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今宵屋  作者: 深海魚
9/12

九話

次の日。

今宵屋を開いた後で客も居ないので犯人についての話をする事にした。



「まず、サクラは事件に巻き込まれたのは間違いないわね。」


「問題は、犯人がその辺りで犯罪をしたがっていたのか。それとも今宵屋に関わっているからかで絞り込み方が違うという事かの。」


「共通するのは異能を持つという事だよね。しかも今宵屋に恨みを持っていたなら妖魔とのハーフの可能性が高い。もしそうなら過去の依頼で倒してきた妖魔の親族まで絞れる可能性がある。」


「ある程度絞れなかったら、捜査範囲が広くなって犯人を逃す可能性が高くなるのも厄介だ。」


「ねぇ。例えばだけど異能特務課の人に物の記憶が見れるような異能の人って居ないかな?もし居るならサクラお姉さんのヘアピンさえ見つかれば犯人分かりそうじゃない?」



コヨミは、考え込むと首を横に振る。



「分からぬ。それにヘアピンを見つけるのすら大変と思える。慎重な犯人だったら残してすら居ないだろう。」


「ここで考えているくらいなら電話して聴いてみようかしらね。」


「……いや、その必要は無さそうだ。サバが来た。」



コガラシの言葉通り、扉が開いてサバが入ってきた。

サバは彼らからの視線を受けて苦笑いを溢す。



「その様子だとドラゴン出現事件の犯人を探しているみたいだな。」


「もしかして異能特務課も?」


「ああ、ツバメの言う通り探している。この辺りを捜索しているが襲われた場所すら分からない状態だ。」


「つまり被害者に纏わる物を見つけられていないんだね。」


「ああ。駅員から普段何を身に付けているかは聴いている。それに当てはまりそうな物さえ見つかれば、俺達に物の記憶を見れる異能者が居るから犯人に迫れるんだが……。」



コヨミはホタルをチラリと見る。

ホタルはコヨミの視線に気付いて、その視線の意味に気が付いた。

彼は頷くと真っ直ぐサバを見つめる。



「サクラお姉さんが身に付けていて、拐われた時に無くしているかもしれないモノなら分かるよ。僕が身に付けてる、このヘアピンとペアのヘアピン。色はピンク。」


「……流石に、それらしい物は見つけた報告は上がってきていないな。近くの交番に居る警官にも落とし物を見せて貰ったが無かった。それよりペアって言ったよな?そのヘアピン。」


