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今宵屋  作者: 深海魚
6/12

六話

コヨミは店の中で郵便局の人から受け取った手紙を開封する。

その手紙には依頼が書かれていた。

内容を要約すると今度開く展覧会の会場に大蜘蛛が住み込んでしまったので退治して欲しいという物。

報酬は絵を今宵屋の人数分。


名前を確認してみればマツユキと書かれている。

マツユキといえば描いた絵に一枚最低50万円の値段がつくと有名な絵師の名前だ。

会場の場所が書かれていたので確認してみれば、確かに一週間後マツユキの展覧会がある事が確認出来た。


退治の日時まで指定されており、明日の午前中に会場の近くで今宵屋の皆を待っていると書かれている。



「大蜘蛛退治に全員は必要無いけど全員ご指名か。もしかして退治した直接人数分その場で描くつもりなのか?」


「確かに儂らの人数を知らない人はおるの。」


「大蜘蛛は流石に見て叫ばない自信が無いから、私としては退治に関わりたくないんだけど。」


「私も御免だわ。」


「大蜘蛛なら儂一人で倒せるから、儂に任せておれ。コガラシだと会場を少し壊しそうだしの。」


「悪かったな、普段から荒々しくて。」



コガラシにも自覚はあったらしい。

けれど指摘されるのは嫌いなようだ。



「でもコガラシさんは優しいし、僕の髪を綺麗に結んだりヘアピンを綺麗に着けてくれるから器用だと思うよ。」


「ホタル……。ありがとうな。」



コガラシはしかめっ面から満面の笑顔になってホタルの頭を撫でる。

ホタルとしてはコガラシの良い所を言っただけのつもりなので、撫でられている理由が分からない。

けれど頭を撫でられるという行為は好きだったので大人しく撫でられた。


そこで扉が開いてドアベルの音が店内に響く。

入ってきたのは裕福そうな女性。

カウンターに真っ直ぐ向かって来たが、女性が近付くにつれて香水の香りが強烈になる。



「ごめん、ワカナ。ホタル。任せて良い?」



そう訊いてきたのはコガラシ。

顔を見てみれば真っ青だ。



「あー……。うん、ちょっと外の空気吸ってきて良いよ。」



ワカナは察したのかコガラシがカウンターから去る事を許した。

確かに女性の香りは強烈だ。

けれど顔を真っ青にする程、強い香りでも無い様にホタルは感じる。



「失礼。ここは骨董品屋でもあると聞きましたわ。大体、これはこの辺りに纏めてあるとかありまして?」


「一応纏めてはあります。」


「なら鏡を探したいのです。それはどの辺りに?」


「あっちの下の段に。」



ワカナが指した方向に女性は行く。

暫く棚に飾られている鏡達を見ると笑顔を浮かべた。

一つ、壁に掛けられるような鏡を手に取る。

様々な角度から見ると一人で頷いてカウンターへ戻ってきた。



「これを買いますわ。」


「お値段、三万五千円になります。」


「まあ、お安い!もっと高いかと思っていましたわ!」


「そ、そうですか。」



女性は機嫌が良さそうに全額出す。

ワカナは受け取ると緩衝材に包もうとした。



「あぁ!そんな事はしなくて宜しくてよ!私が大切に抱えて持って帰りますもの!外に待たせてる執事にも、これ以上待たせたら申し訳無いですもの。」


「分かりました。では、お気をつけて。」



女性は大切そうに鏡を抱える。

そして扉に向かう。

ホタルは急いで扉に向かうと女性の為に扉を開けた。



「ありがとう、坊や。」



女性はホタルに笑顔で言うと、執事と合流してリムジンに乗る。

そして去っていった。


ホタルは扉を閉めるとカウンターに戻る。

コガラシも戻ってきた。

相変わらず、顔は真っ青だ。



「あそこまでキツい香水だと鼻が馬鹿になる所だった。くそ、まだ残ってやがる……。」


「コガラシさん、大丈夫?もしかして人より鼻が良いの?」


「まあな。ハーフとは言えど狼男。少し人より鼻が良くなってるんだ。普通の狼男だったら匂いで気絶してるレベルだぞ、あれ……。」


「でも火薬とかの匂いとかは平気だよね?」


「別に日常生活や戦いで使う物に関しては平気なんだが、香水の匂いだけはどうも慣れない。多分、どこまでも強烈になっていくからだとは思うが……。まあ、世界で臭いとされてる物を他に嗅いだ事が無いから何とも言えないな。」


