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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第7章 牛族の国でステーキ『ヨーグルトとアンチョビのソースで』
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◆◆⑲フラウの心、壊れゆく心◆◆

『ああああああああっっっっ▪▪▪』


フラウにはどうしようもなかった。


島が壊れる。


文字通り『壊れる』。


全島が焦土と化した。


そして至るところに大きな亀裂が出来、それが海まで繋がり、内陸に海水が吹き出して溢れた。


島の半分は海に沈んだ。


生きているものが居る様子は無い。


クリスタは▪▪▪


いや、クリスタが自分の攻撃で海に沈むのを見た。


どれだけの青竜が脱出できたのだろう?


いや、全滅の可能性のほうが高い。


それだけの暴れっぷりだった。


フラウの顔は涙と鼻水にまみれた。


叫びすぎて声が出ない。


いや、物理的に喉を痛めている訳ではない。


だが、精神世界であるからこそ、そのダメージは如実に現れた。


フラウは自分が壊れて行くのを感じた。


それでもギリギリで踏みとどまっているのは、クリスタの安否が不明なのと、ブラウリオに知らせなければという使命感でしかなかった。


『ほう?まだ正気を保っているとはね。』


気が付くとすぐ横にバルブロが立っていた。


『さすがわ古の緑竜。君が男だったら完全に乗っ取っていたけどね。』


『許さないわ▪▪▪』


『へぇ。この期に及んでまだ闘争心を持てるとは、素晴らしいね。

そうだ、一度君の息子の身体を頂いてみようかな?』


『な!何を言ってるのっ!』


『うん、君ほどの力が有るのか分からないけど、それでもまだまだ顕現していない能力が有りそうだし、何よりも男だからね。

君よりはシンクロ出来ると思うんだ。』


『や、やめて!私なら何でもするから!子供には▪▪▪』


『ふふふっ、駄目だよ。ああ、君のその顔。なかなか素晴らしいよ。

絶望に暮れる表情はなんとも耽美だ▪▪▪』


バルブロはそう言って恍惚の表情を浮かべた。


フラウは、心の糸がまた一本切れる音を聞いた。


◇◇◇


「もう▪▪▪最初からこうしていれば良かったのよっ▪▪▪」


ベルギッタが心底ゲンナリとした顔で言った。


ポスカネル一行は、ブラウリオの背に乗り、巨人族の首都ニュクライノスに到着した。


「誰だよ、どんな些細なことも見逃さないように地上を移動すらなんて言ったのは!」


「ヘリオスさんがガタガタの鹿車を作るからでしょっ!」


「そうですよ!ポスカネルさんは悪くないですよ!」


「うるせぇ犬コロッ!」


「犬じゃありません!

グルルルルッ!」


「なんだぁ?ヤるのか?」


「ハイハイ皆さん、石になりたくなかったらそこまでにしてくださいね。」


アンブロシウスが指差す先に、髪の毛を逆立てるポスカネルが居た。


『さあ、ニュクライノスだ、王城へ降りますよ。』


ブラウリオが念話を飛ばした。


あれからあまり時間が経っていないにも関わらず、ニュクライノスでの出来事は遥か昔の事のように思える。


『ビッグ▪ケリーは元気だろうか?』


ブラウリオは、父を知る巨人族の王に会える事に心が沸き立った。


◇◇◇


「良く来てくれました!

春を迎えるとはいえ寒かったでしょう?」


ビッグ▪ケリーは、わざわざ城門まで出てきて出迎えてくれた。


館の名前の通り『三色菫』が咲き、広大な庭を彩っていた。


「わざわざお出迎えありがとうございます。

お元気でしたか?ビッグ▪ケリー?」


ブラウリオとビッグ▪ケリーはガッシリと握手した。


『暖かい手だ▪▪▪』


ブラウリオは、自然と顔がほころんだ。


皆はそのまま饗応の間に通された。


相変わらずサイズ感がふた回りも大きいが、それは仕方がない。


それでもビッグ▪ケリーは、巨人族以外を饗す為の調度品を揃え始めていた。


「前回はああいった状況でしたから満足に饗す事も出来ませんでしたが、今日はどうか巨人族の料理を堪能して下さい。」


饗応を担当したのは第一王子のバヤリフだった。


「バヤリフ殿、ありがとうございます。

しかし、今回もあまり時間は多くないのです。」


「ガンゾウさんですか?」


「はい。」


ブラウリオは頷いた。


バヤリフの言葉に、皆は表情を曇らせた。


バヤリフはビッグ▪ケリーと顔を見合わせてクスリと笑った。


「心配有りませんよ。

あのガンゾウさんです。

探して見つけられるとも思えません。」


そう言われてしまえば、それを否定できる者は居なかった。


「これを見て下さい。」


そう言ってビッグ▪ケリーが差し出したのは、あの『封印の書』だった。


「これは?」


手に取るのを躊躇いながらブラウリオが尋ねた。


「古の伝承が書いてあると伝えられた書です。」


「古の伝承!」


「はい、地域によって差異は有るようですが、概ね魔王が復活し、勇者がそれを打ち負かす。

といった内容でしょうか?」


「はい▪▪▪」


「ところがじゃ▪▪▪」


バヤリフの話を引き継いだビッグ▪ケリーは、その封印の書を開いて見せた。


「▪▪▪何も書いていない?」


「そう、何も書いていなかった、そしてこの書を封印していた『封印の魔物』をガンゾウさんが連れていってしまいました。伝承とは何だったのか?我々は、何百年も何者かの掌で踊らされていたとしか思えなくなってしまいました。」


ビッグ▪ケリーは、妙にサバサバした顔で笑った。


「父は伝承が後生に伝える価値の無い物だと思ったら楽になったと言いまして▪▪▪」


バヤリフもそう言って笑った。


「でもそれとガンゾウさんが行方不明になったこととは▪▪▪」


「そうですね。でも、過剰に心配したところでどうなるものでも無いでしょう?

ですから、ここは腹拵え。

そして一晩ゆっくり休んでガンゾウさんが向かったと思われる極北の海を目指したら良いでしょう。

装備も整えておきましょう。」


ブラウリオはポスカネル達と顔を見合わせた。


「ここは国王さんの言葉に甘えようぜ?

確かにガンゾウさんが意図して隠れたなら探しようが無ぇや?じゃなきゃ待つしかねぇ。

何で早く気が付かなかったんだぁ?」


「そうですね。

でも▪▪▪」


「ポスカネル様、ここは陛下のお言葉に甘えましょう。

一晩考えてみても影響は無いでしょう。

むしろしっかり方針を固めたほうが良い。」


「▪▪▪そうね、忠也の言う通りだわ。

国王陛下、申し訳有りません、お言葉に甘えさせて頂きます。」


ポスカネルはそう言って頭を下げた。


「さあ、そうとなればお食事をご用意いたしましょう。

おい!皆様をお部屋へご案内せよ!」


ビッグ▪ケリーは、臣下に指示を下した。


こうして一夜の滞在を決めたのだが、これが予定外に長期の滞在となってしまうのであった。

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