「う、うん。それがどうかしたの?」


「他にもセットだったら、もう一つを探せる異能を持つ奴が居るんだ。そいつに探して貰えれば大規模な捜索だってしなくて済む。」


「良かったじゃん!ホタル。なんか見えてきそうだよ!」


「後は犯人が証拠を消していない事を祈りましょう。」


「じゃあ、コガラシとワカナとホタル。三人に任せたぞ。」


「分かったよ、社長。」



コヨミに指名された三人はサバと共に異能特務課に向かう。

異能特務課に到着してサバは書類を片付けている男性に話し掛けた。



「忙しい時に悪い。ちょっと頼みたい事があるんだ。」


「……もしかして例の事件の手掛かりになりそうな物でも見つかったのか?」


「ああ。ホタルのヘアピンが被害者のヘアピンとペアらしくってな。その場所が特定出来れば物の記憶から犯人を突き止める事が出来そうなんだ。」


「犯人が、そんな迂闊な事をするとは思えないけど……見てみるだけ見てみるか。」



彼はホタルに手を差し出す。

その動作で何をして欲しいのか理解したホタルはヘアピンを取って手のひらに乗せた。

ヘアピンを乗せられた手とは逆の方で触り、目を瞑る。

暫くして目を開けると首を横に振った。



「やっぱり証拠隠滅されてたか。」


「まあ、そう上手く話が行く筈も無いって分かっていたけど残念。」


「とりあえず、協力してくれてありがとうな。」


「どういたしまして。」


「ドラゴン関連については、こっちでも捜査しておく。けど、手掛かりがそっちで見つかったら報告しろ。異能特務課も無関係じゃないからな。この事件は。」


「分かった。じゃあ、何か分かったらそっちの情報も頂戴。」


「勿論さ。じゃあ、またな。」



コガラシ達は異能特務課から出る。

ホタルの表情は暗い。



「とりあえず、一回帰ろう。」


「うん。」



彼らは一言も喋る事無く、今宵屋に戻った。

残っていた二人が出迎えてくれたが、三人の表情から察して何も訊いてこない。

気まずい雰囲気が店内を満たす。

その空気を変えるかの様に客が来た。



「いらっしゃいませ。」



気持ちを切り換えてコガラシは挨拶する。

入ってきた客は女性と少年。

二人は容姿こそ似ていないが、仲は大変良さそうだ。


二人は商品を見て回ってから、カウンターに来た。

どうやら依頼のようだ。



「今宵は邪が出るぞ、で大丈夫かな?」


「大丈夫。依頼内容は何?」


「最近、近所に出没する妖魔を倒して欲しいの。行方不明になった人が沢山居て、その妖魔の仕業じゃないかって皆は噂している。皆を代表して、ここに居る。」


「因みに妖魔は何かまでは分かっていないぜ。」



女性の言葉に少年が補足を加える。

その声にホタルは反応するとカウンターを出て、少年を見た。

少年も彼の視線を感じて、彼の方を見る。



「あー!チビ!お前……なんで、こんな所に居るんだよ!」


「ちょっと色々あって。それよりも元気そうだね。ノッポ。」


「あら?あの時、聖女様と一緒に居た子ね。」


「知り合いか?」


「うん。聖女様に皆でお世話になっていた時の一人。」



コガラシの問いにホタルは答えた。

そんなホタルの様子をノッポと呼ばれた少年はマジマジと見つめる。



「元気そうで何よりだぜ。チビ。」


「それを言うならノッポこそ、元気そうじゃん。後、幸せそうだね。」


「当たり前だろ!ママは聖女様より優しいし、料理も美味しい!我が儘だって沢山聞いてくれる!これで不満なんてある訳無いだろ!」


「それなら良かった。どうしてるか、少し気になっていたから。」


「後、俺の名前はノッポじゃなくてマツ。チビだって、ちゃんとした名前貰ってるんだろ?」


「うん。僕の名前はホタル。改めて宜しくね、マツ。」



ホタルとマツは握手をした。



「話を進めて大丈夫かの?」


「あ、ごめんなさい。コヨミさん。」


「妖魔の正体が分からないのは仕方無い事として、大体どの辺りで被害はどれくらいかを教えてくれんか?」


「えっと、一番大きな被害を受けているのは大きな池がある公園の辺り。私達はそこを、じゃぶじゃぶ池って呼んでる。被害は男性のみで、若くて十代後半。老けてて五十代前半って所ね。」


