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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第7章 牛族の国でステーキ『ヨーグルトとアンチョビのソースで』
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◆◆㉕ガストーネとクリスタの眠り◆◆

「死ぬなよぉ▪▪▪

まだ若ぇんだ▪▪▪

頼むから死ぬなよぉ▪▪▪」


ガストーネは、そう言いながらクリスタを介抱した。


とは言っても何をしたら良いのか分からなかった。


ウラジミールのように治癒や回復の呪力を使える訳ではない。


自らの傷は、自己再生能力で、時間が掛かるが自力で治癒できる。


しかしそれを他人に施すことは出来ない。


介抱したいが、何をどうしたら良いのかわからない。


出来ることは、海水で冷えきった身体を、ようやく見つけたボロ布で拭き、焚き火を炊いて暖をとる事くらいだ。


「ち、ちょっと▪▪▪

あ、暑いわよ▪▪▪殺す▪▪▪気▪▪▪?」


クリスタが意識を回復して、辛うじて発した言葉だった。


「おおっ!おおおっ!生きてた!生きてたぁ▪▪▪」


ガストーネはそう言ってクリスタを抱き締めた。


「いっ▪▪▪痛いわよ▪▪▪

骨が折れてるみたいだから変に▪▪▪動かさないで▪▪▪」


「あ、ああ、すまねぇ▪▪▪

はあぁぁぁ▪▪▪生きてたぁ▪▪▪」


クリスタは、そう言って脱力するガストーネを不思議な感覚で見ていた。


父親の仇なのに▪▪▪


何故だろう▪▪▪顔を見たらホッとした。


「ママが▪▪▪」


「お、おう!フラウがどうした?」


「バ、バルブロに身体を▪▪▪乗っ取られて▪▪▪」


「何っ?じゃ、じゃぁ、この島の様子はフラウの身体を乗っ取ったバルブロの仕業だってぇのか?」


「そうよ▪▪▪

お、お願い▪▪▪ママを助けて▪▪▪」


「あ、ああ、だがお前を置いていく訳には▪▪▪」


「お願い▪▪▪私は▪▪▪冬眠するから▪▪▪」


「冬眠?」


「ええ▪▪▪氷に包まれて眠るから▪▪▪

そうすれば仮死状態のままで居られるから▪▪▪

お願い、早く▪▪▪」


クリスタはそう言うと口から冷気を吐き、どう操っているのか、冷気を身体に纏わせ始めた。

空気中の水分が氷り始めキラキラと輝いた。

そしてその冷気は次第に氷の層となり、厚さを増し、クリスタは3m程の氷の玉の中心で丸くなり眠りに就いた。


「ああ、待っていろ、必ずフラウを助け出す。

だから▪▪▪だから死ぬんじゃねぇぞっ!」


ガストーネは竜翼を広げ飛び上がった。


「くっそぉ▪▪▪もう少し呪力を感じ分ける力が強ければ▪▪▪」


ガストーネは、バルブロが向かった方向を見つけられなかった。


「南から来たからな▪▪▪東のアゼッタ▪▪▪西のエデルア▪▪▪

いや、中央大陸そして北のルルキーヌ▪▪▪

サロメなら何か知っているか▪▪▪」


ガストーネは一つ頷いてデュラデムのサロメの元へ向かった。


◇◇◇


「待たせたな。」


空間呪を鳥顔族の城へ直接開いて入り込んだ。


俺を見た、いや、ポスカネルが抱いていたリリスを見たサミュ達は、羽毛を逆立てて飛びすさり槍や剣を構えた。


「や!やはりそいつらの仲間だったのだなっ!」


サミュの手下、まあ、サミュは王子らしいからな。

その手下は親衛隊長っつうあたりか?


