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平和な朝には

ルビを振っている部分は作者が読めない部分です

 男尊女卑、そういう言葉を聞いたことがあるだろうか。


 この世界の住人であれば一度目は首を傾げ、二度目は首を横に振る。そしてこう答えるだろう。


「女尊男卑と間違えているのでは」と。

 そして僕は、そういう言葉を聞いたことがある。だがこの世界の話ではない。


 この世界に広がる数多の物語、夢と希望の溢れる素晴らしい伝記や伝説、はたまた悲しい神話なんかと聞けばきっと少なからず知っているはずだ。


 伝説のドラゴンを討伐するべく、仲間を集めて旅をする女勇者の物語。

 一人の男に様々な女たちが年齢や種族、カーストの垣根を越えて振り回されるような面白いラブコメの物語。

 絶世の美しさを誇る男の神に求婚する女神たちの神話。


 僕はそういう物語を知っている。


 いつからおかしいと気づいたのだろうか。


 まるでボタンを掛け違えたのかような違和感。異世界、転生、子供、物語。

 様々な所で気づく部分があった。


 この世界の常識と、僕の常識は違うと言うことが。



「アハト! アハトはどこ!?」

 絶叫、あるいはそれに近い大きい声を上げて走ってくる声に僕は顔をしかめる。こんな顔をしても彼女は気にしないのだろうとふと思いつつも声の主に対して反応を返す。


「僕はここだよ、アーリ」


 アーリという名前で呼ばれた声の主は僕の声に反応するといくつもの扉をガチャガチャと開けてこちらに一目散に駆けてくる。


 長い耳、スラリとした身長、この世界の女性にしては(・・・・)小さめの胸、気の強そうな金色の瞳は少し潤んでいる。

 彼女の名前はアーリヴァルト、エルフ族の中でも特に強い力を持つハイエルフである。


「あぁ、アハト!」

 彼女は僕に飛びついてくると細身の体のどこから出てくるんだと言わんばかりの凄まじい膂力(りょりょく)で僕を抱き――締め上げてくる。


 彼女の白く滑らかな、それでいて引き締まった体に締め上げられる僕は気が気ではなかった。


 ミシミシという音が今にも聞こえてきそうなほど力がこもっている。僕はまだ経験していないが人族の男性がハイエルフの幼い少女に背骨を圧し折られたという話は聞いたことがある。


 僕は頬ずりまで始めた彼女の体を引き離そうとした。


「ア、アーリ……ちょっと体を離してくれないかな……君の力が強すぎて――」


「いいえアハト! もう離さないわ! ベッドで起きたら貴方の姿が見えないなんて、まるで幸福な夢から悪夢へと落とされた気分よ」


 更に力が強くなった。僕の額からは脂汗が滲みだしている。


「ちょ、アーリ……」


「ああっ、私の大事なアハト! なんでこんなにも、こんなにも愛おしいの!」


 メキッ。


 僕の節々からそんな音が鳴り始めている最中であった。僕のことを凶悪な力で抱きしめていたアーリは突如僕の目の前から消えた。


 消えた、その表現が正しいソレはまさに転移魔法の起こす事象であった。


「全く、もう少し到着するのが遅ければ骨の数本は魔法で治癒しなければならなかったかの」


 どこかの物語でしか使われないような古臭い、どこか年寄りを感じさせるその喋り方をする少女は僕の知る限り一人しかいなかった。


「助かったよ、リリー」


「ほほ、若い男子に礼を言われるのは気分がいいものじゃ」


 竜人族の中でも最強最悪と呼ばれた竜女王の娘、ドライフィーア・リリアーナである。

 黒竜という竜種でもあり、黒い瞳やまるで光も吸い込んでしまいそうなほどに美しい黒い髪は、懐かしさを感じさせる。


 しかし驚くのは少女のあまりにも整った容姿だろう。人形のように整った、そういう表現で呼ぶのもおこがましいほどに整ったその美しい顔は見るだけで人の魂を奪ってしまうのではと思うほど。



 メキメキメキッ!

 リリアーナ……リリーがアーリをテレポートの魔法で転移させたのはこの魔法学園の中庭にある大きな精霊樹の前であった。


 アーリの力により精霊樹は軽々と圧し折られてしまった。僕はそれを少し怯えながら自分の体を抱きしめる。


 あともう少し遅ければ僕があの精霊樹と同じ末路を辿っていたと考えると恐ろしい。

 アーリは我に返ったのだろう、慌てて精霊樹に魔法をかけて修復していたがあの幹の太さから直すのは時間がかかるだろう。


「それはそれと、アハトはどうして中庭に?」


 リリーは少女らしいコロコロと快活な笑みを浮かべてそんなことを訪ねてくる。


「そんなの言わなくても分かるでしょ、息抜きだよ息抜き」


「息抜き」


「毎晩毎晩、代わる代わる色んな人に抱かれて寝る僕の身にもなってよ」


 いつの日か搾り取られないか心配しているのだ。僕の不満が爆発している様を笑うリリーは僕の隣の芝生に座り込んだ。


「それは無理じゃな、わらわもアハトが可愛くて仕方ないからなあ」

 小さな細腕で僕の腕に絡みついてくるリリーを見てため息をひとつ。



 僕はこの魔法学園と言う名の男女のお見合いを兼ねた檻のない監獄に辟易とした気分で首を振ってため息をまた吐いた。

こういうのもっと流行って

・ヤンデレ

・貞操観念逆転


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