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攻略キャラの母に転生しました

聖女は魔王にさらわれて

作者: てんきどう
掲載日:2026/03/11

シリーズで書かせていただきました。

短編「攻略キャラの母に転生しました」の聖女候補視点です。

セリフ多めに挑戦してみました。

呼んでいただけると幸いです。


「結婚してください」

(嫌だあぁー! 平民のオラが殿下と結婚なんて無理すぎるぅぅ!)


見るだけで豪華で眩しく美しい殿下が、麗しい笑顔でプロポーズしてきた。


(オラは大勢の生徒の中で、分厚いベールをすっぽり被って隠れていたのに! まさか殿下が壇上から降りてきて、ベールをひっぺがして公開プロポーズするなんて……!)

「うわあ、なんて返事するのかしら?」

「殿下には婚約者のヘンリエッタ様がいらっしゃるだろう?」

「ほら、聖女候補のサラ様の方がお美しいから。お二人は喧嘩ばかりなさってるじゃない」


(集団の好奇心の目が怖いよぉ。神官様は貴族に逆らったら殺されるって言ってただ……! しかも、はい以外言ったら神官様に鞭でぶたれる……!)

「は、はい……」

オラは涙目で全身青ざめて、震えてそう言うのが精一杯だった。


「お待ちください! 殿下!」

「ヘンリーか、どうした? 私達を祝福してくれるのか」

「殿下に決闘を申し込みます! サラ様は私の女神! 決闘は神聖な紳士の証! 私が勝てば、お美しいサラ様は俺の妻になっていただきます!」

(いやー! ヘンリー君やめてけろ! オラは共感能力が高いから、近くのケガ人の痛みを一緒に感じちゃうって言ったのに。どうして喧嘩するだ?)


オラはドン引きして倒れそうだった。

視界の隅で、ヘンリエッタ様が青ざめて去り、警備の人達が連絡を取り合っているのが見えた。

(ごめんなさい。ヘンリエッタ様。オラに優しくしてくれて色々教えようとしてたのに……)

オラは引きずり出されるように、殿下とヘンリー君が決闘する場所に行かされた。恐怖しかなかった。





オラは貧しい村で生まれた。ある日、道端に黒猫がケガをして倒れていた。可哀想だから抱いてあげたら、手から光が出て黒猫が元気になったのだ。それを見た旅人がものすごいスピードで、教会へ走っていった。

黒猫は赤い目をした不思議な子だった。時々オラの所に現れては姿を消す。猫はそんなものだとお父が言ってた。


ある日、教会の人が来ただ。

「娘さんは希少な聖女候補だ。教会で預からせていただきたい」

「駄目だ!この子はどんくさくて、頭が悪くて騙されやすくて不器用だ。村の外で生きていけない!」

「お父! オラもお父といたい!」

「仕方ないな……。では、我らからの誠意をお見せしたい。おまえ達、入ってきなさい」

とてもいい匂いの食べ物と飲み物が机いっぱいに並べられていく。教会の服を来た綺麗なお姉さんが、たくさん入ってきた。

「旦那様、今まで大変だったでしょう」

「お疲れですわよね。肩を揉ませてくださいな」

「旦那様って素敵ですわ。私が教会の者でなかったら結婚したいわ」

「そ、そうですか…。食べ物は粗末にしちゃいかんから食べますが、俺は妻一筋でして」

「まあまあ、お飲みください。これはとても貴重なお酒なんですのよ」

「これは上手い! 生まれて初めて飲みます!」

「さあ、飲んで。飲んで飲んで」

「あはははは。これは上手い。姉ちゃん達も綺麗だなあ! 君達ならきっといい男を捕まえられるよ。自信もって! あははは」

「旦那様。ゲームをしましょう。ほら手にこのペンをお持ちになって。私が手を一緒に動かしてあげますから、旦那様はこの紙に手を置くだけで幸せになれるのですよ……」

「あはははは。あははは」


お父が書いたのは、私を教会に預ける合意書だった。私は教会に連れていかれた。



「なんだ。この薄汚くて臭い子どもは!?」

「殿下、この娘は次の聖女候補でございます」

「汚くて視界に入れるだけで不愉快だ! 誰か! この娘をなんとかしろ!」

殿下と呼ばれる男の子が教会に来た。オラは彼の前に連れていかれ罵られ、黒い服の女性達に、熱い水の桶に沈められ全身洗われた。

「汚いわね!」

「臭くてたまらないわ!」

小さな声の愚痴が心を抉る。

(これが貴族が入るというお風呂か。熱いよー。肌が痛いよー。なんか臭いもの全身に塗られたよー。髪の毛引っ張られて痛いよお)

