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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第7章 牛族の国でステーキ『ヨーグルトとアンチョビのソースで』
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◆◆⑩ガンゾウと鍛冶屋◆◆

「許してほしいの?」


「いや、許して貰えるとは思ってねぇ▪▪▪」


「じゃあ何しにここへいらしたのかしら?」


「▪▪▪わからねぇんだ▪▪▪」


青竜島。

ガストーネが半壊させたその島にガストーネは居た。


そしてガストーネの前にはフラウとクリスタ、その他生き残った青竜族がガストーネを取り囲んでいた。


「わからねぇが、俺のやらかした事がこの島に迷惑をかけたことはわかっている。」


「迷惑ですってっ!」


ガストーネの口ぶりにクリスタが激昂した。


「迷惑レベルの話じゃないわっ!パパを▪▪▪パパを返してよぉっ!」


パシッ!パシッ!とクリスタの拳がガストーネの顔面を打つ。


それは決して弱い力ではない。


一発で鼻血が出た。


二発、三発と涙を堪え、唇を噛み、その手が自らの血で染まるまで殴り続けた。


ガストーネの顔は腫れ上がり、裂傷を負い、自分の血とクリスタの血に塗れた。


「クリスタ▪▪▪」


フラウがクリスタを後ろから抱き、その手を掌で包んだ。


「ママ▪▪▪止めないで▪▪▪止めないでよぉ▪▪▪」


「もう、貴女が先に怒ったら、ママ怒れないじゃない▪▪▪」


ガストーネはただただ座り続けた。


もちろん、手出しするつもりも無く、死ねるならそれでも良い、その方が良いとさえ思っていた。


「一つ聞かせてくださいます?」


項垂れるガストーネにフラウが聞いた。


「ここに来た理由は分からなくとも、ここに来る切っ掛けがあった筈です。

それはなあに?」


こんな時でもフラウの話し口調はおっとりと、子供をあやす母親のものだった。


「▪▪▪多分▪▪▪」


「多分?」


「ああ、多分な、あのガンゾウの手下のゴブリンみてぇな男▪▪▪」


「ウラジミールさんの事?」


「そんな名前だったか▪▪▪

そいつがな、茶を飲ませてくれたんだ▪▪▪

治療してやった人間がくれたって言う菓子を食ったんだ▪▪▪

何時以来なのかも思い出せねぇ▪▪▪

だが、確かに記憶に有るんだ▪▪▪

それがこうモヤモヤとな▪▪▪」


「懐かしく感じたのね。」


「懐かしい?」


「そう、貴方が何時生まれてどんな生き方をしてどうしてそうなったのか私たちは知りません。

でも、長い歳月のなかで貴方にお茶を振る舞い、お菓子を食べさせてくれた人達が居たのですね。」


「懐かしい▪▪▪

あいつ、帰り際にまた茶を飲ませてくれるって言ったんだ▪▪▪」


ガストーネの右目から涙が零れた。


クリスタに殴られた腫れや傷は少しづつ治り始めていた。


ガンゾウやウラジミール程の補完能力は無いが、ある程度の治癒能力は持っていた。


「そうなの▪▪▪」


フラウは立ち上がり、回りを囲む青竜たちに言った。


「この方、しばらく私が預かります。」


「ママッ!」


「フラウさんっ!」


「ブラウリオにも諮らなくちゃね。

それまではお客さんよ。」


「ママ!納得出来ないわ!」


クリスタの他にも詰め寄ろうとする青竜が多く居た。


「じゃあ一つ言っておくわね?

