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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第7章 牛族の国でステーキ『ヨーグルトとアンチョビのソースで』
159/164

◆◆㉔フラウとリリスの力◆◆

「おきなさい。」


誰?

子供?


「おきなさい。」


やめて、目を開けたくないの▪▪▪

眠っていれば、見なくて済む▪▪▪


「あのね、おきないとみんながめいわくするのよ。

あなたのむすこもしんでしまうわ。」


ハッとした。


「ブラウリオッ!」


目を開けると真っ白な世界だった。


バルブロに閉じ込められていた檻ではなかった。


「やっとおきたわね。」


フラウが声の方向を見ると、羽毛の服に包まれた女の子が立っていた。


「貴女は?」


「わたしはリリス。あなたをたすけにきたわ。」


「助けに▪▪▪無理よ▪▪▪」


リリスは困ったように腰に手を当てた。


「あなたをつれていかないとガンゾウがおこるわ。」


「ガンゾウさんが?」


フラウはリリスが指差す方向を見た。


その瞬間、視力が実体とリンクした。


地面に押し付けられ、身動きがとれないようだが、目だけは動かせた。


そして、視界の端に、顔を焼かれたブラウリオが見えた。


側にウラジミールが居る。


「ブラウリオッ!」


「ね?まああなたのむすこはウラジミールがなおしてくれるからだいじょうぶだけど、あなたがこのままだとあなたをころさなきゃならなくなるのね?

みんなはそれがいやなんだって。

だからわたしがここにきたの。

さあ、たてる?」


フラウはリリスが差し出した手を取ろうとして躊躇った。


「でも、この魔人は▪▪▪」


意識を向けると、バルブロの意識体が真っ黒な炎のように揺らめいていた。


「ああそうね。

このこはわたしのちからでもけせないのよ。

ガンゾウにもむり。

しょうめつしないたましいはえいえんにさまようの。」


「それじゃまた誰かが身体を奪われてしまう▪▪▪」


「そうね▪▪▪じゃあしばらくわたしがあずかるわね」


リリスはそう言うとバルブロの意識体に近寄った。


「来るな▪▪▪」


バルブロが明らかに怯んでいる。


「だめよ。」


「戻りたくないのだ▪▪▪」


「だめよ。」


「仲間だろう?」


「▪▪▪ちょっとちがうわね。」


「カントゥーの元へは▪▪▪」


「うん。わたしもいや。でもね、あなたはだめ。」


カントゥー?


「だめよせいりゅう。そのなまえはわすれなさい。」


振り返ったリリスの目は、真っ赤な瞳孔と真っ黒の結膜をしていた。


「貴女は?」


「おやすみなさい。」


リリスの言葉を聞き終える前に、フラウは意識を失った。


◇◇◇


身体の震えが止まらない。


遠くからも見ることが出来た。


青竜島の至るところから煙が立ち上っている。


島に近付くと、木々が焼けた臭い、油が焼けた臭い、そして肉の焼ける不快な臭いが鼻を殴るように飛び込んできた。


「お、お、お、お、お▪▪▪」


言葉にならなかった。


生きているものなど居ないように見えた。


青竜城が有った場所に降りた。


城は瓦礫の山と化し、焼け焦げ、煤にまみれていた。


そして焦げた臭いに負けないほどの血の臭いが鼻を殴る。


「フ、フラウ▪▪▪、クリスタ▪▪▪おい▪▪▪誰か居ねぇのか?▪▪▪」


膝が砕けそうになる。


そうだ▪▪▪


一度見た。


ガストーネは戦慄した。


俺は一度ここで同じことをやっている▪▪▪


「誰がこんなことを▪▪▪」


こんなことが出来るヤツは一人しか居ない。


「ガンゾウ▪▪▪」


いや、だが待て、だとしたら理由は何だ?


