十一話
いつもと同じ様に起きて、朝ご飯を食べて開店した後。
珍しく外国人と分かる風貌の男性二人が来店した。
置いてある様々な骨董品を珍しそうに眺め、時々手に取っては相談している。
相談している割に手に取った物は手離さない。
幾つか目星を付けたらしく、カウンターに来る。
「済みません。幾つか買いたいので、これから欲しい物を持ってきます。」
「この店は買い物籠のような物はありますか?あれば使いたいのですが。」
「いいえ。当店には買い物籠は無いわ。カウンターに直接持ってきて頂戴。お手数を掛けるけれど、宜しくお願い。」
「分かりました。では持ってきます。」
二人は手分けして欲しい商品を手に取り、カウンターに置いた。
カウンターに商品が乗り切らなくなりそうな頃。
「これで全部です。」
「おい。相当な金額になるけど、大丈夫なのか?」
「この店、クレジットカード使える?」
「使えるよ。」
「なら大丈夫!」
「……分かった。会計と梱包手分けするぞ。」
今宵屋の全員で手分けしていき、二人で持てるくらいに纏める。
クレジットカードで支払い、二人は荷物を持って出ていく。
その表情は、満足そうだった。
「さっきの人達、日本語が凄く上手だったね。」
「それなりに勉強してきたんでしょうね。」
「まあ、向こうが英語喋っても儂らも喋れるから困りはしなかったがの。」
「そうなの?僕は日本語で精一杯だから、英語を喋れるのは凄いと思う。」
「ホタルは、これから学んでいけば良いんだよ。」
「そうだね。そうする!」
次に店へ入ってきたのは三人組。
一人は可愛らしい女性、一人は格好良い男性、もう一人は中性的な人。
三人ともファッションに気を使っているのが見て取れる。
彼らは商品を見る事をせずにカウンターに来た。
「今宵は邪が出ます。」
「待って待って待って!もしかして貴方達ってトリプルサウンド!?」
「ワカナ?」
「…あぁ、バレたか。」
「うわぁー!最近人気出てきたアイドルグループじゃん!感激!」
「ワカナ、落ち着け。」
「あっ……ごめん。それで、どういった依頼?」
三人は顔を見合わせる。
そして頷くと今宵屋の皆を見た。
「今日の午後、商業施設の屋上でコンサートを開く予定なんだ。」
「本当は護衛を施設担当者が手配してくれる予定だったが、向こうの手違いで間に合わなくてな。」
「そこで担当者と相談して今宵屋に護衛を依頼にしに来たんです。本当は専門外かもしれませんが、どうか受けて下さいませんか?」
「もっちろん!私は大歓迎!」
「ありがとうございます!」
ワカナが勝手に頷いた事に呆れた表情を一瞬、コヨミはする。
それでも仕方無いと諦めたらしく、何も言わない。
「護衛は何人が良いかしら?」
「希望は無いが、なるべく何かあっても速やかに事を納められると良い。」
「そうしたらワカナさんは行きたいだろうから、後はツバメさんじゃない?」
「そうね。そうしましょう。それからホタルも来なさい。」
「え?どうして?」
「ワカナの見張りよ。」
「うっ……気を付けるけど確かに居てくれた方が助かるかも。」
「分かった。」
「じゃあ、社長と俺で留守番してるな。」
「それじゃあ、早速向かおうか。打ち合わせもある関係で時間がギリギリなんだ。」
ツバメ、ワカナ、ホタルは三人に着いていく。
商業施設の屋上に着けば、そこにはコンサート会場が設置されていた。
関係者に挨拶をしていき、舞台を観察する。
「私は舞台袖で待機して、何かあったら出られる様にしておくわ。ワカナとホタルはファンに紛れてファンの観察をする。何も起きなければ普通にファンの一人として歓声あげていても良いわよ。ワカナ。」
「しゃあ!」
「ホタルはワカナの事を宜しく。出来れば、ファンの観察も手伝ってあげて。」
「うん、分かった。僕、頑張るね!」
