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『メールでは初めまして、優歩です。空は飛びません!
良ければ、お返事ください』
優歩は帰宅後そう打ってから、たったそれだけの文章を何度も何度も確認し、送信ボタンを押すかどうか躊躇った。そして、えいやっ、と声を出して押した。
すぐに返事が来るかどうかは判らない。メールのやり取りをそんなにしたことがない優歩は、どれくらいの時間で返事が来るものなのか、判断がつかない。
優歩は携帯電話を命綱のように握りしめて、零からの返事が来るのを待った。
十分が経った。電話が震えて優歩は飛び上がる。恐る恐るメールボックスを開くと、零のアドレスから件名に「Re:」と書かれた返信メールが届いていた。
逸る気持ちを落ち着けるようにひとつ息をついて、優歩は零からの返事を開いて見た。
『メールありがとう。ユウホって優歩って字なんだ。俺は零って字だよ。
今、新曲を作ってたんだ』
優歩は零から返事が来たことが嬉しくて何度も何度もその文を読み返した。
新曲って、どうやって作るんだろう。曲から出来上がるのかな、歌詞から出来上がるのかな、このくらいの時間のメールなら迷惑にならないのかな。
色々と訊いてみたいことが出てくる。けれどそれを伝えられる程、優歩はまだ人と関わる怖さを払拭できていない。誰とも関われない恐怖を。
だが、零ならば。ゆっくりと時間をかけて同じ場所にいることを共有してきた零ならば、少しずつ話せるかもしれない。少しずつ、教えてくれるかもしれない。
は、と優歩は我に返り慌てて返信の文章を打つ。優歩が携帯電話を手に入れたのは高校生になってからで、メールをすることもなかったために使い慣れていないが、ひとつずつ優歩は文字を画面上に呼び出していく。優歩の言いたいことが伝わる文章が書けている自信はないが、訊いてみたいことは一杯あるのだ。新曲についての話題を優歩はそのまま続けた。
零も返事のテンポが速いわけではない。優歩と同じくらいの時間をかけて同じくらいの量の文章が届く。優歩に合わせているのかどうかまでは、優歩は思い至らない。この会話を続けることに必死だった。
新曲について話しながら、メールをしていることに優歩は頬が緩むのを感じた。ひとりでいても、誰かと同じ時間を過ごしているような感覚を得られるのだと、優歩は知った。
だが、まだ怖い。何か失礼なことをして、やっぱりお前なんかとメールなんかするんじゃなかったと言われるのではないか。恐怖は、これからだ。
そのうちシカトされて、忘れられるんだ……。
優歩は携帯電話をぎゅっと握った。