおおおうっ!」


「んんんんんっっっ!」


一時間が過ぎた。


日が沈んだ。


星が流れた。


日が昇った。


影が短くなる。


影が長くなり始める。


ガストーネが勝負に出た。


「うりゃぁぁぁっ!」


左手を外し、足を取りに行った。


体勢が低くなった。


その瞬間、僅かに足先が滑った。


ヤバいっ!


ブラウリオは、その僅かに軽くなった瞬間を考える間もなく反射的に動いた。


ガストーネの腰が浮いた。


「ウオオオオオオオオオオッ!」


ブラウリオはガストーネを片腕で起こし、投げつけた。


ズッシィィィンンンッ▪▪▪


ガストーネは空を見上げていた。


何か妙に騒がしい。


騒がしいが▪▪▪


「気ん持ちいぃぃぃぃ▪▪▪」


気持ちいいな▪▪▪


負けるってぇのは別に嫌なことじゃねぇな▪▪▪


ガンゾウに負けた時は、あまりの呆気なさに悔しさなんて感じなかった。

力の差が有りすぎたんだ▪▪▪絶望的な程に▪▪▪


今も感じちゃいないが、悔しくも無ぇし絶望的でも無ぇ。


ただ『楽しかった』。


起き上がらないガストーネに手が差し出された。


ブラウリオだ。


ガストーネはその腕を掴んだ。


「負けたよ。気持ち良く負けた。」


素直に口に出来たことが妙に嬉しかった。


「僕は貴方を許せないだろう。」


「お兄ちゃん!」


取り繕うとするクリスタをブラウリオは制した。


「許せるわけがない。

貴方は父を殺した男だ。」


「▪▪▪」


「でも、今日、今、この時から僕は貴方を受け入れる。」


「お兄ちゃん!」

「ブラウリオ▪▪▪」


心配気に見守っていたフラウも歩み寄ってきた。


「償っても償いきれない程の罪科を貴方は犯した。

でも、今の貴方はあのときの貴方では無い▪▪▪

それは母さんが、妹が許したことで知れる。」


ガストーネはじっと聞いていた。

瞬き一つせずに。


「だから▪▪▪許せなくとも許せるように▪▪▪グッ▪▪▪」


ブラウリオの目から堪えきれず堰を切るように涙が溢れた。


「ありがとうよ▪▪▪

楽しかったぜ▪▪▪」


ガストーネがブラウリオの肩を、ポンと一つ叩いた。


そしてガストーネはガンゾウに歩み寄った。


「さあ、終わったぜ、祭りは終わりだ。後は神殺し、いや、神位強奪付き合わせて貰うぜ。」


「ふん、物好きなこった。」


ガンゾウは葉巻を出してガストーネに渡した。


右手の指を鳴らすと親指の先に火が点った。


ガストーネはその火を葉巻に移した。


◆◆◆


第7章 了


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