この人は確かにパパ達を殺し、島を壊しました。

でもね、その昔、この人はまだ緑竜だった竜族の王アンブロシウス様と友誼を結びアンブロシウス様がバルブロに殺された時アンブロシウス様の心臓と左目を譲り受け、復讐を果たしてくれたのも事実なのです。

憎むべき敵ですが、感謝すべき恩人でもあるのよ。」


ガストーネを見下ろすフラウの目には、困惑を拭い去り決意を感じさせる光があった。


「ママもどうしたら良いのかわからないわ。

だからもう少し時間をちょうだいな?」


フラウの柔和な微笑みが青竜達を包み込んだ。


ガストーネは、それを眩しそうに見ていた。


◇◇◇


「リリアン!居るか?」


バンッ!と大きな音を立ててギルドの扉を開いた。


勢い良く開いた扉は、反動で勢い良く戻り、ガンゾウの後ろを歩いていたウラジミールの顔を打った。


「バペジッ!」


揉んどりうって転がるウラジミールをフロリネはヒョイと交わした。


「バカじゃないの?」


とか言ってるが、顔が心配気だぞ。


「ガンゾウさん!ガンゾウさんじゃないですか!お久しぶりです!

ギルド長は元気ですか?」


「バカやろう、ちゃんと首根っこ押さえておけ、迷惑だ!」


「でしょうねぇ。」


そう言ってリリアンはコロコロと笑った。


「でも突然どうしたんですかぁ?

ギルド長は一緒じゃないのですかぁ?」


「ああ、ちょっとな、買い物があるんだが、お前さんの兄貴は腕の良い鍛冶屋だそうだな?」


「腕が良いと言われてますけどぉ▪▪▪」


「何だよ?歯切れ悪いじゃねぇか?」


「性格に問題が▪▪▪」


ふん、そんなヤツは5万といる。どっちにしろ俺程じゃねぇだろ?


と思っていたのだが、想像を越えていた。


まあ、嫌いじゃ無ぇがな。


◇◇◇


「嫌だ。」


「兄貴ぃ?」


「嫌なものは嫌だ。」


何だ?

鍛冶屋っつうから、ゴッツイ髭だらけの大男を想像していたが、リリアンに負けず劣らず華奢な優男だ。


顔立ちだけで言ったら女どもがキャアキャア言いそうな美形だ。

しかも声も響きの良い鈴を転がしたような『音色』だ。


こりゃ生まれ持った才能ってぇ奴だな。


『その気』が有ったらたまらねぇっつう奴かもな。


「だから嫌なんだ!僕は人に望まれてもの作りしたくないんだ!」


「ガンゾウさん▪▪▪丸聞こえでしたぁ▪▪▪」


▪▪▪ふん、いつもの事だ。


「見ての通り超美形で、しかも女の子が好きな要素を全て持って生まれたという反則の塊なんです。

実は私達双子なんです。

兄弟だから平気ですけど、小さい頃から兄貴は女の人、老若問わず可愛がられて、求愛されて、その結果兄貴の周囲は女同士の諍いが絶えなくて、結果、女嫌い、人嫌いになってしまいました。

ご想像の通り、そっちの人からも物凄い求愛で▪▪▪

最後は母親まで▪▪▪」


ふん、それで性格ネジ曲がったってぇのか。


「弱ぇな。」


明確に、意識的に声にした。


「な、なにぃ▪▪▪

あんたに何が分かるんだ!

僕の人生はこれまで何一つやりたいことが出来ず!何かしようとすると、危ないからとか!やってあげるとか!全部奪っていくんだ!ようやくここで好きなことを始めたんだ!好きなときに好きなだけ鉄を叩くんだ!

僕の作品は僕のものだ!

見ず知らずの他人に使われるなんて想像しただけで吐き気がするよっ!」


「そうかい。

なら良いや。

どうせナマクラばっかりだろうしな。

出来たものを売らねぇのに腕の良い鍛冶屋だなんて、何の冗談だ?

リリアン、他の鍛冶屋紹介してくれ。」


「ナマクラだと?▪▪▪」


お?それなりのプライドは有るのか?


