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今宵屋  作者: 深海魚
2/12

二話

今宵屋は骨董品店と妖魔と呼ばれる者達を狩る業務を掛け持ちしている。

妖魔とは基本的に人の姿をしていながらも、人ならざる者達の総称。

彼らの全てが悪では無く、人と同じ様に個性豊かだ。


妖魔としての本性を楽しむ者もいれば、聖女様と呼ばれた者の様に苦しむ者も居る。

今宵屋は悪事を働き世間を困らせている、そういった妖魔を狩っていた。


今宵屋の社長、ぬらりひょんのコヨミ。

今宵屋の副社長、サキュバスのツバメ。

今宵屋の従業員、半狼男のコガラシとキョンシーのワカナ。

たった四人だけで毎日の様に転がり込んでくる依頼を解決している。


勿論、警察も動いていない訳では無い。

だが不思議な力を持った異能者と呼ばれる人々による犯罪が多く、妖魔達の起こす犯罪まで手が付けられないのだ。

サバも異能者による犯罪を取り締まる異能特務課と呼ばれる所に所属しているが、同時に妖魔犯罪取締り課にも所属している。

つまり、圧倒的に人手不足なのも原因だ。


今宵屋は警察にとって非常に有り難い存在になっている。


閉店した今宵屋の建物の二階、少年は聖女様から貰ったペンダントをツバメからコツを聞きながら綺麗にしていた。

血が付いたままだと痛みやすいとツバメが言ったら少年が自分で綺麗にしたいと言ったのが原因だ。

因みに四人は、改めて少年への自己紹介を済ませている。



「出来た!」


「上手に出来たわね。」


「教えてくれて、ありがとう。ツバメさん。」


「どう致しまして。」



二階は彼らの居住スペースになっている。

掃除や洗濯、料理は当番制だ。



「ところで少年。お主に名前はあるのか?」



コヨミの問いに少年は首を傾ける。



「いつも少年とかチビとか呼ばれていたから、あるって言えばあるのかな?」


「そういうのを除いたら?」


「無いよ。」



少年は首を横に振った。



「と、いう事は少年の名前を考えないとだね。このままじゃ、不便だし。」


「賛成。俺達で考えて決めようぜ。」


「少年もそれで良いか?」



少年は暫く俯くが、顔を上げる。



「うん。楽しみにしてる。」



幸せそうで、嬉しそうな表情。

少年の顔を見て彼らは必ず良い名前を付けると決心した。

そして少年が寝た頃に彼らは筆談で様々な名前を考えていく。


コヨミが書いた一つの名前が一番良いという話になり、少年の名前をそれに決める。

彼らは決まった事に安心し、そして少年を喜ばせようと作戦を立てた。

浮かべている表情は、悪戯を仕掛けようとしている人のようだ。

そんな彼らの企みも知らずに少年は眠りこけていた。


次の日の朝。

皆で朝食を食べた後、一階に降りる前。

少年に向き合うような形で彼らは立っている。

不思議そうな表情を少年は浮かべていた。



「昨日の夜、少年が寝た後に皆で名前を考えた。」


「皆で出し合って最終的に皆で良いって思った名前なの。」


「だから気に入ってくれると嬉しいのだけれど。」


「じゃあ、少年の名前を俺達で一斉に呼ぶぞ。せーのっ。」



四人は息を揃えて少年の名前を呼ぶ。



「「「「ホタル。」」」」



名前を呼ばれた少年は暫く驚いたかのような表情を浮かべる。

彼らは緊張して少年を見つめた。

気に入ってくれるかが心配なのだ。


やがて少年の両目から涙が零れる。

次から次へと零れていく。

彼らは慌てた。



「も、もしかして嫌だった!?」


「……ううん、違う。違うの。」



少年は慌てた様に涙を拭いながらも首を横に振る。



