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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第6章 極北の海で鯨を堪能したい
133/164

◆◆㉖ガンゾウの後悔とキレたフラウ◆◆

「コイツは見事だ!

長年鯨漁を見てきたが、これ程の大物は見たことがねぇ▪▪▪

まさか?ぬ、主、なのか?」


「それは分からねえが、まあ、お前らが言う『主』じゃあねえだろうな。なあ?」


俺は例の『女の子』に聞いた。


「ぬしとおもえばぬしよ。くじらはとうといの。あなたがたのいうぬしではなくとも、くじらはうみのぬしにまちがいないの。」


「だとよ。」


メビウス達は要領を得ない顔をしていたが、次の言葉に俺が青くなった。


「何だ?腸捨てちまってのか?あれは珍味だぞ?」


なにっ?


「塩茹でしてな、魚醤と柑橘で食うんだ。マスタードまぶしても美味かったのにな、とびきり辛いやつでな。」


俺の脳裏に一つの単語が浮かんだ。


『百尋』。


鯨料理のメッカ、博多ならではの料理だ。


『百尋』を失念していたのは、完全に俺のチョンボだ。


「やっちまったぁっ!

そうだよなぁぁぁぁっ▪▪▪

百尋!ポン酢でなぁ▪▪▪」


「ポン酢?」


ああ、知らなくていい。


後悔先に立たず。


しかたねぇ、百尋は次回の楽しみに取っておこう。


だがそのチョンボは後を曳いた。


ボォォォッと鯨の解体を眺めた。


おかげでディートヘルムに張っていたアンテナが途切れていることに気付くまで一昼夜を要した。


◇◇◇


「ディートヘルムさん▪▪▪」


青竜族の医師は首を左右に振った。


「も、もう、原型を留めていないパパの顔を護るために▪▪▪」


フラウは呼吸を停めたままのディートヘルムの手を握り跪いた。


「ありがとう▪▪▪

でも▪▪▪でも死んだ者を護る前に貴方が生きなくちゃならなかったのよ▪▪▪」


フラウは泣き崩れた。


大粒の涙が止めどなく溢れ出る。


嗚咽が耳に痛い。


父の首を届けることにばかり意識が向き、警戒を怠った自分のせいだっ!


ブラウリオは行き場のない怒りに震えた。


と、空間に裂け目が出来た。


「ブラウリオ。」


「ガンゾウさん!」


「大将軍死んでねぇぞ。」


「え?」


「まあ、このままだと死んじまうが、仮死状態だからな。」


そう言いながらガンゾウは空間の裂け目を拡げて入ってきた。


「ど、どうすれば▪▪▪」


「なに、簡単だ。」


そう言って死に体のディートヘルムの胸ぐら掴んで上体を起こした。


軽ぅぅぅく平手でベシベシと両頬を張った。


往復ビンタってぇヤツだな。


「ゲハッ!」


ほれ、息を吹き返した。


まあ、張りながら少し気を入れてやったんだがな。


「だじぼずぶんべぶがぁ?」


あ?

なに言ってる?


「そりゃ喋れませんよ▪▪▪」


ブラウリオに言われて、よくよく見れば、口のなかを切ったらしく、口から血を溢れさせていた。


そして、みるみる顔が腫れやがった。


「まあ、息を吹き返したから良しとしよう。」


「ガンゾウさんの言う台詞じゃないですよ!」


はは、治癒かけてやるからな。

勘弁しろ。


というわけで、ディートヘルムに治癒をかけてやった。


◇◇◇


「ありがとう▪▪▪ありがとう、ディートヘルムさん▪▪▪」


「いいえ、ブラウリオさんの飛行速度が凄くて、落ちても護れるように予め硬化していたのが幸いしました。

それでもほとんど死んでいましたが、ハハハ▪▪▪」


「もう、無茶はダメですよ!」


人差し指を立ててプウッと頬を膨らませるフラウは、まだ子供のようにも見えた。


まあ、乳のでかさが子供じゃねえのを物語っているがな。


「ガンゾウさん。息子と娘が大変お世話になっています。

今回は夫の首を護ってくださった恩人も助けて頂きました。

お礼を申し上げるにも、言葉が見つかりません▪▪▪」


そう言ってフラウは頭を下げた。


「気にするな。

別に礼が欲しい訳じゃねぇ、行き掛かり上のこった。

それよりもブラウリオ、どうすんだ?

