表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第6章 極北の海で鯨を堪能したい
116/164

◆◆⑨巨人の都とブラウリオの不始末◆◆

「つまりガンゾウさん達はルルキーヌに渡って消息が分からないと言うんだね?」


「はい殿下。

何者かの所業により、瘴気が充満しているとの事でございます。」


アックリスタを発ったジャビは、馬を乗り継ぎながら三日で王都ブルーグバーグに到着し、王太子のアシュリーに面会を求めた。


「総督。」


「はい殿下。」


アシュリーはジャビがもたらした情報が、重く、警戒を要する物であることは良く分かった。


だが、それでも過大に心配する必要は無いと思えた。


「これがガンゾウさん達でなければ、国境に第一級の警戒警報を発令してたかもしれないね。」


「▪▪▪と言いますと?」


そうか、ジャビは実際にガンゾウさんの力を眼にした訳じゃ無いのだったね。


「もし、この世のなかであの人が敵わない者が居るとしたら、それは美味い料理を作るコックと、美味い酒を醸す蔵人だけだよ。」


「▪▪▪確かに美味いものには目が無い人でしたが▪▪▪」


「うん、分かりやすく言うとね、戦闘においては、ガンゾウさんに勝てる人は居ないって言うことだよ。

もちろん、魔物の類いも含めてね。」


「ならば▪▪▪」


「そう、あの人が敵意を抱いて攻めてきたら、どんな戦力でも防御壁でも止められない、ひいては人類の絶滅に繋がるって言うことさ。」


アシュリーの言葉は、まるでカードゲームの勝敗を語るような軽さだった。


「大丈夫だよ。でも念のために警戒を強化しよう。

王都から一軍を向かわせるよ。

必要ないと思うけどね。」


「分かりました。

よろしくお願いいたします。

それから話しは変わりますが、このヴァンをお納め下さい。」


ジャビが差し出したヴァンは、『例のあれ』だった。


その晩、国王と晩餐を共にしたアシュリーは、ジャビが持ってきたヴァンを開けた。


国王があまりの美味さに腰を抜かし卒倒したため、晩餐は大騒ぎとなった。


一時、ヴァンに毒が盛られていたのかとジャビに疑いがかかったが、正気を取り戻した国王の言で疑いが晴れた。


「人騒がせなヴァンだ▪▪▪」


そう言ったアシュリーの言葉のまま、このヴァンは『人騒がせなヴァン』と呼ばれるようになった。


◇◇◇


「ここが巨人族の都か?」


「そうだ、我等が王様、ビッグケリーが治める『ニュクライノス』だ!」


そう言ってイワコフが指し示した街並みは、さすがに巨人族の都だけあり、建物のスケールが人間の物よりも1.5倍は大きい。


だが、巨人族以外が利用するような食堂や宿には、人間スケールの椅子や机、部屋も有るようだ。


特に宿は巨人族以外が利用する事がほとんどなのだろう。


「首が疲れる街ですねぇ▪▪▪」


ウラジミールがボヤいたが、まあな、ほとんど見上げるような場所に商品が有ったりするからな。


「あれが王様の住まい、『サンシキスミレ』の館だ。」


イワコフが指差した先には、小高い丘の上に、広大な敷地面積を有するであろう平屋の館が建っていた。


平屋ながら、荘厳な石造りで、館を囲む塀や門柱には手の込んだ紋様が彫られていた。

それを見ただけでも、巨人族の手先の器用さと芸術性の高さが伺われた。


「なかなかすゲェじゃねぇか▪▪▪」


「分かるかい?中はもっとすゲェんだぜ!