泣きながら耐えていると、黒服のお姉さん達が赤面し始めた。

「ええと……ちょっとこれ……!」

「女神様と同じ色じゃないの……」

(オラを見て震えだした。変なの。帰りたいよ。黒猫のクロちゃん、元気かなあ)

オラは、再び殿下という名の嫌な男の子の前に連れていかれた。

「……は? 彼女があの小汚ないナマモノだというのか? ……こほん。これは大変失礼しました。私はアンドリュー。レディ。名前を伺っても?」

(変なの。さっき神官様がこの子に、私の名前を教えてたのに?)

私が首をかしげていると、神官様に思い切りつねられた。

「痛い痛いよ! やめて!」

「何をしている! 彼女を傷つけるな!」

「これは失礼しました! まだ教育が行き届いてないのです」

「そうか。それなら、学園に通うといい。私から父に申告しよう」

「ですが、殿下。この者は教会がしつけて……、ゴホン、教育を……」

「この国のトップは誰だ?」

「!! ……国王様でございます」

神官様は、恭しくお辞儀をした。だけど座り込んでいたオラからは、憎々しげに殿下を睨む顔が見えて怖かった。


「女に学問など不要だ。生意気になるだけで役立ずだ。サラには、世間の穢れなど知らない無垢な聖女になってもらわなくては困る。書物は与えるな。反抗する言葉も教えてはいけない」

「はい!」

オラは教会の一室に部屋を与えられた。食事も服も村にいた頃より立派だった。

そして何も教えてもらえなかった。ただ微笑んで「はい」とだけ言えと言われつづけた。それが出来なければ鞭で叩かれた。


オラが一人で庭で呆けていると、黒猫のクロちゃんがやってきた。

「クロちゃんは柔らかくてふわふわで暖かいなあ。オラ、聖女なんて嫌だ。お父は大丈夫かなあ。オラ、お父の様子知りたいけど文字書けないから手紙っちゅうもんも書けないや。へへへ」

瞳からこぼれる涙をクロちゃんはペロペロと舐めた。

「クロちゃんは優しいなあ。オラ、明日から学園てとこに行くだよ。クロちゃんも元気でいるだよ」

クロちゃんは、分かったと言うように頷いた。


学園は教会より怖かった。人がたくさんいて、オラの周りに集まってくる。よく分からない言葉で話しかけてくる。分からないので、オラは教えられた通り、微笑むことしかできなかった。授業も難しくて分からなかった。


「おい、見ろよ。ウィリアムが学校に来たぞ」

「母親が病気で入学式に来られなかったんだろう?」

「平民に近いから、医者も手配出来なかったんじゃないか? ははは」

(……平民に近い人? じゃあ、オラに近い人だ! お父に連絡できるかもしれねえ。できなくても、お父が元気かだけでも分かったら……!)


オラは、ウィリアムさんて人に話しかけようと近づいた。優しそうな人だった。

「あの……!」

「待て、サラ。君みたいな女性が近づいていい男じゃない」

「え……? あのその……殿下???」

「君の願いは私が全て叶える。君は私だけを見ていればいいんだ。文字も読めるように優しく教えてあげるからね」

殿下がウィリアムさんを見つめると、彼は青ざめて教室から出ていった。

(……でも、殿下に平民のお父のことを聞いても、聖女になる君はそんな男のことは忘れろとしか言わないじゃないですか……)

