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今宵屋  作者: 深海魚
8/12

八話

次の日の朝。

全員、何処かが爆発して崩れる音で目を覚ました。


全員は慌ててテレビの前に行く。

テレビには街を破壊する大きな生き物が映っている。

それを見て、全員が息を飲んだ。


ヘリコプターからの中継。

それを見ながらヘルメットを被り、スーツを着た男性はマイクを握る。

その表情から読み取れるのは緊張と恐怖。



『ご覧下さい!現在、街を襲っている大きな生き物を!これまで実在しないとされてきた空想の生き物、ドラゴンのようではありませんか!蝙蝠のような翼や鱗に覆われた身体、しなやかな尻尾に口から見える牙!口から吐かれる炎は身体と同じ黒です!消防隊が懸命に消火活動に当たっておりますが火の勢いは止まりません!』


「黒いドラゴン、といえばニーズヘッグね。」


「ドラゴンだけは居ない生き物だとばかり思っていたんだけどな……。実際にテレビに映って未だに爆発音や崩壊する音がしているのを見れば、信じるなって方が無理だ。」


「ニーズヘッグって何?」


「ホタル、良く聞いてくれた。私も分からないから困ってた。」


「ホタルとワカナは読書せんからの。ホタルは仕方ないかもしれぬが……。ワカナはファンタジー物の漫画を読んでおったろう。その中には出てこんかったか?」


「出て来ない。ドラゴンは出て来てたけどニーズヘッグって名前が付いたのは出て来てない。」


「ニーズヘッグってのは死者の血をすすり、死者の魂を運ぶドラゴンだ。滅びをもたらすっていう噂さえある。」


「ご飯さっさと食べて下へ行きましょう。嫌な予感がするわ。」



今宵屋の彼らは素早く朝ご飯を食べると下へ行く。

その際、上空を見れば大きな黒いドラゴンが上空を覆っていた。

影からペガサスが降りてくる。



「今宵屋の皆様宛に手紙です。」


「ありがとう、いつも助かるぞ。」



コヨミは受け取ると珍しく、その場で手紙を開けた。

嫌な予感がしていたのは全員同じだったのだ。

コヨミは手紙を読んでいき、顔を真っ青にする。



「一体、何が書かれていたんだ?」


「最悪な事よ。儂らはサクラと親しい関係を築くべきでは無かった。」


「社長、どうしてそんな事を!?ホタルを遊園地に連れていけたのは彼女だけなのに!」


「ツバメ。あのニーズヘッグの中にはサクラが捕らえられている。儂らと親しい関係の者を狙ったと手紙に書かれておった。儂らが関わらなければニーズヘッグが生まれる事もサクラが巻き込まれる事も無かったかも知れぬ。」


「コヨミさん!僕は関わって良かったって思いたいよ!巻き込んだって事実はあっても助ければ良いんじゃないの!?また巻き込まれる可能性があるなら守ってよ!僕は……サクラお姉さんと会った事を間違いだなんて思いたくなんか無いよ!」


「ホタル……。」



ホタルは郵便局の人の方を向く。



「郵便屋さん。ペガサスを借りる事って出来る?」


「このペガサスを貸す事は出来ないですが郵便局で今、休んでいるペガサスなら今宵屋の名前を出せば借りる事は可能かとは思います。」


「ありがとう!」



ホタルはコヨミを真っ直ぐ見る。



「コヨミさん。僕はサクラお姉さんを助けたい。」


「サクラを助ける事に関しては俺も賛成だ。」


「……しょうがないの。確かに諦めたら今宵屋の名が廃る。儂とツバメとワカナはニーズヘッグの気を引いて、街の被害がこれ以上出ない様にする。コガラシとホタルで郵便局まで行ってペガサスを借りに行き、ニーズヘッグの中に捕らえられているサクラを助ける。ワカナ、鱗が生えてる胴体に一回だけロケットランチャーを撃ってくれんかの?恐らく無傷じゃろうが。」


