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魔石と魔法、そして暴走

 甘味の魔術師、シフォン先生による甘い授業は終わりの鐘によって終了した。学生に人気の先生だがおしえるのが非常に上手いなと思う。


 シフォン先生は僕のことをチラチラ見て、意を決したのか僕の方に尻尾を揺らしながら近づいてくる。目ざといハイエルフのアーリや、過保護なリリーは僕の方をチラリと一瞥してシフォン先生の事を捉える。

 しかし僕の想像では彼女たちが邪魔をするかと思いきや何もしない、それどころか次の授業に向けての準備をはじめている。



「あの、アハト君……ちょっといい?」

 シフォン先生は甘いスイーツのような匂いを漂わせて近づいてきた。先生と生徒の距離としては少し近い気がするが僕は距離感よりもシフォン先生の耳と尻尾に気を取られていた。


 非常に魅惑的なその部位は獣人族の特徴でもある。その中でもシフォン先生は人間の割合の方が強いのか、犬耳や犬の尻尾以外は人間の女性にしか見えない。それも獣人族特有の幼い顔立ちによってまだ僕たちと同じ学生にも見える。


 ふりふりと揺れる尻尾に意識を持ってかれつつも僕は軽くうなずいて返答をした。どうにも可愛らしいそのフワフワとした柔らかそうな尻尾はとても触ってみたいという考えを持ってしまう。


「えっとね……その、アハト君」

 ずいっと身体を寄せてくるシフォン先生、それに伴いズームアップされるシフォン先生の身体をよく見れば、前世で言えば悩殺ボディとも言うあまりにも豊満な肉体をしている。


 僕をゴクリと唾を飲み込んで、先生の顔を視線を向ける。腹部から胸部へ、そして首を伝って先生の目を見る。


「っ……」


 目の奥に情欲の感情を浮かべながらも、僕と視線を合わせてポケットから小さい何かを取り出す。


「これ、アハト君欲しいって言ってたでしょ」


 渡されたのは小さな宝石――のようなもの。これは魔石であった。


「魔石……これ、どこで?」


「えへへ、ちょっとアテがあってね。アハト君魔法をその……上手く使えないの気にしてたから、これがあれば少しは楽になるかなって」


「先生!」


 僕はシフォン先生に抱き着いた。


「えっ? あっ、え……?」

 抱き着かれるとは思ってなかったのだろう、先生は目を驚いた声、と言うよりは茫然とした声音を発しながら僕を抱きとめた。


 ざわざわと周囲の声が聞こえるが、僕はそんなことはどうでもよかった。シフォン先生は僕のためにとても希少な魔石を持ってきてくれたのだ。


 魔石。その名の通り魔法の石でとても希少価値が高く、宝石のような扱いを受けるほどでこれは自然には発生しない人工的な石なのだ。


 先ほど貰った飴玉と同じようなサイズのこの魔石を作るには何人もの魔法使いが繊細な魔力調整と錬金術、呪術、神術と言った技術を用いて初めて作り出せるこの世界ではまだまだ研究中の技術なのだ。


 これは魔力の少ない者も多いものも関係なしに魔力のバランスを魔石が媒体として整えて魔法の威力、出力を上げてくれるという優れものだ。


 僕はまだ現状が掴めてないシフォン先生に魔石を使っていいのか聞くことにした。


「シフォン先生、これ使ってみてもいいですか!?」


「え、ええ。あなたのために持ってきたんですから、お好きなように?」

 そろそろ何が起こったのか理解してきたらしいシフォン先生はぺたぺたと自分の胸や肩、首元を触っている。そんなことを尻目に僕は貰った魔石をぎゅっと握りしめて強化魔法を唱えた。


「『ブースト』」

 黄色いオーラに包まれた僕は、体の底から湧きあがるような活力を感じた。詠唱すらない、強い己をイメージするだけの魔法は素の僕が完全な状態で使っても殆ど身体能力の上がらない魔法であった。


 しかし今はどうだろう、近くにあった椅子を片手で軽く持ち上げることが出来るほど身体能力が向上している。明らかに1.5倍以上は強化されている。その事実に僕はどこかホッとしていた。


「あ、アハト君っ!」


「やらせないっ!」

 シフォン先生が僕に向かって本能むき出しに飛びつこうとした瞬間、アーリの声と共に床や机、椅子から植物が一気に生えてシフォン先生に絡みついた。


 かなりの力で締め付けているのだろう、四肢や腹の辺りまで絡みついた緑の蔦に身を包まれたシフォン先生は淫猥な姿になっている。


 殆どの生徒はもう次の授業の実習のために、実習棟に移っているため生徒は僕とアーリ、そしてシフォン先生しかいなかった。


「もう少しでシフォン先生にアハトを取られる所だったわね……」


「ふーっ、ふーっ……!」

 発情した様子のシフォン先生は我慢ならないといった様子で魔力で周囲一帯を包み込む。それを見てアーリは顔を顰めた。


「ちっ、変化魔法……面倒くさい魔法ね」


 ぼん!ぼん! 木の蔦や周囲の机や椅子がケーキやキャンディー、甘い果物や甘味になるらしい植物に変化していく。その速度はアーリがシフォン先生に向かって攻撃をしている植物の速度以上に速い。