オラは唇を噛み締めて震えるしか出来なかった。

「はい……」

「可哀想に。震えているじゃないか」

殿下は上着を私の体に被せてくれる。

「ありがとうございます……」

(オラに出来ることを教えてくれる人がほしい。文字も綺麗な絵本を読み聞かせてくれるだけじゃあ、授業も分からないのに。先生も殿下も神官様もそれでいいと言う……)

言葉に出来ないモヤモヤを胸の奥に抱えて耐えるしかなかった。

殿下の婚約者のヘンリエッタ様が、怖い顔でオラ達を見ていた。



オラはある日、殿下達から離れて校庭の片隅に一人になることができた。

「ふうえええ……。やっと一人になれた。疲れた……喋っちゃダメ、笑うだけ、姿勢よく……あーもう、今はもういい!」

私は校庭に寝転んで手足を伸ばし、おっさんのような溜め息をついてリラックスした。土の匂いと冷たさが気持ちいい。

オラのピカピカに磨きあげられた髪をツンツンと引っ張る何かがいた。

「クロちゃん! クロちゃんだー! 会いたかったよお! 元気だった?」

それは黒猫のクロちゃんで、オラは彼を抱き上げると胸の中で抱き、癒しMAXを堪能する。猫によっては、急に抱かれるのを怖がって怒るらしいが、クロちゃんは嫌がらなかった。ありがたいので、頬をよせてスリスリする。

毛皮に顔を埋めようとしたら、流石に猫パンチされた。


「あの……。サラ様。少しよろしくて?」

上品で美しい言葉づかいの声がした。見るとヘンリエッタ様だった。

「あ、あの、オラ! お貴族様のご挨拶が出来なくて申し分けねえだ!」

オラはとびあがって腰を90度に曲げた。それからスカートを掴んだ。貴族の女性の挨拶はこんな感じだったはず……。

「ああ、やっぱり。いいのよ。気楽になさってくださいな。まだ何も教えてもらえないのでしょう?」

「……ふえ?」

「貴方達を見ていて、貴女が青ざめたり怖がってるのに、殿下ったら、ああいう態度でしょう? 自分しか見えてないというか……。この国では女性の地位が低いのよ。女性が知識や権力を持つことを嫌うの。男性は美しい女性を勲章のように手に入れたがるけれど、その女性の人生には責任を持たないわ。だから貴女が心配になって声をかけたのよ」

あたたかい言葉に、オラは涙が出てきた。

「あ、ありがどうございまず……オラ、どうじだらいいが、ほんどうにわがらなぐで……、だ、だれもおらにどうじだらいいがおじえてぐれなぐで……ぐずっ」

「そうよね。未来の聖女に幼児の絵本しか与えないなんて問題よね……」

「何をしている! ヘンリエッタ!!」

殿下の鋭く怒っている声がした。

「未来の聖女候補を泣かしていいと思っているのか! 恥を知れ!」

「違いますわ! 殿下! これは……」

「言い訳なぞ見苦しいぞ!」

殿下が手をヘンリエッタ様に振り上げた。ヘンリエッタ様が驚いて硬直される。オラは殿下の腕に跳びかかって腕を掴んだ。オラは震えて大粒の涙を流し、首を横にふりつづけた。怖くて喉が締まり、何も言えなかったのだ。

「サラ……、君は女神のように優しい」

(何言ってんだ、この男。訳が分からない。とにかくヘンリエッタ様を彼から逃がさないと……)

オラはヘンリエッタ様に、口パクで何とか伝えた。

「にげてください」

ヘンリエッタ様は青ざめて頷くと、立ち去っていった。

ヘンリエッタ様が立ち去ると、オラは腰の力が抜けた。

「サラ、君は本当に美しく聖女に相応しい……、いや王妃としてもきっと……」

緊張と恐怖で頭がボーッとしていたオラは、その言葉が耳に入らなかった。


「これは危険だわ。お父様達に相談しなければ……!」

ヘンリエッタの呟きを、黒猫だけが聞いていた。




その後、平民に近いというウィリアムさんが、学校に来なくなった。彼の婚約者のマーガレットさんも来なくなったらしい。

学校にくる生徒が減った気がする。男子生徒や男の先生は、オラの周りですごく熱く盛り上がっている。女性達は遠くで私達を覚めた目で見ている。貴族の言葉は難しくて、何を言っているか、よく分からない。オラはたまに一人になれる時に、黒猫のクロちゃんと会うのが唯一の癒しだった。