「僕、凄く嬉しい。嬉しいのに、涙が止まらなくて。」


「それは嬉し泣きって奴かの。」


「……変なの、嬉しいのに泣くなんて。」


「別に変な事でも無いわ。人は悲しい時に涙を流すけれど、嬉しい時にも涙を流すのよ。」


「そっか。……名前、ありがとう。大切にするね。」



少年、ホタルは泣きながらも嬉しそうに笑った。

それを見て彼らも思わず顔を見合わせてから嬉しそうに笑う。

どうやら、彼らの作戦は上手くいったようだ。



「さて、仕事の時間かの。」


「あの、僕にも手伝わせて。ちゃんと覚えるから。」



ホタルは駄目元で頼む。

彼らの役に少しでも立ちたいのだ。



「駄目なんて言う訳無いでしょ?仕事の事を教えてあげる。」


「届かない所とかは背が高い俺にでも任せておけ。」


「確かにコガラシが一番背が高いものね。」


「じゃあ、一階に行くぞ。ホタル。」


「うん!」



そんなホタルの気持ちを察したのか、彼らは許可した。


皆で一階に降りて店内を掃除する。

主にワカナがホタルに対して掃除のコツ等を教えた。

掃除を終えて店の入り口に掛けてある札を閉店中から開店中へと変える。

カウンターに入ると用意されている椅子に座った。



「どう、ホタル。覚えられそう?」


「うん、大丈夫。」


「なら良かった。あんまり人に教えた事が無かったから、分かりやすく説明出来たか不安でさ。」


「ワカナさんの説明、凄く分かりやすかったよ。聖女様が掃除について説明した時なんてサッと掃いてガーッと拭くだったから、それに比べたら。」


「案外、聖女様って大雑把だったのね……。」



聖女様とホタル達から呼ばれては居たが、性格は大雑把。

子ども達を食べてしまっていた罪悪感から神様に懺悔を繰り返していたが、謝る対象が欲しかっただけであって神様を信仰している訳でも無かった。


世の中にある聖女のイメージから離れた性格だったが、彼女の子ども達を思う気持ちと子ども達に対する態度はそれに近かったのかも知れない。

悪いのは彼女では無く、彼女の中に居た鬼でしか無かった。

彼女自身は良い人だったのだ。



「そんな所が僕達は好きだったんだけどね。」



店の扉が開いてドアベルが鳴る。

そこで初めてホタルは扉にドアベルが付いていた事に気が付いた。

それだけ、ここを訪れた時は緊張していたのだろう。


扉を開けて店の中に入ってきたのはギターケースを背負った女性。

顔色は何となく悪い。

並んでいる骨董品には視線すら移さず、真っ直ぐカウンターへ来る。



「いらっしゃいませ。」


「今宵は邪が出るぞ。」


「……どんな依頼ですか?」


「目の前で妖魔に人が誘拐されたの。その人は、いつも私の歌を聴いてくれる人だから助けたくって。」


「最近、人間が行方不明になる事件が多発していたわね。関係あるとしたら、放っておけない。」


「妖魔の特徴とか分かります?」



コガラシはメモの用意をした。

女性はギターケースにあるポケットからスマートフォンを取り出すと画面を見せる。

その画面には数人の男達が映っていた。



「……まさか、写真を撮っていたなんて。バレたら貴方も危なかったよ?」



ワカナは女性に指摘する。

女性は苦笑いを溢したので、危ないという自覚はあったのだろう。

コガラシはマジマジ画面を見つめると溜め息を吐いた。



「あー、あいつらかぁ。」


「知っているの!?」



コガラシの呟きに女性は動揺する。



「コイツらは狼男で人間を殺す事を楽しみにしている罪悪のグループだ。まさか、あんな重症負わせておいて生きてるとはなぁ……。やっぱ、確実に殺すなら銀の弾丸くらい必要だったか。」


