ロツという小さな村1
かなり短めです
ブレトヴィル・ロルゲユースを攻撃した翌々日、我が小隊はロツに陣取っていた。連合軍は7日と8日の戦闘で尻込みしたのかこの日第12SS装甲師団戦区の前面の連合軍は2日にわたって静かだった。
8日に戦死したマウラーの遺体はその日のうちにブレトヴィル・ロルゲユースから運び出されツェルトバーン(31年式テント布)に包まれて埋葬された。戦争はこうもあっけなく人の命を奪う。彼女はあっけなく死んでしまった。彼女の眠りが安らかなものであることを祈るばかりだが、戦争はまだ続く。マウラーの後任を決めなくてはならない。
結果として後任の無線手は初日の行軍でヤーボに撃破されたパンター戦車の砲手であったクラリッサとなった。
「よろしく、クラリッサ」
私はクラリッサを握手で迎えた。私とクラリッサは下士官教育において一緒だったのでクラリッサは容易に912号車の一員となれた。
クラリッサが912号車の一員となった6月10日は平和だったので、戦車の整備だけで終わった。マヤがクリーニングロッドで砲身の掃除をしていたのをよく覚えている。
翌11日、モーンケSS大佐の第26SS装甲擲弾兵連隊の第2大隊がカナダ軍第1軽騎兵連隊の戦車の支援を受けたクイーンズ・オウン・ライフルズ・オブ・カナダ連隊の攻撃を受けるが、カナダ軍にシャーマン戦車12両の損害を出させはねのける。ドイツ軍の損害はハーフトラック3両。この戦果は効果的に待ち伏せした第8中隊の戦車と対戦車砲によってもたらされた。
この日、私たちの前面でも攻撃があった。カナダ軍第3歩兵師団第8歩兵旅団と英軍第46海兵コマンドが戦車の支援を受けてムエ川流域を下流から上流に向けてかけて攻撃したのだ。連合軍部隊はタオン、ケロン、ラソン、ロゼルを占領し、この日の夕方にはロツへと入った。
「対戦車戦闘用意!」
戦車発見の報を受けて912号車は戦闘態勢に入る。砲手席に滑り込んだ私はキャップの上からヘッドセットを装着した。
「前進用意、前へ!」
ベッカーSS軍曹の命令で総重量約45トンの鋼鉄の怪物が咆哮をあげ動き始める。912号車は、小隊長車である911号車の後方に続く。後ろには913号車が続く。
「911より小隊各社へ、村落西方の丘に展開し敵戦車隊を迎え撃つ。我に続け」
小隊は村を出て村の西側に位置する丘の南側に回る。敵部隊は北から進行中。
丘の裏まで移動した912号車は丘を登った。912号車が丘を登りきると、田園地帯を進む連合軍部隊の姿があった。
「絶好の射撃ポジションだな。ハーゲン思い知らせてやれ。目標、先頭のシャーマン戦車、距離1200メートル」
「了解!」
私は命令通り戦闘を進むシャーマン戦車に照準をあわせる。照準器のメモリを1200メートルに合わせ、シャーマン戦車の中心から少し左側パンター戦車の照準器は主砲の左50センチに設置されているため、照準と飛ぶ場所にズレが生じるためだ。
「発射!」
撃鉄レバーを引くと、高初速7.5センチ砲から徹甲弾(装甲を撃ちぬくための弾)が放たれシャーマン戦車に吸い込まれる。砲弾を受けたシャーマン戦車はそれきり動かなくなった。砲弾に装甲が貫通された場合、戦車の内部では砲弾が跳ね回り乗員を殺傷するのだ。そのため、爆発炎上しなくても戦車の乗員は死んでしまうのだ。
「訓練通り、うまい射撃だ。次の目標もシャーマン戦車だ、よくねらえよ」
「了解」
私たちの部隊は丘の尾根からシャーマン戦車の戦車隊を打ち下ろし続ける。隊列に砲弾が飛来するが、ベッカーSS軍曹は「まだやられん」と冷静。分が悪いと踏んだ敵部隊は丘やボカージュの陰に隠れ私たちの砲撃から逃れた。