このままじゃアイツが来るぞ?

まあ、おれがブッ飛ばしても良いんだが?」


既に近付く気配はある。


いや、気配なんてぇもんじゃねぇ。


なかなかのスピードで近付いてる。


このままなら5分だな。


「そんなに早く▪▪▪」


あ?聞こえてたか。


「私が行きます。」


「母さん!」


「夫ばかりか息子にまで手を出す悪い子にはお仕置きが必要です。」


「母さん!そんなこと言ったって!」


フラウはブラウリオの口を人差し指で遮った。


「大丈夫よ。ママは強いんだから。」


とか言って俺をチラ見した。


ふん、そうだな。


笑っちゃぁいるが、リミッターぶち壊れそうなほど沸騰してるな。


ケツは拭いてやる。

思いっきりやってみな。

先祖返りの緑竜の力見せてもらおうか。


「ガンゾウさん?女性に「ケツ拭く」は失礼ですよ?」


ペシッと額にシッペが飛んだ。


▪▪▪やるじゃねぇか▪▪▪

見えなかったぜ▪▪▪


◇◇◇


そうですか。

そちらに行っちゃいましたか。

少し残念ですね。


「どうしたの?」


「ええ、ガンゾウさんの意識と繋がって知ったのですが、ガストーネは青竜島に向かったらしいですね。」


「えっ?ブラウリオヤバイじゃない!」


「大丈夫です。

青竜島にはガンゾウさんもいるみたいですから。」


「何でガンゾウが青竜島に居るのよ?」


「面倒事片付けて皆で鯨食べるゾッて事らしいですね。

それは見事な鯨らしいですよ。」


「そう、じゃあ私達は?」


「ガストーネが居ないのなら、内陸に向かいましょうか。

少し掃除してから帰りましょう。

ベルギッタさんにもそろそろ働いてもらわないと、ただ飯喰らいを養う程私は優しくないですからね。」


「何よぉ?その足手まといみたいな言い方は!

いいわよ!やってやるわよ!

最上級サッキュバスの実力を見せてあげるわよ!」


「では、お願いしましょうか。

さあ、行きましょう。

遅くなると鯨食べられなくなりますよ?」


「ダメよ!宴は逃さないわよ!

先に行って様子探ってくるわ!」


ベルギッタさんはそう言うとカラスに変化して飛んでいきました。


ガストーネと会えなかったのは残念ですが、あの人はしぶとさだけは一級品ですからね。


簡単に死なないでくださいよ。


私が▪▪▪までは▪▪▪


「ねえねえ、私も交ぜてよ?なんか楽しそうなチームじゃない?」


チーム?