ある日、クロちゃんはお父が愛用していたボロタオルを持ってきてくれた。

(これは、お父のタオル! ついさっきまで使われていたようにお父の匂いがする。殿下や侍女達に、臭いといわれるあの匂いだ。お父の匂いをオラが間違えるわけがない。元気なんだ。よかった。……そういえば、お父も学校に行ったことないから、文字なんか書けなかったわ。あはは。手紙なんか書いても読めねえわ)

オラは髪の毛を何本か抜いて束ねて、クロちゃんにくくりつけた。なぜか、クロちゃんが私の言うことを分かって、お父に届けてくれる気がした。クロちゃんは、黙って頷いた。不思議な猫だ。

「お父と暮らしたいけど、もう無理だろうな。あんな殿下や先生がいたら、お父が殺されるかもしんねえ。お父にどうか元気でって伝わりますように……」

クロちゃんは再び頷くと、何度も振り返りながら姿を消した。


学園で親善パーティーというものが開かれた。なぜか、殿下がオラにドレスを贈ってくれた。そのドレスは殿下の髪と瞳の色で出来ていて、胸が強調され体にピタリはりつくデザインだった。オラは恥ずかしくて震えて嫌がった。 しかし、殿下付きの侍女達が部屋に押しかけてきて、オラを磨きあけて仕上げてしまった。鏡を見せられる。

「誰これ…………?」

「お美しいですわ! 女神様と同じ白銀の艶やか髪、恵みの森を現す新緑の瞳! 殿下の太陽の金と大海の瞳のドレスが、まるで神話の創世の神のご夫婦のよう!」

「しっとりした白い肌、まさに神の寵愛をうけたお姿! さあ! 殿下の元に参りましょう。今の貴女様を見れば誰もが惹き付けられますわよ!」

(オラが惹き付けるのはクロちゃんだけでええよ。クロちゃんに会いたいなあ……)

優雅に歩くことも出来るわけなく、ふらふらと倒れそうになりながら、高いハイヒールで歩いていった。

貴族の作法も教えられず、倒れそうになるので殿下の腕にしがみつくしかない。パーティー会場に入ると、ざわめきが静まった。

(皆の視線が痛いよ。これ、オラはいつまでも慣れない。でも口にだしたら、きっとまたぶたれる)

一人のきらびやかな男がまた現れた。オラを頭から足まで舐め回すように見ている。

(気持ち悪いから、止めてほしい。本当に。オラは長い貴族名も覚えられねえ。この下衆な視線男は服についてるきらびやかさが断トツ多い。きらびやか特盛さんと呼ぼう)


……きらびやか特盛さんは、大きな国の皇太子だった。

(特盛さんは、ずっとオラを熱っぽい目で見てくる。イヤだなあ。怖いなあ。さりげなく体触るの止めてほしいなあ)

どうしても涙目でふらふらとしてしまう。

(殿下もオラを皆に自慢してまわるの止めてくれないかなあ……。女性達に物凄く怖い目で見られるの嫌なんだ。仲よくなりたいけど、どうしたらいいか分からないよ……)


ぐったりと疲れきって部屋に戻れば、殿下達から贈られた箱が、所狭しと積みあがっている。

(殿下が手配してくれた侍女達は、羨ましいって言うけども。貴族の女性は、贈られたものをどうしているのか分からないだ……。失礼があったら首が飛ぶと聞いただ。繊細に飾り付けられた箱が、オラより偉く見える。まるで部屋の主のように存在感があるだ。綺麗な紙を破いたりリボンを汚したら、取り返しがつかなくなりそう。……怖くて恐れ多いだよ。殿下達みたいだ。ああ、もう疲れただ。体が重い……。ベッドの上も箱でいっぱいだ。やれやれ、どんどん寝るところが狭くなる……)