担当を決めると、開始時間までは会場のチェックをした。
ご飯を食べた後、時間を迎えて全員が位置に付く。
そしてコンサートが始まった。
トリプルサウンドは躍りながらも歌を歌う。
きちんとパート分けやハモりがあり、一人一人の一人称が違った。
男性は俺、女性が私、中性的な人が僕。
因みに始まってからワカナのテンションがヤバく、誰よりも大きな歓声を上げているような気がしなくもない。
次々と歌を歌い、ファンは一体になっていく。
その熱狂的な雰囲気にホタルは着いていけず、戸惑う。
仕方無くファンを観察してみるが、様子が可笑しい人は居ない。
結局、最後まで何も問題は起きずにコンサートは終了した。
ファンは解散して舞台は片付いていく。
ツバメ達も片付けを手伝い、最後に開催者から飲み物を貰った。
ツバメもワカナも、それなりに楽しそうな表情だ。
どうやらファンはツバメもだったらしい。
「お疲れ様でした。特に何も問題が起きなくて良かったです。」
「こっちこそ、生で歌を聞かせて貰えて良かったよ。凄く楽しかった。」
「依頼料、俺達のCDで大丈夫か?まさか足りない?」
「いいえ、充分よ。けれど贅沢を言って良いのなら、ついでにサインも付けてくれるかしら?」
「それなら、勿論。」
リーダーの男性が歌詞カードにサインをした。
そしてツバメが受け取る。
「ところでですけど、貴方達は何か歌ったりはしないんですか?」
「しないしない。ほぼ全員一般人レベルだもん。」
「ほぼ全員?」
「この子……ホタルが分からないから、ほぼ全員よ。」
「僕も普通だよ。」
「全員一般人レベルか……。でも聞いてみたい気もする。よし!これから全員でカラオケ行こう!」
「えっ。」
「いいですね!そうしましょう!依頼として出して良いですか!?」
「……儂らは何でも屋では無いが、まあ久しぶりだし良かろう。」
「カラオケって何?」
「ホタルは分からないのか。んー……行ってみた方が早いな。行くか。」
「依頼料はカラオケ代と飯代で良いか?」
「大丈夫!さあ、それじゃあ行こう!」
今宵屋全員とトリプルサウンドのメンバーでカラオケに行く。
午後三時という時間だが、空室があったので直ぐに入れた。
それなりに広い部屋を振り分けられる。
時間はフリータイムで飲み物はドリンクバー。
フリータイムにした理由は外出するなら晩御飯を兼ねてしまおうという話になったからだ。
皆で座り、誘ったトリプルサウンドのメンバーから楽曲を入れる。
今宵屋のメンバーも各自入れて曲が始まり、歌い出す。
ホタルはカラオケという物が、どういった物かを学べた気がした。
コヨミとツバメは演歌を中心に歌う。
凄く古い曲まで知っているので本当に見た目より年を取っている事が伺える。
コガラシとワカナは現代の流行りの曲に詳しい。
それなりに各自が好む曲が良く分かる。
とうとう、ホタルに回ってきてしまった。
「どうしよう。僕、あんまり曲に詳しく無いんだけど。」
「知ってる曲で良いから入れて歌ってみれば?笑ったりしないから。」
「……うん。分かった。入れてみるね。」
ホタルはワカナの言葉に背中を押されて入れてみる。
マイクのスイッチを入れた状態でワカナは彼に渡す。
皆を真似して持って、曲に合わせて恐る恐る歌い出した。
ホタルが歌ったのは聖女様の元に居た時に良く皆で歌っていた曲。
一人だけで歌うのは初めてだったので、不思議な感覚になる。
どうにか歌いきり、ホッとしたホタルだった。
「皆さん、お上手じゃないですか。」
「お世辞だとしても嬉しいのぉ。」
「ホタル、良かったよ。」
「う、うん。ありがとう。」
「よし、どんどん歌うぞ!」
彼らは晩御飯の時間まで歌う。
そして時間になったら注文をした。
これほどの人数なのでパーティー用を頼む。
仲良く分けあって食べる。