そうですね。


不思議とあの人の周りには、好むと好まざると関係無く人が集まりますからね。


「まあ、良いでしょう。今さら一人紛れようが、あまり意味は無いでしょうから。」


「あんた、物の言い方考えないと敵を作るタイプね。」


はは、そうかもしれません。


「エルヴィーラさんでしたか?」


「そうよ。」


「うちのボスは厳しいですから覚悟してくださいね。」


「な、何よぉ、それぇ▪▪▪」


そう言えば▪▪▪


「エルヴィーラさん?」


「だから何よぉ?」


「リ、ライス、米って穀物知ってますか?」


「ええ、稲よね?」


「何処に有りますか?」


「もう無いわよ。私の知る限りこの世界には存在していないはずよ。」


「▪▪▪うちのボスが米を食べたいって言っていますし、一度食べていますが、それはボスの好みの種類じゃあなかったようなのですが?」


「まあ、亜種は色々有るみたいね。

でもそうね。

亜種が有るなら私が品種改良出来るかもね。

何てったってドリアードなんだからね。」


そうですか。


「ならばボスに会って頂きましょうかね。」


まあ、私もガンゾウさんの言う『米』を食べてみたいですしね。


「さあ、行きましょう。さっさと掃除済ませちゃいましょう。」


「?良く分からないわね。」


それで良いです。


そんなに簡単に理解できるような単純な人じゃ無い▪▪▪


はい、すいません。


◇◇◇


ふん、へらへらやってんじゃぁねぇ。


だがドリアード掴まえたのは誉めてやる。


ガストーネが来た。


静かに俺達の前に降り立った。


とりあえず、おっ母さんがやるっちゅうなら余計な差し出口は挟まねぇ。


が、気分次第だな。


「貴方が悪い子ですね?」


普通に聞いたら間延びした迫力も何もない声だがな。


「お前か▪▪▪」


ガストーネはフラウを無視して俺を睨み付けた。


「久しぶりだな。

俺にブッ飛ばされて小便垂れ流してたのは何時だったかな?」


まあ、小便垂れ流してたのかどうかは分からねえし知りたくもねぇがな。


スッとガストーネの視界が遮られた。


スゲエスピードだ。


「ダメですよ!大人の言うことはちゃんと聞きなさい!」


「あ?ッババグルバッ!」


力もスゲエ。

っつうか、デコピン一発で10mもぶっ飛ばしやがった。


「あらあら?ちょっと力を入れすぎたかしら?

それとも大袈裟に騒ぐ悪い子なのかしら?」


いやぁ、おっ母さん意外に辛辣だな。


擬音化すれば『フシュウッ』とでも書くか?

そんな怒りを赤く腫れ上がった『デコ』から、湯気を立てるように発し、左の竜眼を逆立てるように見開いた。


「▪▪▪おめえ▪▪▪何者だ?」


さすがにデコピン一発で吹っ飛ばされたのは効いたか?


怒りで赤くなりながらも、努めて冷静な声だな。

ふん、つまらねぇ▪▪▪


「貴方ね、他所のおうちに来たら先に「○○ですが、お邪魔しても良いですか?」って聞くものよ?」


とかなんとか喋っているうちにガストーネが手を出した。


捕まえようと伸ばした右腕を事もなく捻りあげられた。


「お話は最後まで聞くものよ?」


軽ぅく説教噛ましながら捻りあげた右腕を更に捩り、足を掛けて腹這いに転がした。


さらに右腕を捻ったまま、背中に『チョコン』と座った。


んなに重かぁねえとおもうが、まあ、竜化したらどえらい質量だろうからな。


その辺りのコントロールはお手のもんか?


「て!てめえ!」


ポカッ!とフラウはガストーネの頭を小突いた。


いや、そう擬音化するほど軽ぅく叩いたように見えたんだが、ガストーネの顔面は地面にめり込んでいた。


「ほんといけない子。パパの顔をあんなにメチャメチャにして、可愛い息子にまで悪さするなんて。」


そう言いながら、ポカッポカッと頭を叩く。


次第にその音が大きく、鈍くなっていく。


ポカッ、ボカッ、ドカッ、グシャッ、グジャッ、ビジャッ!


フラウの右手が真っ赤に染まる。


「ほんといけない子▪▪▪いけない子▪▪▪いけない子▪▪▪」


「か!母さん!」


「いけない子▪▪▪パパを還して▪▪▪パパを▪▪▪パパをををををををををっ!」


突然雷が『立ち上った』。


落ちたのではない。


フラウから立ち上ったのだ。


こりゃヤバそうだな。


「おい、ブラウリオ、何とかしろ。」


つうか、ブラウリオが一番おろおろしてるな。


しゃぁねぇ。


まだ吸えるが▪▪▪


まだ長さの有る葉巻を揉み消し、大きく息を吸い込んだ。


「フラウッ!」


その声は物理的な圧力となって聴くものの鼓膜を震わせた。


場合によっては破けただろうな。


フラウの動きが止まった。


「ガンゾウさん?」


「どけ。」


「え?」


駄目だ。自失している。


ガストーネがそれを見逃すわけが無かった。


強烈なバネで跳ね起き、その反動でフラウを打ちのめす▪▪▪


つもりだったんだろうがな。


まあまあの早さで繰り出された蹴りは空を切った。


当たっていたら無事では済まなかっただろうな。

向こう脛が硬化されて切れそうな刃物化してやがる。


頭をぐちゃぐちゃに潰されたはずだが、比較的顔面は綺麗なままだったな。


その目が、フラウを脇に抱えた俺を睨み付けた。


「脳漿垂れ流してるぞ?治癒出来るのか?なんなら助けてやろうか?」


いや、もちろんそんな気はねぇがな。


「▪▪▪▪▪」


何か言いてえらしいが、言語中枢にダメージ受けたみてぇだな。


「▪▪▪オン▪▪▪」


誰かを呼んだようだが?


