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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第7章 牛族の国でステーキ『ヨーグルトとアンチョビのソースで』
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◆◆④ウラジミールと英雄ガストーネ◆◆

ガストーネがカルアラレックの国王の座を簒奪してから一月が経った。


実際には、国王ミラベルが王弟バリベッチ、正確にはバリベッチに成りすましたスタルシオンに王座を譲った。

表向きの理由はミラベルの急病だった。


そしてバリベッチとして国王の座に就いたスタルシオンは、魔王ガストーネに国を差し出し、国民を護ると宣言した。


あくまでもガストーネは象徴として君臨する。


政治や経済は、これまで通り人間が司る。


その見返りは特に求めないというのがガストーネの発したたった一つの『御触れ』だった。


ただし、『ガストーネ、及びガストーネを支持する者』達に反する行為を行った者は、問答無用で粛正された。


結果として国民は、『飼われる』事を選択した。


要するになにもしなければ良いのだ。


これまで通りの生活を続けていれば良いのだ。


そしてそれは国軍においても同様だった。


ただ、一部に『魔王の側近のゴブリンは意外に良い奴だ』という風評がたっていた。


「あの時俺は間違いなく死ぬ筈だったんだ、何故って?

お前、腹を裂かれて腸が飛び出していたんだぞ?

王宮の高級医官であっても治せない程のな。

それをあのゴブリンはあっという間に治してくれたんだ。」


「ああ、俺もこの腕が切られて出血多量で死ぬ寸前だったんだが、ゴブリンが繋いでくれたんだ、ほら、ここに痕が有るだろ?」


「おれは聞いただけだが、助けられたのは百人以上になるらしいぞ?

それにあのゴブリンは魔王にしょっちゅう殴られたり蹴られたりしていたぞ、可哀想なくらいぐしゃぐしゃにされてたぞ。

彼奴も俺達と同じで無理矢理従わされているんじゃないのか?」


「いやいや、やはりゴブリンは魔物だ、信用するわけにはいかない。」


ゴブリンではないのだが▪▪▪


◇◇◇


王宮の隅にウラジミールは部屋を貰った。


当初、ウラジミールが寝起きするだけの部屋だったのだが、ウラジミールの能力を聞き付けた兵士や役人達が初めは恐る恐るやって来て、怪我や病気の治療を願い出た。


それらの患者は、あっという間に完治して、国内に散らばった。


すると、評判が評判を呼び、連日ウラジミールを訪ね治療を請う行列が出来た。


ウラジミールに掛かれば、病気も怪我も100%の治癒率だった。

しかも、欠損が有っても再生し、先天的な障害さえ補填し、改変し、完全に治してしまっていた。


その結果▪▪▪


「ガストーネ様は魔王と言われるが、ウラジミール様に病や怪我の治療をさせて助けてくれる!ガストーネ様は魔王ではなく英雄なのでははいのか?」


「そうだ!ガストーネ様が王座に就いてから貴族どもが威張らなくなったし、税も安くなった。

ガストーネ様に阿ろうとした貴族達は殺されたと言うじゃないか!」


「ガストーネ様こそが英雄!我等が国王だ!」


「そうだ!ガストーネ様万歳!」


「ガストーネ様万歳!」


国民はガストーネに熱狂した。


ガストーネは、決して表に出て来ない。


それどころか、最初に出した触れ以外は何も指示していない。


政は、スタラーノことスタルシオンが取り仕切った。


人間として。前国王ミラベルの弟バリベッチとして。


そのなかでやはりウラジミールの人外の能力だけは飛び抜けて目立っていた。


ガストーネは別にしても、ガストーネから人間としての行動を要求されているスタルシオンは、呪力を駆使することが出来なかった。

少なくとも表立っては。


「はやややぁぁ▪▪▪さすがに疲れましたぁ▪▪▪」


ウラジミールが病人、怪我人の治療を始めて十日が過ぎていた。


「呪力が尽きないと言うことはぁ、ご主人様も了解して頂けていると言うことですからぁ、もうしばらくここに居ろと言うことなのでしょう。」


ウラジミールは、ズビズビと音をたてながら、大きいだけで飾りも無くデザインセンスも無いカップに注がれた紅茶を啜った。


「でもキモジミール?ガンゾウなら空間開いて直ぐに助けてくれるんじゃないの?なのに何で放置されてるのよ?」


そう言ったのはフロリネだった。


ウラジミールに助けを求める国民が引きを切らず押し寄せるため、ガストーネはフロリネを軟禁から解き、王宮内でのみ行動の自由を認めたうえで、ウラジミールの補佐をするように命じた。