全て食べ終わると最後に国家を入れて全員で歌った。
それで最後にして退出する。
もう、すっかり夜だ。
「今日は本当に何から何まで、ありがとうございました。」
「俺達は、これからも活動するから応援宜しくな。」
「僕らとしても久しぶりに大勢と楽しめて良かった。お陰で新曲も思い付いた。今日は充実していたと思う。また、何処かで会おう。」
「こちらこそ、色々ありがとう!凄く楽しかった!」
「是非、これからも応援させて貰うわ。」
「また何か依頼したい事があったら、頼ってくれると嬉しいかの。」
「それじゃあ、またな。」
解散すると今宵屋に帰る。
到着すると電気を付け、歯磨きをした。
そして、お風呂に入る。
寝る前になり、皆で寝転がった。
「ホタル。カラオケどうだった?」
「皆の歌を聞くの、凄く楽しかったよ。歌うのは緊張したな。」
「初めてなら、しょうがねぇよ。」
「ホタルさえ良ければ、今度は儂らだけで行くのもありかの。」
「そうだね……また皆の歌を聞きたいかな。」
「それじゃあ、また皆で行きましょう。約束よ?」
「……うん。」
楽しい時間は過ぎるのが、あっという間だ。
その事をホタルは不思議に思いつつも、襲い掛かってきた眠気に身を委ねた。
ホタルは花畑で目を覚ます。
服装は寝る前と違って、夢だと直ぐに気付く。
まるで、赤ずきんのような服。
傍には竹かごがあり、中にはパンと葡萄ジュース。
青く輝いている花を積んで、かごに入れる。
もしも赤ずきんなら祖母の所へ行かねばならない。
勿論、ホタルに道なんて分からなかった。
困ったホタルは試しに声を上げてみる事にする。
「狼さーん!猟師さーん!どちらか居ないー?」
「おい!なんで分かった!」
ホタルの問い掛けに答えたのはコガラシ。
どうやら狼らしくて頭には耳、尻の辺りから尻尾が見える。
見知った顔を見て安心し、どう答えようか悩む。
何でと言われたら物語が、そうだからだろう。
けれど、そう答えてしまって良いのかが分からないのだ。
「何となく!」
「何となくかよ!」
悩んだ結果、誤魔化す。
コガラシらしく、ツッコミを入れてくれた。
夢でも変わらないな、とホタルは思う。
「それで俺に何のようだ?」
「祖母の家までの道が分からなくなったんだ。コガラシさんなら知ってるんじゃないかって。」
「コガラシ?お前が、赤ずきんの様に俺は狼だぞ?」
「凄く知り合いに似てるから、つい呼んじゃったんだ。気にしないで。それで知ってるの?」
「知ってる。」
「だったら道案内してくれる?これを祖母に届けたら僕の事は食べたって構わないから。」
「……しょうがないな。案内してやるから、きちんと着いてこい。」
「ありがとう!狼さん!」
狼の案内で無事に祖母の家へ到着。
扉をノックしてから入ると、ツバメが居た。
どうやらツバメが祖母らしい。
見た目としては、祖母と言うには若すぎる気がするが。
「ツ……お婆さん。お母さんに言われて、お見舞いに来たよ!」
「あら、偉いわね。」
「優しい狼さんが迷子の僕を案内してくれたの!」
「俺は優しくなんかねぇ!お腹空いてて破格の条件出されたから、たまたま乗っただけだ!」
「あらあら、照れているわね。凄く素直じゃない狼だこと。」
狼の顔はトマトの様に真っ赤だ。
照れている事が良く分かる。
ホタルは祖母の近くに竹かごを置いた。
そして花を見せれば、祖母はホタルを撫でる。
「私の為に、ありがとうね。こんな綺麗な花、見た事が無いわ。」
「花瓶に飾っておくね。」
何もなかった花瓶に花を挿す。
不思議と部屋が華やかになった気がした。
そこにノックが響く。
ホタルが扉を開ければコヨミとワカナが立っている。
二人とも銃を持っている事から恐らく猟師だろう。
「狼!遂に見つけた!」
ワカナがコガラシに銃を向けた。
