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「私の他に女がいるのねっ! もう貴方とはやっていけない!」
金切り声に躰が震える。耳が痛い。
「お前こそ俺以外の男がいるだろ!」
負けまいとする怒鳴り声。薄い壁一枚では、どちらの声も響く。
「離婚よ!」
「離婚だ!」
二人が同時に同じ言葉を発した。今まで食い違っていた意見がその瞬間、ぴたりと一致した。
「優歩は?」
「もう高校生だ。ひとり暮らしくらいできるだろ、義務教育はもう終わってるんだし。どちらかが落ち着くまでは」
両手を両耳に当て、声を、言葉を、聞かないようにした。だが、気にする心は言うことを聞かない。地獄耳のようにどの言葉も聞き逃さなかった。
「そうね。それじゃあとりあえずは、ね」
どちらも面倒なのだろう。時間の波に呑まれた自分たちの娘を気にする程の余裕はない。厄介ごとのひとつくらいにしか思われていないに違いない。
そう思うと、心臓がきゅっと縮んで、心が声にならない声で悲鳴をあげたように感じた。
「ったく……留年する気かよ」
乱暴な言葉に唇を固く引き結ぶ。手は必死にベッドのシーツを掴んでいる。まるでそれが、命綱であるかのように。
心は言葉を拒絶し、目はしっかりと閉じられた。