「コガラシの知り合いなの?」


「一応な。憎み合う仲って奴だ。」


「あの時みたいな非人道的な事は、やらないわよね?」


「大丈夫っすよ、副社長。あの時に済ませる気は全部済ませたつもりっすから。」



コガラシは苦笑いを溢す。

それを見てもツバメは不安そうな表情をしたままだった。



「知り合いという事は、大体居る場所が分かっているのよね?お願い、助けて。依頼料は、これで。」


「……これは随分と古い限定硬貨ね。綺麗に磨かれているわ。依頼料としては充分よ。」


「良かった。足りて。」



女性は安堵して呟く。



「あいつらのアジトは駅近くの幽霊が出るって噂の廃ビルだ。ワカナ、銀の弾丸用意しておいてくれ。」


「了解。」



ワカナはカウンターの奥の倉庫へと入った。



「僕は役に立てそうになさそうだから、待ってるね。」


「いいえ、少し手伝って貰う事になるわ。今のうちに銃の使い方を教えるわね。なるべくなら、ホタルに握らせない様にしたいけれど。」


「何をお手伝い出来るのか、良く分からないけど……頑張るね。」


「副社長、一体何をホタルにさせる気っすか?」


「ある程度、相手の逃げ場を無くしておきたいの。防火扉とか使って一本道には出来る筈だから。じゃあ、教えるわね。」


「うん。」



ツバメは何かあった時の為にホタルに銃の使い方を教える。

なるべくなら何かあってもホタルには銃を握らせたくないとツバメは思ったが、本当に何が起こるか分からない以上は仕方が無い。

コガラシは、そんな様子を真顔で眺めているだけだ。



「そんな幼い子どもに教えるなんて……って言いたいけれど相手の強さとか知っていると批難も出来ない。悲しい事ね。」



女性は溜め息を吐いた。


妖魔や異能による犯罪が多発する関係で自衛の為に黙認された数々。

その中に銃も含まれている。

子どもに銃を持たせない為には大人達が守り抜くか、犯罪が減少するしか無い。

犯罪の減少については期待出来ないのが正直な所だ。


世の中は理想通りにはいかない。

それが辛い現実だった。



「準備出来たよ。」


「じゃあ、行くか。手遅れになる前にな。」


「儂は依頼主と待機しているぞ。儂が居る以上、ここに奴らが来ても全員返り討ちにしてみせるわい。」


「待って!私も行かせて下さい!足を引っ張るのは分かってますけど……お願いします!」



女性は深々とお辞儀する。



「……分かった。ただし、無茶をしようとはするな。後、ギターは預かっておくぞい。邪魔だろう?」


「お願いします。」



コヨミは女性からギターケースを預かった。

四人は荷物を持ち、女性を囲みながら現場へ向かう。


コガラシの案内で辿り着いた廃ビル。

見た目からして不気味な雰囲気があり、幽霊が出ると噂になっているのも当然だろう。

ましてや、狼男達のアジトなのだ。

彼らを幽霊だと思ってしまう人間が居ても可笑しくない。



「それじゃあ、突入するぞ。」



コガラシの一言で彼らは中に入った。

入り口近くに居た男に気付かれる。

騒がれる前にワカナが一発で仕留めた。


銃声を聞き付けて他の狼男達も次々と寄ってくる。

それをツバメ、コガラシ、ワカナは一発で次々と倒す。

やがて立ち塞がる狼男達は全員倒れた。

それを確認すると全員で下の階から順に部屋を捜索する。

ホタルは逃げた人を見失わない為に建物の通路を一本に絞っていく。


最上階に辿り着くと一番奥の部屋から人の悲鳴が聞こえてくる。

それを聞いた依頼主の女性が顔を真っ青にした。



「今の声は……彼女の!急いで!」


「分かった!」



彼らは一番奥の部屋へと急いで駆け寄ると、扉を乱暴に開ける。

そこには多数の狼男達と、彼らに囲まれてワンピース一枚の女性が居た。



「随分と早い到着だ。けれど君達を見れば早かったのも頷ける。随分と久しぶりだな。コガラシ。」


「まさか、また顔を合わせる事になるなんてな。」


「それは私も同じ気持ちさ。だが、これで君に私がやられた事を全て返す事が出来る。正直言って、とても嬉しいよ。」



狼男達のリーダーは気味が悪くなるような笑みを浮かべている。

コガラシの表情は、それに対して無表情だ。

ツバメは気が気では無いのか、コガラシをチラチラと見ている。



「一体、彼女が何をしたと言うの?貴方達の目的は何?」


「俺達の計画を知ってしまったから殺そうとしていたのさ。けれど、それもどうでも良くなった。」



囲まれていた女性の腕を乱暴に掴むと無理矢理立ち上がらせ、依頼主の女性の方へ押す。

慌てて依頼主の女性は彼女を受け止める。

彼女の足は内股で、自力で立つのもやっとのようだった。

