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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第5章 牡蠣は熱々のオリーブオイルをぶっかけて食うに限る
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◆◆⑲ポスカネル達とビッグスパイダー◆◆

「ブラウリオ、貴方はそのガンゾウさんの元へ行きなさい。」


「しかし母さん!」


「いえ、今ここに貴方が居たとしても出来ることは多くありません。むしろ、居ないほうが良いのです。」


「何故ですか?!」


「貴方が強すぎて、その存在が戦いを呼び寄せるからです。

今、この島には時間が何よりも必要です。

そのためには悪意を呼んではいけないのです。

クリスタも同様です。お兄ちゃんと共に行きなさい。」


「嫌よ!ママを置いて行けないわ!」


「私は大丈夫。

貴方達は知らない私の竜姿、見せてあげるわ。」


そう言うとフラウは屋外へ出た。


変化の途中、それを見ていたブラウリオとクリスタは驚きのあまり声を失った。


先祖返りだと言っていた。


緑竜。


その姿は、ブラウリオの竜姿を凌駕する巨大さだった。


◇◇◇


ウラジミールの操る芋虫達が人形の蜘蛛を蹂躙する。


はは、ウラジミール、おもしれぇ事やってるじゃねぇか?


分析から治癒と再生組み合わせて遺伝子操作か?


ほんとお前は大したヤツだよ。


おっと、声が漏れていたか?


近くに居たら面倒だったな。


まあポスカネルを中心に良くやっているな。


だが何か出してきたぞ?


精々気を付けるんだな。


◇◇◇


「ムンッ!」


右に左に十文字槍を薙ぐ。


良く手入れされた槍は、名刀も青くなる切れ味を見せた。


もちろん忠也の技術あっての事なのではある。


驚愕するのは、『槍』で『鋼鉄』を『斬る』のである。


忠也の槍は、戦車の装甲を切り裂いた。


んん、異世界あるあるだな。


斬れるわけねえのに斬れる。


まあな、俺の不死だってあるあるだからな。


意外な事に、ポスカネルの闘技が凄い。


暗器の一種なのだろう、鞭の先にクナイが付いているヤツ。


どこで覚えたのやら、まあ気持ち良い程に蜘蛛どもを切り裂いていく。


ん?

なんだ?


良く見りゃ鞭と思っていたのは蛇化した髪の毛だな?


クナイは蛇が咥えている(笑)


左右に一対、時に手に持ち軽快なフットワークで操りながら敵を切り裂き、時には頭を振って弧を描きながら裂いていく。


ああ、ダンスか?


もともとお姫様だからな、ステップはお手のものか。


ディートヘルムがひっくり返した戦車は既に五十を越えている。


ウラジミールの芋虫も蜘蛛に殺られて転がり始めた。


そうすると後続の戦車群は進めない。


滞留したところにフロリネの矢が射込まれる。


ほお?フロリネ?

速射が上手くなったじゃねぇか?


まあ、ブラウリオの弓みてぇに強弓っつうわけじゃねえからな。


致命傷にはなりづれぇが、地味に効果を出してそうだな。


まあ、相手の数が多いからな、塞き止めて個別撃破っつうのは、戦法的には正解だが、気をつけろ?


カスパルが何かやってるぞ?


◇◇◇


「ヘリオスさん!」


「なんだ?狼小僧?」


「見てください!あの金髪さん何か引っ張り出して来ましたよ!」


「ん?おお!ありゃヤバそうだな?

おい!ポスカネル隊長!」


「隊長は止めてください!何ですか!」


「あれを見てくれ!下がるのが上作と思うが?」


「あれは▪▪▪」


「分からねえ、分からねえがありゃガンゾウさんに任せる代物だぞ!」


「▪▪▪分かりました!皆さん!一旦下がります!敵の動向を注視しながらガンゾウさんの所まで下がります!