「被害者は全員人間か?」


「いいえ。異能者も居る。妖魔や半妖は居ないって警察が言っていたかしら。」


「つまり囮作戦は使えないか。見た目だけなら社長もコガラシも範囲内なのにね。」



コヨミもコガラシもワカナの言葉に苦笑いした。

あまり囮には、なりたくないようだ。



「でも、どうやって見た目は普通の人間の妖魔や半妖と異能者や人間を区別してるんだろう?」


「匂いかしら?」


「いや、匂いは個人で違うもんだから無しだ。」


「コガラシが言うなら、匂いじゃ判断出来ないか。」


「気配とか?」


「あー……社長どう思う?」


「それは有り得るかもしれんの。」


「えっと……それで受けて貰える?」


「勿論だ。」



女性は手に持っていた紙袋をカウンターに置く。

中身を見ると、それなりの高級菓子だった。



「充分過ぎるくらいかの。」


「これは、きっちりやり遂げないとね。」


「取り敢えず、現場に向かうか。行くのは誰にする?」


「ホタルと久しぶりに一緒に遊びてぇ!」


「僕も久しぶりにマツと遊びたい。」


「じゃあ、ホタルは決定ね。一応、男性の方が良さそうだからコガラシと社長かしら?」


「そうするかの。」


「じゃあ、決まりね。頑張ってきて!社長、コガラシ、ホタル。」



現場である公園に五人は向かう。

その道中でマツの義母は一応、現場には居ない方が犯人も出やすいと判断して別れる事となった。

公園に到着した四人は取り敢えず、見て回る。

流石に事件があっただけあって、人は疎らだ。



「ホタル。遊ぼうぜ!」


「コヨミさん、コガラシさん。僕、マツと遊んでくるね。」


「気を付けてな。何かあったら、直ぐに俺たちの所へ来いよ。」



ホタルとマツは公園にある遊具で遊び始める。

遊具を使いながら、鬼ごっこしたりしているのを確認した二人は公園周辺も見て回った。

特に犯人の手掛かりになりそうな物は見つからない。


一方で遊んでいたマツは転ぶ。

ホタルが手を貸して立ち上がらせた。

すると、泥の他に真っ黒な物が混ざっている事に気が付く。



「これって……炭?」


「はあ?ここは焚き火とか禁止されてるぞ?」


「公園の看板に書いてある事を読んでない人が居るって事でしょ?」


「一応、二人に報告しようぜ。なんで俺らの方が手掛かりっぽい物見つけてるんだか……。」


「確かに。」



ホタルはマツの言葉に苦笑いを溢す。

そこに枝の折れる音が聞こえた。

二人は音のした方を咄嗟に見る。

そこに居たのは顔の無い女性だった。



「ぎゃーーー!出たぁーーー!」



マツが思い切り叫んだ。

ホタルは顔の無い女性をマジマジと見る。

顔の無い女性は何もしてこない。



「逃げようぜ!」


「いや、でも何もしてこないよ?」


「どう考えたって犯人だろ!」



次第に顔の無い女性の他にも顔の無い男性が出てきた。

マツはホタルに隠れる。

ホタルは一人一人見て、顔の無い男性達は被害者な年齢に近い事に気付く。



「ここから逃げた方が良いのかな?」


「そうに決まってるだろ!」



顔の無い人々も頷いた。

それを見てホタルは首を傾ける。



「一つだけ教えて。女性の人。貴方が男性達の顔を取った犯人なの?」



女性も男性も首を横に振った。

彼らの解答が本当ならば、犯人は別に居る。

その事に気付いたホタルはマツの手を取って、その場から去ろうとした。

けれど去ろうと向いた方向にはスーツを着て帽子を被った男性が立っている。


咄嗟にマツを庇う様に立つ。

その男性から嫌な気配がするのだ。

男性は懐から手帳を出した。



「全く。この現場から逃がさない様にするっていう設定も組んでおくべきだったよ。大抵の人間は恐れを成して近付きもしなかったから、しょうがないと言うべきかもしれないが。」


「何かを燃やしているのを見られて、この人達から顔を奪ったの?」


「ああ。見られたら不味い物を見たんだよ。彼らは。そして君達も何かを燃やした事に気付いてる。」


「僕達も彼らの様にするつもり?」



男性はホタルとマツを見る。

そして気味の悪い笑顔を浮かべた。



「……いや、気が変わった。そのヘアピンをしているんだ。君達もドラゴンの心臓になって貰おうかな。」


「!」


「え……。ドラゴンって、あの……?元は人間だったのか……?」


「そうだ。今宵屋に関わっていたから苦しませる為の手段として利用させて貰ったよ。俺から父親を奪ったんだ。同じ苦しみを味わって欲しくてね……。どうだったかい?俺からの早めのクリスマスプレゼントは。」


