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「な、なに……っ」


 驚きのあまり声にならない声をあげ、優歩は口を両手で覆った。零の目が眼鏡の奥から何処か遠くを見つめ優歩を見た。悲しい色を湛えているように、優歩には見えた。


「嘘だろって? 本当のことだよ。俺は母親にとって要らない子どもだった。でも、兄と違って俺は運が良かったらしい――」


 零の言葉はまるでドラマでも語っているようだった。小説のような出来事に、優歩はただ聴くしかない。


 ――俺をとある病院で産んだ後、はっきりとした意識で、はっきり医師に告げたらしい。

 この子を殺して。

 私には必要ないから。

 医師は正式に手続きをして、彼女から俺を養子として引き取り、不登校になったある日、その事実を俺に告白した――。


「肉親だとずっと思ってたから流石に堪えたけど、やっぱり俺の両親はあの二人しかいない。

 何でもゼロから歩ける人間になって欲しいから、零。過去がどんなに残酷でもそれをマイナスにしない、ゼロにできる人間になって欲しいから、零って名前をつけたんだと教わった」


 そう言う零の表情はいつもの零に戻っていた。ふっと柔らかい微笑を優歩に向ける。その表情の変わりように、優歩が泣きそうになった。


「その二人に愛されたからこそ、今の俺が此処にいて、歌を唄ってる。俺の歌が誰かに届いて欲しいと思ったから」


 彼の手が優歩の頭に乗せられる。くしゃりと優歩の髪の毛を撫でて零は目を閉じた。ギターを大切そうに奏でる大きな手は、とても温かい。


「この、時間が宝物とされている世界で一体どれだけの人がその波に呑み込まれているんだろう。チャカチャカ歩くみんなの前でスローモーションのように其処に座って、俺のペースで歌う俺を誰が見てくれるんだろう。

 そう思ってたところに、優歩が来てくれたんだ」


 何も映そうとしない硝子の目をした周囲に絶望し、人の汚さを見てきた少女が自分の歌で涙を流した。


 その雫は純粋で透明で、あまりにも無垢だった――。



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