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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第6章 極北の海で鯨を堪能したい
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◆◆㉗宴と鯨◆◆

「まあ、こんなもんでしょうね。ここなら何か有れば直ぐに対処できますし、仕上げはガンゾウさんに頼みましょう。

早く帰らないと鯨食べ損ねちゃいますからね。」


アンブロシウスは、パンパンと手の塵を落とすかのように叩き、巨大な『孔』が有ったであろう草木の1本も生えていない土地を見渡しながら言った。


「アンタ何者?あの一番強そうなのは居なかったけど、それでも何万の魔物をこの短時間で孔に放り込んで山丸ごと削って埋めちゃうなんて▪▪▪」


「アンブロシウスはね、その一番強そうな『ガストーネ』が作った分身なのよ。

まあ、もっとも今じゃぁガストーネの呪力なんて欠片も無いけどね。」


エルヴィラの驚きに、ベルギッタが応えた。


「何でアンタが得意気なのよ?」


「アタシも魔物を退治してたの見てなかったの?」


「下っ端ばっかりね。あんなの私だってちょちょいのちょいよ!」


「ムッカァ!何もしてないくせに!」


「だぁかぁらぁ?それ『擬音』よ?ぎ▪お▪ん?」


もうほんとに置いていきますからね。


ふうっとアンブロシウスは溜め息をついたが、埋めた孔が直ぐに開かないように結界を施すことも忘れなかった。


ギャーギャー騒がしい2人を後にしてアンブロシウスは歩き出した。


◇◇◇


「ガアッハッハッハッハッ!

こりゃ凄ぇ!町の住民みんな呼んじまって良かったのか?」


メビウスは既に顔を真っ赤にして、さらに杯を呷った。


「もちろんですぅ!『宴』は集められる限り集めるのがご主人様流ですからぁ!」


「だがよ?金は大丈夫なのか?鯨はまあ行き渡るとしても、その他にアンタがオーダーした酒やら食い物やらはただにはならねぇぞ?」


「フッフッフッ、皆さんそう言いますが、ご主人様の財産を見たらベグロブワッ!」


ぶっ飛ばした。


居ねえ時にベラベラやってんじゃねぇ。


「あっ!ご主人様お帰りなさいませぇ!」


▪▪▪ホント気持ち悪いくらい復活が早くなったな。


お前が側に居たらガストーネも無茶やり放題だろうな。


「わあいっ!ガンゾウさんお帰りなさいぃっ!」


犬、尻尾千切れるぞ。


「で?何がしたい?」


「てへっ、お帰りなさい。」


ポスカネル、そんなお約束は要らん。

まとわりつくな。

抱き付くな。


「ふん、まあまあじゃねぇか。」


俺は港全体がバザールのように賑わっていることに満足した。


既にあちこちで陽気に歌い、飲み食う姿が見られた。


「ご主人様ぁ、メビウスさんが予算は大丈夫かと心配なされてますぅ、もちろん私は大丈夫だとお伝えしたのですがぁ?」


ふん、空間を切って例の宝物坑を見せてやった。


あとはアックリスタの時と一緒だ。


いいからよ、ヤろうぜ。


◇◇◇


「うめぇ▪▪▪」


何がって?

愚問だな。


『クジラ刺し』


日本のヤツは、まあ、流通やらなんちゃら制限やらで、口に入るまでに日数が掛かっているだろうし、なにより需要が無ぇから主役扱いされねえ、だから『獣臭』が強かったりするんだがな。

熊にしても猪にしても『ジビエ』は臭くて当たり前と思ってるだろう?

だけどな、罠に掛かった猪を苦しまないように絞め、ソッコーで血抜きした肉はもの凄ぇぞ?


綺麗に血を抜いて処理してやれば、レバーなんて薬味要らずだぞ?


もちろん鹿や野鳥も同じだ。

まあ、熊だけはそれでも臭みが残るがな。


まあこの『鯨』とにかく『甘い』んだ。


同様にな、船上で出来る限りの血抜きをやって、腸を抜いて(これは失敗だった)クリスタに氷を詰めさせた。


あとは港のプロに任せた。


黙ってると勝手に火入れしかねねえからな、調理方法は町の腕利きコックに指示しておいた。


で、『刺身』だ。


「うめぇ▪▪▪」


一口毎に口に出る。


醤油が無ぇからな、セルポアしてオイル、ニンニクは有るからな、好みでスライス乗せてな。


頬張る▪▪▪


「至福▪▪▪」


『ゴクッ▪▪▪』


唾を飲み込む音でハモるな。


「おう、やれ。」


「いただきまぁぁぁぁす!」


あちこちから悲鳴のような感嘆が沸き上がる。


「鯨にこんな食い方があったのかっ!」


町の連中はカルパッチョにもしなかったのか?


「やっぱり生は臭くてな。臭い消ししてステーキで食うのが一般的な食い方だ!」


メビウスがまるで『てっさ』を食うかのようにフォークでガメて口に運んだ。


「うめぇ!」


だろ?


ヴァン▪ルージュも良いが、ここの黒ビールでも、いや、この黒ビールが良いな。

うめぇ。


「ご主人様ぁ!この揚げ物もうまいですぅ!」


おう、竜田揚げな。


「私はこの柔らかく煮たのが好き。」


ポスカネル、うめぇだろ?

