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「零が不登校?」


 あまりに信じられないことで、優歩は叫ぶように言った。だがそれは、花火のドォンという音で掻き消され、蚊の鳴くような声にしか聞こえなかった。

 うん、と零は頷く。


「友達が友達じゃなくなった。いや、最初から友達なんかいなかった。でも俺はその現実が受け入れられなくなって不登校になった。

 外の空気も、風景も、全部を拒んで自分を裏切ることのない自分だけの世界に閉じこもったよ」


 優歩は零を穴が開きそうな程見つめる。だからこの人は優歩を見ることができたのだろうか、と妙に納得しそうになる。


「その時の俺の目と、初めて会った時の優歩の目が一緒だった。俺は音楽に目覚めて、高校を留年して、時間が欲しいから大学に進んだ。人間って夢中になれるもんがあると他でつらいことがあっても乗り切れるんだよ。

 俺は友達だと思ってて裏切った奴らを見返そうとか、そんな気はない。それはそいつらが悪いんじゃなくて、そいつらを友達だと思った俺の判断が間違ってたってことだから」


 零は遠くを見るようにしながら穏やかに微笑む。きっとまだ苦い思い出なのだろう。けれどその苦さを味わえる程の大人に零はなったのだ。


「ただ、俺の作った音が誰かの心に響いてくれればそれで良い、そう思った。俺の心を動かしたみたいに」


 零は優歩を見つめ、笑む。


「俺の名前、数字でゼロって意味だろ? どうしてこんな名前にしたんだって一度俺、キレて尋ねたことがあるんだ。『おばけおばけ』ってからかわれたからだろうな」


 零イコール霊になってしまったから、と零は苦笑する。優歩は自己紹介をした時に零がおばけの方じゃないと言っていたことを思い出した。


「そしたらさぁ、真面目そのものの顔して『何でもゼロから歩める人間になって欲しいから』って言ったんだ。『ゼロを知ってるからこそ優しくなれる』んだって言ってさぁ。

 子ども心になるほどなぁって思った。プラスからでもマイナスからでもなく、ゼロから。それって何か、良いことだなって思わない?」


 零の優しい笑顔につられるようにして、優歩は頷いた。


「でも俺はね、優歩の方が愛されてるなって思ったよ」


 零の言葉に優歩は眉根を寄せ、どうしてと問うた。だって、と零の答えが返ってくる。相変わらずの優しい声で。


「名前の響きがとても良くて、綺麗な、とても良い名前だと思うから」


 零の笑顔が優歩をうつむかせた。そんな風に優歩は思ったことはない。


「あたしは愛されてなんかない。現に両親は離婚だし、あたしを邪魔臭く思ってる。こんな、こんな時代の波に呑まれて戻ることもできないあたしなんて、要らないんだよ」


 言っているうちに涙が出そうで、優歩はうつむいたまま堪える。胸の内を実際に外へ出すのは初めてだ。自分が必要とされていないことをいくら自分の声でも音にして耳にするのは、つらいのだと優歩は初めて知った。


「そんなあたしが……愛されてるなんて……嘘ばっか」


 優歩は走り出した。半端な(やさしさ)を与えられるくらいなら、いっそ突き放してくれた方が良いのに。捨てないでと追いかける勇気も、必要としてと叫ぶ勇気もないあたしなんかに……優しくなんてしないで。



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