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異世界無頼 魔人ガンゾウ  作者: 一狼
第5章 牡蠣は熱々のオリーブオイルをぶっかけて食うに限る
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◆◆⑱ポスカネル隊長と隊員たち◆◆

「さて、ポスカネル。」


「はい。」


ニューラントとの国境、先様が切り開いた道の途中に居た。


「でけえ事を言ったんだ、見せてもらおうか?」


「はい。では皆さん、打ち合わせた通りに。」


「はい!」(ハモる)


打ち合わせた?

いつの間に?


「では先鋒をつかまつる。」


「おいおいマルハシよぉ、俺は納得してねぇぞ?」


「ヘリオス殿、今更ですな。」


「ジャンケンなんて知らねえし!なんで石が紙に負けるんだよ!」


「それが決まりですから。」


「だぁかぁらぁっ!」


「はいはい、そこまでにしましょうね?

ヘリオスさんには遊撃をお任せしてます。

言ってみれば全体を見渡せる力が無ければ出来ないポジションなんですから。

猪突猛進の先鋒とは格が違いますからね。」


「そうか?そうだな、そうだよな!猪とは訳が違うよな?」


とか言いながら忠也を挑発するが、さすが師範。

腸煮えくり返っているだろうがな、聞き流したな。


「ではフロリネさんは後方から目眩ましと弓で援護、私とディートヘルムさんが中央で忠也の支援、タウリさんは左翼を、ウラジミールさんは右翼を守りながら回復をお願いします。」


「YES!マム!」


さすが元王女様ッテェ事なのか?


まあいい、お手並み拝見といこうか。


ブラウリオが居たらあの弓が良い戦力になっただろうがな。


◇◇◇


確かにこの世界に落ちてきて助けてくれたのは女王様だ▪▪▪


だが人間ではなかった▪▪▪


しかし、今となっては自分も普通の人間とは言えまい。


そう、肉体的には人間のままだ。


でも欲すれば、知らなかった技術知識、見たことも聞いたこともない技術が頭のなかに羅列される。


ドイツ語ではない言語も読める▪▪▪


そして怪物の能力を技術として活用する手段さえ思い付く。


だがそれだけだ。


自分で自分の身を護るには、このスキルを活かすしかない。


女王様はそれを理解して使ってくれる。


私はただ生かされているだけなのかもしれない。


でもそれ以外に▪▪▪


「カスパル様、前方にあいつらが。」


感情のこもらない無機質な言葉が耳に痛い。


「うん、止まれ。」


あの男、日本人、感情のある言葉だった。


当たり前か▪▪▪


あの男は蜘蛛じゃぁない。


◇◇◇


「実戦は任せる、の前にヤツの言い分でも聞いてくらぁ。」


そう言って俺はカスパルのまえに歩み出た。


「ヤるのかい?」


「不本意ながら▪▪▪」


ふん▪▪▪


「で?後ろの仰々しい輿に乗ってるのが蜘蛛の女王さんか?」


「侮辱は許さない。」


「結構。しかしなんだな、戦車を揃えた機甲師団の指揮官が古風な輿に乗るなんざあ風情が有るんだか無いんだかな?」


「▪▪▪」


「まあ良いさ、ああ、あいつらがな▪▪▪」


と言いながら顎をしゃくってポスカネル達を指し示した。


「まかせろっつうんだよ、だから俺は暫く見物な。」


「まさか?こちらは今回五万の軍を整えて来ています。

本気ですか?」


「まあ、親分は俺が殺るにしても、後は一人で一万殺れば良いんだろ?

自信有るみてぇだぞ?」


「そうですか▪▪▪」


「ああ、んじゃ、始めるか?」


そう言って背を向けた。


シュッ!と鋭い先端を持つ糸が俺の背に刺さろうとした。


「待て待て、焦るな?後で相手してやるよ。」


半身になって掴んだ蜘蛛の糸。


蜘蛛の女王様の口から延びていた。


「業火。」


別に呟かなくても良いんだがな、取り敢えず糸を焼いてやった。


途中まで火が伝わって焼き切れた。


じゃあ、おっ始めるか。


◇◇◇


「ホントに勝手よね。」


「男なんてそんなもんさね。

今に始まった事じゃあ無いよ。」


「でも魔物なんてさ、まあ、私を含めてだけどね、男とか女とか見た目の違いだけであって、生物的種族保存なんて必要ないのだけどね。」


「でもオークやゴブリンは繁殖するわよ?」


「ええ、アイツ等はね、魔物と呼ばれるけど実際は生物なのよね。

その証拠に集団で生活して平均的な寿命を持っているのよ。

魔物には『平均寿命』なんて無いからね。」


「そこが基準なの?」


「まあ、そればかりじゃないけど、明確な一線ではあるわね。あんた達エルフ族だって魔物じゃないでしょ?

人間以外を魔物と言うなら獣人だって魔物よね?