オーロラ煮だ。


「ガンゾウさん、アンタに教えられた通り燻製ヤってみたぜ、いや、こいつはうめぇな!癖になる!」


コイツは今回料理を仕切ったレストラン『鯨亭』の亭主ボルイェだ。


「おう、ボルイェ、世話になったな。だが、さすがだ、鯨の扱いには長けてるじゃねぇか。

全部間違い無ぇ。」


そう言いながらボルイェが皿に綺麗に盛り付けた『燻製』をつまみ上げた。


脂身をボイルして燻製にした。


なんちゃって『鯨ベーコン』だな。


だが▪▪▪


「うめぇ▪▪▪」


口のなかで甘やかな油が踊り、燻蒸された香ばしさが口腔を満たす。


それをキンキンに冷えたヴァン▪ブランで流してやる。


この町のヴァンは、然程良いものじゃ無かったがな、そうだな、シャルドネ▪▪▪

それも、シャブリ的な醸造か?


まあ、北限は越えているだろうからな、ここで作られている訳じゃねぇだろうし、仕方ネェな。


まあ、他にもうまい酒は有るからな。


「だろう?コイツらうちのメニューにしても良いかい?」


「おう、構わねぇ、ヤってくれ。」


うめぇもんはガメちゃいけねぇ、分かち合わねぇとな。


「だがよ、ガンゾウさん、アンタホントに何者なんだい?

誰もこんな料理知らねぇぞ?

しかも大金持ちだ?」


▪▪▪なんだよ▪▪▪


せっかくの鯨が不味くなるようなこと言うなよ▪▪▪


「あ!ああ!それはですね!私から▪▪▪ブゲッ▪▪▪」


殴ってねぇぞ?


「遅くなりました。まだ鯨は頂けますか?」


空間を裂いてアンブロシウスが現れた。


ウラジミールの真上に。


踏みつけるように。


見事に踏みつけて。


意識して踏みつけて、足踏みして。


「遅かったな。だがギリギリセーフだ。」


「それは重畳。早速頂きましょう。」


「私も私もぉ!」


ベルギッタ、どうした?

顔中傷だらけだぞ?

引っ掻き傷か?


「おう、そういやぁドリアードはどうした?」


黒ビールを呷るアンブロシウスに聞いた。


「誘ったのですが、鯨▪▪▪肉食には興味がないし、寒いのは嫌いだから残って放牧地でも作っておくって言いましたので、お願いしてきました。」


ほう、そうかい。

まあ、南方大陸の大穴が塞がったのは重畳。


アンブロシウスもなかなかやる。

▪▪▪

ガストーネの呪力のままだったら出来たかね?


「いえ、多分出来なかったでしょうし、それ以前にあれだけの数の魔物を片付けるなんて出来なかったでしょうね。」


ふん、そうかい。


「はい、ガンゾウさんの呪力あってのことですよ。」


▪▪▪


何も言わず黒ビールを呷った。


どうも考えてることが口に出やすい。


まあ、構わねぇがな。


俺は徐に空間に大きく長方形をなぞった。


そして、ドアを開けるように『それ』を開いた。


空間ドアの先には、青く晴れ渡った空と、まだ若い緑が眩しい草原が広がっていた。


「お前がエルヴィラか?」


草原の真ん中に立つ小太りな女に声をかけた。


「▪▪▪そうよ、アンタがガンゾウ?」


エルヴィラは振り返り、空中に開いたドアから顔を覗かせる俺に聞いた。


振り返った顔は引っ掻き傷だらけだった。


「おメェ肉は食わねぇらしいな?」


「ええ、そうよ。」


「酒は?」


「大好き。」


饅頭のような頬っぺた振るわせて笑いやがった。


「じゃあこれをヤる!手付けだ。」


「手付け?それは?」


「妖精族のミードだ。ちと古いがな。」


ミードと言ったとたん真ん丸の目を更に真ん丸にしやがった。


相当好きだな。


「よ!妖精族のミード?」


「嫌いか?」


わざと聞いてみた。


「な!何言っちゃってるのよ!

?ねぇ?まさかそれの『新酒』なんて無いわよね?」


「ああ、無ぇよ。」


「そうよねぇ、妖精族が新酒を出すわけ無いものねぇ▪▪▪」


「今は無ぇが、新酒が出来たら分けてもらう算段はついてる。」


「!ほんと?嘘よね?」


「嘘をつく理由は無ぇよ。」


「▪▪▪」


「どうした?」


「ヤる▪▪▪何でもヤる▪▪▪草原も造る、米も造る、植物の事なら何でもヤる、だ、だから、だから▪▪▪」


「いいぜ、ミードの新酒を溺れるくらい飲ませてやる。」


「やったぁっ!やったぁっ!やったぁっ!ねねねねねねね?

嘘は無しよ?嘘ついたら全部枯らすからね?」


「安心しな。約束は守る。新酒が出来たら、とりあえず幾らか届ける。

その代わり、きっちりこの大陸の植物生態整えろ、もちろん、牧草地と米作は最優先だ。」


「了解したわ。

でも、私一人じゃぁ時間が掛かるから仲間を呼ぶわね。」


「ああ、好きにしな。」


エルヴィラは丸い体を転がすように弾ませながら去っていった。


「やったぁっ!やったぁっ!やったぁっ!」


しばらく聞こえていたな。

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