ガンゾウには青竜島に危害を加える理由がない。


むしろ身内だ。


島にはフラウが居た。


ならば、あの巨大な力を持ってして半端な外敵ならば倒れることはないはずだ。


ガストーネは、落ち着けと自分に言い聞かせ、辺りを注意深く見回した。


今この場所に生命反応を感じることは出来ない。


ガストーネは、竜翼を展長し飛び上がった。


ゆっくりと辺りを見回しながら。


と、海岸に打ち上げられている人影を見つけた。


ガストーネは急降下した。


「!っ!クリスタッ!」


砂浜には全身傷だらけのクリスタが打ち上げられていた。


◇◇◇


「もうだいじょうぶよ。」


「ホント?リリスちゃん?」


「ええ。バルブロはわたしがあずかることにしたから。」


「そんなことをして大丈夫なのですかぁ?リリス様がバルブロに乗っ取られるなんてことわぁ?」


「そうね。しんぱいはわかるけどありえないわね。」


ウラジミールがフラウの治療を始めた。


竜姿のままだが、そのほうがやられた場所を特定しやすいだろうな。


「リリス、少し付き合ってもらうぞ。」


俺はそう言って空間を開いた。


そうだ。


このままあっちに行っちまえば、ウラジミールが治癒能力をつかえなくなっちまうなぁ▪▪▪


「ウラジミール。」


俺はウラジミールにあるものを手渡した。


「ご主人様ぁ?これはご主人様が持ってなければ意味が無いのではないですかぁ?」


まあ、そう説明されたな。


『妖精の加護』


ルルキーヌ大陸の地力をエネルギーに変換する力を持つペンダントだ。


「ちょっと細工しておいた。

俺とのコンタクトが途絶えてもルルキーヌに居れば呪力を使えるだろう。

それで面倒見てやれ。」


「スゴいですねぇ!」


キラキラと光るペンダントをウラジミールはしげしげと見た。


「それから犬。」


「はい!タウリです!」


「これを預かってた。」


俺は空間呪から一対のグローブを取り出した。


「サロメから頼まれてたものだ。

かなりの呪物だ。

ロボスの形見だとよ。」


「へぇ?そうなんですか?」


とか言って無造作に手にはめた。


「ん?取れない▪▪▪」


タウリはそう言ってグローブを外そうとした。

しかし、手に張り付いたように外れなかった。


「ほう?お前も成長したってことか?

ある程度力が無いと反応しないはずだ。

外せないのは狼王の血を引く故かもな。

まあいい、そいつはな、血を吸うと精神に影響する。その代わりに体術が向上するらしい。

精神を持っていかれるとバーサーカー化するからな。

ほどほどにやれよ。

じゃあな。」


そう言ってリリスを連れて空間呪へ片足を入れた。


そこでグッと腕を引っ張られた。


「連れていって下さい。」


「ダメだ。」


ポスカネルが腕をつかんで離さない。


「私もお供したいですね。」


今度はアンブロシウスだ。


「お前まで気色の悪いことを言うな。

ちょっと義理が出来たからな。

それを済ますだけだ。

お前らは好きにすれば良い。」


まあ、義理と言っても飯を食っただけだがな。


そんなもんでも無限の時間の一部を潰すくらいには役立つだろう。


「好きにしてて良いのですね?」


「▪▪▪ついてこなければな。」


言質を取ったつもりだろうが、そうはいかねえ。


「兎に角だ、こっちに居ろ。

それから、ブラウリオ。」


「はい?」


「気付いているのかわからんがな、フラウがここにこうしているって事は島は無事とは思えねぇぞ?」


「あっ!」


ブラウリオは今更のように慌てて立ち上がった。


「そうだ▪▪▪クリスタ▪▪▪みんな▪▪▪」


「ブラウリオ▪▪▪」


声をかけたのはフラウだった。


ウラジミールの治療とリリスの力のお陰で意識を取り戻した。


しかし▪▪▪


「母さん?」


フラウは竜姿のままで話し掛けた。


本来、竜族は、竜姿のままだと念話を駆使する。


声帯が会話に適さないからだ。


しかしフラウは、竜姿のままで声帯を使って発声していた。


「どうやらせいしんのいちぶがこわれてしまって、ひとのすがたにもどれなくなったみたいね。

でもいきていられたからいいでしょう?」


リリスの言葉に皆はフラウを見た。


「島は私が壊してしまった▪▪▪

クリスタも無事かわからない▪▪▪」


「それはバルブロがやったことよ。もちろんからだはあなたのからだだけどね。」


余計なことを言うな。


リリスの頭を一つ小突いた。


「いったぁい▪▪▪」


「まあ、そういうわけだ。お前ら、フラウとブラウリオ助けて島へ行け。

嫌ならそれでも構わんがな。」


「ガンゾウさんよ、そりゃぁ言い方が酷いぜ。

だがまあ分かった。

おい、ブラウリオ、フラウさん、飛べるよな?

俺らを乗せて島へ向かってくれ。

兎に角クリスタや島民の安否を確認するべきだろう。」


ヘリオスがまともなことを言う。


「これでも大人だからな。

良いぜ、ガンゾウさん、こっちは俺が面倒見る。

だからポスカネルを連れていってやってくれよ。」


「連れていく理由はない。」


「構わねぇよ。連れていかれたい理由は有るんだからよ。

ほれ、姉さん、早く行け、閉められるぞ。」


ヘリオスはそう言ってポスカネルを押し、俺と共に空間呪へ押し込んだ。


「ちゃんと牛の国も進めておくからよ、必ず帰ってこいよ!

じゃあな!」


チラリとポスカネルを見た。


何赤くなってやがるんだ?


「ガンゾウのことがすきだからよ。」


「リリスちゃん!何言って▪▪▪」


「こむすめ、いったはずじゃ。われはおまえごときよりもはるかにながくいきておる。

おまえがここにいるりゆうは、われのだっこがかりでしかないのじゃ。」


「な!」


「じゃあよろしく頼むぜ。

抱っこ係。」


怒らせた肩が落ちた。


まあ良いか。

一緒に居られるなら。


「よかったの。」


リリスがポスカネルに優しく微笑んだ。


両手を差し出して。


「ん?」


「あたまがわるいのぉ。

だっこじゃ!」

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