五話
次の日。
皆で朝食を食べ、今宵屋へ行けば扉の前にサクラが立っていた。
リュックを背負っていたホタルは驚いた顔をしてから慌てる。
「サクラお姉さん!もしかして待たせちゃった!?」
「そんなに待っていないし、私が早く来ただけ!」
サクラの元にホタルは駆け寄った。
そしてコヨミ達の方を振り向く。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
彼らからの言葉を聞くと改めてサクラの方に向いた。
「それじゃあ、行こう?」
「うん!」
サクラから差し伸べられた手を取る。
手を繋ぐと歩き出した。
電車に乗って、乗り継いで。
辿り着いた遊園地は既に開いており、賑やかだ。
遊園地のマスコットキャラクターが出迎える。
表情が変わらない奇妙なキャラクターにホタルは戸惑った。
サクラは優しく手を引く。
まず最初に向かったのはメリーゴーランド。
これは終わった後、ホタルは首を傾けていた。
恐らく同じ所を回って上下に動く事への疑問があるのだろう。
そんなホタルの様子に思わずサクラは苦笑いを溢した。
次に向かったのはジェットコースター。
ホタルの身長は身長制限のギリギリ上だったので、どうにか乗れる。
二人で悲鳴をあげながらも楽しむ。
終わった後には叫び疲れていた。
お昼近くだったので遊園地内のレストランに行く。
待たずに座る事が出来て、メニューを開けばどれも美味しそうだ。
サクラは、野菜たっぷりのハンバーガー。
ホタルは、お子様ランチ。
飲み物もきちんとオーダーする。
暫くは待たないといけない。
「ホタル君。今の所は居て楽しい?」
「楽しいよ。皆優しいもん。」
「なら良かった。その……コガラシさんはあれからどう?」
「平然とした顔で仕事してる様に見えるよ。僕と一緒に行った依頼先で邪気に必死に耐えていたけど戻ってきてくれたし。」
「なんか心配ね……それ聞いてると。」
「大丈夫だよ。僕も、コガラシさんも。」
「うん。これからも大丈夫で居てね。知り合った人が居なくなるのは辛いから。」
「そうだね。気を付けるよ。僕もサクラお姉さんには辛い思いをして欲しくないもん。」
「ありがとう。」
そこに料理が丁度来た。
サクラの頼んだハンバーガーはパンを掴んで食べるという行為が無理そうな程に野菜が挟まっている。
対するホタルはオムライスの上に旗が立っていた。
頂きますを言った二人は食べ始める。
サクラは頼んだハンバーガーの野菜を減らしていく。
ドレッシングが掛かっているのでサラダを食べているような感覚だ。
漸く挟んで食べる事が可能そうな範囲まで来ると手で持つ。
食べれば逆の方からトマトの汁やドレッシングが垂れた。
パンは乾燥でもしていたのか、パサパサしている。
けれどドレッシングや野菜の汁で、接触面はしっとりしていた。
ドレッシングの味は濃く、野菜だけで食べていた時にも濃かったのでサクラは少し悲しくなる。
纏めてしまえば、味付けが濃くて美味しくないのだ。
サクラは思わず、一緒に頼んだドリンクをアイスティーにして正解だったと思った。
そしてホタルの方を見ると彼の表情も、けして良い物では無い。
「……サクラお姉さん。これ、食べ終わったらアイスティー飲ませて。飲み物をオレンジジュースにしたのは失敗だった。」
「しょっぱいのね。」
「……うん。」
残さずに食べるとサクラからアイスティーを分けて貰った。
暫く食休みすると席を立ってサクラが会計を済ませる。
味はともかく礼儀として、ご馳走さまと言った。
気分を変える為に二人が次に向かったのはスクリーンの映像に合わせて席が動くアトラクション。
話の内容は自分たちが乗っている宇宙船が化け物に襲われたという物。
最終的には化け物を倒す為の戦闘機が化け物を倒して危機が過ぎ去った。
化け物のデザインがタコを緑色にしただけのような感じだったのは、気にしてはいけない部分なのだろう。
