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甘味と魔力、そして魔法

ほどほどのペースで更新できるように頑張ります!

「今日も楽しく授業を始めましょう!」


 教壇の上に立った年若い女性教師がクラスを左右に見渡して生徒の様子を確認する。

 そして僕と目が合えば頬を赤らめてすぐさま視線を逸らす。


 そしてまたチラチラと僕を見る。

 何人が先生のあの反応に気づいているかどうか分からないけれども、僕の後ろにいるアーリは気づいているようで殺気のようなものが漏れているのが僕の背中から感じられた。


「ん、んんっ。今日は休みはいないようですね!」

 わざとらしい咳をして誤魔化した先生は浮遊魔法でいくつかの教材を浮かせて、一つの本を手に取った。


 あの威厳のない童顔の先生、犬の獣人族であるシフォン・パウンドケーキという界隈ではかなり有名な魔法使いで、変化魔法というレア――と言うよりはあまり人気のなかった魔法の分野を発展させた実績もある先生だ。



 お菓子を別のお菓子に変化させるその魔法によって一部の層からは熱い支持を得ているが他の魔法の才能も非常に高く、浮遊魔法で周囲の物体を数個以上自由に浮かせて操作しているところから教師を名乗るだけの技術などはあるわけなのだ。


 むっつりなところを除けば。




「えー今日は一度初心を振り返るために魔法学の1ページ目にある魔力とは、を見ていきましょう」


 そしてシフォン先生は僕に視線を向けると、わざとらしい声で僕を指名してきた。


「ではちょうど、昨日休んでいたアハト君に読んでもらいましょう!」


「……はい」


 教室のあちらこちらでボソボソと声が聞こえる、シフォン先生は耳がいいのでその声が聞こえてしまったのだろう。顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 仕草がどうも可愛い上、弄り甲斐もあるので生徒からは非常に人気の先生だ。


 僕は苦笑いを浮かべつつ椅子から立ち上がった。


「えーっと……魔力は目に見えなくとも世界中のどこにでも存在しており、呼吸や食事を通して体内に摂取されている。摂取された魔力は体内の魔力を蓄積、放出する器官に蓄積される……」


 ちらりとシフォン先生を見ればまだ少し顔の赤い先生は首を上下にぶんぶんと振って続きを促している。



「蓄積された魔力を放出する際に、使いたい魔法を詠唱という形でイメージして魔法を使う。魔法を起動する際の感覚はそれぞれ違い口から魔法を吐き出すようなイメージをする者もいれば手から放出するイメージをする者もいる。ここのイメージを上手く魔法で表すことが出来れば魔法を放つ位置を変えることもできる。竜人族や竜族が放つ炎のブレスも口内から放たれるイメージによるものではないかと近年では言われている」


「はい、ありがとうございます。アハト君が読んでくれた通り、魔法はイメージです!」


 シフォン先生は手のひらを上に向け、前に突き出して詠唱を始めた。


「湧きあがれ『ウォーターボール』」


 詠唱、そして魔法名を言葉に出すと手の中からいきなり生まれるように水の球が出現した。水の球はぐるぐると回っており、僕は惑星のようだとふと思った。



「詠唱、これは人によって違いますがイメージのしにくい魔法を使う際は詠唱をしなければ集めた魔力は上手く形になりません。そしてイメージさえできていれば……!」


 ボンっと小さな爆発音とともに『ウォーターボール』が二回り以上小さい飴玉に変化した。そしてシフォン先生は飴玉を僕に手渡すと、にっこりと微笑んだ。


「食べてみてください」


 言われた通りに口に飴玉を放りこんで舐めてみるとハチミツに似た甘ったるい味がした。とても美味しいが、これが何もない所からできた物とは到底思えない。


「味のイメージ、形のイメージ、イメージ、イメージ……曖昧なことを言っているようにも聞こえますが魔法はすべてイメージによって形成されます。そしてそれがあり得ないような荒唐無稽なものを現実に置き換えようとすればするほど、強烈なイメージと膨大な魔力がかかります」


「先ほどの、ウォーターボールの魔法で作られた水は私のこぶしくらいの大きさでした。しかしそれをそのままお菓子に変化させようとすれば私でも詠唱が必要です」


 そしてもう一度シフォン先生は手の中にウォーターボールを、今度は無詠唱で作り出した。


「魔法はイメージで、魔力はイメージをそのまま現実に投影して発生させる力のようなもの。イメージが適当でも膨大な魔力を持っていれば勝手に補完して魔法を作り出してくれますが……」



 ドン! っと何人かの生徒の肩が思い切り跳ね上がるくらい大きい音を出して、シフォン先生の手から黒い物体が転げ落ちた。


「イメージも魔力も、何もかも足りていないとこうなります」


 転がり落ちた黒い物体はウォーターボールと同じ大きさで、教室中に砂糖が焦げたような不快な臭いが広がった。そしてそのままサラサラと消えていった。


「今のは魔力の塊……イメージが上手く出来上がらずに魔力だけが暴走した結果です。今回はお菓子を作る変化魔法でしたが、これが攻撃魔法になるとどうなるでしょう?」


 今度のシフォン先生は最前列の席に座っているメガネをかけた女子生徒に尋ねた。すると少し怯えたような女子生徒は震えた口調でボソボソとつぶやいた。


「……攻撃魔法が暴走……する?」


「そうですね、もっと正確に言えば殆どの攻撃魔法はその場で爆発するでしょう。自分自身を巻き込んでね」


 シフォン先生はふわふわと浮かんでいる本を一か所にまとめて、机の上に置くと紙を一枚取り出した。



「魔法の暴走は非常に危険です。制御下にない魔法の暴走は意図しない相手に向かって飛んだり、自分をまきこんで爆発したり、今の魔力の塊のように未完成のまま魔法が発動して出現します」


 紙にサラサラと絵を描いていくシフォン先生は説明をしながらどんどん描き進めて完成したその紙を教室の前に貼った。


「魔力を練る、使いたい魔法のイメージをどんな形であれ完璧にイメージする。そして魔法を発動する。この3つのプロセスを経て魔法と言うのは成り立っています。あなた方の専攻は攻撃魔法の専攻をしている者が多いと思います」


 今度は真面目な表情で教室を見てシフォン先生は言った。


「……あまり言いたくありませんが、人に対して魔法を使う際にも、魔物に対して使う際にも、細心の注意、そして集中をして魔法を使ってください。それと――」


「召喚魔法を専攻している方々にも言っておきます。呼び出したい……召喚したい相手のイメージはきちんとしてください。これが雑だと意図しない何か(・・)を呼び出しかねません。魔力の多い人は特に注意をしてくださいね、悪魔族や神族の類は非常に強力で、制御がしづらく、とても一人の……一介の学生では契約を結ぶことはおろか、五体満足で召喚が終わることが稀です、気を付けるように」


 次の時間は使い魔に関する実習なのでそれに対して釘を刺したというわけだろう。シフォン先生は言いたいことを言い終えたのか、本をパタンと閉じてニコっと笑みを浮かべた。


「あなたたちはそういうことをしない、と思っています! 授業に戻りましょうか、次はもう一冊の魔法学のちょうど100ページから。『魔法と属性』に関して――」


 先生の授業を聞きながら、口の中に残る甘い飴玉を転がすとカラカラと音を立てて口の中を転がった。

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