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今宵屋  作者: 深海魚
4/12

四話

顔合わせの翌日。

廃校の前に荷物を持ってコヨミ達は立っている。

既に廃校を囲む様に点々とパトカーが駐車してあり、全員緊張した表情だ。


マダイがクエを肩車して双眼鏡を覗く。



「向こうも戦う気みたい。小道具用意してる。」


「はい、スコープ越しに確認したよ。ライフル持ちが顔を覗かせてる。突入したら一斉射撃ってつもりかな?この距離で撃ってこないなら手慣れてはいないかも。ぎこちないし。」


「油断させる為の演技かもしれないから油断は出来ないわね。その時の為に社長は既に忍び込んでるわ。」


「流石。」


「ライフル構えてるのは窓から顔を覗かせているのが全員。教室の一つの部屋につき、五人。拳銃は異能者しか持っていない。クエ、異能者の場所と能力は把握した。共有する。」



マダイはクエから双眼鏡を受け取る。

クエは目を閉じてから頷くと目を開いた。



「素早く全員撃てる?ワカナちゃん。」


「任せて。合図貰ったら五秒未満で奴らを黙らせてあげる。」


「突入準備。私達の作戦はワカナちゃんが撃ったら突入。建物に入ったら異能者は無力化させる。私の異能が効いている内に異能者は抑えて。」


「私達は警察に異能者を任せて、妖魔を抑えましょう。異能者を抑えるのを阻止しようとする筈だから、阻止される前に阻止するわよ。」


「了解。」


「じゃあ、作戦開始!」



クエの大きな声が響くとワカナは素早く撃っていく。

事前に人が居る位置を覚えておいたから出来る事だろう。



「全員倒れた!」


「突入!」



警察が次々と入っていく。

ワカナは銃を素早く片付けると突入していたツバメ達に追い付く。



「コガラシ、ワカナ。ホタルの事をお願いするわ。」



ツバメは走る速度をあげて校庭から学校の中へと入る。



「ワカナ。ホタルの手を繋ぐのは、お前に任せる。俺は戦い方の関係で無理だからな。」


「任せといて!ほら、ホタル。」


「う、うん。」



ワカナから差し伸べられた手をホタルは握った。

そして中に突入する。

そこからは、あっという間だった。


次々と異能者は捕らえられ、妖魔は倒れる。

やがて全部片付くと、約束通り中学校の中を見てまわった。

特に爆弾などは仕掛けられていなかったのを確認すると解散となる。

異能特務課の人々と別れ、コヨミ達は寄り道をした。


交差点の近く。

そこにある古い大判焼き屋。

コヨミと店員と目が合うと、店員は慌てて違う店員に話し掛けた。

どうやら、話し掛けられている店員は店主のようだ。


店主がレジに立つ。



「また来たぞ。いつものを五つ頼む。」


「五つ?……あぁ、一人増えたのか。」


「初めまして。」



店主の視線を受けてホタルは慌てて挨拶した。



「おう、初めましてだな。じゃあ、ちょっと待っててくれよ。今日は新しい顔が増えてるんだから気合いを入れて作る。」


「いつもは気合いを入れてないというのか?」


「言葉の綾だよ!いつだって全力さ!」



店主は手際よく大判焼きを五つ作る。

良く見えないホタルは気になって跳び跳ねていれば、コガラシが見える場所まで持ち上げた。

やがて良い香りが漂い、大判焼きが出来上がる。


コガラシはホタルを降ろした。