そうよね?サロメ?」


「そうじゃな。」


「でもベルギッタ?」


「なあに?イヴァンヌ?」


「そうするとアンブロシウス▪▪▪鏡のね、アンブロシウスは何者なの?」


「知らない。

私は従属の契約しちゃったからね。

それはガストーネじゃなくてアンブロシウス、鏡男とだから。目が覚めるまで待たせてもらうわ。

煙男も何も言わないしね。」


三人の視線の先には、眠り続けるエルゼと、欠けたただの鏡があった。


「ズッ▪▪▪」


三人は温くなった茶を啜った。


「美味し▪▪▪」


呟いたのはベルギッタだった。


◇◇◇


「ヤッホーッ!」


ディートヘルムの背中と肩を踏み台にしてヘリオスは飛び上がり、人の形を纏った蜘蛛の真ん中へ斬り込んだ。


両手の中刀で斬りつけ、受け、いなし、突いた。


バタバタと倒れたかと思うと、人形の背を割って蜘蛛が這い出してくる。


深傷を負った蜘蛛はそのまま息絶えたりしたが、一人で一万匹を殺らなきゃならない。


「こりゃキリがねぇな!将軍!」


「はい!」


「突っ込むぜ!」


「はい!」


元ブリアラリアコンビは、流石に息が合っているな。


ディートヘルムは、背中を硬化させてヘリオスの援護に回っている。


あれなら少々の攻撃にはビクともしねぇだろうな。


「ウゥォゥッ!」


狼小僧が吼えた。


狼は見た目の牙や爪が戦闘においての主な攻撃手段と思われがちだが、実は無尽蔵とも思える持久力、粘り強さがあってのものだ。


牙や爪は止めを指す匕首に過ぎない。


そこに至るまでに相手の体力を削ぎ落とし、精神的に諦めさせる。


そこまで為して獲物を仕留めるのである。


タウリは、その華奢な身体からは想像も出来ない持久力を発揮して敵を翻弄してまわった。


攻撃を加えながら敵の真っ只中を駆け回り体系的な行動を阻止した。


忠也の前に誘い出し、その十文字槍に血糊を加えさせた。


ポスカネルの前に誘き寄せ、石化させた。


幾つかのホットスポットを作り出し、そこにフロリネの矢を降らせた。


遊軍を任されたヘリオスよりも余程遊軍の役割を果たした。


「おやおや?タウリさんは冷静にお働きですねぇ。良いことですぅ。」


などとほのぼのとした口を叩きながら、一番えげつないのは、やはりウラジミールだった。何処で見つけてどうやって仕込んだのか分からないが、巨大な『芋虫』の大群を操って蜘蛛達を蹂躙し始めた。


蜘蛛達も糸を吐き、絡め取ろうとするが、糸を吐く程仲間の行動を制限し始めた。


同様にウラジミールが操る芋虫達も糸を吐き始めた。


「タウリさぁん!引っ掛からないで下さいねぇ!」


「もう!ウラジミールさん!これじゃあ何も出来ないよっ!」


と言いながらも、器用に右左と軽快なフットワークで糸を避けて攻撃、誘導を繰り返した。


はは、やるじゃねえか?


だがここでカスパルの開発した戦車が威力を発揮し始める。


鋼鉄のボディ、同様に鋼鉄で作られたキャタピラーでポスカネル達を踏み潰そうと前に出始めた。


物理の法則なんて無視され勝ちではあるが、やはり基本的には物理の法則は活きている。

戦車に轢かれりゃ、生物は腹わたぶちまけて潰れる。


「無双とは並び立つものがないからこその無双である。」


おいおい?


忠也?


流石に槍で戦車は?


「ムンッ!」


気合いと共に槍を回転させ始める。


「この世界に落ち、只の人間でいられた訳ではない。ガンゾウ殿が不死を得たように私は槍の無双を手に入れた!」


ん?俺には敵わなかったがな?


あ、聞こえないふりしやがった。


「参る!」


言うや戦車に向かって走り出した。


「ヒャッホゥッ!マルハシ!手伝うぜ!」


「ふん、余計なことを▪▪▪」


とか言いながらニヤついてやがる。


「将軍!行け!止めろ!」


「ハイッ!」


ディートヘルムは先頭の戦車に駆け寄りその硬化した身体で戦車を圧し停めた。


「うおおおおおっっっ!」


ディートヘルムの足が土にめり込む。


戦車のキャタピラが地を噛み唸る。


「オッケーっ!そのままだ!行くぞマルハシ!」


「ムンッ!」


戦車には砲が無い。


銃も無い。


あくまでも『装甲車』としての運搬車でしかないのだ。


もちろん、その重量と馬力で地に有るもの全てを踏みつけ、砕き、潰す。


だが組み止められては只の箱でしかない。


ヘリオスと忠也は、戦車を食い止めたディートヘルムの背を踏み台にして車中に躍りこんだ。


中には弓矢を構えた兵(蜘蛛)が居たが、近接戦に備えていないらしく一方的に殺戮された。


「ドゥワリャァッ!」


気合いと共にディートヘルムは戦車をひっくり返した。


ああ、ああなると最早人間じゃねぇな?

ああ、俺がそうだもんな?

まあ仕方ねぇか。


それでも千台は有ろうかと言う戦車群は、仲間の死骸を踏み潰しながら前進を止めなかった。


そこへウラジミールの芋虫隊が突入した。


「はいぃはいぃ!進んでください!潰してください!糸で絡めちゃって下さいねぇ!」


◇◇◇


「おのれ!カスパル!何をしておるのじゃ!」


「申し訳ありません、あの者達、須らく戦闘に熟達した者達ばかり▪▪▪

あそこまでとは▪▪▪」


「そうか、良かろう。ならば妾が出ようぞ。」


「い!いえ!Meine Königin!アレを使います!」


「▪▪▪まだ完成してなかったのでは無いのか?」


「Ja! しかし短時間ならば▪▪▪」


「左様か、ならばやってみるが良い。だが分かっておろうな?」


「Ja! Meine Königin!」


「▪▪▪」


まあ良い。

どちらにしてもここまでじゃろうて。


「ココココココココ▪▪▪▪▪」


山道に乾いた笑い声が響いた。

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