忠也!ウラジミールさん!殿をお願いします!」


「承知!」


「ええ?もう、仕方ありませんねぇ。」


「では!撤退してください!」


◇◇◇


「ええいっ!言うことを聞けっ!」


カスパルはその巨大な生物、いや、所々を機械化された大蜘蛛に乗っていた。


頭の上にコクピットが有り、蜘蛛の神経を刺激して操っていた。


神経制御が上手く機能せず、操るのが難しかった。


それでもその巨体と、カスパルが「数回ならば」と言った攻撃がポスカネル達を窮地においた。


「行けっ!」


カスパルが制御盤の、一際大きなボタンを押した。


望んだ方角ではなかった。


が、それは発動すると、敵味方関係なく切り裂こうとした。


「気を付けてっ!」


ポスカネルが叫ぶ。


「あひゃぁっ!」


ウラジミールが悲鳴を上げた。


まあ、ウラジミールはいつも大袈裟だからな。


あれか、なんの事はない。


正体見たり枯れ尾花。


つまり山肌を切り裂いたのは「蜘蛛の糸」だった訳だ。


昆虫の能力は「同じ質量ならば」などという無意味な前提に基づくのだが、人間の能力を遥かに凌駕する。


蟻の顎の力がよく例えの対象となるが、蜘蛛の糸も同様だ。


因みに蜘蛛は「昆虫」ではないが。


そして、あれだけの巨体から猛スピードで、それこそ「レールガン」並みの早さで射出される糸は、立ち塞がるもの全てを切り裂くのだろう。


おっと、タウリ、危ねぇぞ?


おう、よく避けたな。


ああ忠也、流石にあの糸の勢いに槍は敵うまいて?


ほら、腕が落ちたぞ。


おお、ウラジミール、良く見えてるじゃねぇか?

忠也の腕をくっ付けた。


おいおい?ヘリオスよぉ?

良い年なんだから無理するんじゃねぇよ?


ほれ、足が落とされたぞ?


はは!ウラジミール、大活躍だな?


「ガンゾウさんっ!呑気なこと言ってる場合じゃないですよ!」


「ポスカネル?

まかせろっつったのはお前だぞ?」


「あれは駄目です!

お願いします!」


まあな、駄目だろうな。


いや、やりようは有るんだがな?


「どうするのですか?!」


「タウリ!」


「はい!」


「真っ直ぐ突進してデカブツの頭の上のカスパルを叩き落とせ。」


「やってみまぁす!」


「フロリネ!」


「なによ!」


「援護だ、兎に角数打て。」


「はいはい!」


「ポスカネル。」


「はい!」


「出来るだけ前に出て蛇を全開にしろ。」


「了解です。」


「忠也とヘリオス。」


「はい!」

「おう!」


「タウリがカスパルを仕留めたらデカブツの足を捥ぎ取れ。」


「畏まった!」

「あいよっ!」


「ご主人様ぁ?わたくしわぁ?」


「誰か死にそうになったら治してやれ。」


「畏まりましたぁ!」


っつう訳で、再度の総攻撃。


あのな、退いたらつけこまれるんだ。

ポスカネルの失敗は、勝手に「敵わない」と決めたこと。


やってみなけりゃ分からねぇ事も有るんだっつうこったな。


◇◇◇


フロリネの援護のもと、タウリは一直線に大蜘蛛目指し駆けた。


「ハッハッハッ!ガンゾウさんが言ってるんだ!僕に任せるって言ってるんだ!僕の速さを買ってくれているんだ!僕はガンゾウ組のスピードスター!タウリだぁっ!」


あっという間に大蜘蛛の足元まで駆け寄り、スピードを殺さずに飛び上がった。


その牙がカスパルの喉元に達しようとした時、遥か後方から伸びてきた蜘蛛の糸にタウリは胸を突かれ叩き落とされた。


「あやや!タウリさんがっ!」


「ああ、出番だぞ?」


と言ってウラジミールの頭を掴んでタウリの落ちた所へ投げた。


ストライクッ!