「ねえガンゾウ?なんでこんなところにきたの?」


刃物を向けられても慌てた様子は無ぇな。


「おめえの仲間の鱶野郎に飛ばされたんだよ。

まあ、飛ばされたのはあの星だがな。」


俺はそう言って頭上で大きく陽光を反射するあの星を指差した。


「そう。かとうないきものがいたでしょう?」


「まとめて始末しておいた。

口先だけの糞野郎はションベン撒き散らすほどぶっ叩いてやった。」


「げひんね。」


そういうリリスをチラリと見た。


虚勢でも何でもなく、鳥顔達の威嚇なぞ見えないような涼しい顔してやがる。


「ガンゾウさん?なんだか歓迎されていない雰囲気だけど?」


ポスカネルが髪の毛をふわつかせながら言った。


「かんげいされていないのはわれじゃ。

もっとも、われはここでのことにはかんよしておらぬがな。

これ、おろせ。」


リリスの言葉にポスカネルはリリスを下ろした。


リリスは、そのままツカツカとサミュの元へ歩いた。


親衛隊がサミュの前に立ち、リリスに槍を突き付けた。


「これ、じゃまするでない。しんぱいにはおよばぬ。われはあれらとはかんがえをいにしておるからの。」


そう言われたとして、はいそうですかと道を開けられるものでも無ぇやな。


「リリス、まあ焦るな。」


「あせってなぞおらぬぞ?」


「そうか。兎に角戻れ。

おい、サミュといったか?」


「殿下を呼び捨てにするなっ!」


親衛隊長さんだな。


「下に出る理由も無ぇからな。

おい、とりあえず座ろうや。

話はそれからだ。」


◇◇◇


「母さん、私は一足先に島へ向かいます。

母さんは皆さんと一緒に後から▪▪▪」


「いえ、ブラウリオさん。

フラウさんは妖精の国へ連れていこうと思います。

あそこで療養するのが一番よいと思いますよ。」


もう竜姿になり、翼を広げたブラウリオにアンブロシウスは言葉を続けた。


「妖精の癒しならば、もしかしたらフラウさんの傷付いた心を癒せるかもしれません。

それにバルブロはリリスさんが閉じ込めましたから青竜島へ着いても戦う相手も無く、詳しくは分かりませんが、おそらく島の無惨な姿を見るだけになるでしょう。

生存者の捜索のためにも人手は多いほうが良いでしょうが、ウラジミールさんの治癒はガンゾウさんが居ない今は、ルルキーヌの大地の力を利用するしかありません。

ですから、竜姿のフラウさんを運べるのはブラウリオさんだけですので、一旦妖精の国へ皆で移動しましょう。

そこでフラウさんの回復を待ちましょう。

ブラウリオさんは生き残っている島民をこちらへ運んでください。

ウラジミールさんに頑張っていただいて治療しましょう。」


「そうだな。それが良い。

フラウさんを運んだらブラウリオと俺とタウリで捜索にあたろう。

アンブロシウスと丸橋はウラジミールを助けて送られてくる怪我人の手当てを頼む。」


ヘリオスがテキパキと指示を出して人割りを行った。


「そうだ、アンブロシウス?お前鏡があるなら移動出来るんだろ?

だったらよ、サロメの店に行って事情を話して力を貸してもらってくれ?

あいつは物知りだ。

良い知恵が有るかもしれない。」


「分かりました。そうしましょう。

では早速妖精の国へ移動しましょう。

ブラウリオさん、フラウさんを抱えた上に我々まで大変だとは思いますが、よろしくお願いいたします。」


「いえ、大丈夫です。

では、行きましょう。」


ブラウリオは、その背に皆を背負い、フラウの巨体を抱え上げて飛び上がった。


フラウは一言も発しなかった。


竜の姿だが、その目に宿るのは虚無の漆黒だけだった。


◇◇◇


「おや、お戻りかい?今度は何の用だい?」


振り向きもせずに鏡から抜け出てきたアンブロシウスに声をかけた。


「その節はお世話になりました。

色々とサロメさんの力を借りたいことが出来まして。」


サロメは、さもアンブロシウスが来ることを知っていたかのようにお茶を煎れていた。


テーブルには三人分の茶器が用意されていた。


「お客さんでしたか。では、改めて▪▪▪」


「一つはあんたの分だよ。」


「一つは?」


「ああ、もう少しで到着するだろうね。」


サロメはそう言って入り口を見た。


アンブロシウスも気付いた。


いや、あまりにも波動が強くて身体が共鳴した。


懐かしい、だけどその懐かしさとは少し違う波動。


「耐えている▪▪▪」


アンブロシウスは思わず呟いた。


以前ならば、制限、制御しない暴力的な波動であったはずだ。


それが自制されている。


アンブロシウスは胸が苦しくなった。


「鏡でも気持ちが高ぶるのかね?」


サロメの言葉に悪意やからかいが有ったわけではない。


純粋にそう思ったのだろう。


でもアンブロシウスには、それが揶揄されているように聞こえた。


「それが感情だよ。ガンゾウの影響なのかねぇ?

それとも他のお仲間かねぇ?」


恥ずかしいとはこういうことなのだろう。

本心を見透かされているような感覚。


身体を震わせた波動は小さくなった。


それはその主が、より自制心を働かせたからだ。


ドアが開いた。


「サロメ、居るか?」


「居るかと問うのもおかしな話ですね。

十分に呪力、波動を感じているでしょうに。」


抑揚の無い声を出したかった。


以前の自分ならそれが出来た筈だ。


なまじ感情なんていうものに気付いてしまったがために、無駄に意識してしまう。


「そうだな。久しぶりだな▪▪▪アンブロシウス▪▪▪」


「はい、お久しぶりですね、ガストーネ▪▪▪」


お互いの視線が衝突する。


だが、それは決して争いの始まりではない。


愛憎入り乱れる感情が渦巻く。


ガストーネに造られた。

ガストーネと共に戦った。

ガストーネと隠棲した。

そしてガストーネに棄てられた。


「ちょうど良い、アンブロシウス、ガンゾウはどうしている?」


ガストーネは、自分がガストーネに感情を乱される程、自分に対して感情の波はたたないのだろうか?