「プライド持つのは良い。

だがな、プライドっつうのは『己の成した実績』を誇る物だ。自己満足や評価されない事への逆恨みに通ずるのは『見栄』でしかねぇんだ。

お前さんが造り出したものが人の手に渡らず、手元に置いて眺めて『良いだろう?』じゃぁ、ただの、いや、最悪の『見栄』だ、自己満足に過ぎねえ。

そんなものに仕事を邪魔させる訳にはいかねぇからな。」


そう言って俺は兄貴に背を向けた。


「待てよ▪▪▪良いだろう、そこまで言うなら使ってみろ、その切れ味、使い勝手の良さに驚いても売ってやらねぇからな!」


まったくよ▪▪▪


「バカなのか?

いやバカ確定だな。

買えねえものを使ってみる理由がねぇだろうが?」


「な!なにぃっ!」


「そうだよ兄貴、どうだ?良いだろう?でも売ってやらね~よ!ってのがいつものパターンでしょ?

でもガンゾウさんには通用しないわよ。」


「▪▪▪」


「もういいや。

じゃあな。」


「ま、待って▪▪▪待って下さい!」


ふん、今度は下からか?


「一つだけ聞かせてください。」


「▪▪▪何だ▪▪▪」


「僕の道具で何をしたいのですか?」


なんでぇ、そんなことか。


「国造りだよ。

南方大陸に牛族の国を再興するんだ。」


「牛族?何故ですか?」


「ああ、牛族の育てる牛、肉牛は美味いらしい、乳も良いからバターやチーズ、ヨーグルトなんかも最高らしいぞ。

そいつを食うんだ。

まだ南方大陸に人間や亜人族が住んでいた頃は王公貴族達だけの特別な食料だったそうだ。

だが、お前さんには関係無ぇだろ?」


「ヨーグルト▪▪▪ヨーグルトが美味しいのですか?」


ん?そこに引っ掛かったのか?


「兄貴は昔からヨーグルトが大好きなんですぅ。

ちょっと異常なほど▪▪▪」


そうかい。


「分かりました。

お譲りします。」


「いらねぇよ。」


「えっ?」


「いらねぇ。」


「そ、そんなことを仰有らず▪▪▪」


「いらねぇ。」


「ただで差し上げ▪▪▪」


「い▪ら▪ね▪え!」


「うっ▪▪▪」


「もう、兄貴が悪いのよ?」


「ヨーグルト食べたい▪▪▪」


知るか。


「▪▪▪なら▪▪▪

なら!僕も南方大陸に行きます!

そこで必要な金物作ります!お代は要りません!材料だけ手配できれば!

ここまで道具を買いに来たって事は、南方大陸には鍛冶屋が居ないってことでしょ?

道具が壊れたらどうしますか?

もっと必要になったらどうしますか?

金物は手入れも必要ですよ?

なんなら誰かに技術を伝えても良い!

だから、だから!」


「連れていけと?」


「はいっ!」


ブッッファァァァッと煙を吐いた。


「リリアン?どうする?」


「はぁぁ▪▪▪

もう、バカ兄貴▪▪▪

ガンゾウさん、ご迷惑でしょうが連れていってあげてください。性格は最悪ですけど、本当に腕は確かなんです。」


そう言ってリリアンは俺に『鉈』を渡した。


ふん、良いじゃねぇか。


重さ、サイズ、刃の鍛錬具合。


何よりバランスが良い。


「でしょ?」


チラリと兄貴を一瞥する。


「まあ、言うだけの事は有りそうだな。

良いだろう。

だが気にいらなけりゃつまみ出すぞ?」


「任せてください!」


リリアンがホッとため息をつく。


「ガンゾウさん、アホな兄貴ですが、よろしくお願いいたします。」


そう言ってペコリと頭を下げた。


「で?」


「はい?」


「名前は?」


「ルーファスです!ルーファス▪パートリッジ!鍛冶屋です!」


ふん、まあ、こいつの言うとおり、普段の手入れも必要だしな。

町が出来れば店も必要だ。

とりあえず▪▪▪


「ルーファス、鍛冶屋で良いな。

鍛冶屋、この建物ごと移してやる。いいな?」


「えっ?」


いや、もう移動完了してるがな。


ルーファスの店のドアを開けると、そこには青々とした平原が広がっていた。

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