ホタルは慌てて、その間に入る。
「待って!猟師さん!この狼は迷子の僕を祖母の所まで送ってくれた優しい狼なんだ!だから撃たないであげて!」
「……私達の仕事は狼を仕留める事だし、どんなに良い狼だったとしても今までやってきた行いは許されない。お願い、赤ずきん。退いて。」
「……狼さん。何をやってきたの?」
「近くの村に火を放ったり、兵士を食べたりした記録が残っておる。」
「火を放ったのは俺じゃない。寧ろ、火は嫌いだ。兵士を食べたのは本当だ。」
童話の赤ずきんには兵士なんて居ない。
出て来ない筈の存在にホタルは頭を傾げた。
皆は、それを見てホタルは知らないと気が付く。
「最近、この辺りを占領した赤の女王と呼ばれる人が居るの。そこの兵士は皆して偉そうで村人達を脅かしている。喰われたのが赤の女王の兵士だから、正直に言えばスッキリした。でも私達猟師は女王に逆らう勇気が無いから狩りに来たんだ。」
「赤の女王が居るって事は白の女王も居るの?」
「正確には居た、かの。赤の女王が送り込んだ刺客によって殺されてしまったからの。」
「アリスって名乗っている奴等は全員死刑にしたりして派手に行動してるって事は狼の間でも有名だよ。」
「赤の女王をどうにかしてくれる希望の存在。それがアリスの筈だったんだけどね。現状はアリス達の惨敗よ。」
ホタルは内容を聞いて漸く理解する。
この夢は赤ずきんと不思議の国のアリスが混ざっているようだ。
けれど両方の話とも違う展開。
今宵屋の皆が集まっている以上、どうにか出来そうな気がしているホタルは考えた。
夢である以上は別に起きるまで、ここに居ても許される。
でも何かしたいような気もしたのだ。
「猟師の二人としては狼を赤の女王の命令に従って殺すつもりなのかしら?」
「私は正直に言えば従いたくない。」
「儂も同じかの。村人を逃がす為に狼が兵士を襲ったと聞いていたから余計にの。本人に確認してみようという話で、ここに来た訳よ。」
「でも逆らえば命は無いのよ?それでも良いのね。」
「良く考えれば、私達で何かしてみるのもありじゃないかって思えてきたからね。覚悟は出来てる。」
「赤の女王の元に逆らいに行くんだったら俺も着いていくぜ。放火の濡れ衣だけは許せないから手伝いたい。」
「なら私も行こうかしら。兵士達が家から去れと強要してきて煩かったのよ。」
「それなら僕も行く。出来る事は少ないけど皆を手伝いたいもん!」
「それなら五人で赤の女王に歯向かいに行こうかの。」
夢の中でも彼らは変わらない。
流石に理由は個人的になっているが、行動すれば苦しんでいる人の為になるのは変わらないからだ。
五人は赤の女王が居る城へ向かう。
途中にある難所の数々は協力して乗り越える。
着いた頃には、彼らは硬い絆で結ばれていた。
城は目が痛くなりそうな赤。
近くに植えられている薔薇も赤だ。
兵士達は武器を彼らから取り上げて、赤の女王と面会する事を許してくれた。
赤の女王は聖女様。
彼女は彼らを見て柔らかい笑みを浮かべる。
「ようこそ。貴方達の事は森の動物達から聞いていた。遠くから、ご苦労様。」
「狼から兵士を襲った理由を聞いたわ。村人を逃す為にやったと。」
「その事は私の方でも理解している。それが何か問題でも?この国を統べているのは私。その私が従える兵士が村人より偉いのは当然でしょう?」
「赤の女王よ。村人を何と思っておるのかの?」
「勿論、お金その物。下らない事を聞かないでくれる?」
「人を、人として見てないなんて最低!」
「なら、どうするつもり?私の逆らうの?」
彼らを兵士達が囲む。
まさに絶体絶命。
そのタイミングで視界は白く染まっていき、ホタルは目を覚ました。
「……何。今の夢。」
目を覚まして一番。
ホタルは自らが見た夢に思わずツッコミを入れたのだった。