オラは、ベッドの隅の空きスペースに体を押し込んで眠りについたのだった。



ある日、事件が起こった。

殿下の論文の発表を、講堂で聞くというイベントがあった時のことである。

(殿下が、論文で何かを受賞したので生徒全員で拝聴するだ。私は目立ちたくないし疲れるから、ベールを頭から被っていこう)

この国では、信仰の現れとして女性がベールを被ることがある。オラの他にもベールを被っている女生徒達がいた。

殿下は壇上に立つと、よく響く声で話し出した。

「聖女は、人の痛みをわが身でも感じとることができるのです。そして、その共感性と希少な力をもって人の傷を癒します。なんという慈悲! 素晴らしい存在! 聖女は奇跡の力の持ち主なのです!」

(オラが癒しの術を使う時のことを論文にしたんだな。オラは、ケガした人や体調が悪い人がいると苦しくなったり痛みを感じるんだ。それでよく泣いて、殿下に話を聞かれただぁ)

「そんな素晴らしい女性こそ国母に相応しい!」

「……んだ???」


殿下は壇上から降りて、こっちに歩いてきた。そして隠れていたオラのベールをひっぱがしたのだ!

(ぎゃあああああ!! どうしてオラだとわかった?)

声にならない悲鳴を、オラはあげる。

極上の紳士スマイルで殿下は言った。

「結婚してください」

(ひいいぃぃぃ……!!)

周囲の無責任な声と視線がオラに突き刺さってくる。

(こういう時、どう振る舞うのが賢いのか、誰か教えてぇ!!!!

……殿下の笑顔と周囲の圧がもの凄い。

こ、これが何処かで聞いた同調圧力!? 殿下に恥をかかせてはいけない。後から、きっといろいろダメになる……)

「は、はい……」

(オラは、全く嬉しくない了承をするしかないだ……)


「お待ちください、殿下!」


ヘンリー君がオラを賭けて、殿下に決闘を申し込んだ。

(ヘンリー君は、確か国を守る騎士団の偉い人の子どもで、とても強いから私の護衛をかって出たって言ってただ。殿下の次に私の近くにいた男の子だ。殿下も強いって言ってただ。……二人が喧嘩したら、私は二人分の傷の痛みを感じる。そして恐らく二人を治すのはオラだ……!)

「や、止めてください……。決闘なんて……」

(もし二人が死にそうな大怪我したら、オラはそれを感じてしまう。感じなくする訓練は、まだ受けてない……。オラが先に死ぬだよ!!)

恐怖でうまく話せない。

「サラ様、心配しないでください。俺は強いです!」

「サラ、心配するな。君をきっと国母にしてあげるからね!」

(違う!! そうじゃない! やーめーてーけーろー…!!)

青ざめて恐怖で涙を流すオラの願いも空しく、決闘の場の校庭にオラは連れていかれた。

(そうだ! 先生方なら止めてくれるのでは……!?)

オラは先生方を必死に見つめた。

「若いっていいですなあ……」

「ライバルがこれで減るといいな……」

「ヤンチャですな。少しは痛い目にあって学ぶといいのです」

(何かが、違うぅぅぅ……!!)

オラの願いは届かない。


殿下とヘンリー君は、お互いに剣を構えた。

オラは死の恐怖に怯えて思考が停止していた。ふと、膝に暖かさを感じて我に戻ると、黒猫のクロが膝に乗って心配そうに私を見ていた。

「クロ……。オラもう逃げたい……。一生懸命頑張ったけど、もう無理かも……」

『一緒に逃げる?』

「へ……? 幻聴かな。クロが喋るなんて。幻聴でもいい。それならオラはクロと……」


「そこまで! お止めください、殿下! それ以上はやりすぎです!」

「神聖な決闘を止めるな! 父上に言ってクビにするぞ!」

「国王様からの通達です。この件をもって殿下は当分の間、自粛なさるようにとのご通達です! 聖女候補様も謹慎が決定しています!」

「そんな……神聖な男同士の決闘に口を挟むなんて……、父上も耄碌された。老害とはこのことだ」

「口をお慎みください!」

(た、たすかった……。オラ助かっただ……)

