性別、取り巻き、そして百合
アルト、ソプラノ、テノール、パス。彼らは同じクラスの男子生徒だ。
彼らの容姿や特徴と言えば可愛らしい無垢な少女――というのが軽く見た感想だが半年以上交流がある今ではもう少し別のものになっている。
僕はアルトとテノールに両手を掴まれ、リビングに誘導される。いつのまにか用意されている椅子とテーブルの上にはほどほどに豪華な料理がいくつか配置されている。
「なかなかアハト様と席を一緒にする機会が少ないのでとっても嬉しいです」
パスは頬を赤らめて、テーブルに料理を追加で並べてくれる。パンやスープ、肉やサラダ。全て僕のために作ったという彼らに感謝を述べて食事を始める。
左右に陣取ったアルトとテノールに両腕にしがみつかれて、ずっと立っているソプラノが食事を僕の口に直接運ぶ。
「はい、アハト君。あーん……」
同性同士で何やってるんだろう……と言う考えがあるもののあまり彼らは気にした様子がない。まるでするのが当たり前かのように食事の面倒まで見てくれてるのだ。
聞けばこの豪華な料理も彼らが食材を持ち寄り、パスがうまく指示しながら料理をしてくれたのだという。ここで彼らにかける言葉が辛辣なものではいけないだろう。
だが声を大にして言いたいこともある。
僕の両腕に抱き着くのは止めてほしいということ。まるでハーレムのメンバーにやられてることと殆ど似たようなことをされているのだ。
まだ今僕の腕に抱き着いているアルトとテノールはマシである。アカネはそこまで積極的ではないがアーリやリリー、ヴィオラは食事だけではなく俺まで食おうとしてくるのだ。
しかし――
「えへへ……」
「アハト君……」
幸せそうに頬ずりをする彼らに対して僕は何も言えなくなってしまう。きっと彼らも女性の強いこの世界ではきっと少なからず生きづらい思いを抱いているのだろう。そう思えば僕が我慢をすれば済むのだとそう思い食事を続ける。
料理の用意が終わったパスはスルリと僕の腋の下を抜けると膝の上にふわりと座った。
殆ど体重を感じさせないその感覚に本当に彼らは食事をしているのかと不安になりつつも僕の口元に料理を運んでくれていたソプラノの頭を撫でて感謝を告げる。
「ソプラノ、ありがとう。パスも、アルトもテノールも。おいしいご飯だったよ」
彼らは暫くきょとんとしていたがすぐに感極まったようで、僕に向かって飛び込んできた。それを受け止めた僕は彼らの相手を1時間ほどたっぷりとした。
この世界の男は精神が非常に不安定になりやすいという。弱く脆く、まるで食べられるためだけに飼われている家畜のような無力な彼らは精神の拠り所を強く求める習性がある。
勿論その習性が弱く精神的に強い者もいるが、そんな者は中々おらず今僕に抱き着いて幸せそうに甘えてくる彼らもそういう精神的に弱い部類に入る。
少なくともこの学園の中では出来るだけ彼らの力になってあげなければいけないと改めて思いなおすことが今日出来た。
食事が終わり、そろそろ寝る時間だという頃であった。
アルト、ソプラノ、テノール、パスの四人は各々の部屋に帰っていき僕の部屋には僕だけが残った。
彼らは一緒に眠りたそうにしていたが今日もハーレムの面倒を見なければならないので残念だが断った。残念そうだった彼らの見る目が最近少しドロリとした重い感じの視線に変わってきたので上手く調整しないといけないだろう。
コンコン、乾いた扉を叩く音が僕の耳に入る。小さな声で入るように促すとギィと音を立ててそそくさとリリーが入ってきた。
「今日はリリーなんだね」
「そう……じゃ」
どこか落ち込んだ様子のリリーを抱き寄せてベッドに転がる。
「わ、わっ!」
形だけの抵抗をほんの少ししたが直ぐに僕の元に引き寄せられたリリーはぼうっとした表情で僕のことを見た。
「わ、わらわや……アーリの事を怒っておる……か?」
「全然」
「そんな嘘に……」
「気にしてないよ」
ここで抱きしめてあげれば懐いているリリーはもう何も言わなくなった。静かに抱き着いてくるだけのリリーに尋ねる。
「今日は何をしてたの?」
「アーリと共にアカネや教師らに散々怒られたわ」
そういうリリーの声は少し涙声になっているが、思い出したことが嫌な事だったからか不機嫌そうにそう答える。
僕は笑って彼女を優しく引き離す。離れる瞬間、リリーは悲しそうにしたが頭を撫でてやればすぐに目じりが緩んだ。
頭部に小さな突起がある。彼女が竜人族である人間状態の証の一つでもある。角をぐりぐりと触るとコロコロと態度が変わる。
「お、おい! わらわの角で遊ぶな!」
「大きくなるところは見たことないけど、これもちゃんとした角になるの?」
「これは竜角と言って竜のエネルギーをため込む器官の一つじゃ」
竜角……エネルギー。どうもこの世界にはまだ良く分からない謎が多くあるようだ。僕はぼんやりとそう考えると彼女を連れてベッドから立ち上がった。
「じゃあリリーの部屋に行こうか?」
「うむ、あの半陰陽らに邪魔されておったからの。時間は惜しい」
「リリー」
僕が少し、怒ったような口調で彼女の名を呼ぶと黒い宝石のような瞳、その視線を下に落としてバツが悪そうな表情をしている。
「ふん……言い方は悪いかもしれんがの、わらわからすればそうとしか見えぬ」
リリーは指をピンと伸ばして僕を指す。逆に彼女は僕に対して怒っているようにも見える。
「アハト、お主のせいじゃぞ。お主のせいでこの世界の殆どのオスがメスにしか見えなくなったんじゃ、どうしてくれる?」
「そんなの知らないよ……」
どうやらこの世界の女性はアルトやソプラノ、テノールやパスのような中性的な容姿をした男を簡単に見分けることが出来るらしい。だが僕のせいで色々な意味で彼らを男として見ることができなくなった、とそう怒っているらしい。
僕の困惑した表情をよそにリリーは僕の腕を乱暴につかむ。
「まぁよい。わらわの番いになるオスはお主一人で十分じゃ。さぁ早くわらわ達の愛の巣へと参ろうぞ」
そういって強制的に連れていかれる僕は本当に襲われないか気が気でなかった。
頼むから成人ですらない僕をお父さんにしようとしないでほしい。
驚愕の真実! この異世界の男は皆男の娘だった!?