「中身が空洞なら上から胴体に降りて、切って中に入れるかもしれないからね!了解!」



ワカナは今宵屋の中からロケットランチャーを出すと構えて撃つ。

コガラシは耳を澄まし、頷いた。

煙が晴れると無傷の身体が露になる。



「どうやら空洞だ。一番切れ味の良い短刀は?」


「これかの。」



コヨミは懐から鞘に入った短刀を出してコガラシに渡した。

コガラシは確認するとホタルの手を取る。



「それじゃあ、行ってくる。無茶するなよ。特にワカナ。」


「コガラシこそ、無茶しないでよ。ホタルも!」


「うん!皆、気を付けて!」



コガラシとホタルは郵便局に向かって走り出す。



「私は一足先に行って、なるべく郵便局の人々を説得しておきます。丁度、届ける手紙は今ので最後でしたからね。」


「頼んだわ。」



郵便局の人もペガサスに乗って去る。

それを見送ると残った三人は装備を整えてから、高い所へ登った。

ワカナがニーズヘッグの頭にロケットランチャーを撃ち、気を引く。

そして三人はニーズヘッグの足止めを始めた。


一方、コガラシとホタルは郵便局へ向かうが、瓦礫で塞がっている道が多くて遠回りをする羽目になっている。

それでも確実に郵便局へ到着する為に走った。

どうにか到着すると扉を開く。



「事情は社員から聞きましたよ。貴方達が今宵屋の方々ですね?」


「そうだ。」


「ペガサスの所へ案内致しますが、殆どのペガサスはドラゴンの気配で落ち着いていない状態で言う事を聞いてくれるか怪しいですよ?」


「それでも良いから、早く!」



息切れをしながらもホタルは必死に訴える。

その様子を見て、その人は頷く。



「分かりました。案内します。」



案内をされて着いた場所は馬小屋のような場所。

そこでは確かに落ち着いていないペガサス達が居た。

けれど一頭、落ち着いた様子のペガサスが居る事に気付いたホタルは、そのペガサスに近付く。



「!いけません!そのペガサスは、普段からあまり言う事を聞かないのです!」



その声を無視してホタルはペガサスの目の前に立つ。

ペガサスもホタルの方を見ている。



「お願い。助けたい人が居るんだ。協力して。」



ペガサスは静かに頷いた。



「信じられません……。」


「よし、じゃあ借りるぞ。」


「どうぞ。」



ペガサスを馬小屋のような場所から出すと二人は背中に乗る。

そして上空へと羽ばたいた。

ペガサスはニーズヘッグの攻撃を避けて上にまわる。

そして滞空した。



「コガラシさん。さっきの短刀貸して。サクラお姉さんを僕が助けたいんだ。」


「……分かったよ。扱いには気を付けろよな。」



ホタルの顔を見てコガラシは勘弁したかの様に溜め息を吐いてから答える。

コガラシから短刀を受け取ったホタルはペガサスから飛び降りつつも短刀を抜いて、着地と共にニーズヘッグの胴体に突き刺した。

ニーズヘッグはホタルを振り下ろす様に暴れるが、ホタルは短刀の柄を握って耐える。

そして短刀で円を書く様に切れば、空洞が開いた。


ホタルは穴に飛び込むと、そこには捕らわれたサクラが気絶している。

サクラを縛る様に絡まる肉の糸を切っていくが、足は地面と同化していて分からない。

ホタルはサクラを見つめ、お揃いのヘアピンが無い事に気付く。

少し悲しそうな顔をしてから笑顔を浮かべるとホタルはサクラを起こす事にした。



「サクラお姉さん。起きて。」