「最低最悪だったよ。」


「そりゃあ良かった!すこぶる気分が良いから特別に一つ、願いを聞いてやろう!」


「話を聞く限り、貴方の恨みは今宵屋へ向けられている。だったら今宵屋の一員である僕だけをドラゴンにしてマツを見逃して欲しい。」


「ホタル!?」


「ほう……随分と健気な事だ。分かった。応じよう。ほら、逃げるが良い。マツとやら。」



男性は首で指図する。

ホタルはマツに視線を送る。



「……ホタルの馬鹿野郎!友達なんか止めてやる!」


「そんな事言うなんて酷い!マツなんか大嫌いだ!さっさと、どっか行っちゃえ!」



マツは涙を流して走り去った。

男性は気味の悪い笑顔で見送る。



「酷いねぇ、君の友達は。」


「もう、あんな奴なんて友達じゃない。」


「くっくっくっ……。さて、ここからが本番だ。」



男性は手帳を広げた。

ペンを持ってクルクルと回す。



「もしかして貴方は半妖?」


「ああ。そして俺の異能は手帳に書いた物を現実にするって物さ。ただし、それとなる為の元々の材料だったり、心臓だったりは必要だがな。」


「この顔の無い人達は、どうするの?」


「ドラゴンとなった君に食わせようかね。こうなった以上は戻れない。ならば死なせた方が幸せだろう?」


「……やっぱり戻せないんだ。」


「ああ。さて、決めた。君を何のドラゴンにしようか悩んでいたが、ファフニールにしよう!」



男性はペンを回すのを止めた。

そして手帳にペンの先を付けた時。



「そこまでかの。」



いつの間にか、隣にコヨミが立っていて男性からペンを奪っていた。

ホタルは、それを見て安心した表情で溜め息を吐く。



「ホタル!大丈夫か!?」


「マツ。ありがとう。僕の視線の意味に気付いてくれて。」


「へっ、これでも長い付き合いだからな!それにしても俺ってば、中々の演技だったろ?」


「本当に、騙されちゃいそうだったよ。」


「……貴様!騙したのか!」


「こうでもしないと捕まえられなさそうだったし。」


「さてと。大人しく警察に出頭して貰おうか。」



コガラシは男性を捕まえる。

男性は悔しそうな表情だ。

顔の無い人々も見ているだけで何もしない。

こうして男性は警察へ突き出された。


皆で今宵屋に戻ると事の顛末を聞かせる。

安心したマツの義母は涙を流した。



「証拠とか残さないし、正直捕まえられるまで時間掛かると思ったのに案外あっさりだったね。」


「まあ、異能を使った犯罪者は自らの力に慢心する傾向があるそうだから当然ね。コガラシ、貴方も気を付けるのよ。」


「言われなくたって分かってるよ。」


「本当に、ありがとうございました。今宵屋の皆さん。」


「ホタル!また遊ぼうぜ!」


「うん!」



マツと彼の義母は、今宵屋を去る。

それから少ししてサバが来た。



「今回は助かった。犯人の異能の被害者についてだが……実はちゃんと元に戻す方法があったんだよ。犯人も知らなかったみたいだ。」


「え……。あったの?」


「ああ。色々書いてあった手帳があるだろう?やるべき事を色々やった後に燃やしてみたんだ。そうしたら被害者の顔が戻ったんだよ。もっと早く捕まえられて気付ければ……若い命だって救えたのにな。」



それを聞いて皆は黙り込む。

けれど最初に口を開いたのはホタルだった。



「犯人の手口が用心深かったのに、これだけ早く捕まえられた事を喜ぶべきだよ……。下手したら、もっと多くの人が犠牲になっていたんでしょ?それにドラゴンを放置して犯人を捕まえたとしても、その間にどれくらい被害が出たか分からない。沢山の被害者が出て、自分が助かるなんてサクラお姉さんは望まなかったと思う。上手く言えないけど……折角犯人が早く捕まったのに後悔するのは違う気がする。」


「……それもそうね。」


「……確かに。」


「……全く、一番若いってのに教えられるとはな。」


「ホタルよ。おいで。」



コヨミは両手を広げる。

ホタルは戸惑いながらもコヨミに近付く。

コヨミは彼を引き寄せて抱き締めると頭を撫でた。



「ホタルには、もっと子どもらしくして欲しいと思っておる。その考え方は大人が自分に言い聞かせるそれに似ている気がするのぅ。本当は悔しいのでは無いか?思ったより犯人が早く捕まった事が。なんでもっと早く捕まってくれなかったのか。サクラがああなった時に捕まってくれさえすれば、サクラを失わずに済んだ。そう考えない訳が無い。ホタルよ。お主の正直な気持ちを聞かせてくれぬか?」


「……コヨミさん。どうして、分かったの?僕が、もしもって考えてたこと。悔しいって思ってたこと。」


「伊達に長生きしておらんよ。」



ホタルはコヨミの言葉に苦笑いを溢す。

そして涙を滲ませた。



「……あぁ、コヨミさんには敵わないなぁ。」



そこまで大泣きもせず、涙を溢すホタル。

けれど笑顔も溢れた。

そんなホタルをコヨミは、ただ撫で続ける。



「これで今回の事件についての報告は以上だ。まだまだ警察の力不足を感じるよ。これからも宜しく頼むな。いつか、未然に防いでみせるから。」


「期待しておるが、無茶はせん様にな。」


「分かっているよ。それじゃあ、今日の用事は、これだけだから。またな。」



サバは立ち去った。

それを皆で見送る。



「……今日は、もう閉店するかの。」


「そうしましょう。」


「今日の晩御飯はホタルの好きな物にしようよ!何食べたい?」


「んー……皆と一緒に食べられれば何だって良いや。」



閉店するとホタルの希望通り、皆で晩御飯を食べる。

そして皆で一緒に眠ったのだった。

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