魔王と嫉妬、願い
文章力を上げるべく日々精進しています、直した方がいい部分などがありましたらご指摘をいただければ嬉しいです。
魔王ヴィオラ・ノインツェーン。彼女は悪魔に似たその姿から魔族、魔人族と呼ばれる種族の女王である。
紫色の長い髪、まるでアメジストのような輝く瞳は女性というよりも快活な少女という印象を彷彿とさせる。
魔族の特徴である髪や瞳が紫色に近いのはもちろん、魔族特有の悪魔のそれにも似た翼、長く第三の腕とも言われる細く長い尾が特徴である。
そして種族としての強さは竜人族にも匹敵するほど。平均的な内包魔力量はエルフの十数倍、身体能力は素の獣人種と引けを取らないほど、ドワーフに負けないほど器用。
まるで神に優遇されたかのような種族の力は確かにあったが、人族の持つ繁殖力には敵わなかったと言われている。
実際どうなのかは知らないが魔族と言うのは非常に子供が作りにくいのだとか。
そんな魔族の長、魔王であるヴィオラ・ノインツェーンは堂々とドアを開けて勇者である白崎アカネと共に教室に入ってきた。
「アハトー!」
ヴィオラは僕を見つけると手に持っていたカバンを投げ出して僕に弾丸のように飛び込んできた。
ぶぅんと小さな音が僕の耳に入ると肉体が活性化されてヴィオラの動きがゆっくりと見えるようになった。
リリーとアーリがぼそりと呟いたのは恐らく強化魔法だろう。僕の左右にいた二人から同時に放たれた強化魔法により肉体が強化された僕は本来であれば、一気に体が吹き飛ぶか、肋骨が折れかねないであろうヴィオラの突進を難なく受け止めることに成功した。
「アハトに会いたかったんだ! 元気にしてた?!」
ガバっと顔を上げてそう聞いてくるヴィオラはまるで抑えの利かない子供のようにもみえる。しかしそんなことはあり得ないのだ。
ヴィオラはどうやって若く見ても20代に見える。今は何も感じないが本来、いつも通りであれば色気を感じるほど美しいという言葉が似あうのがヴィオラなのだ。
しかし今は本当に子供のよう見えてしまう。大きな胸が僕の胸板にぐにゅっと当たって形を自在に変える。露出度の高い服装を着ているヴィオラは僕にとって目の毒なのだ。
「は、離れて……」
「んんー……だめー」
そう言って僕の胸板に顔を埋めてぐりぐりと顔を動かしてくる。彼女の髪からはふわっとラベンダーに似た香りが漂って僕の鼻をくすぐった。
左右からの視線がじわじわときつくなってくる上、教室内の視線も感じていたたまれない気持ちになった僕を見てアカネがヴィオラの肩を掴んで離そうとしてくれている。
「ヴィオラさん、ちょっと離れて……え!? なんでこんな力がっ!?」
相当強く抱き着いているのかアカネはゆっくりと離そうとしていた腕に力を込めて思い切り引っ張り始めた。ギギギと何かが軋む音はするがなかなか離れそうにない。
そんなことよりも僕は僕自身にかけられた強化魔法に興味があった。
僕が魔法学園に入った理由と言うのは綺麗な女の子に会うわけでも結婚相手を見つけるためでも、女性にモテモテになるためでもなく魔法を学ぶためであった。
結局今はハーレムを作ってしまっているがこれは僕が望んで作ったわけではなく、やりたいことをする過程で出来てしまったという方が正しい。言い訳はそこそこにして話を戻せば僕の目的は魔法を学ぶということ。
僕は人族の男としては珍しく、平均より魔力量が多いのだ。どれくらい多いのかと言えば男の人族の魔力量を1とすれば僕は100はあるということ。
これはすごいことなのだと、誇りたい気持ちはあるけれども彼女たちの前では霞む。霞むというか比較にもならないのだが、それを言ってもどうしようもない――そう思ってはいるのだがなかなか割り切れるわけでもなかった。
補助魔法、強化魔法とも呼ばれるその魔法は魔力によって一時的に肉体の身体能力を底上げしたり、代謝なども強化したりできるため非常に重宝される魔法だ。
戦うために使う者がいれば、傷の治りを早くするために強化魔法を使う者もいる。
そもそもこの世界で魔力とはよくわからない力、と言う位置付けになる。
だが研究の結果では魔力とは非常に万能な力の源とされており常識では起こりえない事象を簡単に引き起こすことが出来る力であるという。
どれくらい魔力が万能なのかと言うと魔法を唱えることでパンや水を作り出したり、はたまた何もない所から電撃やら炎やら氷やら出したりできる。
エルフにしか使えないとされている自然魔法は植物の成長を著しく促進させたり、まるで手足のように操作できるのだ。
つまるところ魔力とは万能な力であり、強化魔法とは肉体や精神を強化する魔法と言うことだ。
そして強化魔法の効果は、同じ魔法でも使う者によって大きく差が出る。
僕の強化魔法であれば身体能力が全体的に約1.1倍ほど強化される。勿論まだ勉強中でもっと上手く、そして効率よく強化魔法を使えれば1.5倍くらいまでは上がる計算だ。
しかし今二人に使われた強化魔法はどうだろう?
ただの魔王による戯れ、じゃれつきではあるが本来であれば僕の身体であれば数メートルは吹き飛ぶ威力だろう。
だがそれを難なく耐えることが出来るようになるには今の何倍、僕の身体能力が高ければいいのだろうか。
想像するだけで恐ろしくなるし、何よりそんな強化魔法を片手間に、それも呼吸するかのごとく発動できる才能に嫉妬してしまう。
僕が貰えたのは、才能や力ではなく、周りよりも少し整った容姿だけ。それも僕から見ればアーリやリリーの方が何倍も美しく、可愛らしく、綺麗で輝いて見える。
僕は生まれ変わっても、根っこの部分は変わることが出来なかったのだろう。今もまだ昔の自身に囚われているのだ。
いつの間にかヴィオラを引き離していたアカネはまだ朝だというのに荒い息でハァハァと胸を上下させている。ヴィオラは今にも僕に抱き着こうと画策しているようで血走った目で僕を見てくる。
しかし、これで4人揃った。
ハイエルフのアーリ、黒竜の竜人リリー、異世界から来た勇者アカネ、魔族の元女王ヴィオラ。彼女たち4人が僕の事を強く想ってくれているハーレムの一員でもある。
僕は彼女たち4人を上手く制御して、平和に魔法を学びつつ学園生活を過ごしていく。
半年、彼女たちを纏めるのは大変だったけどどうにかここまで来た。僕はこれからの学園生活に心が躍る。
懸念はある。それは彼女たちの不毛な争いで僕が死にかねないということ。
彼女たち4人、そしてこの魔法学園にはまだ何人もふざけた力を持つ生徒や教師がいる。当然そんな彼女たちの引き起こす事に巻き込まれたくはない。
生徒会の女神たち、図書室の妖精、実習室の悪魔。魔法武闘祭や就学旅行イベント。
楽しそうなイベントもあれば聞く情報だけでも関わりたくない人物、どれもこれも元の世界では堪能できなかったものばかり。やっと僕の魔法学園が始まるんだ。
いつの間にか楽しそうに会話している彼女たちの会話に混じりつつ、周りで様子を見ていた同じクラスの男子も女子も僕の周りにワイワイと集まってくる。
こんな賑やかな日々が一生続けばいいのにと、僕は強くそう願った。