第7話 「……ちょっとだけなら」
遅めの昼食を食べながら、私はスマホの画面を睨んでいた。
啓介と別れたのは、もう10年も前の話だ。
彼にまつわる連絡先は、全て消したはず。
それなのに、Googleカレンダーに名前が表示されてしまう。
このせいで、
私は毎年11月になると、気分が重くなる。
それにしても。
さすがに10年は引きずり過ぎだろうと、我ながら思う。
友人達も、とっくに結婚した。
みんな言う。
そんなヤツ早く忘れて、次に目を向けなきゃ。
女は特に、消費期限早いからね。
「わかってるよ……」
私はコンビニで買ってきたドリアを一口含み、
口を動かしながら、11月25日の項目をタップした。
啓介の誕生日、という文字が表示される。
「消し方がわかんないんだよな……」
これまで、何度も消そうとしてきた。
しかし削除の項目がどこを探しても見当たらないのだ。
次に私は、ブラウザの検索画面を開く。
「Googleカレンダー 予定 消し方」と検索窓に打ち込んだ。
Googleカレンダーの予定を削除するには、
削除したい予定をクリックし、
表示されるゴミ箱アイコンまたは「削除」を選択します。
「やっぱそうやんなぁ……」
ゴミ箱アイコン……大体備わっていると思っていたが、
なぜかこの予定に関しては出てこない。
どう検索しても、
これ以上の情報は引っかかってこなかった。
……これが、
私が10年近く、元カレの誕生日を消せない理由だ。
未練でも、なんでもない。
私はスマホを机に置いた。
容器の隅にこびり付いた焦げをこそぎ落としながら、
ふと、ある予感がよぎる。
――Geminiに聞いてください。
スプーンを、容器に叩きつけた。
「なんで私が?」
聞く必要などない。
特にAIに聞かずとも、操作関係は、触れば何となくわかってきた。
苛立ちのまま、リモコンを掴んだ。
電源を入れれば、テレビの画面が点く。
「ChatGPTに、私の似顔絵を描いてって言ったんですよ」
テレビから聞こえる音声に、思わず固まった。
まさにAIについての番組をしているらしい。
世間では好感度の高い女芸人が、
エピソードトークを披露していた。
「そしたらね、なんと……オジサンが出てきてね」
「えええ!?」
スタジオが笑いで包まれる。
「私ショックですよ、AIにどう認識されてんだって」
「いやいや、ひょっとしたらイジってもいい相手と思われてるかもよ」
「え……あ、そう?」
「そうそう」
そこからは、
女芸人と司会者の軽快な掛け合いが、展開された。
私はリモコンのスイッチを押し、テレビの電源を切る。
しばらく、そのままぼんやりしていたが。
「…………ふ」
ちょっとおもろい。
思わず、鼻から笑いが抜けた。
私は机の上のスマホへ、改めて視線を落とす。
――ゆいさんもGeminiに聞けば?
「……ちょっとだけなら」
――これはテストだ。
AIが私を試すのではない。
私が、AIを試すのだ。
私はスマホを掴んだ。
Geminiのアイコンを、タップする。




