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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第6章 極北の海で鯨を堪能したい
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◆◆⑮ブラウリオとビッグケリー◆◆

第6章⑮が抜けていましたので、差し込みました。

「ああ、アンブロシウスが行ったからな。ウラジミールでも出来るかと思ったんだがな。

使用人根性が邪魔したみてぇだな。」


のんびりと捕まえた角馬に跨がって葉巻を噴かしながら言った。


「アンブロシウスさんが帰ってきたのですか?」


ポスカネルが牛達をチラッと見て聞いた。


ふん、言いたいことはわかってるがな。


「目が覚めたっつうからよ、ほんとは南に行かせようかと思ったんだが、ブラウリオのフォローに引き返させたんだよ。」


「マスター?その名前には聞き覚えが有ります▪▪▪」


と、牛1(アガピト)が言った。


さすがに5m級の牛を乗せる『馬』は居ねぇからな。

牛達は徒歩だ。


「そうだよ、お前達の大陸を滅ぼしたガストーネの相棒だったアンブロシウスだよ。」


トコトコと角馬は進む。


それを制して止め、後ろを振り向いた。


三びきの牛は立ち止まっていた。


「で、でもね!でもね!アンブロシウスさんはもうガストーネとは無縁なのよ!

と言うよりも生まれ変わったの!

貴方達が知っているアンブロシウスとは別人なのよ?」


ポスカネルが必死に取りなそうとするがな、こういう事はな、事実を正確に伝えて、その上で判断するのが一番良いんだ。


下手に何かを隠しても、必ずばれるからな。


その時は、聞いた相手も聞かせた自分も共に後悔する事になるんだ。


それは無用の『怨み』となるんだよ。


「おい、牛。」


「▪▪▪はい、マスター。」


「俺をマスターと呼ぶなら一度だけ事実を教えてやる。それで納得いかなきゃバイバイだ。」


「▪▪▪はい、マスター。」


ふん、だからつるむのは面倒なんだ。


「アンブロシウスはお前らが思った通り、南方大陸を滅ぼしたガストーネの相棒だった▪▪▪」


俺は、アンブロシウスがガストーネに作られた経緯、ガストーネが眠りについた経緯、アンブロシウスが俺と行動を共にした経緯、そして、ガストーネに捨てられ、俺に再び拾われた経緯を話した。


偽ること無く、正確に、まるで年表を読むかのように伝えた。


ただそれだけをした。


◇◇◇


「わかりました。マスター。そう聞けばアンブロシウスもまた被害者なのでしょう。

ただ▪▪▪」


「理屈では理解しても感情が納得しねぇってとこか?」


「▪▪▪はい▪▪▪」


ふん、まあそうだろうな。


「ならどうする?」


「直接話をさせてください。

もちろん、今すぐとは言いません。

マスターは極北の海へ行かれるのですよね?

ならば付いていきます。

そして合流がなった時に話をさせてください。

もちろん、話すだけです。」


ふん、それで納得できりゃぁな。


「わかったよ。

ああ、腹が減ったな。ここらでキャンプするか。

ヘリオス?」


「任せな。おい小僧、狩りに行くぞ獲物の匂いはするか?」


「もう!何回言ったらわかるのですかぁ?僕の名前はタウリです!

あっちですよ、行きますよ!」


なんだかんだ言ってあの二人は良いコンビだ。

ヘリオスの人使いが上手いのだろうな。

でなきゃギルドの運営なんか出来ねぇだろうしな。


「マスター、我々は魔を祓って頂いたおかげで牛族としての欲求を取り戻しました。

ですので、菜食しますから、我々の分はお気遣い無くお願いします。」


ふん、そうかい。


「わかった。好きにしな。」


三連星はそう言うと森へ入っていった。


「ポスカネル、行くぞ。」


「▪▪▪」


「どうした?」


「大丈夫でしょうか?アンブロシウスさんとの事▪▪▪」


ふん、そんなこと▪▪▪葉巻を噴かしながら言った。


「なるようにしかならねぇよ。」


◇◇◇


ブラウリオはサンシキスミレの館の入り口にいた。


上空から氷の矢を連射して守備兵を一掃した。


それでも激しい投槍により、少なからずダメージを負った。


とは言っても、掠り傷程度には違いない。


ブラウリオは大きく息を吸った。


「私を覚えているかっ!良く聞けっ!蜘蛛女っ!寄生虫とは知らずに仕留め損ねたが!今度はそうはいかん!必ず仕留める!