アンブロシウスは、懸命に気持ちの高ぶりを押さえながら返答した。


「ガンゾウさんは今、異世界で人助けしていると思います。

義理が出来たと言っていましたから、食事でもご馳走になったのでしょう。」


図星である。


「ふん、そうか▪▪▪

ところでフラウの行方を知っているか?」


思いがけない名前が出た。


素直に答えて良いのだろうか?


「さあさあ、兎に角掛けておくれ。

せっかくのお茶が冷めてしまう。」


サロメがテキパキとお茶の用意を終え、椅子を引いて手招きした。


「ふん▪▪▪」


ガストーネは、一つ鼻をならして座った。


そして殊更美味そうに紅茶を口に含んだ。


「ふぅ▪▪▪」


一つ息を継いで二口目を啜った。


アンブロシウスもガストーネに倣った。


不思議なものだ。


もともと無機物であるアンブロシウスだが、こうして茶を飲み、食事もする。


だがそれらは消化されて吸収されるわけではない。


アンブロシウス自身、それらが何処へ行くのか知らないのだから。


「ガストーネ?何故フラウさんを探しているのですか?」


目を伏せたままアンブロシウスは聞いた。


ガストーネと目を合わせるのが怖かった。


もともと自分はガストーネの複製でしかない。


目を合わせれば皆の元へ帰れなくなるのではないか?

そんな不安が沸き上がる。


「島で世話になった。

その後南方でお前らがやっている国造りを見てきた。

まあ、青竜島を壊しちまったからな▪▪▪

フラウの旦那も殺してしまった。

頭下げに行った序でに復興手伝ってきた。

その島が▪▪▪

また▪▪▪

壊された▪▪▪

クリスタが死にかけている▪▪▪」


「えっ?!」


何を言っているのだ?


そんな重要且つ緊急の話をのんびり茶を飲みながら話すのか?


アンブロシウスに、怒りと戸惑いの感情が交差する。


「だから教えてくれ、フラウは何処だ?」


「何故フラウさんなのですか?」


「クリスタが心配している▪▪▪」


ああ、ガストーネは混乱しているのだ、アンブロシウス自身と二人で居たときは、何かを心配する必要が無かった。


そもそも心配するなどという感情が無くなっていたのだ。


アンブロシウス自身がそうだが、関係が深い『仲間』が出来、その一人一人との『絆』が結ばれ、『思い出』が作られた。


そこには損得や、好き嫌いではなく、『無私の愛』とも呼ぶべき感情が構築される。


ガストーネは、その初めての経験に混乱しているのだ。


「ガストーネ、ここはまずクリスタさんを治療するのが最優先です。

ウラジミールさんのところへつれていって下さい。」


「あ▪▪▪ウラジミール▪▪▪」


今初めて気が付いたかのようにガストーネは顔を歪めた。


「な、何で早く▪▪▪」


何故気付かなかったのか?そう自分を責めるガストーネだったが、結果としては最短コースを選択していた。


「いえ、ガストーネ、下手に南方大陸へ連れていかなくて良かったです。

今ウラジミールさんはそこには居ません。」


アンブロシウスの言葉に、ガストーネは腰を浮かせてアンブロシウスに詰めよった。


「何処だ?何処に居るんだ?」


「良いですか?ガストーネ、良く聞いてください。

ウラジミールさんはガンゾウさんの呪力が途絶えて治癒呪を使えなくなっていました。」


「そ、それじゃぁ▪▪▪」


「慌てないで下さい。

ウラジミールさんはルルキーヌの妖精の国に居ます。

そこで妖精王から頂いたペンダントの力を使ってフラウさんの治療にあたっています。」


「▪▪▪」


「しかし、その力はルルキーヌを離れては使えません。

ですからガストーネは今すぐ青竜島へ戻って、クリスタさんを連れてルルキーヌへいって下さい。

お手数ですがサロメさんを同道して下さい。

私は一足早くルルキーヌへ戻り、準備をして待っています。」


「いやわしは先に行っていよう。」


そう言うとサロメは老婆の変化を解いた。


「これでもエルフの端くれだからね。

飛んでいくよ。

妖精の国なら、親戚みたいなものだからね。」


三人は顔を見合わせて直ぐ行動に移った。


ガストーネは青竜島へ、サロメは羽を広げ、光跡を残しながら夜空へ飛び立った。


「クリスタさん、どうかご無事で▪▪▪」


アンブロシウスは、そう言うと出てきた鏡に入り込んだ。


テーブルには、飲み干された紅茶のカップだけが残されていた。

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