安心したせいで、涙が次々と溢れて止まらない。

「サラ、待っていろ。いつかお前を迎えに行くから」

「サラ様……この度は不甲斐ない俺でしたが、更に鍛えて貴女様をお守りしますから!」

殿下とヘンリー君の言葉に、オラのメンタルが削られていく。

クロがオラの涙を優しく舐めてくれた。


「もう大丈夫ですよ。サラ様の身柄は我が公爵家で保護しますからね。ご安心ください」

「ヘンリエッタ様……」

いつの間にかヘンリエッタ様が近くにいて、ハンカチでオラの涙を拭いてくれた。

「手で涙を擦ってはダメです。赤くなります。後で目を冷やしてあげますわね」

「は、はい……」

(なんだあ? どういうことになるだ??)


「ヘンリエッタ! サラを苛めていたおまえがどういうつもりだ! サラを閉じ込めて殺す気か! 女の嫉妬は見苦しいな!」

「殿下、私はもう婚約者ではありません。ノーサンバーランド公爵令嬢とお呼びくださいませ。私の婚約者は第二王子のジョージ様になりましたのよ」

「はあっ!?」

「女の嫉妬は恐ろしいものですが、女には友情もありますの。行きましょう、サラ様。ケガをしたがる男達の近くに居てはお体がもちませんわ」

「ああ、分かってくれる人がいた……」

  ヘンリエッタ様は微笑むと、クロを抱くオラの手を優しく引いて、公爵家に連れかえったのだった。


「待て、ヘンリエッタ! サラを連れていくな!」

「ヘンリエッタ様! サラ様をお返しください!」

殿下達の叫びを軽やかに聞き流し、颯爽と歩いていくヘンリエッタ様は美しかった。




オラは、ノーサンバーランド公爵で平民の生活を知っている女性達に世話された。クロも一緒である。

(天国って、きっとこういう所なんだ。彼女達はオラに読み書きや聖典の読み方を教えてくれる。貴族や平民のことも教えてくれる。なんてありがたいんだろ。

  公爵様が教会や国王様と交渉してくれたと聞いただ。それに今の聖女様が、オラや殿下の未来について不思議な夢を国王様に申告したらしい。それで、最初は渋っていた王様も動かれたそうだ。本物の聖女様って凄いな。オラ、そんな夢見たことないや)

しばらくして、オラは公爵家直轄の女性だけの修道院で聖女の修行をすることになった。そこならば、色恋のトラブルもないだろうとのことだった。

(全てヘンリエッタ様のおかげだ。お父にも会わせてくれた。お父と話が出来てよかった)


クロが私のヒザの上で幸せそうに撫でられている。

ふと私を赤い瞳で見つめた。

『サラ、まだ逃げたい?』

「クロ? 本当に喋った?」

『うん』

「わあ! クロは天才猫だぁ! 凄い猫様だ!」

『逃げたくなったら、いつでも言って。一緒に行こう』

「クロは優しいなあ! ずーっと一緒に居ようなあ! クロがいたら、何処でも寂しくないだよ」

『うん。約束だよ。裏切ったら許さないよ』

「うん。約束だ! 嬉しいなあ。クロと出会えて良かっただ!」

『フフフ……』

「オラな。ちょっと女性達の悩みを聞いただよ。オラが行く修道院は、怖い夫や売られた女達の避難場所らしいんだ。怪我や病気で苦しむ女達が多いんだって。オラ、一年間は頑張ろうと思う。自信がないから、それ以上はまだ分からんけど。ヘンリエッタ様達に恩を返したい」

『サラらしい。いつでも言って。いつまでも待ってるから』

「クロはいい子だな。優しいなあ」


癒しMAXのクロとの人生を夢見て、オラは本当に安らかに眠りについたのだった。







最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。


黒猫のクロは、「攻略キャラの母に転生しました」に出てくるラスボス魔王です。

クロ『俺は何百年でも待てるし、サラが年をとっても若返らせてあげるし、サラが逃げたいって言ってくれたら、いつでも連れていく……ククク……』

サラ「クロー? 何か言っただか? ここがいいか? ここポンポンされるのがいいんだな(笑)」

魔王はずっと待っています。

この国が、次の聖女を何年引き留めておけるかは未定。



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