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 祭りの会場は混雑していた。指定された午後七時に優歩は今までにないくらいお洒落し、めかしこんでいた。何とか発見した浴衣と下駄に巾着と三点セットを身に着けて優歩は零が言っていた今やっているヒーローのお面を探す。


 ……あれだ!


 だが優歩が思っていた姿とは違っていた。零と思われる青年は大きなギターケースを背負っている。お忍びで楽しむつもりで、だからお面をつけると言っていたのだと優歩は思っていたが、あれでは逆に目立ってしまうのではないだろうか。

 訝しみながら、優歩は青年に近づいてみる。


「あの……もしかしてあの、Reiさんですか?」


 からかっていることがバレてしまわぬよう優歩は真面目なファンのように尋ねる。近づいてすぐに優歩は彼が零だと判ったのだ。


「いや、違うよ。よく似てるって言われるけど人を待ってるだけ……」


 答えながら眼鏡の奥にある目が優歩を見つめ、驚きに見開かれる。


「え……っ。優歩?」


「……うん」


 優歩は気恥ずかしそうに笑む。

 下ろしっぱなしだった髪の毛をアップで纏めて、睫毛もくるんとカールさせ、唇もほんわかピンク色のリップを塗って、蝶々が舞う濃紺の浴衣を着た自分は、少しくらい可愛く見えるだろうかと優歩は思う。


「……へん?」


 地味だった優歩にしては大変身だ。まだ忙しさに急かされていた頃に一度、変わってみようと買ったが勇気がなくて使えなかった道具も今日のために引っ張り出したのだ。


「いや……すっげー可愛いよ」


 あまりに驚いてか、笑顔さえ忘れて優歩を食い入るように見る目る零に、優歩は頬を染めてうちわで顔を隠して零の視線から逃げるように目を逸らした。


「そんなに見ないで」


 そう言われ、初めて零は優歩から視線を外す。心なしか恥ずかしそうに零は笑った。


「ん……じゃあ、行こうか」


 零の言葉に頷いて優歩は足を出した。

 沈んでいく太陽の光を受け、優歩の顔が照らされる。頬が赤いのはオレンジの夕日のせいだと零が思ってくれれば良いと、優歩は思った。


 改めて向けられてみて、零の笑顔に自分が心を許していたことを優歩は感じた。だからどうか、楽しい思い出にしたいと優歩は思う。


「あ! ねぇ、ヨーヨーだよ!」


 優歩が指差す方を零が見たタイミングで店の親父が、らっしゃい、と声をかける。零が頬を緩める。


「やりたいの?」


 優歩はにっと笑って零に頷くと親父に料金を払い、浴衣で腕まくりの動作をする。しゃがみこんでヨーヨーを睨む優歩を見て、零が笑んだ。


「ねぇ、零は何色が良い?」


 零は優歩の好きな色で良いよ、と言った。優歩は綺麗な水色に白と黄色の水玉模様のついた涼しいヨーヨーを釣り、零に渡した。


「空色ね。

 いつか、本当に綺麗な青い空を見たいなぁ。こんな汚れた空じゃなくて、本物を……」


 そう言って優歩は一瞬、切なげな笑みを浮かべた。

 淀んだ空気の中で、濁った空ではなく、澄んだ空気の中で美しい空を見たならその時は、泣いてしまうかもしれない。


「この空じゃ、嫌?」


 零がそう尋ねる。え、と問い返す優歩にヨーヨーの輪ゴムを指に嵌めようとしながら零は言う。


「優歩と俺がいる上にある空じゃ、駄目かな」


 零が言っている言葉の真意が判らなくて優歩は何も言えずにいた。零がぼよんぼよんとヨーヨーを揺らして、優歩を見た。


「そろそろ……花火大会の会場に行こうか」



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