思いもよらずウラジミールの治療が、国民の喝采を浴び、その延長線上でガストーネの株を上げる形となったからだ。


「そうですねぇ、ご主人様には私ごときが思い及ばない御思慮がおありなのですよ。

報告せずともご主人様には逐一様子が手に取るようにお分かりのはずですから▪▪▪」


とは言ったものの、ウラジミールにも自信は無かった。


何せガンゾウの傍若無人さは良く良く身体中に刻み込まれている。


「まあ、こうしてガストーネ様の評判が良くなれば、私たちの存在意義もお認め頂けようと言うものですよ。

まだ日暮れまでは時間がありますからぁ、お待ちの方を入れてください。」


「▪▪▪まあ、さ、ガンゾウの呪力が無尽蔵なのは分かってるつもりだけど、あんたは食事も睡眠も必要な『人間』なんだからね、無茶しすぎると死んじゃうわよ▪▪▪」


「ははは、ご心配ありがとうございますぅ。」


「な!し、心配なんかしてないわよ!あんたが倒れたら私はオークの餌にされちゃうかもしれないんだからっ!

心配なのはあ!た!し!」


「はいはい。さあ、患者さんを入れてください。」


何故か最近はフロリネの憎まれ口に和むウラジミールであった。


◇◇◇


ブラウリオはアンブロシウスと合流した。


アンセルモを救出したアンブロシウスとベルギッタは、なんとか南方大陸に上陸した。


当にそこへブラウリオがディートヘルムと共に降り立ったのだった。


「良かった、ディートヘルムさんご無事でし、た、か▪▪▪」


「何?その手足は?」


良い澱んだアンブロシウスをおいて、ベルギッタがディートヘルムの鎧の手足をペシペシ叩きながら聞いた。


「いやはやお恥ずかしい。

ガストーネにヤられまして、ブラウリオさんに助けて頂いたのですが、手足が捥がれてはお役にたてないと消沈していたところ、ガンゾウさんがこれを着けてくれたのです。」


「動くのね?」


「はい、本物の手足のように、触られても、この指で触れても感覚が有るのです。」


「鉄なのに?」


「はい、ガンゾウさんは凄いですね。

普通こんなこと思い付きませんよ?思い付いたとしても出来ませんよね?」


「▪▪▪」


皆押し黙った。


常識外れ。


そんな言葉だけでは推し量れない圧倒的な力だ。


「確かガンゾウって異世界からの転生者なのよね?」


ベルギッタは鎧の手足を弄くり回しながら聞いた。


「はい、詳しくは知りませんがそうだと聞いています。」


アンブロシウスも、そう答えるしかない。


ルピトピアの地下から出たのも、何となくガンゾウが面白そうだったからというだけで、ガンゾウのバックボーンを聞いたわけではない。


「こういう発想って、異世界では当たり前なのかしらね?」


「さあどうでしょう。今度会ったら聞いてみましょう。

ブラウリオさん、ディートヘルムさんとアンセルモさんをドリアードのところまで送って頂けますか?」


「アンブロシウスさんは?」


「はい、私とベルギッタさんは西へ向かいます。」


「ウラジミールさんの救出ですか?」


「いえ、救出の必要はないとガンゾウさんに言われましたので、直接的に救出と言うことではありませんが、まあ、状況把握とガストーネの監視と言ったところでしょうか。」


「▪▪▪私は▪▪▪」


「ブラウリオさんも来ますか?」


「行きたい▪▪▪でも、ガストーネを見たら怒りを抑えて居られる自信が有りません。」


「▪▪▪お任せします。

多分ガンゾウさんはどちらでも良いのだと思います。

取り敢えず今は牛族の国を立ち上げる事に夢中な様子ですから。」


◇◇◇


「おらぁっ!忠也!押されてるんじゃねえっ!

ヘリオス!腰が痛ぇとか言ってんじゃねえっ!

ポスカネル!早く追い込め!」


「がんぞう。がんぞうははたらかないの?」


「んあ?奴らが動くなっつったんだ。だから動かねぇんじゃねえか?

まあ、信用して任せたっつうこったな。」


「そう。でもほらちゅうやのあいてはとてもおおきくてつよそうよ?」


「心配ならお前が助けてやれよ。」


「いいの?」


「ああ、だが殺すなよ。」


「わかってるわ。じゃあやってみるね。」


リリスはそう言って無造作に歩を進めた。


歩いた跡にキラキラと光の粒が飛び回る。


まるで蝶の鱗粉だな。


ガンゾウはそう思いながら眺めた。

空間から葉巻を出して火をつけた。


「ねえねえちゅうや?たすけてあげようか?」


「リ!リリス殿っ!危ないから下がられよ!」


一際大きなミノタウロスが打ち下ろす戦斧を、忠也は辛うじて受け流した。


「でもそのこはとてもつよいよ?わたしにはおよばないけどね?」


「リリス殿!遊んでいる暇はないのですっ!は、早く後ろにっ!」


「そう。じゃあ、がんばってね。」


リリスはそう言うとヘリオスの元へ向かった。


「ねぇねぇへりおす?てつだってあげようか?」


「うおっ!危ねぇっ!怪我するぞっ!ガンゾウさんよおっ!ガキの面倒みてろよなっ!」


「▪▪▪」


くっくっくっ、ほれ、ヘリオス?リリスがヘソを曲げ始めたぞ?