コヨミがお金を払うと紙に包まれた大判焼きを受け取って配る。



「熱いから気を付けるのだぞ?」


「うん。」



ホタルは慎重に大判焼きを受け取った。



「それじゃあ、頂きまーす。」



ワカナが食べ始めればコヨミやツバメ、コガラシも食べ始める。

ホタルはそれを見てから大判焼きをマジマジと見つめた。



「……頂きます。」



恐る恐る口にすると、確かに熱い。

口の中で必死に冷ましながらも味わう。


厚めの生地は外がサクッとしておりながらも中はフワフワで、微かにバターの香りがする。

つぶ餡は甘すぎず、生地のバターによる塩気がつぶ餡の甘みを引き立てていた。


つぶ餡に少々苦手意識があったホタルだったが、苦手意識はあっという間に無くなる。

最後まで無我夢中で食べ、食べ終わった頃には幸せそうな顔になっていた。



「ご馳走さまでしたっ!凄く美味しかった!」


「お、ありがとうな。小僧。」


「ホタル。頬っぺたに餡付いてる。」



ワカナがホタルの頬っぺたに付いてた餡を指で取ると舐める。

ホタルは少し赤面した。



「やはり大判焼きなら、お主のが一番よ。」


「よせい。照れるじゃねぇか。」


「事実を言ったまで。また食べにくるから、その時は宜しく頼むぞ?」


「任せとけ。」



大判焼きを食べ終わった彼らは戻る。

すると今宵屋の入り口に困った表情をした男性が立っていた。



「いらっしゃい。今宵屋に用があるみたいだが違うかの?」


「違わないです。」


「なら、中に入ってから聞くぞ?」



コヨミ達と一緒に男は今宵屋の中に入る。

カウンターまで行き、コヨミ達がカウンターの向こう側に立つ。

それを確認した男は深呼吸をした。



「……今宵は邪が出ます。」


「どういった内容なんだ?」


「私の実家には座敷わらしが居るのです。私も彼女の存在は把握していて良くご飯等を共にしておりました。ですが会社が忙しくなり出張が重なって無茶をした結果、長期入院をしてしまいまして……。定期的に会っていた彼女と長い間、顔を合わせてあげられる事が出来なかったのです。そして久しぶりに顔を見に言ったら彼女は呪いを溜め込んでしまっていた……。私が不甲斐ないばかりに彼女を座敷わらしから別の何かにしてしまったのです。」


「どれくらい、顔を合わせられなかったのかしら?」


「五年です……。五年もの間、彼女を一人にしてしまった。私は……呪いによって変わってしまった彼女を元に戻そうと接触を試みたのです。けれど私の事は分からず、そして自身の呪いによって苦しんでいる様に見えました。彼女を失いたくはありません。けれど、あのまま苦しませるのはもっと嫌なのです。ですから、どうか……彼女を殺し、呪いから解放してやって下さい。」


「確かに穢れてしまった者は、一般的に殺すしか無い。でも本当にそれで良いの?」


「構いません。覚悟は出来ております。」


「分かったわ。」


「……ありがとうございます。これが依頼料になります。」



男は財布から五万円を出す。



「充分過ぎるくらいね。さて……誰が適切かしら?」


「ねえ、お兄さん。」


「お兄さんって年でも無いが……どうしたんだい?」


「座敷わらしさんは女の子なんでしょ?どれくらいの年頃なの?」


「丁度、君くらいかね。寂しかったのか、良く私が飲み会後は機嫌が悪かったよ。香水の匂いがする、落としてきてって良く言われたっけ。私は香水なんか付けていないんだがねぇ。」


