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ブレトヴィル・ロルゲユースへの反撃3

「このまま村に近づくぞ!」


偵察中隊の先鋒はすでに村に入っている。私たちもすぐさま侵入し。彼らを援護しなくてはならない。


村が目と鼻の先にまで近づくと戦車隊は楔形の隊列をといた。陣形を保ったまま村に侵入することは出来ない。小隊ごとに縦列で村へと侵入した。


村に入ると暗闇の中、戦友とカナダ兵が銃撃戦を繰り広げていた。912号車に乗っていた擲弾兵たちが飛び降り、彼らを援護するべく銃撃戦に加わる。


「砲塔11時!」


私はペダルを踏み、砲塔をゆっくり左に旋回させる。照準器越しにカナダ兵が家屋に立てこもり外の擲弾兵を銃撃しているのが目に入る。


「家に立てこもっているやつらをやっつけろ、照準!」


「照準よし!」


「発射!」


撃鉄レバーを引く。戦車砲が後退し、薬きょうが排出される。戦車砲から発射された榴弾は遅発信管に設定されており家屋の壁を突き破って爆発した。爆発によって家屋の壁は崩れ落ち、大きな穴があいた。その穴へと私は同軸機銃で雨を降らせる。


「射撃やめ!」


射撃をやめると擲弾兵があいた穴から内部に侵入する。おそらく無事な者はいないだろう。この時、私は思った。故郷と母を焼いた連合軍の手先を打ち倒したのだ。この時の私の胸には達成感と少しばかりの妙な靄によって満たされていた。


戦車隊は村の中をさらに進む。奥へと進む途中、右手の茂みから人影が飛び出し、小隊長車と912号車の間に割り込んできた。カナダ兵だ!手には円盤状の物体!対戦車地雷!


「マウラー、あのカナダ野郎を撃て!」


ベッカーSS軍曹はマウラーに命令した。912号車の砲塔は左を向いていて対戦車地雷を持つカナダ兵を撃つことが出来なかった。だが幸運にも勇気はあるが実戦経験が不足しているカナダ兵は前方機銃の射線上に入り込んでいたのである。マウラーが前方機銃で銃撃すれば912号車を救うことが出来たのだ。


しかし、マウラーはそれをしなかった。


「マウラー、なにをしている。カナダ野郎を撃て!みんな死ぬぞ!」


マウラーは答えない。私は右急旋回ペダルを踏み、砲塔を右に回す。間に合え!


「マウラー!義務を果たせ!」


砲塔の旋回は間に合わない!このままではやられてしまう。


「もういい!」


ヘッドセット越しにベッカーSS軍曹は叫ぶ。私の後ろでベッカーSS軍曹が腰から護身用のピストルを抜いた。直接カナダ兵を撃ち殺す気だ。


「くたばれカナダ野郎!」


ベッカー軍曹は砲塔から顔を出し、カナダ兵に向け護身用のルガーP08を乱射した。だが9mmパラベラム弾がカナダ兵を捉えるまでに至らなかった。同じく茂みに隠れていたカナダ兵がベッカーSS軍曹を撃ったのだ。ベッカー軍曹は再び車内に戻った。


結果として912号車を救ったのはベッカー軍曹の射撃とそれによってカナダ兵の存在に気づいた周囲の擲弾兵だった。私たちには永遠のような時間の出来事だったが、客観的な時間軸からすると10秒前後の出来事だった。


「マウラー、お前の行動は戦友を危険に晒した。終わったら上に報告する」


ベッカーSS軍曹は短くそう言った。その言葉からは怒気が感じ取れた。マウラーは何も言わなかった。


隊列は先へと進む。


村の中心部へ入ったところで戦車が激しい衝撃に襲われた。思わず気が遠くなるような衝撃だった。


「対戦車砲だ!」


ベッカー軍曹の言葉で状況を理解する。対戦車砲の放った砲弾が装甲に命中したのだ。シルエットの小さい対戦車砲は戦車最大の敵であり、撃たれるまでに発見することは至難の技であった。砲弾が装甲を貫通しなかった場合でも命中すれば衝撃により装甲板の内側が剥離し乗員を殺傷する可能性があった。早急に始末せねば!


対戦車砲はどこだ。暗闇でうまく見つけることが出来ない。


次の瞬間、また砲弾が戦車を揺さぶった。衝撃で左肩を打ち付け鈍い痛みを覚える。


「もういや!」


それまで無線手席でじっとしていたマウラーが突然叫び出した。マウラーはハッチを開け車外に飛び出していった。


「砲塔2時方向。目標は対戦車砲!距離300」


あっけにとられている私をよそに、ベッカー軍曹が発砲炎から対戦車砲を発見した。私は命令通り砲塔を2時の方向に向ける。対戦車砲がいた。私は対戦車砲に狙いをつける。早くしなければ3発目が送り込まれてしまう。その前に仕留めなければ。


「発射!」


砲弾が発射される。発射された砲弾は対戦車砲の手前に落ち爆発した。私はさらに同軸機銃を放ちとどめをさす。


「よくやったハーゲン。お前は一人前の戦車兵だ」


対戦車砲を撃破すると、ベッカーSS軍曹は私にそう言った。軍曹はマウラーのことには触れなかった。この日の戦闘はこれで終わった。パンツァー・マイヤー率いるドイツ軍部隊はブレトヴィル・ロルゲユースにあったカナダ軍レジナ・・ライフルズ連隊の指揮所を奇襲する形となり大戦果をあげた。しかし、第26SS装甲連隊はどこにもおらず、パンツァー・マイヤーはブレトヴィル・ロルゲユースの保持は困難と判断。早朝には街道を戻りカーン近郊の高地まで部隊を戻らせた。

戦闘終了後の912号車のパンター戦車の前面装甲には2発の砲弾を弾いた跡があった。装甲板が私たちの命を守ったのだ。


この戦闘で偵察中隊の指揮官フォン・ビュトナー中尉が戦死した。またブレトヴィル・ロルゲユースの村の中で体中に銃撃を受けたであろうマウラーの死体が発見された。こうして912号車の無線手マウラーは死んだのである。彼女はまだ16歳であった。


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