年に二回、館が解放されて中を見れるんだ。

館の名前の『サンシキスミレ』が満開の時期は特に綺麗 だぜ!」


なるほどね。

ここの王様は国民に慕われているようだな。

結構なことだ。


「だけどおかしいな?」


「なにがだ?」


「閉まっている店が多すぎる。

服喪でなければ賑やかに往来があるはずなんだがな。」


イワコフはそう言って開いている店に様子を聞きに行った。


四、五分後、戻ったイワコフの話しは、また面倒事を予感させた。


◇◇◇


「すまない、何かの手違いだと思うのだが、今朝、他国からの入国を禁止する御触れが出たというんだ▪▪▪」


「国境じゃぁ何も咎められなかったぞ?」


そう、ルルキーヌ大陸は、妖精と巨人族が治める大陸だ。


その縄張りの線引きは曖昧で、お互いが無造作に街を造り、村を造る。国境という概念が脆弱なのだ。


だからこの王都ニュクライノスのように、『壁』で囲まれた範囲が領地だと認識されていた。


妖精族に至っては、大樹の根本から『必要なだけ』といった、曖昧という言葉さえも厳しいと思える考え方だった。


とは言え、壁の内側に入る際には、一応『検問』的な制約が有ったのだが、その時はそんな話しは無かった。


「なんだぁ?何も咎められてねぇんだからよ、こっちにゃあ落ち度はねえわなぁ?」


ヘリオスが吠える。


まあその通りだがな。


「でもそれとお店が閉まっているのは何か関係が有るのですか?」


「それが分からないんだ▪▪▪

店主も困っていたからなぁ▪▪▪」


と、そんな話をしていたら、いつの間にか周りを囲まれていた。


いや、警備兵みてぇなのが湧いて出てきたのは分かっていた。


そして、その中の隊長みてぇなのが前に出てきたが▪▪▪


「よそ者か?何処から入った?」


そう問いかける隊長みてぇなのにイワコフが答えた。


「普通に大門から入ったぞ?