次に向かったのはトロッコのような物に乗って建物内部に設置された的を専用の銃で撃つ。
サクラもホタルも的にあまり当てられなかったので顔を見合わせて苦笑いしてしまった。
看板に歴代の点数も掲載されているが上位の人々の点数は正直言って可笑しいと思わせるくらい。
世の中には凄い人が沢山居るという事だ。
そこから近くのフリーフォールに向かう。
長蛇の列だったので二人は、しりとりしながら待った。
乗ってからは二人仲良く悲鳴を上げ、終わった頃には二度と乗らないと決意する。
怖い物は怖いのだ、仕方ない。
気分転換に建物内を巡るアトラクションへ。
色々眺めつつも、気分を落ち着かせる事が出来た。
そこから出ると甘い香りがしたので、匂いに釣られる。
そこにはクレープ屋があった。
サクラは一つ頼むと数口食べてから頷く。
「美味しいよ、ほら。食べてみて。」
「うん。」
サクラから受け取ると食べる。
口の中にホイップクリームの甘さと苺の甘酸っぱさが広がった。
「どう?美味しいでしょ? 」
「美味しい!」
「ご飯はああだったけどスイーツは普通で良かった。」
「サクラお姉さん。あーん。」
ホタルはクレープをサクラに向ける。
サクラも甘んじてクレープを食べた。
「ふふ、なんだか不思議。人に食べさせて貰うなんて、あんまりしなかったから。私からもさせて。」
「うん。」
ホタルはサクラにクレープを手渡す。
彼女はクレープをホタルに向けた。
「はい、あーん。」
ホタルも遠慮無く一口食べる。
サクラが最後の一口を食べてホタルを見れば口の周りはクリームだらけだ。
多分、自分もそうなんだろうなと気付いたサクラは軽く赤面する。
「一回、お手洗い行こうか。お互い、口の周りがクリームまみれだろうし。」
「そうだね。」
ホタルも釣られて赤面した。
近くのお手洗いに入り、二人は口の周りのクリームを洗い落とす。
二人は合流すると、お化け屋敷へ向かう。
本物の妖魔が居るというのに、お化け屋敷という物は変わらず存在する。
最後まで驚かなかったホタルはサクラと手を繋いで、彼女を落ち着かせた。
他のジェットコースターにも向かうがホタルの身長が足りずに断念。
二人で楽しめそうな所で謎解きしながら迷路を抜ける物をやった。
問題はトンチが効いた物からダジャレまで。
どうにか抜ける事は出来たが、もうやるものかと二人して思った。
一通りアトラクションを楽しめた二人は、お土産屋を覗く。
ホタルは今宵屋の皆に向けてのお菓子を考える。
ふと目に映ったのはペアのヘアピン。
デザインは桜の花でピンクと水色のセット。
ピンク色の方がサクラに似合いそうだとホタルは思った。
「サクラお姉さん。ちょっと来て、屈んで。」
「何?」
サクラはホタルに言われた通りの体制になる。
ホタルは慣れない手つきでピンク色の桜の花のヘアピンを付けた。
「うん、やっぱりサクラお姉さんに似合った。」
サクラは疑問に思って近くの小さな鏡を覗く。
それから納得した顔をしてから水色の桜の花のヘアピンを手に取ると、ホタルに付ける。
「これでお揃いだね。良く似合ってるよ。」
「じゃあ、記念に買って付けようよ。」
「そうしようか。私が払うよ。」
ホタルは今宵屋の皆へのお土産を買った。
お金をある程度用意してくれたツバメに内心感謝する。
サクラはヘアピンを買うと、お互いに付けあった。
「随分時間掛かっちゃったね。もうすぐ夜のパレードの時間だから、それだけ見たら遊園地から出よう?」
「うん。」
「それから晩御飯も食べようか。お昼のリベンジって事で。」
「確かに味があれだったもんね。」
「それじゃあ、行こうか。」
サクラとホタルは手を繋ぐ。
丁度前の方に立つ事が出来た二人は、行われたパレードを見る。
色鮮やかなイルミネーションに飾られた移動式の舞台。
その上で踊るマスコットキャラクター達。
移動式の舞台を繋ぐ様に踊り子達が踊って、人々に優しく笑いかける。