何をされたのか、それだけで依頼主の女性は気付く。

思わず狼男達のリーダーを睨んだ。



「遊ぼうぜぇ?コガラシ君。他の奴らは妨害してきそうな奴を足止めしてくれ。」


「ああ。充分相手してやるよ。副社長、ワカナ。邪魔な奴は任せた。」


「え!?ちょっと!?」



狼男達のリーダーとコガラシは戦い始めてしまった。

そんな様子を見てツバメは溜め息を吐く。



「全然、気が済んでいないじゃない……!こうなったら、さっさと周囲の奴等片付けるわよ!」


「分かった!ホタル、依頼主と一緒に後ろに居て。」


「うん。」



ツバメとワカナで襲い掛かってくる狼男達を倒す。

やがてリーダーを除いて二人にまで減った。



「俺らは幹部クラスなんだ。上手く行くと思うなよ。」



それぞれ一対一になる。

ふとホタルがコガラシの方を見ればリーダーを殴りまくっていた。

リーダーも辛うじて殴り返し、コガラシが離れる。

そこにリーダーが追い討ちを掛けていく。

その衝撃でコガラシが持っていた銃がホタルの所まで滑ってきた。


ホタルは拾い、コガラシを見る。

リーダーを退け、片手を変化させ刻んでいくコガラシ。

その表情は狂喜に満ちている。



「そうだ!お前の本性は、それだ!」


「……駄目だよ、コガラシさん。そっちは駄目。」



ホタルの祈るような声は届かない。

ツバメとワカナはどうにかしたくても幹部が強くて苦戦している。

コガラシの狂ったような笑い声。

いつの間にか、変化させているのは片手だけじゃなくなっていた。


ホタルは銃を真っ直ぐ構える。



「コガラシさん!」



大きな声で叫ぶがコガラシは止まらない。



「……ごめんなさい!」



ホタルはコガラシの足を撃った。

漸くコガラシの手が止まり、ホタルを見る。

その目には、いつもの優しさが宿っていなかった。


ホタルは構えたままだ。

その手は、震えている。



「お願い……。これ以上、僕に撃たせないで……。」



ホタルは涙を流す。

コガラシは暫く瞬きをすると変化を解く。

既にリーダーは息絶えていた。

漸く、二人も幹部を片付ける。



「俺……やっぱ……。」



ホタルは銃を投げ捨ててコガラシに駆け寄り、抱き締めた。

慌ててコガラシはホタルを引き剥がそうとするが出来ない。



「ごめんなさい!僕!僕はコガラシさんを……!」


「……止めてくれて、ありがとうな。後、辛い役目させて悪かった。」



コガラシは泣きじゃくるホタルの背中を撫でていく。

その手は微かに震えていた。



「……あーあ、格好悪いな。気が済んだと思ってたのに引きずってたし、自分見失うし。こんな子どもに止めて貰うなんてな。」


「全くよ。本当に気が気じゃなかったわ。完全に暴走した貴方を止めるの、かなり手こずるのよ?まあ、半分以上人間だから銀の弾丸使っても人としての急所で無い限りは死なないのは便利だけれど。」


「良い的当てになりそう。デカいし。」


「ワカナ、冗談は止めてくれ……。お前の腕を知っていると色々洒落にならん……。」



ホタルは漸く泣きやんでコガラシから離れる。



「あの……もし良ければ後で聞かせてくれませんか?貴方と狼男のリーダーの間に何があったのか。今は、彼女を病院に連れていきたいので。」


「あぁ、そうだな。あんまり話そうとした事、無かったから話してみるか。話せば少しは……俺も変われるかもしれないしな。」


「病院へは一緒に行くわ。偶然、外に出て戻ってきた仲間が居たらいけないし。」


「私も一緒に行く。で、ホタルはコガラシを今宵屋まで届けて。反動で疲れてるでしょ?どうせ。」


「うぐっ……。はぁ……。まあ、否定出来ないな。ごめん、ホタル。暫く俺の杖になってくれ。」


「勿論だよ。」



ホタルはコガラシに手を貸すが、逆にホタルが引き寄せられてしまう。

ホタルはきょとんとした顔をした後に笑いだし、コガラシをもう一回抱き締める。



「ど、どうした?」


「ん?コガラシさんだなぁって。」


「なんじゃそりゃ?」


「んー……なんでもない!ごめんなさい。コガラシさん、立ち上がらせるのだけ手伝って!」


「そうね。背が高いから重いだろうし、筋肉も付いてるから更に重いだろうし。」


「脂肪付いてるよりは……あー、ここまでだと流石に筋肉の方が重いか。」



ツバメとホタルでコガラシを立ち上がらせた。

コガラシはバランスを崩しかけるが、ホタルの肩に手を添える。



「暫く耐えてくれ。」


「うん。」



こうして女性陣は病院に向かい、男性陣は今宵屋へと戻ったのだった。

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