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「あぁ、愛されてるんだなぁって思った。悲しそうな、昔の俺と同じ目をした女の子だけど、高校生くらいかなって。義務を守ってくれた親がいて、生きてるんだなぁってさ」
優歩の顔を覗き込んで、ねっと零は笑う。優歩は泣かないように眉根を寄せた。きっと変な顔になっている、などと考えている余裕はない。
「優歩が今まで生きてこれたのは愛されてるから。それ以外の理由なんて、ないんだよ」
解った? と零は優歩に尋ねる。微かに頷く優歩に、よろしい、と言ってそっと零は優歩から手を放した。優歩はこそりと涙を拭って携帯電話を取り出し、呼び出した番号にかける。
「あ、お母さん? あのね……ううん、まだ決められてない。ちょっと訊きたいことがあって…あのね、あたしの名前って、どういう意味なの?」
母親の声までは聞こえないが、何か返事をしている優歩の母親の言葉を聴きながら彼女が泣きそうになっているのを零は見た。
「誰が……つけてくれたの……?」
詰まりそうな声で優歩が尋ねる。しばし間があり、うん、と優歩が頷いた。
「お父さんとお母さんの両方でつけてくれたんだね――……」
* * *
通話を切った優歩の横でギターを抱えた零が曲の伴奏をし始めた。優しいその音色と和音に、優歩の心が揺らぐ。
「意味、何だって言ってたの?」
そっと差し出された話題に優歩は乗っかる。
「一歩一歩を大切にして、優しく歩ける子になって欲しい。一度きりの人生を、後悔しないように」
優歩の目には溢れそうな涙が溜まっている。しかし、零にはどうすることもできない。少し遠くで、フィナーレなのか次々と花火があがっていた。
「良い意味じゃん。そんな大切な名前、失くすなよ」
「……うん」
「それじゃあ、俺がお待ちかね、新曲発表ライブを始めまーす」
「……えっ?」
零がニコニコして優歩に言い、優歩は面食らって零を見た。話の繋がりもよく解らない、と優歩が困惑していると零は笑って冗談めかした口調で言った。
「あれぇ、知らないのかな、優歩? 誰かひとりにライブするってテレビで宣言したんだけど」
「あ、あれ冗談だと思って……」
「普通『あたしかも』って思うもんじゃないの、女の子って」
「だだだだって……そんなあたし……っ」
「だって新曲の話、優歩にしたのに……テレビでも発表してるのデビュー曲だけじゃん、新曲じゃないじゃん。そんなに忘れられやすいのかな、俺のメールって」
「そんなことないよ! 今日はただ、お祭りと花火大会だけだって思ってたから」
「あ、足りなかった?」
「そそそそそんなんじゃ……!」
動揺して何を言っても予想外の答えを返してくる零に混乱し、真っ赤になりながら言う優歩をくすくすと笑って零は前奏を始めた。先ほどの和音が響く。
「それじゃあ聴いて下さい。新曲の『夏祭り』です」