「まあ、あれは一般人でもキツいって思う人は思うレベルだよ。」


「それって、あの執事さん……。辛くないのかなぁ?」


「香水付け慣れている人の近くに居るんだ。鼻が慣れちまってるんだろう。」


「……あ。」



ホタルは聖女様の事を思い出した。

聖女様からも血では無い、何かの匂いが常にしていた事を思い出す。



「どうしたの?ホタル。」


「香水……だったのかな。聖女様からも良く何かの香りがしていたんだ。血の匂いじゃない、何かの匂い。あれって何だったんだろうって思って。」


「それが何の匂いかは分からないけれど、時々居るわ。何度洗っても血の匂いが落ちていない気がするから、他の匂いで誤魔化す人は。」



ツバメから、そんな答えを聞いたホタルは暫く考え込む。

それから顔を上げた。



「香水って、お洒落に使う物かと思ってたけど……そうじゃない場合もあるって事だよね。あの人は、どっちだったと思う?」


「見た所、かなり裕福そうだったから……お洒落じゃない?」


「まあ、ああいう人は高確率でお洒落だな。」


「そっか。なら良かった。そうじゃなかったら、執事さんが心配になる所だった。」


「まあ、もしも裕福そうな女性が殺人鬼なら協力者って事も有り得るけどね。」


「ワカナ。水を差すな。」


「ご、ごめん。つい……。」



そこで再びドアベルの音が店内に響く。

入ってきたのはサバと若い警察。

その二人を見た瞬間にタイミングが何て悪いんだろうと、今宵屋の彼らは思った。



「なんだか香水臭いな。誰か付けてるか?」


「付けてないっすよ。さっき来た客が香水していて、その香りが残っているだけっす。で、用は何っすか?」


「あぁ。実は人を探していてね。この顔に見覚えは無いか?」



サバは一枚の写真を懐から出す。

その写真を彼らが見た瞬間、固まった。

映っていたのは先ほど鏡を買っていった、あの女性。



「……さっき、鏡を買っていったけど。」



どうにか答えたのはワカナ。

ホタルは心配そうな表情を浮かべる。



「この人が、どうかしたんっすか?」


「今朝、遺体で見つかった。」


「は?でも、ついさっき……。」


「やっぱりか……。最近、裕福な女性を狙って次々と殺人が起きていてな。だがその時間帯に他の場所に殺された筈の人間の目撃が相次いでいた。その後、その人が住んでいた家にいる人間も全員殺されている。恐らくドッペルゲンガーだ。」


「でも元々はドッペルゲンガーって何かの病気に掛かって鏡に映った自分を他人にしか思えなくなって、死ぬから出来た超常現象の一つじゃ……。それに自分に良く似た人間は世の中に三人居るって聞いたし、ドッペルゲンガーは無いでしょ……?」



ワカナは震えた声で呟いた。



「前者だと、他人が目撃出来る訳が無いだろ。」



コガラシが、すかさずツッコミを入れる。



「最初は後者を疑ったさ。けど、同じ格好まですると思うか?同じ日付に違う場所で。しかも裕福な服をだぞ?しかも確認してみたら、あの女性が着ていた服は執事がデザインして職人に頼み込んで作って貰った奴だ。つまり、世界に一着しか無い筈なんだ。今、採寸や使ってる布を職人に確認して貰ってる。」