 教室中が甘ったるい香りに満たされる中、スイーツに変えられていく植物をどんどんシフォン先生に殺到させながらアーリは僕の方をちらっと見た。


「アハト、先行きない」


「え、でも……」


「この様子の先生が実習棟に行ったら授業どころじゃないでしょ。昨日は迷惑をかけちゃったし、それに今日の使い魔召喚の授業を楽しみにしてたじゃない」


「アーリ……」


 アーリは僕見て太陽のような笑みを浮かべて言った。


「シフォン先生は確かに悪い先生じゃないしとても優秀な先生だけどね、偉大なる血族、ハイエルフのアーリヴァルトとやりあうには力不足ね!」


 アーリはそういって僕の背中を実習棟へと繋がる転移の魔法が掛けられた扉に押し込んだ。僕は魔石を握りしめたまま、実習棟に飛ばされるのだった。





「シフォン先生……意識はありますか?」


「うーっ! オス、オスを寄越せッ!」

 シフォン先生は普段の温厚すぎるその姿を脱ぎ捨てるようにして、本能のままの姿になった。

 アハトの抱き着きは鋼の精神を持つシフォン先生の心を粉々に砕いて、本来はまだ先のはずである発情期まで呼び起こしてしまったようだ。


 シフォン先生は今、獣人族特有の獣化と呼ばれる状態になっている。本来の人型から獣型になるという先祖返りにも似た状態。


 子供のころに一度はなるとされており、切羽詰まったときか命の危険が迫ったときに変貌する姿とされている獣化は肉体能力を大幅に向上させるのだ。



「シフォン先生……可愛い名前と温厚そうな顔だったのに猟犬種の獣人だったのね……」


 ここにはもういない獲物を見ているシフォン先生はここから解き放たれればアハトを口に銜えて山かどこかに籠って一か月は出てこないだろう。もしかしたら一生かもしれない。


 リリーやヴィオラ、アカネのうち誰か一人でもいれば止められるだろうけど授業は間違いなくつぶれてしまうだろう。


 その点私は運が良い、使い魔をすでに持っているため授業を受けなくてもよいのだ。というか別に私は授業を受ける必要はないのだけど――あら、先生が動いた。



「シッ!」


 鋭い爪で躊躇なく私の喉元を狙うシフォン先生を植物で拘束していく。


「『クリエイトプラント』」


 ポケットから適当に植物の種を掴み、シフォン先生に放り投げる。すぐさま拘束を引き裂いて振りほどいたシフォン先生は軽い身のこなしで一気に後ろに飛んだ。


「残念、逃げられないわよ」


 魔力を練りこんだ植物の種は空中で水も栄養もなしに一気に成長する。そこらに生えた雑草と比べ物にならないほど太く、強靭なツタがシフォン先生の獣としての体を拘束する。


「ウウウ……ガァッ!」 叫びともに周囲の植物がケーキになるが、シフォン先生を拘束してる植物のツタだけは変化していない。


 変化魔法は魔力の通らない物には効果がない――だったかしら、私の魔力によって強化されたツタはシフォン先生の現在の荒い魔力の使い方ではピクリとも魔力が通ることはない。


 素の状態であれば簡単に変化できていたであろうツタになすすべもなく拘束されたシフォン先生は必死にもがいている。


 このまま放っておけば体中がボロボロになってしまうので、急いで駆け寄る。


「強力な催眠効果のある植物の種、ほんとはアハトに使いたかったんだけどなぁ」

 言っても仕方がないので魔力を流し込んでシフォン先生の首に種を埋め込む。皮膚が毛皮に覆われていてかなり堅かったが強引に押し込むと一気に種が成長を始めた。


「――グ、グゥ……ゥウ……」

 催眠効果がすぐにでも聞いてきたのか、パタリと意識を飛ばしたシフォン先生の獣化は解かれて、人の体へと戻っていく。


 どうにか一件落着……と行きたいところであったが、教室の中は植物とスイーツまみれで酷いことになっている。これはもしかしたら先生がたからまた怒られるかもしれないわね。



 すうすうと寝息を立てて寝るシフォン先生をちらっと見てため息を吐く。短い時間かと思いきやもう結構戦っていたようで授業が始まってから30分は経っているだろう。


 シフォン先生に次の授業がなくて良かったと、誰にともなく感謝をした。

いつの間にバトルものになったんだろう

描写の練習を兼ねて色々挑戦していきます

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