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 優歩は何処からか音が聴こえることに気付いた。それは切ないギターの旋律で、よく知った澄んだ歌声の青年が唄っているのだった。


 そんなんであたしがフラフラ出てくと思ったら大間違いなんだから。


 しかし音は優歩を惹きつける。まるで見えない糸が優歩を絡め取り、手招きしているように。抗う術を知らずに優歩は誘われるがままに引き寄せられた。


 Reiがこんなところで歌ってたらファンの子に見つかっちゃうんじゃないのかな。


 ぶすっとしてそんなことを思いながら優歩が零の紡ぐ音に誘われていくと、零は優歩を見て手を止めた。心地良い音が突然止まり、現実が戻ってくる。


「あ、来たね」


 にこっと笑って零は優歩に言った。花火会場から少し離れた公園のベンチに座っている零を見て、どうしてだろうと優歩は自分に問いかける。


「どうして此処にいるの?」


「優歩が来るのを待ってたから」


「どうしてあたしなんかを待つの?」


 零はギターを抱えたまま答える。


「……判らない。でも、待ってた」


 浴衣に下駄の優歩を追いかけようと思えば零の足ならすぐに追いついた筈だ。だが追いかけず、連絡もせず、ただこの場所で歌っていた。優歩が大好きなあの曲を、控えめに、だが優しく。


 立ちすくむ優歩に微笑みかけて零は自分の隣に座るよう、ベンチを軽くとんとんと叩いて促す。優歩は黙って従った。


 優歩が零の隣に腰を下ろし、下を向いたまま話さない様子を少し眺めてから、零が口を開いた。


「優歩はさ、何と比較して〝愛されてない〟なんて言うの?」


 零の口から出た言葉は率直で、冷たく、飾られていなかった。戸惑う優歩に零はまた尋ねる。


「一体、どんな基準を引いてはかったの? 自分の名前の意味すら知らずに、〝愛されてない〟なんてよく言えるね」


 何所か怒ったような口調で零はそう言う。その滲み出る憤りに臆し、優歩は何も言えずただ零の言葉に耳を傾ける。


「〝愛されてない〟なんて愛されてる人が言う言葉だ。それに、本当に愛されてない人は育つことすらできないのに」


 え、と優歩は零を見て、零が淡々と語るのを見つめた。


「愛がなかったら、産んだ子どもでさえ要らないと簡単に手放してしまう。見捨てられた子どもは? 言葉も覚えず、歩くことさえままならない赤ん坊に、何ができる? 生きていくなんて……到底無理だ」


 ぐっと零は唇を噛む。何か言った方が良いのだろうかと優歩は思うが、想像が及ばず何も言葉が思い浮かばない。


「俺の兄にあたる赤ん坊を殺しておいても、母親は俺を産んだ。そして俺を――捨てた」



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