サバのスマホが鳴って、暫く話す。

そして切った。



「……全く同じだそうだ。」


「服の写真とか、見せて貰えるかしら?私なら、写真でも訪れた女性が着ていた服と違う所が分かるわ。」


「ツバメの観察力は知っているさ。これが写真だ。背中はザックリやられていたが正面は無事だったから、多分正面の方が分かるだろ。」



サバはツバメに女性の遺体が映った写真を見る。

暫くすると溜め息をついた。



「……なんて事。デザインは全く一緒じゃないの。」


「つまりドッペルゲンガーは妖魔として存在するって事か。」


「まあ、儂ら妖魔は人々の色々な物から産まれたとも聞く。居ても不思議ではなかろう。」



奥から顔を覗かせたコヨミは、そう言うとワカナは顔をしかめる。



「まあ、お化けとかじゃなくて良かったと言えば良かったかな。」


「ねぇ、サバさん。被害者って全員裕福な女性の他に何か共通点とか無いの?例えば見つかった後に偽物が鏡を買ってるとか、本人も鏡を何日以内に買ってるとか。」


「裕福な方ばかりに目を取られてたが……そういえば、被害者の近くには必ず鏡があったな。裕福な人は自分の容姿に気を使うから持っていても可笑しくなさそうだったし、事件に関係無さそうだと思って購入時期までは調べていない。後、偽物は遺体発見後に必ず鏡を買ってる。」


「先輩!もし購入時期が分かって、それが分ければ事前に防げますよ!」


「馬鹿か。裕福な女性なんて山程……。そういえば皆、年齢は30~50歳か。でも、それだけじゃあ防ぎようが無い。」


「……あー、じゃあ本物は香水付けていたか?凄い強烈な奴。」


「血の匂いで分からない。」


「コガラシ、あれくらいの匂いが血の匂いで分からなくなると思う?」


「うーん……そうは思えないが。なあ、俺だけ被害者の遺体を実際に見て良いか?香水の香りがするか分かると思う。」


「……犬?」


「サバ。言って良い事と悪い事があるぞ。次言ったら切り刻む。」


「わ、悪い。」



コガラシは本気の殺気をサバにぶつけた。

サバは震え上がって直ぐに謝る。



「じゃあ、連れていきましょうよ!先輩!」


「分かった、分かったから落ち着け。」


「……はーい。」


「じゃあ、行ってくるな。」



コガラシはサバと若い警察と一緒に出ていく。



「暫く待機かぁー。」


「待ちましょう。こういうのは任せるのが一番よ。」


「あの執事さん、大丈夫かなぁ?匂いがしなかったのに突然したら気付いてると思うんだけど……。それとも同じ匂いだけど匂いが強くなってるのかな?それなら匂いが分からないからって理由で納得はしそう。でも、あんなに強烈なら指摘するよね。普通。」


「指摘したくても指摘出来ないのよ、ホタル。何か主人の気に触るかもしれない事を言うのは厳禁だと思うわ。特にああいった立場の人は。」


「そっか……。」


「そういえば、聖女様は血の匂いじゃない匂いがしたと言っておったの。ホタル、どうやって聖女様が食人鬼と気付いた?答えたくなければ、答えなくても良い。」


「次々と子どもが減って、骨で見つかった。その事実だけじゃ分からなかったと思う。けどね、どうしても寝れなくて聖女様の部屋に行ったら居なくて。何処に行ったのか探していたら、音と匂いがした。泣いてる声と何かの音。それから何かの匂い。気になったからバレない様に覗いたら、そこには鬼から戻ってから泣いてる聖女様と血溜まりに沈む白い何かを見て察したんだ。」


「……良く悲鳴あげなかったね。」


「何だろう。あぁ、やっぱりそうなんだって納得しちゃったんだ。きっと、もっと前から何となく気付いてたんだと思う。僕を見る目は確かに優しかったけれど、何処か悲しそうだったから。」


