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かくして「Rei」こと「零」はデビューし、その澄んだ歌声と人懐っこい笑顔で瞬く間に有名になった。大手企業の偉い人は大手の事務所の偉い人だったらしく、色々な大人の事情を差し挟みながらスピードデビューを果たしたReiは、毎日どのメディアを見ても目にする程引っ張りだこだ。
ギター片手に歌っている若者ならその辺の道端にごろごろしている。それでも零がデビューし、色々な人に受け入れられたのは〝才能〟があったからだろう。
人と上手に付き合う才能、音楽の才能……零は才能があるからこそ、この世界でもやっていける。
でも、あたしは……?
優歩は自分に問いかけてみた。
……。
答えは返ってこない。それは優歩に何も才能がないことを示しているのだろう。自分で自分の良さが判らずに、誰が自分の良さを見抜いてくれるだろう。
優歩は携帯電話を握りしめる。零からの連絡は、あの日からぱたりと途絶えた。急激に忙しくなったことは間違いない。色々な打ち合わせやら契約やら自分の生活も、ある筈だ。
だから少しメールが来ないだけで心配することなど、何もないのだ。優歩は零の最初のお客さん、最初からそれだけなのだから。メールなどいつ来なくなってもおかしくはなかった。
それでも優歩は不安を隠せなかった。優歩を見てくれた人が、やはりいなくなってしまったのではと思う。そういう人がひとりでもいたのだから良いではないか、また頑張ろう、だなんてことは、現実には有り得ないのだ。そう思える人は、他の支えがある人だ。
優歩は頭を抱えた。テレビでもネットでも雑誌でも、Reiの特集をしていないところがない。彗星のように現れた期待の新人を知りたいと、世間が注目している。何処を見てもRei、Rei、Rei。そんなにもReiは見られているのに、優歩は誰にも見られていない。両親にさえも。学校にさえも。
優歩は、要らない存在なのだろう。
あたしはもう、誰にも必要とされない。この世界にさえも。あたしは誰からも〝見えてない〟から。
みんなの目に、もうあたしは映らない。この世界のどれも、あたしを見ることはない。いてもいなくても、何も変わらないあたしは何の意味を持って生まれてきたんだろう。
ただ独り、孤独のまま……。




