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 電子音が鳴っている。

 優歩は手探りで目覚まし時計を探した。探り当てた時計のスイッチを押しても、音は止まない。優歩は不思議に思い、起き上がって初めて携帯電話が鳴っているのだと気付いた。

 携帯電話の音が不意に止まる。それは優歩が音を聞いていたいと願った分だけ設定した時間が終わったからだ。


 誰からだろう。もしかして……。


 優歩は慌ててメールボックスを開き、送り主を確認する。其処にあったのは、以前メールをやり取りしていた人と同じ名前だった。


 ……零だ!


 それはずっと連絡のなかった零からのものだった。嬉しさの反面、不安が募る。もうメールをするなと言われたらどうしよう。

 でもそれならば連絡をせずにアドレスを変更すれば済むことだ。何もわざわざメールするなと言う必要はない。

 そう思い、優歩は内容を読む。


『しばらくメールしてなくてごめん。もう知ってるかもしれないけど、実は俺、スカウトされてデビューしたんだ!

 俺の実力なんて全然なくてまだまだだし、この業界もキツイって聞くから頑張ってるところ。

 ……で、優歩に聴いて欲しい頼みがあるんだけど……良い?』


 優歩はどきっと心臓の鼓動が速まるのを感じた。胸騒ぎだ。メールするなと言われれば優歩は食い下がることはできない。零は売出し中だし、そうでなくとも人気が高まっている。ビジュアルもウケている。妙な女子高生の影はない方が良いだろう。


 優歩は部屋の片隅にあるCDを見つめた。大丈夫、彼の歌声は此処にある。そう、大丈夫。


『良いよ! なぁに?』


 優歩は短く、そう返事を送る。十分程経った後、零から返事が来た。


『ホント!? ありがとう! 実はさ、こっそりお祭りなんかに行ってこっそり花火を見たいんだけど……優歩、予定入ってない? 入ってたら別に良いんだけどさ、いや、やっぱりキャンセルして欲しいな、その予定』


 優歩は一瞬、思考が止まった。思っていた内容と全然違う。それとも、最後に素敵な思い出を残してあげようという残酷な優しさだろうか。

 意図を掴めないまま、優歩は、全然大丈夫だよ、と返した。祭りのことも花火大会のことも、すっかり忘れていた。もうそんな頃なのかと驚いて優歩は携帯電話のカレンダーを確認した。

 最後に夏らしいことをしたのはいつだったろう。いつから両親は喧嘩が絶えなかっただろう。


 携帯電話が鳴って、零からの返信を知らせた。優歩は考え事から引き戻される。


『やった! じゃあ、当日祭りの会場で会おう! 俺、ヒーローのお面つけてるから! 絶対、優歩を見つけるから!』


『うん、わかった! 絶対見つけてね』


 零のその言葉に、密かにどきりとしながら優歩は返事を送り、花火大会はいつだっただろうとインターネットで検索をかける。明後日だと知って優歩は山積みの段ボールへ視線を向けた。

 浴衣はどの箱だっただろうか。下駄は? うちわは? 

 優歩は片付いていない段ボールをひっくり返し始めた。





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