「それでも傍に居たのは、やっぱり聖女様の事が好きだったからなのね。」


「うん。僕にとっては母親も同然だもん。」



そこにまたドアベルの音が響いた。

今日は良く人が来る。

今度は男性の人で店内を見て回って、置いてある商品をマジマジと眺めた。

そして花瓶を手に取るとカウンターに来る。



「お願いします。」



ワカナは慣れた手つきで会計を済ませると緩衝材に包む。

それから紙袋を出した。



「あぁ、袋は自分で持ってきているので。」


「そうですか。」



男性は鞄から袋を出すと入れて去る。

そして、ちょっとした後にコガラシ達が戻ってきた。



「どうだった?」


「香水の香りは変わらないが、匂いの強さは偽物の方が強くなってるな。因みに他の遺体も調べさせて貰ったが、全員同じ香水を付けてる。あぁ……ちょっと気持ち悪い……。匂いにやられた……。」


「ど、どんまい。コガラシ。」


「これで、かなり絞られてきた。鏡については本人達も七日前に買ってる。それと、さっきの女性の家にも急いで他の警察を手配したが全員殺られていた報告が来ている。急いで犯人が逃げ去ったのも確認したんだが誰も追い付けなかったらしい。」


「それは足が速そうな犯人ね。それで香水の銘柄は分かっているのかしら?」


「あぁ、漸く今日分かった。今までの被害者の家からは香水の瓶を盗まれていたから分からなかったんだが、今回は死にかけの執事が必死で渡してきたからな。奴はこれを狙ってきた、と呟いて亡くなったが。」


「……あの執事さん、何となく女性が本人じゃない事に気付いてたんだ。」



ホタルは呟く。



「今回は足が速そうな妖魔だし、サバに任せて良い?」


「言われなくても、そうするつもりだったさ。」


「流石です!先輩!とても頼もしく見えます!」


「でもドッペルゲンガーなんて実体あるのかしら?」



ツバメは不安そうに言った。



「ある。つか、なければ困る。」


「まあ、気を付けろよ。サバ。」


「じゃあ、世話になったな。どうなったか報告も兼ねて後日情報提供料を払いに来る。」


「あ、待って下さいよ!先輩!」



サバと若い警察は店から出る。



「妖魔の全てが実体を持つとは限らないとツバメは思ってるかの?」


「えぇ。」


「儂らとて、ここに存在して認識されている。この目で見えて何か物が持てる。実体がある証拠よ。何も見えずに何か起こったら幽霊の類いかも知れぬが、そういった物は何かを通さなければ見えないであろう?」


「そうですね。少し考え過ぎてしまいました。」


「まあ、サバが追いかけるんだから絶対に捕まるね。ドッペルゲンガー。」


「サバ以上に足が速い生き物が居たら見てみたいもんだ。」



ドアベルの音がまた鳴り響く。

客は年を重ねている様に見える夫婦。

色々見て回ると何も持たずにカウンターへ来た。



「この店には子ども用のおもちゃは置いてないのか?」


「はい。」


「そうかい。残念だねぇ。」


「しょうがないさ。大人しく、おもちゃ屋さんで新品のを孫に買ってあげるとしよう。」



二人はそう言って去っていく。

それを見送ってから、暫くするとドアベルの音が響いた。

来たのはサバと若い警察。



「え!?もう捕まえたの!?」


「ああ。俺の足にかかれば、こんなもんさ。」


「先輩!俺、先輩に一生ついていきます!」


「止めろ、恥ずかしい……。」


「見事よの。」



サバはカウンターに一万円置いた。



「情報提供料だ。これで足りるか?」


「まあ、充分じゃないかしら。」


「そうか。じゃあ、また世話になるから宜しくな。」


「ご協力ありがとうございました!今宵屋の皆さん!」



若い警察は敬礼をしてから慌ててサバを追いかける。

二人は出ていった。


その後も何人か今宵屋を訪ねてくる。

そして骨董品を買っていく。

普段、ここまで客が来る事は無い。

しかし、今日は良く骨董品が売れたのだった。


店じまいをした後、改めて売れた数を確認する。

過去最高の数を叩き出して、ホタル以外は驚く。

そして売り上げ額の少しを旅行費として貯金する事にする。

ドッペルゲンガーが目の前に現れたり、骨董品が良く売れたりとホタル以外にとっては奇妙な一日となってしまった。

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