だが、巨人族から手を引くなら『魔物の巣』まで送り届けてやるっ!猶予は1分だっ!」


言い終わる前に門が開いた。


そしてそこから目の光を失った巨人族を先頭に、大小様々な『蜘蛛』がワラワラと涌いて出た。


「それが返事だな?了解したっ!」


言うやブラウリオは竜翼を羽ばたかせた。


やってみるか▪▪▪


「フンッ!」


ブラウリオは、気合いを込めて全身を膨らませた。


其にともないブラウリオの姿が変化していった。


投槍攻撃でズタズタになった服を引き裂き現れた肌は、細かな鱗を纏った竜の物だった。

顔は完全に竜化した。

巨竜時の顔をスケールダウンした顔だ。

ズボンを突き破り尾も現れた。

先に四本の爪を生やした尾は、しなやかにムチ打った。


ブラウリオは、巨人族程の身長の『リザードマン』に変化したのだった。


館の中での戦闘になる。

いくら巨人族の館とはいえ、ブラウリオが巨竜化してしまえば建物を壊してしまう。


それは良しとしても、そのどさくさで蜘蛛女に逃げられるのだけは防ぎたかった。


そこで初めての試みだったが、人姿と巨竜の間の姿、『リザードマン』に変化してみた。


言う程簡単なことではなかったし、過去に『第三形態』を成した者など居なかったのだから、この火急の場での試みは無謀と謗られても仕方の無いことだった。


しかしブラウリオは『成した』。


「良いじゃないか!」


ブラウリオはまたしても大きく息を吸った。


そして、激烈なブリザードブレスを吐いた。


「グゴアアアアアッ!」


ブラウリオの吐いたブリザードブレスは、その場に居た蜘蛛を完全に凍らせた。


ブラウリオは歩を進めた。


倒れている巨人族の一人の側に片膝を着き、巨人の頭をつぶさに観察した。


すると、片方の耳から出血した痕跡が見受けられた。


その耳を上に向けて長く伸びた爪を差し込み探ってみた。


普通なら無い穴が開いていた。


それは脳に達していた。


そして爪先に固い異物感を感じ、それを爪に引っ掻けて引き出した。


蜘蛛だった。


巨人は既に死んでいた。


蜘蛛に潜られた巨人は、脳に寄生され、身体を乗っ取られたのだった。


しかしその巨人としての『自己』は無く、生きる屍と化していたのだった。


「ならば早く眠らせてあげるのが慈悲だろう。」


ブラウリオはそう呟くと、奥へ続く扉を押し開けた。


◇◇◇


「何やら上が騒がしいな。」


「はい、誰かが助けに来てくれたのでしょうか?」


「主だった者共はマチルダが掌握しているはずだ▪▪▪」


サンシキスミレの館の地下。

階層で言えば地下二階なのだが、その深さは30mを超えていた。

その地下に連続した地響きが伝わってきた。


「何れにしてもこうしているのにも飽きたな。」


ビッグケリーは、両手にはめられていた手枷の鎖を無造作に引きちぎった。


『バチィィィィン▪▪▪』


暗い地下に響き渡る金属音。


だが、咎め立てに来るものは居なかった。


「ふむ、お前の言う通り何者かが暴れているようだ。

我々を助けに来たのかはわからんが、マチルダ達とは敵対している事に間違いは無さそうだ。

ならば、ここは我々の国。

国王が寝ているわけにもいくまい。」


そう言うとビッグケリーは牢の鉄扉を蹴り壊した。


バヤリフも続いた。


「行きましょうか、父上。」


「うむ。」