その一言でサクラは目を覚ます。

サクラは瞬きを繰り返し、ホタルを見つめた。

ホタルはサクラを縛る最後の肉の糸を切る。



「ホタル。助けに来てくれたのね。」


「うん。帰ろう、一緒に。」


「足が……動かないわ。」


「地面と一体になってるんだ。僕には境目が分からなくて……。サクラお姉さんなら感覚で分かるよね?」


「……そうね。」


「ヘアピン、無くしちゃったの?」


「ええ。折角お揃いにしたのに、ごめんなさい。」


「じゃあ、僕のを付けてあげる。」



ホタルは自分が付けているヘアピンをサクラに付けた。

そして彼は納得した様に頷く。



「やっぱりサクラお姉さんの方が似合うや。」


「……ねえ、ホタル。」


「何?サクラお姉さん。」


「聴いてくれる?私の歌。」


「……次じゃ駄目?」


「駄目。」



ホタルはサクラの答えから察したらしく、笑顔は悲しそうな物へと変化した。

ニーズヘッグは今、暴れているかは内側からでは分からない。

けれどホタルの中では答えは一つしか無くなった。



「分かった。歌って、サクラお姉さん。」


「……ありがとう。」



サクラは満足そうな笑顔を浮かべると息をそっと吸う。

ホタルは目を閉じて耳を澄ました。



「少しずつ近付いてくる寒い季節。雨も雪も降らずに過ぎ去る事でしょう。眩しい太陽は平等に皆を照らすのに、社会は何故不平等なままなのだろう?悲しい思いが胸を縛る。何気無い言葉が他人を傷付けて。自分を責めてばかりで何も変われない。望まない擦れ違いが平等を崩すのかな?だとしたら悲劇でしかない。いつか手を繋いで分かり合えたなら。ずっと変わらないと思っていた景色が変わった瞬間、その真ん中に居たのは他でも無い貴方だった。柔らかくて暖かい手と変わりゆく感情。大切な物を教えてくれた。手を伸ばさなくちゃ掴めない物がある。勇気を出して歩けば見た事も無い景色が見える。怖がる事は間違ってないけれど勇気を出す事も必要だと言う事を。」



ホタルは目を開く。

サクラもホタルも涙を流している。



「……短刀貸して。」


「……うん、分かった。」



ホタルはサクラに短刀を渡す。

サクラは受け取る。



「サクラお姉さん。」


「何?」


「……また、明日。」


「……ええ。また明日。」



サクラはホタルの言葉に笑顔で応えると短刀を自分の胸に刺して抜く。

ニーズヘッグは咆哮し、消えながらも落ちる。

ホタルは中から外へ弾き出され、宙に浮く。

そこをペガサスに乗ったコガラシが受け止めた。



「……ホタル。辛かったら見なくても良いんだぞ。」


「……大丈夫。最後まで見るって決めたから。」



ペガサスに乗った二人はニーズヘッグが完全に消えるまで見届ける。

それはニーズヘッグを足止めしていた他の今宵屋のメンバーも同じだ。


見届けた二人はペガサスを返すと他のメンバーと合流する。

そこに偶然か、短刀とヘアピンが落ちてきた。

コヨミは短刀を拾うとホタルから鞘を受け取り、仕舞う。

コガラシはヘアピンを拾うとホタルの髪に付けた。


ホタルはヘアピンを触ると止まっていた涙を、また流す。

必死に堪えているホタルをコガラシは優しく抱き締めた。



「泣きたい時は泣け。辛い時は辛いって言え。例え、相手が納得して選んだ道でも悲しんじゃいけない訳が無いだろ?思い切り泣いて泣いて、それから立ち直っていけば良いんだ。最初から悲しむなって誰も言わないさ。」


