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久しぶりに見る花火に優歩は見とれていた。ドォンドォンと響く音を感じながらも視覚的な美しさに目を惹かれずにはいられない。
くっきりと、夜空に色彩鮮やかな花が咲き開く。一瞬だけその輝きは煌めき、すぐに散っていく。まるで地球の時間から見る人間が生きる時間のように儚く、一時だけであるかのようだ。
煙が夜空を白くする。そうすると花火の美しさは半減してしまった。
「……この世界に綺麗なものなんてないのかな」
ふと優歩が呟く言葉に零は、何で? と尋ねた。
「どれも最後には醜く崩れちゃうから」
優歩の瞳は花火を見つめる。そして零に優歩の視線が移った。
「零、零は綺麗な物って何だと思う?」
零は優歩の問いかけにしばらく考え込む。その間にも花火はあがり続け、優歩と零の頬を様々な色に彩っていた。零はやや考えて、そっと答えを口にした。
「……音、だと思うな。人の心がこもった音楽は必ず人の心を動かすんだと思うよ」
零は目を閉じる。
「目に見えるものだけが綺麗なものとは限らない。音は見るものでも、聴くだけのものでもないからね。心に響けばそれで良い。感じられれば、価値観すら変わる」
零が目を開けた時、優歩は空に広がる煙を見ていた。連続であがっていた花火は一段落したのか、スポンサーが変わるのか、遠くの会場で女性がマイクに向かって何かを話している声が響いていた。二人がいるところまでは女性が話している言葉は届いてこない。
「そうかもしれないね。零の奏でる音はみんなが求めてた音だから」
また、ひゅるるるる、と音を立てて花火が咲き始めた。優歩が瞳に映した花火が零には潤んで見えた。零は一瞬、優歩が泣いているのでは、と不安になってどきりとした。
しかし、改めて零がもう一度優歩を見ると別段変わりはなかった。
「ねえ、行こうよ。もう此処にはいたくない……」
優歩の言葉に、零は穏やかに目を細めた。
「どうして」
「それは」
「花火、嫌い?」
「……嫌いじゃないけど」
「じゃ、いいじゃん」
優歩の言葉を抑え込むように言葉を重ねて、零は不服そうな優歩を横目に言葉を切り出した。
「優歩、学校行ってないだろ」
「!?」
明らかに動揺する優歩は、いつから、と掠れる声で呟いた。零は、初めて会った日から、と優しい声音になるよう意識しながら返す。
「いつものあの場所に行くまでに、優歩を見かけたんだ。優歩の目は何も見てなかった。でも俺、そういう人にこそ俺の歌を聴いて欲しくて……届くかなんて判んなかったけど。
でもあの日、優歩は足を止めて聴いてくれたし、泣いてた。伝わったのかなって、思ったんだ」
どうして、と優歩が尋ねた。もし、優歩が零に選ばれたのだとしたら、優歩は何故、零の目に留まったのだろう。
「どうして、あたしなんかを?」
零は優歩の問いに苦笑する。
「昔の俺そっくりだったからさ」
「えっ」
零の顔をまじまじと見つめ、優歩は信じられない、と呟く。零と似ているところなど、何所にあると言うのかといった表情を浮かべている優歩に、零はまた苦笑した。
「でも、ホントだよ。優歩は俺にそっくりだ。不登校だった俺にさ」