「ぽすかねる?」


「リリスちゃん!ちょぉぉっといい子でいてくれるかな?」


プチッ


おっと、リリスがキレた。


「どいつもこいつもよわいくせに、わたしのこゆびほどもつよくないくせに、われを▪▪▪

我を邪魔者扱いするかぁぁぁぁぁっ!」


怒らせちまった。


リリスが変容を始めた。


白く透き通った肌は青黒い鱗を纏い始めた。


フワフワの白い羽のような服に見えたものが逆立ち、それに伴って手足が、首が歪に伸びた。


白かった羽は赤黒く、青黒く、金色銀色、玉虫のような瑠璃色にさえも見えた。


伸びた首には鬣が靡き、体色と同様に無数の色が浮かんだ。


そして胴が伸び、尻尾が生えて首の長さ同様に長く伸びた。


「竜、いや、龍だな。ドラゴンではなく、あくまでも龍だな。


ガンゾウは呟いた。


そう、ガンゾウ以外には理解できなかったかもしれない。


それは日本で語り継がれる蛇のように首、胴、尾が連なって長く、体躯とは別に短い手足が特徴の『龍』だった。


呆気にとられて忠也もヘリオスも、ポスカネルさえも動きが止まった。


それだけではなく、何十頭ものミノタウロスさえも一頭残らず動きが止まり、中には逃げ出すものさえあった。


『主らぁ▪▪▪我を軽んじた罪を償って貰おう▪▪▪』


「おい▪▪▪おいおいおいおいっ!ガンゾウさんよおっ!

なんだよ?こいつわぁっ!」


ふん、見ての通りだ。


極海の大鯨の腹のなかで隠棲していた『主』だよ。


「ワンワンワンワンワンワンワンワンッ!」


犬、五月蝿い、吠えるな。


つっても、このままじゃぁ皆死んじまうなぁ▪▪▪


面倒だが▪▪▪


「おい、リリス、暴れるとお仕置きだぞ?」


などと言ってはみたがな▪▪▪


宙に浮いた長い胴体と尻尾をくねらせてリリスは炎を吐いた。


『ゴグワラアッ!』


聞いちゃいねぇな。


まあ、取り敢えずお前ら自分の身は自分で守れ。


しゃあねぇ▪▪▪


うんッ!


スクワットの要領で膝を折り、溜めてぇ▪▪▪


「ダアッ!」


限界まで溜めた脚力を解き放ち、俺だから出来る垂直『飛び』で▪▪▪

文字通り飛び上がりリリス▪▪▪


『原初の龍』の顎に右拳を叩き込んだ。


そう、『原初の龍』。


この世界の創世記から存在する『神』の一つだ。


その『神』に拳骨を叩き込んだ。


神であろうが実体が有るならぶん殴れる。


効いているのかは分からんがな。


下顎に拳骨を喰らったため、炎を吐いていた口が閉ざされた。


その結果、吐き出される筈の炎が口の中で行き場を失い、圧縮されて暴発した。


『ドブワッグワランッ!』


顎をかち上げられた反動で上を向いていた。


口の中の炎の暴発が、顎の強ばりが緩んだため上空に解き放たれた。


『ドヒュッ▪▪▪▪』


1000mにも及ぶ火柱が赤黒く立ち上がった。


その火柱が細く、そして消え去ると、そこに『原初の龍』の姿も無くなっていた。


まったくよ、何時まで俺がやらにゃあならんのだ?


「圧」


重力を操作した。


周囲1000m四方の全てのものが地に押し付けられた。


「手間だ、まあ、手間だがな、美味い牛肉食うためだ。

手間も暇潰しの一つだ。

こうやってミノタウロスに解呪施すのも手間だがな、時間は無限に有るからな。

聞いてるのか?お前ら?」


俺はミノタウロスに解呪を施しながら振り返った。


「き、聞いて、ま、す、から▪▪▪」


「た、助けて▪▪▪」


「キュウゥゥゥゥンッ▪▪▪」


「し、死ぬ▪▪▪」


ふん、暫く潰れていろ。


リリスの姿が見えねぇな。

ま、いいか。


葉巻の煙が重力操作に従って地面に向かい漂う。


牛もだいぶ集まった。


一旦、南方に出向くとするか。

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