プロローグ
プロローグ
2015年12月24日
今日は、年に一度のクリスマス・イヴ。街では、クリスマスツリーが至るところに飾られており、サンタやトナカイの衣装を着て、チキンやケーキを売っているお店がたくさん出ていた。
また、商業施設などでは、いろいろなクリスマスイベントが催されていた。
街のなかには、手を繋いでいるカップル、子供連れの家族、友達と遊んでいる高校生など様々な人がいた。
そして、今日みたいな日には、好きな子に告白しようとする人もいるだろう。
本郷健もそのうちの一人であった。
その日、健は、高校の同級生の、仲のいい男女数人と、受験勉強の気晴らしに、クリスマスパーティーをしていた。その中には、彼が告白しようとしている相手もいた。
パーティー終了後、健とその子は帰り道が同じであったため、一緒に帰っていた。偶然にも、他の人たちは帰り道が違っていたため、二人だけで帰っていた。これは告白するチャンスだと思った健は、その子を、街が一望できる高台にある公園に誘い、二人でその公園に行った。
公園に着くと、二人は街を見ながら他愛もない話をして過ごした。しばらく話すと、話すことがなくなり、二人はただ街を眺めていた。二人の間で沈黙が続き、このままではまずいと思った健は、覚悟を決め、身体ごとその子の方を向き、声をかけた。
「ねぇ、聞いてほしい話があるんだけど・・・」
健がそう言うと、その子は「何?」と言いつつ、髪を掻き分けながら健と向き合った。その子と目があった健はドキッとしてしまい、すぐに言葉が出てこなかった。
目があってドキッとしたというのもあるが、髪を掻き分けた時の色っぽさも相まって、ドキッとした。
しばらく見つめあっていた健だったが、その子に名前を呼ばれると、ふと、我に返った。健は目を瞑り、数回深呼吸すると、意を決して、告白した。
「俺は、あなたが好きです・・・。俺と、付き合ってください」
見つめあったまま、しばらく静寂な時間が流れた。その時のその子は、驚いた顔をしていた。無理もない。今までそんな素振りを見せていなかったのだから、急にこんなことを言われたら、誰でも驚くだろう。
また、寒さも相まってか、その子の顔が紅くなっているのが分かった。
健から目線を外すと、左斜め下を見ながら、健の告白に答えた。
「あの・・・、その・・・・、急にそんなことを言われてビックリした。けど・・・、凄く嬉しい、ありがとう」
その子は、おぼつかない感じに答えた。
健はその返事を聞き、内心、少しだけ舞い上がっていた。これは付き合えるんじゃないか、と健は思っていた。
しかし、その後、その子から出た言葉は、健にとって予想外の言葉であった。
「でも、ごめんなさい。健とは付き合えない」
健は一瞬、何が起こったか分からなかった。自分の聞き間違いかもしれないと思った健は、その子に問いかけた。
「今、何って・・・」
健の問いかけにその子は、申し訳なさそうな表情で再び答えた。
「だから、健とは付き合えない」
聞き間違えではなかった。その言葉を聞き、健は茫然とした。
しばらく茫然としていた健だったが、ふと、我に返り、その子に付き合えない理由を聞こうとした。
その時、健より先に、その子が言葉を発した。
「本当にごめんなさい。さようなら」
そう言うと、その子は健に背を向けて帰ろうとした。健は理由を知りたいため、その子を止めようと手を握ろうとした。しかし、健の手は、その子の手に届かなかった。
おかしい。その子の手はすぐそばにあり、手を伸ばせば届く位置にあった。それでも届かない。二人の距離は徐々に離れていく。健は追い付こうとするが、なぜか追い付けない。速く走っているわけではないのに。
待って、待って、と健は何度も叫んだ。しかし、その子は止まらなかった。やがて、その子の姿は見えなくなった。それでも健は、手を伸ばして走りながら何度も叫んだ。
「待って、待って、待ってくれ・・・。」
やがて、立ち止まった健は、涙を流しながら、大声で叫んだ。
「まってくれよーーーー!!」
「ハッ」
目をあけると、そこには、見覚えのある天井が映っていた。健は息を整えながら、ゆっくりと身体を起こした。あたりを見回すと、そこは、健の部屋だった。
「また、この夢か」
クリスマス・イヴが近づくと、健は毎年、この夢を見ていた。
あの日から、5年は経とうとしている。あれから健は、毎年、告白しようと試みるが、告白できずに終わっていた。いや、正確には、告白しようとすると、あの日のことがフラッシュバックされて、告白することが出来なくなっていた。また、あの日と同じ思いをしたくないから。
ーーーもし、あの時、告白しなかったら、違った未来があっただろうか。そんなことは分からない。あの時、告白しなかったら、違う未来があったかもしれない。しかし、もし、違った未来があったとしても、その未来がいい未来だったとは限らない。もしかしたら、今よりも悪い未来だったかもしれないし、同じ未来だったかもしれない。そもそも、人は過去に戻ることはできない。だから、こんなことを考えるのは意味がない。
健は、そんなことを考えていた。考えるだけ無駄とはわかっていたが、考えずにはいられなかった。
でも・・・・。
ーーーもし、あの時、あの頃に戻れたとしたら、俺は・・・。
健は、ポツリと呟いた。
「あの頃に・・・戻りたい・・・」