「女性で香水付けてる人は居るか?」



ホタルの質問に答えた男。

その男の台詞で気になった事を訊いたコガラシの中で仮説が立っていた。

もしかして、座敷わらしは嫉妬していたのではないかと。



「居ましたよ。何人か。」


「じゃあ、機嫌が悪かったのは他の女の人の匂いがするのを許せなかったからだな。」


「……嫉妬ですか?彼女が?どうして?」


「あくまでも仮説だ。もし呪いに蝕まれている状態でも言葉が届きそうなら直接座敷わらしに訊け。」


「今、聞いた情報から察するにツバメとワカナは避けておいた方が良さそうかの。コガラシとホタルに任せても良いか?」


「うっす。任された。ホタルも良いか?」


「良いけど僕、何も出来ないよ?」


「同い年くらいの子どもが居た方が話が通じるかもしれないだろ。」


「そうかな?じゃあ、一緒に行く。」


「では案内しますので、宜しくお願いします。」



コガラシとホタルは男と一緒に今宵屋を出る。

男に案内されたのは古そうな家。

入っていけば空気が淀んでいるのが分かる。

家に上がれば、どことなく暗い。



「彼女は、恐らく彼女専用の部屋に居ます。二階の一番奥の部屋ですね。」


「分かった。」



コガラシとホタルは手を繋ぎ、男についていく。

二階に上がれば邪気は酷くなっており、コガラシは顔をしかめる。

コガラシにとって、長居すれば自分が向こうに引きずりこまれそうになる程だ。



「コガラシさん。痛い。」


「……ごめん。」



いつの間にか強く握っていた手。

コガラシは慌てて手を離したら、ホタルはコガラシを見つめる。

両手でコガラシの片手を包む様に持った。



「コガラシさんは、ここに居て。僕と、この人で行ってくるから。」


「平気か?」


「少なくとも、今のコガラシさんに言われたくないかなぁ……。辛いんでしょ?僕だって今度はコガラシさんをきちんと止められる自信は無い。だから、お願い。もう、ああいう思いするのは嫌だから。」


「……悪い。何かあったら呼んでくれ。」


「そこは約束する。」



コガラシは階段を降りる。

男は心配そうな表情だ。

ホタルはあえて、それを無視すると問題の部屋の扉を開けた。

中から淀みきった空気が流れ込む。


ホタルは恐れる事も無く、部屋に入る。

辛うじて見えた座敷わらしだった少女。

彼女はホタルと男を見る。

ホタルは彼女に近付く。



「座敷わらしさん、聞こえる?」


「……近付かないで!」


「どうして?」


「貴方が邪気に焼かれるから。折角……演技で遠ざけたのに、どうして連れてきたの!?私は……私を忘れてしまいそう!その前に……!」


「この人は、座敷わらしさんの事を凄く心配してる。だからこそ、ここに居るんだよ。」


「……全て私の為にあんな事まで。私が全部受け止めるんじゃ駄目か!?そんなに私は頼りないか!?私は長い間、君を一人にしてしまった事を凄く後悔しているんだ!もっと、どうにか出来た筈なのに君を……!」


「嘘つき!後悔なんかしてない癖に分かったような振りをしないで!」



座敷わらしは邪気を束ねて男を突き飛ばす。

男は壁に激突すると気絶した。

男の首を絞めていく。



「本当に、それで良いの?」



ホタルは静かに問いかける。



「私は、この人なんて大嫌い!」


「本当に嫌い?」


「殺したい程、憎んでる!」


「だったらなんで、泣いてるの?」



座敷わらしはハッとした表情で頬を触る。

頬は濡れていた。



「どうして……?」



ホタルは座敷わらしにゆっくりと近付く。

そして涙を拭うと、そっと抱き締めた。



「……もう、大丈夫だよ。」


「は、離れて!貴方が邪気で焼かれるから離れて!」


「嫌。寂しくて辛かったんでしょ?独りが苦しかったんだよね?」


「……。」



座敷わらしから放たれる邪気は穏やかになり、彼女は大泣きする。

ホタルは慰める様に背中を優しく叩いていく。

やがて気絶していた男は目を覚ます。



「……これから先、君を一人にさせないと誓うよ。病気とかしない様に極力するし、仕事の都合よりも君を優先する。君を失いそうになった時、私は堪らなく恐ろしかった。そんな思いは二度としたくない。」


