6.討伐隊
翌日
う〜ん。いい朝だ。窓から清々しい朝の光が部屋の中を照らす。今日もいい天気でよかった。
昨日はいろいろなことがあって、疲れていたので夜はぐっすり眠ることができて今日は朝から絶好調だ
昨日の夜、名前が結局わからなかった美少女がネメシスさんを呼んできて、ネメシスさんはおれの調子を確認した後、
「明日の朝、長老が君と私に話があるみたいでね。起きたら身支度をして小屋の前で待っていてくれ。迎えに行くから。あと寝巻きは私のを貸してあげるよ。」
そう言っておれに寝巻きを手渡したあと小屋から出て行った。おれはそのあとやることもなかったので、部屋の端にある毛布(二枚あるから一枚は下にしくのかな?)を使わせていただき、寝巻きに着替えて寝ることにしたのだった。
そういうことで、おれは早速私服に着替えて、顔を洗いに井戸へと向かおうとしたのだが、
「ちょっと臭うかな?」
自分と自分の服が臭いことに気がついた。それもそうだよね。だって昨日はゴブリンのせいで服を自分の血で汚す羽目になったわけだし、それにそんな服を着ながら昨日1日を過ごしたわけだから、俺自身が臭いのも当然だ。風呂も入ってないし。
仕方ない、服は長老に会って話しするついでに、いらなくなったものがないか聞いてみよう。身体は顔を洗うついでに少し濯ぐ程度のことはしておこう。
「てゆうか、昨日の子に臭いって思われなかったかな?」
心配です。
顔を洗いに行こうと、小屋を出て外を見てみると、村のおそらくほとんどの人と兵士さんが起きていた。自分では割と早く起きたつもりだったのだがそれ以上にこっちの世界の人たちは早起きらしい。
健康第一だもんね。
「おはよう。遅かったね。」
なので当然ネメシスさんももう起きているわけで
「すいません。すぐに用意しますんで!」
そうしておれはダッシュで村の中央にある井戸へと向かう。
「そんなに焦らなくていいのに」
やれやれといった雰囲気でネメシスさんは遠ざかって行くおれに向かって呟いている。正直待たせるくらいだったら起こしてもらったほうがよかったのだが、おれが疲れていることを察して寝かしておいてくれたのだろうか。本当に優しい人だ。
村の人たちに挨拶しながら井戸に行き、
急いで身支度を整え、ネメシスさんのところへ急ぐ。
「匂いも落ちているし、これで心置きなく、長老に会えるな。」
長老家にネメシスと一緒にお邪魔した。朝ごはんを食べていなかったので、お腹が空いていたが、自分からその話を持ち出すのはなんだか図々しい気がしたのでやめた。いや、よく考えたら、昨日の晩も何も食べてなかったぞ。さすがに血の量まではポーションで元に戻せないだろうから、この話が終わったらご飯をいただけないか聞いてみよう。
長老の部屋にはいろいろなものが飾ってあった。鎧や剣、巻物や錬金術に使うのだろうか?禍々しいツボまで置いてあった。もしかしたらこの中は、勇者の置き土産なんかもあるのかもしれない。
そうなどうでもいいことを考えていると扉の前でつっ立っていたおれに長老は席を勧める。長机だといってもガタイのいいネメシスと二人で横並びに座ると少し狭かったのでおれは、幅の狭い方に座る。
「早速で悪いのじゃが少しお主らに協力してほしいことがあるんじゃ。」
急に本題をもちだしてきたな。
おそらく昨日男ともめていた話題についてだろう。おれをネメシスと一緒に呼んだ理由は、その現場を見ていて、今の村の現状を知っていると思ったからだと予測する。
「桜くんは、大体予測がついているみたいじゃが、
ということは、やっぱりそうか!
わしには子供がおらんのでオススメの女性を紹介してくれんか?」
「おいクソじい!!
なんでおれがそんなこと予測してると思った!!」
「冗談じゃよ、冗談。そうムキになりなさんな。」
この爺さん真面目な話の前にどんな冗談ついてんだよ。ネメシスさんなんて一瞬本気で考えてたよ。
「それで本当には本題に入ろうと思うのじゃが、実はモンスターの討伐隊に参加してほしいのじゃ。お主らは森の中で、ゴブリンたちを赤子の手を捻るように倒したそうではないか。その実力を見込んで、是非頼む!報酬は勇者様がこの村に残してくださったこの剣じゃ。」
そういって長老は自分の椅子に立てかけていた剣を机の上に置く。
「都で売ればそれなりの値段になるはずじゃ。よろしく頼む!」
そういって長老は頭を下げた。
ネメシスは少し考えてから
「わかりました。ですが報酬はいただきません。我々はこの村でお世話になっていながら、まだ何も恩返しができていない。これはちょうどいい機会です。私達に恩返しをさせてください。」
そういってネメシスも頭を下げた。すると長老が少し慌てていたが、ネメシスが顔をあげて二人の目が合うと二人ともおかしくなったのか笑いあったのだった。
ええ話やね。
「そういえば、昨日の喧嘩では長老は反対していましたよね?討伐隊をつくること。」
「そのあとわしも考えて見たのじゃが、恥ずかしながら、どうしてもじぶんの意見に自信がもてなくなっての。村の者たちで、多数決を行ったところ結局このような答えになったのじゃ。」
なるほど、確かにその方法で決めたほうが男も長老も納得できるだろう。
「あともう一つと質問があるんですが、どうしておれここに呼ばれたんですか?おれが協力できることなんてあまりないと思うんですが」
昨日のあの場面を見たという理由があるにしても、おれにはこの状況をどうにかする力はない。それにさっきから少し会話の内容に違和感があった。
長老は戸惑ったような顔をしたあとすぐに納得したような顔をして
「ああ、すまない。桜くんには報酬の話をしていなかったのぅ。桜くんほどの実力者の力を借りるのに報酬がなくては協力はできぬということじゃな?そんな大切なことを忘れているとは、歳をとるとこれだからいかん。」
笑いながらそう答える長老。
やはりだ。この人は何か勘違いしている。
「あの、すいません。おれはおそらくあなたが思っているほど強くないと思いますよ?昨日だってゴブリンを倒したのは兵士さんたちであって、おれは助けられる側でしたから。」
服についた血を見たらわかりそうなものだけど。返り血だと思ったのかな?
そうおれが言い返すと長老は驚いた顔をして
「これは失礼した。桜くんのような異世界から来た者は『ユニークスキル』という強力な力を持ち、ある者は勇者と肩を並べるものまでいると聞いていたのだ。」
・・・何ですと?
長老の言葉を聞いて、ネメシスさんの方を見ると少し気まずいような顔をしている。
「すまない桜くん。私も君の能力の正体がわかった時にこの話をしようと思っていたんだ。君がその力を使い高みを目指して強敵と戦う道を選ぶか、それとも前から言っていたように危ない戦いをするのではなく安全なクエストをこなして生計を立てる道を選ぶか。おれは断然いろいろと別の職業への転職の融通がきく後者をオススメしたいんだが決めるのは君だよ。」
そう言ってネメシスさんは優しくおれに微笑みかけてくれる。本当にこの人はお人好しすぎる。この世界に来て初めに出会えたのがこの人でよかった。心からそう思った。
「おれのためにいろいろと気にかけてくださりありがとうございます。たっぷりと時間をかけて選択しようとおもいます!」
おれは、お礼と自分の思っていることを精一杯に伝えようと、心を込めて返事をするのだった。