「コガラシさん……。」



コガラシの言葉で吹っ切れたのか、ホタルは声を上げて泣く。

コガラシは優しく背中を叩いて、泣き止むまで待った。

暫くすればホタルは泣き止む。



「帰ろうかの。儂らの家に。今日は休業としよう。こういう事は休むに限る。」


「そうね。社長の言う通りだわ。」


「皆で一緒に寝よう!それが一番!」


「ワカナに同意だな。ほら、行こう。ホタル。」


「……うん。ありがとう、皆。」



彼らを手を繋いで帰る。

そして今宵屋は休業させて、いつもより早く皆で一緒になって寝た。


次の日の朝。

誰よりも早くホタルは目を覚まし、起き上がった。

ホタルに寄り添う様に寝ている皆の寝顔を見て笑顔を溢す。

傍に置いてあったヘアピンを優しく触る。



「忘れないよ、サクラお姉さんの事は絶対に忘れない。また、いつか会えるって信じてる。だって、また明日って約束したもんね。」



ホタルは、そう呟いてから寝転ぶ。

天井を見つめてから手を伸ばす。

拳を作ると小指だけ伸ばし、指切りをする様に揺らした。

それで満足したホタルは手を下ろすと、また眠る。


次に目が覚めたのは、お昼頃。

全員、寝ぼけていた事から全員で寝坊してしまったようだ。

皆して酷い寝癖で顔を合わせると笑いだしてしまった。



「コガラシ!何その酷い髪型!?」


「ワカナこそ人の事は言えないだろうが!」


「見ておくれ!儂の凄い寝癖を!」


「社長!そこは威張る所じゃありません!」


「皆して酷い寝癖になっちゃったね。でも、たまにはこういうのも悪くないかも。」


「確かに。」


「今日は一日休業で良いかの?」


「良いんじゃないかしら?もう昼だもの。」


「そう言えば、今宵屋の他にも妖魔退治請け負ってる所あるんだもんな。」


「え、そうなの?あ、でも良く考えるとそうか。じゃなきゃ、私達の仕事が東京周辺だけで済んでる筈無いもんね。」


「他の妖魔退治請け負っている所で働いているのって、やっぱり妖魔なの?」


「儂が知っている限り、妖魔だけかの。」



今宵屋という名前では無いが妖魔退治を請け負っている所は全国にある。

コヨミは定期的に連絡を取り合っており、お互いに状況を報告しているが人間を社員にしているという話は聞かない。


勿論、連絡義務では無いがコヨミはホタルを社員にした事を話した。

その時、他の同業者から反対の声が上がったのは当然の事だろう。

妖魔退治とは、それだけ危険が伴う物なのだ。



「明日、駅に行ってサクラお姉さんの事を伝えた方が良いかな?確か、駅員さんと仲が良かったんだよね。」


「……それは今日やっておいた方が良さそうだな。色々言われるだろうからホタルは待ってろ。」


「嫌だ。僕も行く。」


「髪の毛直したら行ってきなさい。」


「儂も行くぞ。」



こうして寝癖を直して三人は駅に向かう。

駅では駅員さんがサクラの歌っていた位置で心配そうな顔をしていた。



「あぁ!今宵屋の!サクラを知らないか!?」


「サクラについてじゃが、昨日の事件で死んでしまった。」


「……!なんで知ってる!?」


「目の前で失ったからだ。」



駅員達が集まってくる。



「目の前でって!それを防ぐのが今宵屋の役割だろう!?」


「済まない……。」


「まさか、サクラを巻き込んだのか!?そこの子どもみたいに!」



駅員はホタルを指差す。



「なんとも言えぬ。儂らに恨みを持っていた犯人なら有り得る。」


「お前らなんか……関わらなければ良かった!お前らが居るからだ!サクラは……一人前の歌手になるのが夢だったんだぞ!」


「知ってるさ。」


「知ってる!?嘘を付くな!お前ら全員化け物の癖に!」


「……。」



コヨミもコガラシも黙った。



「人の苦しむ姿がそんなに好きか?」


「おい、いい加減にしろ。今宵屋だって万能じゃない。救えない事だってあるだろ?」



流石に他の駅員が止める。



「……分かっているんだ。本当はアレの心臓がサクラで、多分サクラが死ぬしか方法が無かったなんて。良く知った歌声が聞こえて、伝わってきたから。」


「最後に異能に目覚めて使ったんだろう。駅員である俺達に歌を通して伝わってきたんだ。責めて済まない。本当はサクラをああした本人を責めるべきなのに。」


「なら儂らは誓おう。必ずサクラをああした奴を儂らの手で捕まえると。やられっぱなしは気が済まないからの。」


「コヨミさん……!」


「確かに俺も、このままは嫌だな。それに俺達がやらないと、お前らが突っ走るかホタルが依頼を出しそうな勢いだ。」


「ホタルを泣かせた事、犯人に後悔させてあげる。」


「私も賛成だわ。必ず突き止めましょう、犯人を!」


「……任せた。」



こうして今宵屋の彼らはサクラをニーズヘッグにした犯人を必ず見つけて捕まえる事を決めた。

その夜、ホタルは一人で眠る。

怖い夢も悲しい夢も見る事は無かった。

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