正規の手続きを踏んでいるからな、咎められる筋合いは無いはずだ。」


仰せごもっともだな。


「そうか。すまない、往来を禁じる御触れが出たのが今朝の事で、周知されていなかったのかもしれない。

申し訳無いが入国許可は取り消す、出ていってもらえないだろうか?」


イワコフが食って掛かる。


「それは無いでしょう?そもそも何故そんな御触れが出たのですか?ビッグケリーの指示とは到底思えません!」


「ビッグケリーは王位を解かれた。」


「なにっ!」


そう告げた警備兵の隊長は、苦しげに顔を歪めて、知る限りの顛末を話してくれた。


◇◇◇


ルルキーヌ巨人族は、ビッグケリーと呼ばれる国王によって統治されていた。


ビッグケリーには二人の息子が居る。


長男のバヤリフと次男のコリヤーノフだ。


三週間程前、コリヤーノフは、母マチルダと共に野駆けに出た。

巨人族は、基本的に単独行動か少人数での行動を好む。


この日も二人の他に護衛が一人だけ付いていた。


予定の夕刻を少し過ぎて二人は帰ってきたのだが

その姿は、土埃にまみれて多くの擦り傷を負っていた。


二人の様子に慌てた臣下は、共をしていたはずの護衛が帰ってきていない事に気が付かなかった。


二人は帰館すると高熱を発して倒れた。


二日床に付き目を覚ますと、二人の様相は変わっていた。


コリヤーノフは表情、言葉が乏しくなり、反対に王妃マチルダは、おおらかだった性格が一変し何事にも口を挟み、イライラと怒鳴り散らすようになった。


そして、いつの間にか館の守備兵、主だった臣下を味方に付けてビッグケリーとバヤリフを幽閉してしまった。


「バヤリフ、抵抗するな。母だぞ。」


「しかし父上!」


「ココココココココ▪▪▪▪▪良い良い、抵抗せぬのなら命だけは長らえるが良い。

これ、地下牢へご案内して差し上げよ、丁重にの。」


マチルダの指示に表情を無くした守備兵が、カサカサと乾いた音を発てて二人を連れ去った。


「何れ立派な宿り木としてやろうぞ?」


マチルダは、王座にコリヤーノフを座らせ、自らはその横に副座を設えて座った。


ガンゾウ達がニュクライノスに入る二日前の事だった。


◇◇◇


「憑かれたな。」


「憑かれましたね。」


「憑かれたんだろうなぁ。」


「何が?誰が疲れたんですか?」


犬、口を挟むな。尻尾が千切れるぞ。


ぷふぅぅぅっ▪▪▪と小出しに煙を吐く。


横目でイワコフを見た。


首が落ちそうなくらい悄気てるな。


分からなくもないがな。


「ガンゾウさん?なんとか助けてあげられませんか?」


忠也?まあイワコフに同情したんだろうが、そもそも俺達には関係のねぇ話だ。


世の中には理由の違いは有れど、為政者が国民を洗脳して使役するなんて話は、枚挙に暇がない。


だからここの内輪揉めに、かかわり合うのは御免だ。


「師匠?」


「誰が師匠だ?犬?」


「誰って、僕の師匠はガンゾウさんしか居ないじゃないですかぁ!」


とか言って『ケヒケヒ』笑うな。


「あのですね、臭うんですよ。」


「誰だぁ!屁こいたやつわぁ?」


ヘリオス▪▪▪

俺が聞いていても品が無ぇ。

ポスカネルが顔をしかめたぞ?


「何がだ?」


一応聞いた。


空気読めねぇ犬だが、嗅覚だけは信用できる。


「王様の館の方から『蜘蛛のオバサン』の臭いがするんですよ?

あのオバサン、首を落として殺しましたよね?

なんでかな?」


▪▪▪

確かにな、首は落とした。

だが、『寄生』していたのなら、本体を潰したのを確認したわけじゃぁねえからなぁ。


「つまり首を切り落としましたがぁ、蜘蛛の本体は無事で別の寄生先を見つけた?というわけでしょうかぁ?」


「まあ、そう考えるのが妥当じゃぁねぇのか?

なぁ?ガンゾウさんよぉ?」


まあヘリオスの見方に異論は無いな。


「イワコフさん、気持ちを確かにしてくださいね。これは貴殿方の内政問題ではなく、魔物の侵攻なのですから。」


ポスカネル?余計なことは言うなよ?


「でもガンゾウさん、あの蜘蛛女をあそこでキチンと成敗していれば巨人族の方々にご迷惑をお掛けしなくて済んだと思うのですが?」


成敗たぁ古風だな▪▪▪


「殺すなんて言いたくなかっただけです!」


古風と言われたのが顔を赤くするほど恥ずかしかったのか?


「誰だった?蜘蛛女の頭落としたやつは?」


皆の視線がブラウリオに集まる。


「ま!待ってくださいよ!

あの時確かに私の矢で退治しましたけど、そこに至るまでは皆さんが戦っていたのですから!寄生主が居るなんて知りませんでしたよ!」


慌てて言い訳するがな▪▪▪


「ブラウリオさまぁ?それはですねぇ、私達も知らなかった事なのですぅ?

ですからぁ、条件は皆さん一緒ということでぇ、やはり頭を落としたブラウリオ様の『不手際』ということですよ▪▪▪ねぇ?皆さん?」


うんうんと皆が頷いた。


「ブラウリオ、お前の敗けだな。責任取りに行ってきな。」


「そんなガンゾウさん!」


「ああ、そうだな、ウラジミールと忠也を付けてやろう。」


「えっ?」


「あら忠也?ご指名ですよ?槍が錆び付かないように頑張ってきて下さいね。」


「でもご主人様ぁ?さすがに巨人族の戦力を相手に3人だけというのわぁ?」


ふん、ブラウリオ一人で十分なのだがな。


チビた葉巻を噴かして揉み消した。

もちろん吸い殻は空間呪でゴミ箱に捨てた。


マナーは守らねぇとな。


で、新しいのに火をつけた。


この間16秒。

いや、測ってないからわからんがな。


「兎に角だ、ブラウリオ任せた。イワコフも一緒に行け、内情探るにも巨人族が居た方が良いだろ。

俺達は適当に先にいってるからよ。」


こうして俺はブラウリオに巨人族の始末を任せて『鯨』を食うために北行を再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