Boy meets 森Girl
スコールの後で、僕たちは解散した。
装備はろくなものじゃなかったし、足場はぐちゃぐちゃだ。
ペットボトル三杯分のBB弾とサイレンサー付きの小型拳銃一丁。
そして、閃光手榴弾が二つ。
この日の為に小遣いを貯めて買った物だ。
他の先輩達は既に定職に就いていたり、アルバイトをしているので、装備はさらに充実している。
うちの高校はアルバイト禁止だから、この一丁には思い入れがある。
「おい、新入り」
「はーい、すぐ行きます」
「しっかし、お前もサバゲが好きとは物好きだよな」
隣りの土建屋の兄ちゃんが笑顔で話かけてくる。
「ネットでそういうものがあるって知って、はまっちゃいました」
「そうか、そうか。一時はサバゲ氷河期なんて言って人気が底をついたりもしたが、最近ではまたやり始める人が増えてるみたいだな」
「そうなんですか」
会話しながらも周囲に気を配るのを忘れない。
二人で背中合わせになっているので死角はない。
もうすぐ敵チームと出会ってもいい頃合いだ。
「ちっ、見つかったか」
そう言いながらも彼は楽しそうだった。
もちろん、僕も楽しい。
生まれて初めてゲームに参加できるのだから興奮で手が震えそうだ。
戦闘が始まると僕たちはバラバラになった。
何度か撃たれたけど逃げる事ができた。
何人やられて、何人仕留められたか分からないが、確実に人数は減っていった。
「新入り、まだ生きてたのか……やるなぁ」
「はい、なんとか」
森の中で邂逅した僕たちがお互いに泥だらけの顔で、生存確認をしていると
「ヤバイ、森ガールだ」
という叫び声がした。
僕はどういう意味か分からなかったので、目の前の彼に聞こうとした。
けれど、彼の顔は真っ青になって、それどころじゃないって感じだった。
「逃げるぞ」
兄ちゃんはそう言うと、荷物も持たずに走って行ってしまった。
僕は訳も分からず立ち尽くしていた。
「ねぇ、そこの君」
森の中から甲高く穏やかな声が聞こえた。
「困るんだよねぇ、森を荒らしてくれちゃってさぁ」
クスクスと笑いながら女が一人現れる。
服装は独特で、ゆるい花柄のワンピースに、山岳地帯で着るようなマントを羽織っていた。
そして、おおよそ山歩きには似つかわしくないペタンコのカラフルな靴を履いている。
「な、なんだお前は」
あまりにも場違いな登場の仕方に、動揺しつつも、僕は、『どこかで油断ならない雰囲気』を感じていた。
「この森で私たちに勝てると本気で思っているのかしら」
「私……たち?」
気がつくと同じようなファッションをした女達に囲まれていた。
とっさに身の危険を感じた僕は手榴弾を投げていた。
方向も定まらないまま、僕は走り出す。
だが、妙なクスクス笑いがねっとりと執拗に追ってくる。
あの服装からは想像できない速度で彼女達は追いかけてきた。
僕は恐怖と疲労感で何度も諦めそうになりながら必死で走った。
逃げた先に、急に開けた土地があった。
集合場所の工事現場に似ていたので、安堵したが、よく見ると違った。
僕は罠に誘い込まれたのだった。
やけくそで、銃を振り回し引き金を引くが、弾倉がプスプスと空砲を告げる。「終わりよ」
女の一人がそう言うと数十本の矢が放たれた。
避けれなかった矢が手足に刺さる。
紛れもない、本当の痛み。
「た、助けて」
女達は笑顔で、首を横に振った。
身体が痺れるような感覚があって、急に意識が朦朧とする。
気が付くと僕は囚われていた。
ピンクのシュシュのようなもので柱にくくりつけられ、装備は全て奪われていた。
「気がついた?」
女は先程とは違う薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「あなたには、子種になってもらうから」
そういうと彼女は白いドロドロの液体を僕の口に流し始めた。
「栄養はちゃんととってくれなきゃ、可愛い娘を産んでちょうだいね」
少女のような、母親のような顔をしたそれは、僕にとっては悪魔のようだった。