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 無色透明で純粋な雫が優歩の頬を濡らしていた。感動の波で心が痺れているように感じる。二曲目の『ゼロから歩こう』が終わるところだ。


 ――ひとりじゃないよ、僕がいる。一緒にゼロから歩いて行こう――


 澄んだ声がそう歌い上げるのを聴いて、優歩は瞬きさえ忘れて零に見入った。零の声と伴奏とが馴染んで、夜の公園に溶けて消えていく。

 此処で唄うのは、Reiではなく、零。優歩だけが知っている、零だ。


「何泣いてるのさ」


 零が苦笑して優歩の顔を下から覗き込んだ。

 涙を拭おうともせず、ただ涙するままにして優歩は言う。


「二曲とも、じーんとして……切なくて、綺麗で、心に直接響いてきたような感じがしたの。感動しちゃったよ……」


 泣きながら笑う優歩は堰を切ったように喋り出した。零の歌を初めて聴いた時のことを。


「初めて零の歌聴いた時のこと思い出したの。あの夜はただぶらぶらしてて、偶然、零の歌声が聴こえて……黙って聴いてたら、涙が出たの」


 思い出したように優歩は浴衣の袖から伸びた指先で涙を拭い始める。しかし、一度出た感情を止めることはできない。


「誰もあたしを見なくなったこの街で零だけが黙ってあたしを見つけて、受け入れてくれた。あたしに笑顔を見せてくれた。

 でも、ずっと怖かった」


 拭ったばかりの優歩の目に、また涙が溢れた。恐怖からか、昂った感情のせいか、優歩にも判らない。


「メールが続いても、いつか返事なんか来なくなるんじゃないのかなとか、やっぱりお前なんか要らないって言われるのがすっごく怖かった。極めつけは、零のスカウト」


 びくっと零の瞳が動揺した。だが涙を拭っていて零を見ていなかった優歩はそれには気づかない。


「零が何処か遠くに行っちゃうと思って怖かった。あたしのことなんてすぐ忘れて、何処かの女優さんと結婚しちゃうんだって思ってた」


「おいおい……」


 飛躍しすぎ、と零は微苦笑する。優歩の目を見つめると幼子に言い聞かすように零は言った。


「俺が優歩を忘れるなんて本気で思ってたの? そりゃちょっと忙しくてメールできない時間は長かったけど、歌う場所が変わったって俺が歌うちょっと離れた場所で優歩が聴いてくれてるって思いながら歌ってたのに? 

 俺の作った曲は全部優歩に向けてたのに……今度歌う前に優歩に捧げるって言おうか?」


 零の指が優歩の涙を拭う。今まで触れたことのない零の指が自分に触れている慣れない感覚に、優歩はひっと悲鳴をあげる。零が楽器に気をつけながら優歩をおずおずと抱きしめた。


「ずっと優歩に届いて欲しいと思って作り続けてたんだけど……俺の気持ち、伝わんなかった?」


 ぐい、と優歩と体を離し、零は切なそうに優歩を見つめた。


「俺、優歩のこと好きだよ」



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