通り過ぎたのを確認するとサクラはホタルを連れて走り出した。
辿り着いたのは遊園地の中心にある大きな舞台。
きらびやかな光が移動式の舞台を歓迎する。
キャラクター達が移動式の舞台から移動して大きく踊った。
演出の為にステージ端から火が上がる。
流れていた音楽は盛り上がり、そして盛大な終わりを告げた。
それと共に鮮やかな花火が幾多にも打ち上げられる。
幻想的な風景に二人は見とれた。
まるで別世界へと入ってしまったかのような感覚さえ覚える。
けれど、それは一瞬の事で後に残るは静寂。
やがて静寂を打ち破る様に拍手が響く。
二人も無我夢中で拍手を送った。
満足するまで拍手をした二人は顔を見合わせると帰り道へ。
駅の近くにある飲食店に入り、晩御飯を食べる。
こちらは普通に美味しかったので、ほっとした二人だった。
電車を乗り継いで今宵屋へ。
その道中は遊園地のアトラクションについての話で盛り上がる。
到着すると店の中へ入った。
「いらっしゃい……って、ホタルとサクラさんか。」
「ただいま!皆にお土産買ってきた!」
「お帰りなさい。楽しめたみたいね。」
「うん!すっごく楽しかった!」
ホタルは皆に駆け寄ると、お土産をコヨミに渡す。
「皆の分だけどコヨミさんが社長さんだから。」
「そうよな。後で皆で分けるとしよう。」
「そのヘアピンどうしたの?」
「サクラお姉さんとお揃いなんだ。ね?」
「そうね。ホタル、今日はありがとう。」
「それは僕の台詞だよ。ありがとう、サクラお姉さん。」
「ふふっ、どう致しまして。ホタルを送ったので私も帰ります。」
「もう夜遅いから家の近くまでは送らせてくれ。世の中物騒っすから。」
「……そうね、お言葉に甘えさせて貰います。じゃあ、またね。ホタル。」
「うん!またね!サクラお姉さん!」
サクラはコガラシと共に今宵屋を出る。
出ていく時にサクラはホタルに手を振った。
ホタルも笑顔で手を振り返す。
やがて扉が閉まった。
夜道をサクラとコガラシは歩いていく。
車の通りは少なく、女性一人で歩くのには物騒な程に静かだ。
暫く無言が続くと、静寂を破ったのはサクラだった。
「ホタルは……どうして今宵屋に居るんですか?」
「いきなり、どうした?」
「いえ。ホタルは見た所、普通の人間ですから気になりまして。」
「……ある依頼を頼んできたのがホタルだった。その依頼の内容は自分を育ててくれた妖魔を倒して欲しいって内容だ。俺達は妖魔を倒して依頼料として貰った物が内容に対して高かったから保護している。」
「……そう、ですか。」
「因みに俺達がホタルの名付け親だ。」
「不思議な関係だったみたいですね。ホタルと彼を育てた妖魔は。」
「でもホタルもその妖魔もお互いに家族みたいに思ってたのは違いないと思う。俺達もいつか、ホタルとそういう風な関係になれたらって思ってる。」
「……なれますよ、きっと。」
「……なんだか、相談になっちまったな。」
「あ、この辺りで充分です。このマンションなので。」
「そうか。」
新しくもなければ古そうでも無いマンション。
そこまで階層がある様にも見えない建物にサクラが住んでいる家があるようだ。
「送って下さり、ありがとうございました。」
「こっちこそ、ホタルを楽しませてくれたり相談みたいなのを聞いてくれてありがとう。ホタルと一緒に歌を聴きに行くから、またな。」
「はい。また会いましょう。」
サクラは嬉しそうに笑ってからマンションの中に入っていく。
コガラシは背を向けて今宵屋へと急いだ。
一方、コガラシとサクラを見送ったホタルは欠伸をする。
それを見てコヨミは微笑む。
「今日は楽しかったみたいよの。大分疲れているようだ。」
「うん……流石に眠いや。」
「晩御飯は食べてきたんでしょう?荷物とか片付けておいてあげるから、お風呂入って寝なさい。」
「うん、食べてきたよ。眠いけど片付けまで、ちゃんとしたい。」
「……分かったわ。それじゃあ、一緒にやりましょう。」