「……私こそ、ごめんなさい。苦しさや辛さから逃げて、貴方を疑うなんてどうかしてた。」



泣き止んだ座敷わらしから邪気は抜け、黒く染まっていた和服は鮮やかな色を取り戻した。

ホタルは離れると座敷わらしは男に駆け寄り、抱き締める。

暫く二人きりにした方が良さそうだと判断したホタルは一階へ降りた。


一階にはコガラシが居る。

だが頭を抱えて何処か遠くを見ながら座り込んでいた。



「コガラシさん?大丈夫?」



話しかけても反応は無い。

コガラシはボソボソと呟いているが、その内容を聞き取る事も出来なかった。

ホタルはコガラシの頬をそっと包む様に触れる。

驚いた様に肩が動くと瞬きを二、三回してホタルを捉えた。



「コガラシさん。大丈夫、いつものコガラシさんのままだよ。」


「……悪い。」


「こういう時に謝られても困るよ。」


「……それも、そうか。ありがとう、ホタル。」


「うん、どういたしまして。」



ホタルがコガラシの頬から手を退けると、コガラシはホタルを抱き締める。



「……迷惑かけてばっかだな、俺。でも、もう少しだけこうさせてくれ。」


「全然気にしないよ。困った時はお互い様って言うでしょ?」


「……そうだな。」



暫くコガラシはホタルを抱き締め、気が済むと離れて立ち上がった。

そして当たり前の様に手を繋ぐ。

そこに丁度、上の階から二人が降りてきた。



「……この度は、ありがとうございました。」


「俺は何もしてないっすよ。ホタルが頑張ってくれた結果が、こうだった。それだけっす。」


「ねぇ、ホタルっていうんだよね?君。」


「うん、そうだよ。」


「……火傷とかしてない?邪気に触れた訳だし、心配。」



ホタルはコガラシと繋いでる手を離し、座敷わらしに両手の手のひらを見せる。

怪我らしい物は無い。



「良かった。怪我とかしてなくて。」


「君が居なければ私達は、また二人で暮らせなかったでしょう。正直、私も諦めていました。本当に、良かったです……。」


「貴方達に幸せが沢山来る事を信じてるよ。」


「じゃあ、帰ろうか。ホタル。」



コガラシとホタルは二人に向かって、お辞儀する。

再び手を繋ぐと家を出た。

帰りの道中で駅前に寄れば、サクラが歌を歌っている。


既に周囲には人だかりが出来ており、サクラが二人に気付く事は無い。

アコースティックギターを奏で楽しそうな表情で歌う。

それに耳を傾ける人々は皆、笑顔だ。

やがて歌い終わると拍手が沸き起こり、人々はギターケースにお金を入れていく。

二人も近付くと流石にサクラは気付いた。



「聞きにきてくれていたんですか?」


「歌、上手いっすね。思わず聞き惚れていた。」


「だって練習しましたもの。あ!ねぇ、ホタル君だったよね?」


「うん。僕はホタルだよ。」


「実は常連の人から遊園地のチケット貰ったの。二枚だけど。だから、ホタル君の好きな人と一緒に行って。」



ホタルはサクラからチケットを二枚受け取ると一枚をサクラに戻す。



「サクラお姉さんが貰ったんでしょ?だったらサクラお姉さんが行かなくて、どうするの?それに僕はチケットが二枚ならサクラお姉さんと一緒が良い。」


「……良いの?今宵屋の誰かとじゃなくて。」


「コガラシさん。いつか皆で一緒に行こうよ、遊園地。今宵屋の誰か一人とじゃなくて皆で行きたい。だから今回はサクラお姉さんと一緒が良い!」


「なら、俺達は皆で遊園地なり何なり行ける金を貯めておいてみせるさ。」


「ありがとう。私もホタル君ともっと話したかったから丁度良かった。明日の朝、迎えに行くから出掛ける用意しておいてね。」


「うん!それじゃあ、また明日!」



サクラと別れ、二人は今宵屋に戻る。

そして明日の事を告げた。



「……その、嬉しくて勝手に返事しちゃったけど大丈夫だった?」


「文句なんて言わないよ。私達じゃ、遊園地に行かせるなんて無理だろうし。」


「無理じゃなかろう。儂らも負けずとホタルを何処かへ連れていきたいの。ホタル、明日は楽しんでくると良い。」


「そうしたら出掛ける為の荷物を用意しておくわ。何持っていけば分からないんじゃないかしら?」


「あ、うん。分からないけど自分で準備したいから教えて。ツバメさん。」


「分かったわ。」



ホタルはツバメに習いながら荷物を用意する。

晩御飯はコガラシが用意した。

ご飯は基本的に手が空いてる人が用意する事になっている。

なのでホタルを除く全員、料理が出来た。


全部用意すると出来上がった晩御飯を食べる。

ホタルは夜更かしする方でも無かったので、至って普通の時間に寝た。

彼は楽しみな事があるからと言って興奮して眠れないタイプでは無かったようだ。

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