重厚に頷いたビッグケリーは、バヤリフを追い抜き駆け出した。


◇◇◇


室内での戦闘は、巨人族の得意な投槍や弓矢に制限を加えた。


そして、巨人族の姿をした男達が攻撃を仕掛けるのだが、それは『蜘蛛がコントロール』しているに過ぎない訳で、瞬時の判断や反射動作の欠如から、ブラウリオには全てワンテンポずれているように見えた。


それでもその数は圧倒的で、尚且足元には無数の蜘蛛が糸を吐き毒牙を突き立てようと蠢いていたのだった。


「悪いが、一気に屠らせてもらうよ。」


聞き方によれば穏やかな物言いにも聞こえただろう。


しかし、次の瞬間、ブラウリオの口からは、轟音と共にブリザードブレスが吐き出され、目の前のあらゆるものを凍てつかせた。


「何者だ?」


と、急に後方から問われた。


その声の深く威厳に満ちた響きは、逆らうことを躊躇わせる奥行きと深さがあった。


このような声の持ち主は▪▪▪


青竜族の後継者(事実上現青竜王)であるブラウリオだからわかった。


「ビッグケリー陛下でいらっしゃいますか?」


そう言って振り返ったブラウリオは、人姿に戻ってビッグケリーに礼をとった。


「如何にも。巨人族の王ケリーだ。」


巨人族は概ね2mを少し超えるくらいの体格であるが、ビッグケリーは3mに届くかと言う程の巨体だった。


「勝手な振る舞い、お詫び申し上げます。私は青竜族の後継者で、ブラウリオと申します。」


ブラウリオはそう言って再び頭を下げた。


「アレクサンテリ殿の御子息か!」


「父をご存知でしたか?」


「うむ、一度だけお会いしたことがある、あれは黒竜問題が生じた折の会合だった。父上はお元気か?」


「▪▪▪残念ながら亡くなりました▪▪▪いえ、殺されました▪▪▪」


「な!」


「陛下、その話はこれを解決してから▪▪▪」


「あ、ああ、うむ、そうだな。」


ビッグケリーと父アレクサンテリに面識が有ったのは幸いだった。


身分を問われ、それを信用させる手段にも時間にも余裕は無かったからだ。


「陛下、今回の騒動は全て私が魔物を討ち漏らした事が原因です。」


「魔物?」


「はい、蜘蛛の魔物で、頭のなかに入り込み身体を奪って操ります。ユルシアのニューラントが、その魔物のために滅びました。」


「聞いている。あれにはそんな顛末が有ったのか▪▪▪」


「はい、そして私が討ち漏らしたメス蜘蛛がこちらで悪さをしているようなのです。」


なかなかに信じがたい話ではあったが、ビッグケリーが見渡す床一面には、ブラウリオの言う通り大小様々な蜘蛛の死骸が転がっていた。


「つ、つまり▪▪▪つまり母上はその蜘蛛女に殺され、身体を乗っ取られた▪▪▪と▪▪▪?」


バヤリフが声を震わせて問うた。


「バヤリフ、取り乱すな。

ワシの言った通りだろう▪▪▪

そうで無いことを願ったが▪▪▪」


そう言ってビッグケリーは目を瞑り微かに頭を下げた。


「ならば早く軛から解き放ってやろう。それが妻に対する我の思いだ!」


ビッグケリーはそう言うとブラウリオに頭を下げて奥の扉へと歩を進めた。


強い、強い方だ。私もあのような強い心を持つ王になりたい▪▪▪

いや!ならねばならぬっ!


ブラウリオはゆっくりと踏み出した。


前を行くビッグケリーの背中が、途轍もなく大きく見えた。

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