と、空間の一部が真っ黒に『ボヤけた』。


そこから『細く節くれだった枯れ枝のようた手』が出てきて、ガストーネを手招きした。


ガストーネは急ぐこともなく慌てる素振りも見せず『そこ』へ入った。

振り返りもせず。


代わりにその『枯れ枝』のような手の持ち主であろう『何か』が顔の半分を覗かせた。


その目は節穴のように真っ黒だったが、怒り、恨み、妬み、あらゆる負の感情が渦を巻き、固まろうとしていた。


「▪▪▪」


何か言ったようだが?


『何か』が姿を消すと、黒ずみも無くなった。


「チチチチ」


小鳥の囀りが聞こえた。


「母さん▪▪▪」


ブラウリオが、俺が下ろしたフラウに駆け寄った。


「ブラウリオ▪▪▪」


「大丈夫?母さん?」


「ええ、ごめんなさい、取り乱しちゃって▪▪▪」


ふん、覚えていられたなら心配ネェだろ。


「ガンゾウさん▪▪▪あいつらは▪▪▪」


「ふん、ブラウリオ、あの下っ端なかなかしぶといみてぇだぞ、魔滅でも消しきれなかったみてぇだな。」


「で、では?やはりスタルシオン▪▪▪」


「ああ、姿形は変わった、いや、お前に消されたからな、何か弱っちい奴を乗っ取ったんだろう。」


「また来るでしょうか▪▪▪

愚問ですね▪▪▪

こんな目に逢わされて来ない訳が無い▪▪▪」


ふん、だろうな。


だがまだ先の話だろう。


俺やウラジミール程の治癒能力が有れば、直ぐにもって事は有るかもしれんがな。


まあ、直ぐに来たところで磨り潰してやるだけだがな。


「おい、鯨食いに戻るぞ。」


「▪▪▪母が心配です、しばらく残ろうと思います。」


そうかい、まあ、そうしたきゃすればいい。


「いえ、ブラウリオ、私は大丈夫です。パパの首を見たばっかりで気が動転してただけ。

見たでしょ?

ママは強いのよ。」


フラウはそう言って笑った。


「でも母さん▪▪▪」


「それより貴方のほうが心配よ。

相変わらずの甘ちゃんで。

もっと厳しくガンゾウさんに鍛えて貰いなさい!」


▪▪▪おいおい?

預かったつもりはねぇし、預かる気もねぇぞ?


「はい▪▪▪」


はいじゃねぇだろぉが?


「そう言うことですのでガンゾウさん、ご迷惑とは思いますがブラウリオをよろしくお願い致します。」


とか言って深々と頭下げやがった。


「断る。」


そう言ってブッフワァッと盛大に煙を吐いた。


「良かったわねブラウリオ!さあ、頑張ってらっしゃい!」


「おいおい?」


まだ混乱中か?


「ガンゾウさん。フラウさんのほうが一枚上手ですね。」


大将軍?


有無を言わさぬってか?


ふん、俺は何の言質も与えちゃいねぇからな?


「ありがとございます。」



「ガンゾウさん。駄々漏れです。」


「ちっ、勝手にしろ。」


はあ、だから一人が良いんだ。

しがらみなんて鬱陶しいだけだからな。


「なら早くしろ。俺はとっとと鯨食いてぇんだ。」


「はいっ!」


ブラウリオ、大将軍、ハモるな。


こうして俺たちは青竜島を後にした。


そろそろ『鯨祭り』の準備も出来てるだろう。


おい、お前ももうそろそろ引き揚げろ。

遅れたら交ぜてやらねぇからな。

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