『ぐじゃっ▪▪▪』


と一瞬潰れたが、予め治癒と回復を自らに施していたのだろうな。


潰れたそばから元に戻った。


ゴムボールみてぇにな。


「もう、何時もながら非道なご主人様ですぅ、タウリさんっ、直ぐに治しますからね。

ディートヘルムさん!お願いします!」


「はい!任せてください!」


先行していたディートヘルムが、硬化を施した身体でタウリを治療するウラジミールを庇うように覆い被さった。


その背に巨大蜘蛛の前足が振り下ろされる。


『ガツンッ!』


硬質な鈍い音と共にディートヘルムの硬化された背は、大蜘蛛の足爪を弾き返した。


「忠也さん!」


ディートヘルムが叫ぶ。


「承知!」


弾かれて大きく跳ね上がった大蜘蛛の前足、その付根に忠也の『鉄をも切り裂く』槍が突き刺さった。


その勢いのままに槍は蜘蛛の左前脚を切り落とした。


「ヘリオス殿!」


「あいよっ!

ちと順番が違うがなっ!」


そう叫んで左の二の脚、その付根に斬り込もうとした時、ヘリオスの横を飛び上がる姿が視界を掠めた。


「すいません!ドジ踏みました!」


それはウラジミールによって回復したタウリだった。


『もう失敗しない!皆さんの足手まといにはなりたくない!』


功を逸る訳ではなく、心底仲間になりたいと思った。

いつまでも小僧扱いされたくない、そう思った。

タウリの心が叫んだ。


「ウオォォォォォォッ!」


大蜘蛛の脚を駆け上がり、タウリはカスパルを射程に捉えた。


◇◇◇


タウリの影がカスパル共々大蜘蛛から落ちた。


おう、タウリ、やったな。

まだ甘ぇがな。

狼っつうのはそう言うもんかもしれねぇしな。


司令塔を失った大蜘蛛は無分別に辺り構わず硬質の糸を吐き、山肌を切り裂き、足元の蜘蛛達を踏み潰し始めた。


◇◇◇


「おう!狼小僧!やるじゃねぇか!

ならよ!俺もがんばらにゃぁな!」


ヘリオスの二刀が大蜘蛛の脚を切り離す。


バランスを崩した大蜘蛛が左に崩れる。

崩れながらも糸を吐き続ける。


ポスカネルの蛇鞭と化した髪の毛は、倒れ落ちた大蜘蛛の複眼を尽く刺し貫いた。


「でわでわ▪▪▪」


ウラジミールが操縦席に入り、なにやらゴニョゴニョ唱えると大蜘蛛の動きが止まった。


「はいぃっ!乗っとりましたぁ!」


さっきの芋虫といい『テイマー』か?


「ディートヘルムさん!切り取った脚をそれぞれ胴体に押し付けてくださいぃ!」


「な?何をするのですか?」


「くっ付けて乗りこなしますぅ!」


「?わ、わかりました!」


ディートヘルムと忠也が切り落とされた二本の脚を胴体に押し付けた。


『ジュバッ!』


と黄色い湯気を上げながら脚は胴体にくっついた。


「ビィィィク!スパイダァー▪▪▪▪▪GO!」


▪▪▪アメコミか?


とはいえ、ウラジミールが乗っ取った大蜘蛛は、カスパルが操縦に苦戦していたことなど嘘のようにウラジミールの手足の如く動いた。


「それぇっ!踏み潰しちゃいなさい!」


眼下に蠢く蜘蛛を蹂躙するべくビッグスパイダーは動き出した。


◇◇◇


「おのれぇぇぇっ!

カスパルも期待はずれじゃ!

まあ仕方無い。

妾が出ねばならぬのは承知の上じゃからのう。

これ、進め。」


たまこは輿を担ぐ人形に指示し、前へ進んだ。


進む先には、ウラジミールが操る大蜘蛛が、人形や子蜘蛛達を蹴散らすのが見えた。


◇◇◇


「驚いたぁ▪▪▪

お兄ちゃんは知ってたの?」


「まさか▪▪▪」


ブラウリオとクリスタは、青竜島を出て中央大陸に向かっていた。


「何れにしても母さんの言う通りだ。

僕らはガンゾウさんと行動を共にして父さんの仇を討つ日を待とう。

島は母さんが居る限り安泰だ。」


「そうね、そうよね▪▪▪」


お父さん▪▪▪


それでも滲む涙を拭いきれないクリスタだった。

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