ツバメと一緒にどうにか荷物を片付ける。
コヨミに連れていかれて、一緒にお風呂に入った。
サクラとお揃いのヘアピンを眺めて笑顔を浮かべる。
無くさないような場所に置いて、布団に入れば直ぐに寝てしまった。
コガラシが今宵屋に戻ってくる。
「ただいま……って、ホタルは?」
「寝ちゃったよ。疲れてたみたい。」
「ふむ……それなら中々起きない筈。今から皆でホタルを何処かに連れて行こう計画を立てるぞ。」
「遊園地は流石に無理ね。後、子どもが興味ありそうな場所といえば水族館や動物園かしら?」
「プラネタリウム……は眠くなりそうか。博物館とか美術館は……どうだろう?やっぱり内容によるか。」
「映画……はホタルの興味が何か分からないし。」
「ホタルは見た目よりは精神年齢が上だから難しいのぅ。いっそ本人に訊いてみるのも手かもしれぬ。」
「えー、でもサプライズ的な感じがしたい。」
「サプライズといえば誕生日とか多分、分からねぇよな。俺達も忘れてるけど。」
「そうね。誕生日は無理だけどクリスマスならサプライズ出来るんじゃないかしら?何か皆でプレゼントしてあげましょう。」
「じゃあ、一回ホタルに何処に行ってみたいとか訊いてみる事にするかの。それでクリスマスのプレゼントはサプライズ。それで決まりとしよう。」
「プレゼントの内容とかは後々決めていこう。」
「よし、決まりだ。」
コヨミが手を出せば、皆が重ねていく。
「ホタルを喜ばせるぞ。おー!」
重ねた手は一定距離降りると離れた。
そして彼らは大人しく解散し、眠りにつく。
次の朝。
全員が起きて朝食が終わった頃。
コヨミは早速切り出してみる事にした。
「のう、ホタル。お主は何処か行ってみたい所とかあるかの?」
「え?なんでいきなり?」
「お主と一緒に儂らも何処かに行きたいと思っての。」
「私達もホタルと思い出を作りたいの。先を越されちゃったし。」
「うーん……。」
「遊園地はサクラと被るから、出来るだけ違う所な。」
ホタルは暫く考え込むと何かを思い付いた表情をする。
「ねえ、僕の名前って昆虫の蛍から取ってるんだよね?きっと。」
「……あー、まあそうね。」
「だったら僕、皆で蛍を見に行きたい。」
「蛍か……。じゃあ、その時期になったら蛍が見れる場所まで皆で行きましょうか。」
「そうだな。」
こうして皆で蛍を見に行く予定が立ったのだった。
皆で店の方に降りると、そこには人と大きな翼が生えた馬が居る。
「お、珍しく郵便か。」
「おはようございます。今宵屋の皆様。手紙を届けに参りました。」
コヨミは郵便局の人から直接手紙を受け取った。
「ねぇ、その馬ってペガサス?」
「はい。そうですよ。……見慣れない顔ですね。」
「まあ、ちょっと訳ありでの。」
「なるほど。深くは聞かない事にします。」
「凄いね、初めて見た。」
「郵便配達をしている私達と直接会った事は無いようですね。私達はペガサスに乗って手紙を届けております。車やバイクよりも空を飛べる分、遠回りせずに済むからなんですよ。ペガサスに乗っているのは。」
「ねぇ、触っても平気?」
「ええ、人に慣れていますので平気です。頭を撫でてあげて下さい。」
郵便局の人がペガサスを移動させ、ペガサスはホタルが撫でやすい位置まで頭を下げる。
ホタルは不器用ながらも優しく頭を撫でた。
サラサラとした毛並みが触り心地良く、思わずホタルの顔は綻ぶ。
ペガサスも心地良さそうに目を細めた。
「どうですか?触り心地が良いでしょう?」
「うん、凄くサラサラしてる。ありがとう、お兄さん。ペガサスさん。」
ホタルは満足して手を離す。
ペガサスは少し名残惜しそうにしたが頭を上げた。
「どういたしまして。では、次回の配達の時に会いましょう。」
郵便局の人はペガサスの背中に乗ると飛び去る。
「じゃあ、店の中に入って手紙を確認するとしようかの。」
彼らもまた、店の中に入っていったのだった。




